第188話日常から・・・・・

各国が落ち着きを取り戻した頃、京太は、『火の山』の温泉にある休憩所で、


人型になったユグドラとお茶を飲んでいた。




「京太様、色々と、ご迷惑をお掛け致しました」




改めて謝罪を受ける。




「もう終わった事ですから、あまり気にしないで下さい。


 それに、丁寧に話さなくていいから、普通に。」



「それは、助かる」


「うん、宜しくと言いたいけど・・・」



京太の視線の先には、2人の女性の姿があった。



「ユグドラ、あの2人、どう見ても人間に見えるのだけど‥‥」




「そうだ人族の親子だ、わけあって此処で暮らす事になった」




ユグドラが、2人に声を掛ける。




「ユグドラ様、お呼びですか?」




ダローズの妻だったスターニアと、娘のセイラに悲壮感は無く、

活き活きとしているように見えた。




「前に話したと思うが、このお方が京太様だ。


 くれぐれも失礼の無いようにな」




ユグドラの言葉を受け、2人は、京太に改めて自己紹介をした。


同時に、ユグドラは、2人の転移の鏡の使用許可を求める。




「別にいいけど、理由を聞いてもいいかな?」




「ああ、実は、ホワイリーが、京太様から頂いた品の中で、

 果物をえらく気に入ったようでな。


 だが、我等が買い付けに行けば騒ぎになってしまう。


 そこで、この2人に行って貰う事に決めたのだ」




「そうなんだ、構わないよ」




京太のアイテムボックスには、まだ大量の果物が入っている。


それを、ここで出すのは簡単だが、2人も買い物に行きたいだろうと思い、

少量を、ユグドラに渡す事にした。




「今は、これだけしか無いけど、


 僕の街のアルゴの店で、売っているから

 今後は、そこで買うといいよ」




2人は、果実を見て喜んだあと、籠を持って来たので、

京太は、その中に入れたのだが、

喜び方が、ただ預かったとは思えない喜び方だった。



――あれ、ホワイリーが好きなんじゃ・・・・・・




京太の疑問に気付いたユグドラが答える。




「女性は、皆、あれが好きなのだ。


 おかげで腐らす暇もない」




そう言ってユグドラが笑う。




――なら、もっと出せば良かったかな・・・・・




そんな事を思いながら、京太も笑った。




その時、休憩所の扉が開く。




「主様、そろそろ風呂に行かぬか?」




ラゴは、そう言って、ユグドラと話をしていた京太を温泉に誘う。




「先に入っていてくれていいよ」




「むぅ・・・・・」




その反応に、ユグドラが気を使う。




「そろそろ、儂は退散させて貰おう、

 京太様、転移の鏡の件、感謝する」




「いえ、お気になさらず」




京太は、ユグドラと別れた後、入浴へ向かう。


一応、男性用、女性用と決めていたので、

迷わず男性用に入ろうとする京太だったが・・・。




「主、こちらです」




エクスが別の通路の先から、顔を覗かせている。




「そっちに風呂なんか・・・・・」



京太は、エクスに手を取られ、通路の先へと進む。


すると、そこには、『京太用』と書いた看板と新しい扉があった。




「えっと・・・・・これ、何?」




「主のお風呂です」




エクスは腕を引き、扉を開けて、中に招き入れる。


入ってすぐの所に、脱衣所。


しかも、広い。




「これ・・・・・」




嫌な予感がする。




京太が茫然としている間に、『シュルシュル』と服を脱いだエクスが、

京太に近づく。




「主、ここは家族風呂です。


 大きくて当然です」




「あっそう・・・・・」




思わず、素っ気ない返事をしてしまう。


エクスは、京太の服に手をかけ、服を脱がそうとする。




「自分で出来るから!」




「主、往生際が悪いです」




「わかったよ・・・・・」




京太も服を脱ぎ、いやな想像しか出来ない、風呂への扉を開ける。




「・・・・・・」




想像した通りだった。




「みんな、来ていたんだ・・・・・」




