第187話竜の怒り 各国のその後

ユグドラは、この度の事件の首謀者達に裁きを与え、ケジメをつけさせた。


だが、人族の間では、未だに竜の恐怖に怯えている状況。


その為、今後の事も踏まえ

武装国家ハーグの女王アリソンは、改めて、独自で調査をしていた。


その結果、マーベル カフカが起こした事ではないかと

考えられた。


元子爵であるドロール カフカは、酒に溺れていたが

そこまでの愚行を働くとは思えない。


元とはいえ、子爵。


竜に手を出せば、どうなる事になるかなど、理解している筈だからだ。


その為、この主犯は、長男のマーベル カフカだと、考えられた。



現在、執務室にて、その報告が行われている。



「ドロールと、その家族は、竜に攫われたようです。


 ですが、3親等外の者は健在です」




宰相のコーリーバッシュは、女王アリソンに告げる。




「そうですか・・・・・。


 竜を怒らせれば、どうなるのか、この国の民は、身に染みて理解した事でしょう。


 しかし、その元凶となった者達の血縁者を残したとなれば、

 我が国は、他国から甘く見られてしまいます。


 それに、生き残りがいると知れれば、再び、竜の怒りを買う恐れがあります」


「左様です」



コーリーバッシュも同意する。


女王アリソンは、命令した。



「今すぐ、親類縁者、全員を捕らえなさい」




「畏まりました。


 では、早急に・・・・・」




コーリーバッシュは、女王アリソンに一礼をした後

同席していた宰相見習いのインガム タガートに伝える。




「闇ギルドの件が残っています。


 そちらは、インガム様にお任せします」



コーリー バッシュの指示に、インガム タガートは笑みを浮かべる。


宰相見習の自分に、任せて頂ける事に、喜んでいるのだ。



「感謝致します」




「報告は、お願い致しますよ」



「お任せを」




インガム タガートは、初めて、重要な任務を任されたことを

嬉しく思う反面、失敗も許されない事も理解している。



コーリー バッシュが去った後、インガム タガートは、

女王アリソンと向き合う。



「女王陛下、闇ギルドの処分は、如何なさいますか?」



「調べは?」



「勿論、ついております」




「では、部隊を編成し、闇ギルドの壊滅に向かって下さい。


 指示は、貴方に一任します」




「有難う御座います。


 王都より、闇ギルドを一掃して参ります」




インガム タガートは、面会を終えると、颯爽とその場を去り、

直ぐに行動に移す。



先に、王城を離れたコーリー バッシュは、

軍を引き連れて出陣し、ドロール カフカの血縁者全員を捕らえ、

少しながら残っていた財産も没収した。


そして、二度と、復活できない状態にまで追い込み

この世から、カフカの名を、消す。


同時刻、

初仕事となったインガム タガートは、自身の軍を使い、

闇ギルドの拠点をことごとく潰して回り、

王都の闇ギルドを、壊滅にまで追い込んでいた。






武装国家ハーグでの後始末が終わる頃、七西連合でも動きがあった。



七西連合の代表、オーウェンは、急いでナト地区に向かっていた。



例の反乱の後、オーウェンは、ホグと敵対していたランドルフに、

密かにナト地区を任せていたのだ。



だが、敵対は表向きだけで、ホグとランドルフは繋がっていたことを

この度の件で知る。



オーウェンは、最悪の男に任せていた事を知り、後悔していた。




――私が、もっとしっかりしていれば・・・・・・




オーウェンは、ナト地区の商業ギルドに到着すると

会議室へと向かう。


会議室の扉を開けると、既に、この地区の商人達が全員集まっていた。




会議室に入って来たオーウェンは、辺りを見渡す。


商人達の表情は、既に事情を知っている為に様々だ。


額に汗をかいている者、青い表情をしている者達は、

この事態に震えが止まらない。



オーウェンは、席に着くと、目の前の資料に目を通す。


眉間に皺を寄せるオーウェン。




――やはりか・・・・・・




「【リグール】、【ルッツ】、【ワイド】、それに、【ロドリコ】、【ドロビー】」




名前を呼ばれたのは、額に汗をかいていた者と青い顔をした者達。



「お、オーウェン殿、何でしょうか?」



問い掛けるリグール。



「『何でしょうか?』では、無かろう。


 ランドルフがいなくなったので、助かるとでも思っているのか!」



激しい口調で、リグールを責め立てる。



「い、いや、私には、何の事かさっぱり・・・・・・」



その言葉に同意するように、名前を呼ばれた者達も頷く。



「白を切るのか・・・・・では、これは、どういう事だ!」




オーウェンは、手に持っていた資料を、机に叩きつける。



