第185話竜の裁き

京太達が、正式に結婚して3日が経った。



シャトの街には、未だに、お祝いムードが残っているが、

警備隊の一部は、とある犯人を捜す為に動いていた。



そして今日、ナイトハルトのもとを1人の兵士が訪ねて来ている。



「隊長、報告いたします」



兵士は、竜の卵を、シャトの街に、運び込んだ者達の行方を掴んでいたのだ。


この兵士達は、通常の兵士と違い、情報を得る為だけに特化し、

影で行動をしている者だ。




「【クサ】ですか、何時も、有難う御座います」




クサと呼ばれた兵士は、探り当てた情報を話す。




「シャトの街に、見世物小屋を騙って、

 竜の卵を放置した者達の足取りを掴みました」




書類仕事をしていたナイトハルトは、思わず立ち上がる。




「そうか!」




「はい、我等の行動が、奴らよりも早かったようで、

 逃げる事が出来ず、王都に潜んでおりました」



クサの語る情報から、奴らは、ソグル商会が匿っている事が判明する。



「ソグル商会か・・・・・」




「はい、この商会の事を調べたところ、七西連合のホグの関係者だとわかりました」




「七西連合のホグだと・・・・・


 だが、奴は、死んだと聞いているが?・・・・・」




「はい、内乱時に、命を落としております。


 ですが、遠縁にあたる【ランドルフ】商会の当主が、生き残っています。


 そして、その者達とつながりを持っている者が、ソグル商会です」




「そういう事か・・・・・わかった、今すぐ兵を動かし、

 ソグル商会に向かうぞ」




「では、私共は、先発し、引き続き、監視を続けます」




クサは、頭を下げた後、その場から消えた。







ナイトハルトは、この街の警備隊を任されてから、色々と励んでいた。


その中の1つに、警備隊募集がある。




面接を部下に任せず、自らが行い、身分や職歴を無視し、

能力にあった部署を探し、出来るだけ採用する事を心掛けている。



その事は、街に噂として流れていた。


だが、この噂は、ナイトハルトが自ら流した、

多種多様な者達を集める為の手段だった。



そして、その噂は、目論み通り、街の外まで広がり、心機一転を図る者達が

シャトの街に集まり、警備隊員を目指したのだ。



警備隊の面接には、過去に盗賊や、闇ギルドに属していた者達の姿もあるが

ナイトハルトは、経歴に問わず、

その者達の能力と本当にやる気があるのかを見極め、

秘密裏に動く、実行部隊を設立した。




ナイトハルトは、執務室を出ると、ミカールを呼ぶ。


護衛として待機していたミカール。



「ナイトハルト殿、どうかしたのか?」



「ああ、奴らの尻尾を掴んだ。


 今から、そこに向かう、同行してくれ」



「!!


