第184話シャトの街で

シャトの街に戻ってからが、大変だった。



京太は、イライザを伴って、エヴィータ王妃のもとに向かう。



「エヴィータ王妃、今宜しいですか?」 



「はい、構いませんよ」



部屋に入る京太とイライザの様子から、何かを察する。



「2人共、畏まってどうしたの?」



「その、子供が出来ました」



エヴィータ王妃は、持っていたカップを床に落とす。



「もう一回、言ってくれるかしら」



「はい・・・・・子供が出来ました」



エヴィータ王妃は、イライザに向き合う。



「イライザちゃん」



「はい、お母様」



「今日から、いえ、今から、遠出、冒険は禁止です。


 王宮から、助産婦の経験のあるメイドを呼びます」




そう言うと、エヴィータ王妃は立ち上がる。



「京太ちゃん」



「はい」



エヴィータ王妃は、京太の手を取り、ブンブンと振る。




「よくやりました。


 ありがとう」



京太に、笑顔を向けた。



「さぁ、行きますよ」



エヴィータ王妃は、3人娘も引き連れて、王宮へと向かう。



「・・・・・お母様」




「これで、良かったの?


 まだ、式の事、話せてないよね・・・・・」




「そうね・・・・・」




静かになった部屋で、京太とイライザは、王宮の方角を見ていた。




――向こうは、大変だろうな・・・・・




京太のその感は、当たる。


エヴィータ王妃は、来客中だったエイリーク国王のもとに突撃したのだ。




「貴方、子供が出来たわ」




同席していた【オーゼン コリンズ】伯爵は、その報告に驚いたが、

流石、貴族というべきか、直ぐに落ち着き、祝辞を述べた。



「陛下、おめでとうございます」



「いや、ちょっと待て」



「えっ!?」



「エヴィータ、今は、大切な話の途中なのだ。


 よく分からんが、話は後で聞くから、少し待っていてくれ」



「お父様、冷たいです」



「お姉様の懐妊を、喜ばないなんて・・・・・」



「・・・・・うん」



3人娘の冷たい視線と共に、入って来た情報。



「ハミル、今、何と言ったのだ?」



「お父様、お姉様が、京太様の子を身籠ったの!」



アリエルの言葉に、エイリーク国王の動きが止まる。



「お父様・・・・・」



我に返ったエイリーク国王は、オーゼン コリンズ伯爵に向き合う。



「オーゼン、改めて時間をつくる」



「畏まりました」



「それと、この事は、内密にするのだ」



「わかっております」



オーゼン コリンズ伯爵は、席を立つ。



「陛下、改めて、おめでとうございます」



「ああ、ありがとう。


 少し、忙しくなるが、宜しく頼む」




オーゼン コリンズ伯爵は、一礼をした後、部屋から出て行った。


そして、この場に残ったエイリーク国王は、ハーリー王子を呼ぶ。



「父上、どうかなさいましたか?」



「ハーリー、留守を頼む」



「父上?」



「イライザが、子を身籠ったのだ。


 儂は、屋敷に戻る」




「えっ!?


 イライザが懐妊。


 それなら、私が行きます」




「お前が行ってどうする?」




「父上でも、同じ事でしょう」




2人の言い争いは、しばらく続いた。






その頃、エヴィータ王妃は、王宮から、1人のメイドを屋敷に連れ帰っていた。




「イライザちゃん、何処にいるの?」




イライザは、食堂で寛いでいた。




「お母様、それに【ケイト】」




エヴィータ王妃と娘達は、イライザの周りに座る。




「お姉様、おめでとうございます」




3人の祝辞に、嬉しくなり、頰を緩めるイライザ。




「皆、ありがとう」



イライザのお礼の言葉に続き、ケイトが挨拶をする。



「お嬢様、本日より、お世話をさせて頂きます」




「ケイト、お願いね。


 でも、妊婦は、私だけでは無いのよ」



「え・・・・・・誰、誰なの!」



「ミーシャとセリカよ」



「そんな大切な事を!」



エヴィータ王妃は、再び立ち上がる。



「貴方達は、ここにいて」



走り出そうとするエヴィータ王妃を、ケイトが止める。




「私が、参ります」




「でも、貴方は、会った事が無いわよね」




「いえ、お顔は、存じ上げておりますので」



「わかったわ、ところで、あなた一人で、3人も見れるの?」



「どなたか、手を貸して頂けるのでしたら、何とかなります」




「そうね・・・・・アネットも手伝ってくれるかしら」




エヴィータ王妃の言葉に『待ってました』と言わんばかりに姿を現すアネット。




だが、アネットに向けられる冷たい視線。


ケイトが、アネットを見ていた。




「アネット、わかっていますか?