「京太ぁ!」




フーカが抱き着く。




「今日から、皆でお風呂に入れるんだよ!」




無邪気に喜ぶフーカを見て、

恥ずかしく思っていた気持ちが、何処かに行ってしまった。



「そうだね」




湯船に浸かる前に、洗い場に行く京太。


置いてある木の椅子に座ると、後ろから声をかけられた。




「京太様、お背中をお流しいたします」




そう言って、背中を洗い始めたのだが・・・・・・




「ありが・・・・・ん?」




聞き覚えの無い声。


慌てて振り向こうとしたが、嫁―ズが止めた。




「京太ぁぁぁ!

 見ちゃ駄目ぇぇぇぇぇ!!!」




「えっ!?」




嫁さん達は、急いで湯船から上がり、駆け寄る。




「貴方達、そういうのは要らないから!」




「ですが、ここは、私達の仕事場、京太様のお背中を流すのは、私共の仕事です」




「そんなの、仕事に入って、い・ま・せ・ん!」




言い争う声のする中、ラムの声が響く。




「貴方達、そういう事をするのなら、

 長老に、こちらから伝えて、

 代わりの者を送って貰います」




京太の背中を、流そうとしたエルフの女性達は、諦めたようで

風呂場から出て行こうとする。




――ああ、やっぱりエルフの人達だったか・・・・・・




そう思いながら、京太は出て行こうとする女性達の方へ、顔を向けようとしたが

目の前に、白く、柔らかいものが覆いかぶさり、視界を完全に塞ぐ。




――柔らかい・・・・・それに、温かいな・・・・・




そんな感覚に陥った瞬間

その持ち主が、耳元で囁く。




「主様、今、エルフのおなごの裸

 見ようとしたのぅ・・・・・・」




我に返る京太。




「え・・・・・」




「これは、罰じゃ」




耳元で囁いたラゴは、『かぷっ』っと、耳を噛む。




「んんっ!」




思わず変な声を出してしまった京太に、皆の視線が集まる。




「そこ・・・・・何しているの?」




ソニアの冷たい声。




「決まっておろう、お仕置きじゃ。


 先程のエルフの裸を、主様が見ようとしたのでな」




あっさり暴露するラゴ。




「本当ですか・・・・・京太さん」



エルフのラムとミーシャが詰め寄る。



「事実じゃ、わらわも見ておったぞ」




――アイシャ・・・・・




その後、京太は、全員の背中を洗い、ある意味、お風呂を堪能した。




――疲れた・・・・・








その日の夜。


嫁さん達は、『大事な会議がある』と言い、

京太は、自室のベッドで、珍しく1人で横になっていた。




思わず、ウトウトしていると、不思議な夢を見た。


でも、それは、京太の夢では無い。


神の中の誰かの記憶・・・・・



『これで、当分は大丈夫だ』



『だが、いつまでも、とは、思えぬ。


 今後の対策を考えないと駄目だな』



『そうね、私の力でも、300年程度かしら・・・・・』




『まぁ、その間に、探すしか無いだろう』




『そうだな、それにしてもあの野郎、とんでもねえ物を作りやがって・・・・・』




そういう男の目の前には、荒廃した大地と、黒く大きな穴があった。




――これ、夢?


  それとも・・・・・・




微睡まどろみの中、京太は、誰かに声を掛ける。




――負の遺産じゃ、すまぬ・・・・・・



その声に、答えようとした時

京太は、揺さぶられて目を覚ました。




「京太さん、大丈夫ですか?」




「ミーシャ・・・・・」




「ごめんなさい、何か、険しい顔をしていたので・・・・・」




京太は、荒廃した大地と、あの穴を見た時、

とても嫌な感覚に襲われていた。




――そうだったのか・・・・・




「ミーシャ、大丈夫だよ、心配かけてゴメン」




「ならいいですけど・・・・でも、


 きちんと相談して下さいね」




京太は、ミーシャ優しく抱きしめる。




「ありがとう」




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