 わかった、感謝する」



ミカールは、自らの手で捕まえれる事に、感情が高まり、背筋が震えた。



ナイトハルトは、エルフの3人娘に街を任せ、

ミカールと警備隊50人を引き連れ、王都へと出向く。


王都に入り、ソグル商会に到着したシャトの街の警備隊は、

屋敷を取り囲む。



「我々は、シャト警備隊。


 そちらに、我が街を襲った者達がいると聞き及んでいる。


 素直に差し出すなら、罪には問わない」


ナイトハルトの言葉を聞き、ソグル商会から、小太りの男が姿を現す。


ソグル商会の会長【ソグル】だ。



「おや、誰かと思えば、ナイトハルト様」



「ソグルか・・・・・


 貴様が犯罪者を匿っている事は、既に判明している。


 大人しく、引き渡せ」



ナイトハルトは、厳しい視線を向ける。


だが、ソグルに焦りは無い。




「そんな根も葉もない事を仰られても、困りますなぁ」




――この男、騙せると思っているのか・・・・・・



ナイトハルトが手を上げると、屋根に隠れていた影が動く。


ソグルは、気付いていない。




ソグルを引き留めておく為に、話しを長引かせる。




「貴様は、七西連合のホグと、関係があったそうだな・・・・・」




ソグルの表情が、一瞬変わった事を、見逃さない。



――やはり、正解か・・・・・・




ナイトハルトが、話しを続けようとした時、屋敷で爆発が起こる。



クサからの発見の合図だ。



「突撃!」



号令に従い、警備隊が屋敷に雪崩れ込む。




「貴様等、どういうつもりだ!」




焦りながらも、警備隊を引き留めようとするソグル。


だが、ソグルと数人の者達で、抑え込む事など、出来る訳がなく、

地に倒され、拘束された。



暫くして、屋敷からは、見世物小屋の者達を捕縛した警備隊員が姿を見せる。




捕縛した者達を引き連れ、シャトの街に戻ったナイトハルトは、

新設した地下牢に放り込んだ。




「さて、1人づつ、話しを聞かせて貰います」




これから、ナイトハルトの尋問が始まる・・・・・。





翌日、ナイトハルトは、京太と会っていた。


用件は、勿論、竜の卵。


ナイトハルトは、尋問で手に入れた情報を京太に話す。


当然、その中には、クサが手に入れた情報も入っている。




「彼らは、ランドルフに雇われた、武装国家ハーグの領地に潜む、

 闇ギルドの者でした。


 名前は『ブラッドシャドウ』。


 それと、マーベル カフカの関与も認められました」




「カフカ?」




「はい、ゲイル カフカの兄です」




京太は、思い出す。




「ゲイル カフカって、あの騎士団長・・・・・」



「はい、どうやら京太殿に、恨みを持っているようです」



――逆恨み・・・・・だよな・・・・・




反則を犯して京太に襲い掛かったのは、ゲイル カフカだ。


それなのに、京太に恨みを抱き、竜に街を襲わせた事を、許せる筈も無い。




京太は、この事を伝える為に、火の山へと向かう。



火の山に、到着した京太を出迎るユグドラ。



「お久しぶりです、京太様」




「待たせたね、例の件、わかったよ」



京太の言葉に、笑みを浮かべる。



「おお、そうでしたか!」



京太は、判明した事実を包み隠さず話すと

暫くの沈黙の後、ユグドラが口を開く。



「感謝致します。


 ここから先は私共に、お任せを」



京太は約束をしていた。


だからこそ、ここに来たのだ。



「わかった、約束通り、任せるよ。


 それから、捕らえた見世物小屋の者達は、どうする?」



「ボルとブルドを向かわせましょう」



話し合いを終えた京太は、シャトの街に戻った。




翌日、シャトの街に現れたボルとブルドに、

ブラックシャドウの一員を引き渡した。




その頃、2つの国の上空には、太陽の光を遮る程の竜が集まっていた。






~武装国家ハーグ~




女王アリソン タガートは、連絡を受け、城のバルコニーに飛び出る。




「これは!!」




女王に続き、宰相のコーリー バッシュもバルコニーに出る。




「女王様、早く中へ!」




「いえ、国民も怯えています。


 急ぎ、兵士達を配備しなさい」




「はっ!」




直ぐに指令は伝わり、兵士達は命令を受けたが、恐怖から、足が竦んでいた。




「勝てっこねえよ・・・・・」




「・・・・・ああ」




強者である竜の襲撃に、恐れを抱き、兵士達は機能しない。


そんな中、竜達が行動を起こす。




王都の出入り口の全てを塞ぎ、竜の背中から降りた竜人達が陣を築く。


そして、空気が震える程の声が響き渡る。




「我は、暗黒竜ブランド。


 人族よ、よく聞くがいい。


 この街に、我が卵を盗んだ者がいる。


 名をマーベル カフカ。


 その者の一族を、今すぐ連れて参れ、さすれば、我等は何もせぬ。


 ただし、抵抗するなら、我等は、この街を消す」




そう言うと、ブランドは、空き地に向かって

ファイヤーブレスを吐く。


空き地は、地面が融解していた。




その光景は、城のバルコニーからも、見えた。




「今すぐ、マーベル カフカとその一族を捕らえなさい」




女王、アリソン タガートの判断は、早かった。


マーベル カフカから、事情を聞くなどと言う事はせず、

竜から感じる怒りに素直に従った結果だった。




普段なら、市民が入らない貴族街だが、今日は違っていた。


カフカの屋敷に押し寄せる兵士と、住民達。




「早く出て来い!」




屋敷に向かって石が飛ぶ。




「早く出て行け!」




罵詈雑言の飛び交う中、兵士達に引き摺られていくドロール カフカの一族。



「クッ、放せ、私は、何のことか知らぬ!」


無罪を主張するドロール カフカ。


だが、その横で、捕縛されているマーベル カフカの顔色は悪い。


──何故、こんな事に・・・・・


そう思いながらも、必死に抵抗を試みる事は、忘れていない。



「私は、無関係だ。


 これは、部下が勝手にやった事なのだ!」


思わず吐いた、その言葉を聞き、愕然とするドロール カフカ。


「マーベル、お前、何かしたのか・・・・・」


「・・・・・」


父であるドロール カフカの問いに、

マーベル カフカは、顔を見る事さえできない。


連行されながらも、必死に言い訳を続けていたマーベル カフカだが

竜の前に差し出された瞬間、恐怖に言葉を失ってしまう。



恐れ、震えている最中に、捕らえられた者達が竜人達により、

次々に、下級竜の背中に乗せられる。


カフカの一族の回収を終えると、ブランドは、空へと上がった。




「人族の王よ、感謝する」




そう言い残し、ブランドは去って行った。


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