 お嬢様は、大事なお体なのですよ」




「はい・・・・・」




「貴方にも、力を借りなければなりません。


 ただし、勝手な事は、しない!」




「はい、わかりました」




「では、後のお二方のもとに、案内を、お願いします」




アネットは、ケイトを連れて、ミーシャとセリカのもとに向かう。




「アネット、大丈夫かしら?」




イライザは、アネットが暴走する傾向にある事を知っている。


その為、不安が過る。




「大丈夫よ、その為にケイトを連れて来たのです。


 それにスミスもいます」




屋敷のメイド長のスミスは、エヴィータ王妃から、絶大なる信頼をされている。


だが、立場上、イライザにつける事が出来ない事も理解していた。




「最悪、王宮のメイドを10人位連れて来て、スミスの代わりに働かせるわ」




「それ、お父様が泣きますよ」




「少しの間なら、仕方ないわ」




その後、スミスとケイトが話し合いを行い、屋敷のメイド達の体制を変更した。


その中に、エヴィータ王妃が、いつの間にか、勝手に連れて来た、

王宮のメイド5人が含まれていた。




メイドの体制が、変わった翌日。


ミーシャ、セリカ、イライザは、部屋に軟禁された。




敷地内の庭に散歩に出る時でさえ、必ず2人のメイドが付く。


また、部屋にいる時は、1人のメイドが常駐する。



そんな状態の3人は、応接室で寛いでいる。



「生まれるまで、続くのですね」



初めての経験で、感心するミーシャ。



「そうね、でも仕方が無いわ、何かあったら大変ですもの」



余裕を見せるイライザ。



「ええ、分かっています。


 でも、私は冒険者でしたから、中々慣れそうもなくて・・・・・」




メイドがつく事に、戸惑うセリカ。




3人のもとに、京太が姿を見せる。




「皆、どう?


 何か欲しいものは、無い?」




「京太さん、心配し過ぎです」




「えっ!」




「なんだか、ソワソワしていませんか?」




「まだ、生まれませんよ」




「そう・・・だよね」




3人は、そんな京太の様子に、笑顔が零れる。






その日の夕食後、京太は、エヴィータ王妃と向かい合っていた。


その理由は、結婚式について。




「京太ちゃん、貴方と皆の気持ちは、わかるわ。


 でもね、式を挙げるとなると、

 貴方の場合、この世界の殆どの国を、招待しないといけないわ。


 その理由は、わかるでしょ」




京太は、頷くしかない。




「だから、先に、親類だけでしましょう。


 他の方達には、手紙で知らせます。


 後は、妊婦が落ち着いてから、盛大に披露宴を行いましょう」




エヴィータ王妃の意見に従い、京太は、仲間達の親類だけを呼ぶ事に決めた。


そして、その翌日から、結婚式の準備が始まった。




招待客は、エルフの里から、ラムとミーシャの家族。


アトラ王国は、王族一家。


シーワン王国からは、キーラ女王だけとなった。




京太は、王族を呼んでも構わないと伝えたが、レインが断ったのだ。


前国王や、その一族で生きている者達もいる。


しかし、誤解を招かない為にも、表舞台には立たないと

本人達が決めているからと、レインは言っていた。




それでも、娘の晴れ姿は見たいだろうと思い、

京太は、『親族だけの結婚式なので、席は準備しています』と書いた手紙を送った。




合同で、ラインハルトもフィオナとの式も挙げる事になったので

アクセル王国にも、招待状を送る。




それから数十日後、教会にて式が行われ、

その後は、京太の屋敷で親族と関係者だけの小さな披露宴を行った。




披露宴には、シーワン王国の王族達の姿もあり、

レインは、泣いて喜んでいた。



ただ、披露宴の席で、エイリーク国王が、イライザが懐妊している事を告げると、

ナイトハルトとフィオナが、アンドレイ国王とエリノア王妃から、

『まだなのか!』と責められる一幕もあった。




慎ましくも楽しい結婚式が終わった翌日。


次々に参加者が帰路に就く中、ミカールだけが残っていた。




「京太様、お話がお願いが御座います」




「何かあったの?」




「いえ、実は、ブランド様から、お許しが頂けたので、

 この街に住ませて頂けないかとご相談に来ました」




「この街に住むって事は、ずっと人型になるけど、大丈夫?」




「それは、問題ありません」




「じゃぁ、仕事は?


 今からだと、絶対に人族の下で働く事になるよ」




「それも、問題ありません。


 エミリアと住めるのなら、気にもなりません」




「なら、取り敢えず、働いてみる?


 一ヵ月間は、お試し。


 勿論その間は、一緒には住めないよ。


 会う事は、構わないけどね」




ミカールは頷き、話を聞いている。




「それが出来たら、お祝いとして、家を建ててあげるよ」




「えっ!」




「だから、頑張ってみる?」




「はい、お願いします」




京太は、近くにいたナイトハルトを呼ぶ。




「京太殿、何か用事か?」




「うん、このミカールを、警備隊で使って欲しいんだけど」




ナイトハルトは、笑顔を見せる。




「人手は、足りない位だから有難い。


 私は、ナイトハルト アトラ。


 この街の警備隊長だ」




ナイトハルトは、手を差し出す。




「私は、ミカール。


 宜しくお願いします」




ミカールは、ナイトハルトの手を握った。




「それから、住む所だけど、兵舎に空きはある?」




「ああ、問題無い」




「じゃぁ、そこで、お願いします。


 それと、ミカールは、竜だから、力はあるよ」




「えっ!?」




「ん?」




「今、何と?」




「竜ですよ、竜」




「誰が?」




「ミカールだよ」




ナイトハルトは、ミカールと向き合う。




「私は竜ですが、隊長の貴方に従います」




ナイトハルトは、ミカールの真剣な眼差しを見た。




「そうか・・・・・何か、覚悟があるのだな」




「はい」




「わかった、今は大切な任務の最中だ、もうすぐ奴らのアジトがわかる。


 その時は、力を貸してくれ」




「はい、ご命令とあらば、竜になってでも、働かせてもらう」




「感謝する」




2人は、もう一度、握手を交わした。




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