リグールは、叩きつけられ、床に散らばった資料を拾い上げ、目を通す。



「どうして・・・・・」



その資料には、先程、名前を呼ばれた者達の名と

ランドルフの指示で行った、数々の悪事が記されていた。



「何故・・・・・何故、こんな物があるのだ!」



「この度の竜の襲撃で、心を入れ替えた者達が、簡単に話してくれたよ」



オーウェンは、情報を集める為に、専門の部隊を持っている。


今回は、ナト地区に潜伏させている者達に、

情報を集めるように指示を出していたのだ。



「私は、裏切られたのか・・・・・・」



観念したように項垂れるリグール。



「この度の件は、貴様等が起こした反乱が原因の一端だ。


 戦で負け、逆恨みをし、

 最終的に、怒らせてはいけない竜までも怒らせ、民を苦しめた。


 そこまでの事をしておいて、

 自分だけが助かると思うな!」




オーウェンの怒気を含んだ言葉に、5人は俯く。



「連れて行け」



その言葉に従い、会議室で待機していたオーウェンの兵士達により、

5人は連行された。



 




武装国家ハーグと七西連合が、事後処理に追われている頃、

火の山では、ユグドラが連れ帰った2人の女性の扱いを決める為に、

竜と竜人が集まっていた。



「名を告げよ」



「私は、スターニアと申します。


 そして、こちらが娘の【セイラ】で御座います」



2人は、跪いた状態で、頭を下げる。



「では問おう。


 貴様は、死を望むか、それとも足掻いてでも生きたいか?」




「それは、生きる可能性があるという事でしょうか?」



スターニアは、思わず聞き返す。


だが・・・


「伏して答えよ、質問は許さぬ」



ユグドラは、軽い威圧を放つ。


セイラは、その威圧に耐えられず、足元に水溜まりを作った。



だが、その事に対して、竜人達からは、失笑すら起きない。


緊張しているのは、2人だけでなく、竜人達も緊張しているのだ。




「もう一度問う。


 死ぬ事を望むか、それとも足掻いてでも生きたいか?」



スターニアは、気力を振り絞り答える。



「足掻いてでも、生きていたいです」



「そうか・・・・・それが、奴隷と同じように、自由が無くとも

 同じ様に、答える事が出来るか?」



「はい、この先、この子と一緒に暮らせるのであれば

 如何なる扱いも、苦になりません」



母としての覚悟を聞いた、ユグドラが告げる。




「スターニア、そして、その娘、セイラ。


 只今より、この地で暮らす事を許す。


 お前達は、今後、我等に尽くすのだ!」



「有難う御座います。


 今後、竜族に忠誠を誓います」


「ちかいます」



「うむ、良き返答。


 これにて解散する」



ユグドラの言葉を最後に、その場は解散となったが

生き残れたことに、茫然とする2人。



そこにルカが、やって来る。



「さぁ、立って下さい。


 これからの事をお話しましょう。


 ・・・・・ですが、その前に、入浴ですね」



ルカは、2人の手を取り、温泉に連れて行く。


その後、

風呂から上がり、服を着替えさせられた2人は、

ルカより、この地での作業を教わる。



全ての作業内容を、話し終えたルカが問う。



「何か、質問は、ありますか?」



「ルカ様、作業の事では、ありませんが

 私達は、・・・・・」



言葉を選んで問いかけようとするスターニアに、

ルカが割り込んで、話す。





「これは、言っておいた方が良いですね。


 まず、貴方達は、奴隷ではありません。


 この地で暮らす住人になったのです。


 但し、この火の山より勝手に出る事は、許されません。


 ご理解下さい」




「わかりました」




素直に従う以外の選択肢の無い事は、わかっているので、

スターニアとセイラは頷く。




「それとですね・・・・・ 


 最近、ホワイリー様が、人族の食べ物に興味を持たれておりまして・・・・・

 貴方達に、買い物を頼む事もあると思います」




「えっ!?


 でも、どうやって街に行けば、良いのでしょうか?」



疑問に思う二人に、ルカは笑顔で答える。



「温泉でエルフが働いていたと思いますが

 彼女達は、ここに住んでいる訳ではありません」


「!!!」


再び驚いている2人。



「彼女達は、とある屋敷から通っています。


 その内、紹介しますので、ご安心ください。


 ただ、その屋敷の主には、絶対に失礼の無いようにして下さい」




この言葉を発した時だけは、ルカの表情も真剣で、

強い意志を感じた為、

絶対に守らなければならない事だと理解した。




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