第182話火の山 竜達

襲い来る竜人達、それに対抗する為に迎え撃つ構えを見せる京太達。


激突の瞬間、二組を隔てるように風が吹く。



「待て!」



空から響く声。


京太達は、空を見上げる。


そこには、黒く巨大な竜の姿があった。




竜人達は、その場で片膝をつき、頭を下げる。




「ブランド様」




その名前に、京太達は、ホワイリーの夫の竜だと気が付く。


ブランドは、京太達に相対するように降りて来た。


そして、ブランドに続き、多くの竜が降り立つ。




「我が名は、ブランド。


 この地を統べる竜なり。


 人族よ、我が地に何の用だ?」




「人族が盗んだ卵を返しに来た。


 盗んだ者達は、僕達と貴方達を争わせる為に、

 僕の街に、卵を運んで来たので、返しに来たんだ」




「そうか・・・・・それで、我が子は何処に?」




「貴方の奥さんのホワイリーに返した」




「無事なのだな」




ブランドは、竜人に尋ねる。




「はい、今は、ホワイリー様が、大切に温めております」




ブランドは、その言葉を聞き、安堵の表情を浮かべる。




「黒竜ブランド、この度は、同じ人族が迷惑をかけた。


 改めて謝罪致します」




京太は、頭を下げる。




「ここまで来た誠意と心意気には敬意を表すが、それとこれとは別の話。


 『はい、そうですか』と帰したのでは、我等の顔が立たぬ。


 それで、提案だ。


 貴様等の代表と我等の中の1人と、一対一で、戦ってもらう。


 勝てば、弱肉強食のルールに従い、不問にする。


 だが、負ければ・・・・・・わかっておるな・・・・・」




ブランドが、一対一の提案をした途端、京太以外の者達が集まり、

じゃんけんを始めた。



「いい、勝った人が戦えるんだよ」



「わかっているよ、でも、恨みっこ無しだからね!」



その様子を見て、京太は慌てて止めた。



「ちょっと、待って!


 そんなやり方で、押し付け合わなくても、僕が戦うよ」




仲間達の動きが止まる。




「京太、何を言っているの?」




「主、これは、候補者を決める戦いです」




「そうだよ、押し付け合いじゃないよ、

 皆、戦いたいから、じゃんけんで決めているんだよ。


 京太も、戦いたいなら参加してよ、抜け駆けなしだからね!」




フーカの言葉に従い、京太もじゃんけんに参加する。




――勝つしかない!・・・・・・




「じゃん・けん・・・・・・」






京太は、何とか代表者になった。


だが、皆の諦めが悪い。




「京太が出たら、面白くない!」




「京太さん、譲る気は、ありませんか?」




「妻からのお願いですよ」




「膝枕で、手を打ちませんか?」




――イライザやマチルダまで・・・・・・




「みんな、なんでそんなに戦いたいの?」




「「「戦ってみたいからです!!」」」




「あっそう・・・・・」




その時、いつもなら、誰よりも五月蠅いはずの

エクスやラゴの姿が見えない事に気が付く。




――どうしたんだろう・・・・・・




京太は、不思議に思いながらも、今は、優先すべきことをする。




「ブランド、お待たせ致しました。


 こちらは、僕が戦います」




「そうか、我等からは、この者が相手になろう」




ブランドの言葉に従い、金色の竜が降り立つ。




「我が名は、【ミカール】、人は、我を天竜と呼ぶ」




「では、始めるか」




ブランドの言葉が合図になり、竜達が空に上がり、場所を空けた。




「すこし、待つのじゃ!」




声の主、アイシャが、竜達に、見えない様に

こっそりと2本の剣を持って来る。




「京太、いつものなまくらでは、不便であろう。


 これを使うのじゃ」




差し出された剣を見て、言葉を失う。




――エクス、ラゴ、君達、そこまでして、参戦したかったの?・・・・・・




京太の心の声に反応するように、『キラリ』と光る。




「宜しく頼むよ」




京太は、久し振りにアイテムボックスから、2人の鞘を取り出し、収めた。


2本の剣を腰に携えた京太は、天竜ミカールの前に立つ。



「始めましょう」



京太が、いきなり2本の剣を抜く。




「その剣は!!!」」




先程、アイシャが、京太に剣を渡した時には、見えなかったが

この場の戦いを見届ける為、

同席していた古竜の【ユグドラ】は、気がついてしまった。



「ま、待てぇぇぇ!!!」



戦いを止める為に、声を上げたが・・・・・・遅かった。




勝負は、一瞬だった。


ミカールは、接近する京太を爪で切り殺そうと振り抜く。


しかし、その腕は、ドラゴンソードによって切り落とされる。


思わず、叫び声を上げる天竜だが、京太の攻撃は、まだ、終わってはいない。


そこから、京太は反転し、反対の腕を、エクスカリバーで切り落としたのだ。




「グワァァァァァ!」




もだえ苦しむミカール。


その光景に、ブランドも息を飲む。




「これは、どういう事だ・・・・・・」




目の前の光景に、思考が付いて行かない竜達。


だが、何時の間にか、京太の仲間達の後ろに控えていた3体の竜に、驚きは無く、

何故か、安堵の表情を浮かべていた。



「我は、キックで良かったよ」



「我も、他の人の攻撃で良かった」



「我は、直ぐに降参したからな」




3体の竜は、『うんうん』と頷きながら、見ている。




「あんた達、それ、誇るところ?」




ソニアの問い掛けに、笑って誤魔化す竜達だった。




他の竜達が、固まって動けない中、ユグドラが動く。


上空から降りて来ると、透かさず京太の前で、平伏の姿勢。



「この度は、この様な茶番にお付き合いさせてしまい、申し訳御座いません」




この状況に、竜達の方が困惑する。




「ユグドラ様?」




「父上、これは、一体・・・・・?」




「ブランド、よく聞くのだ。


 このお方は、人族であって人族では無い」




ユグドラは、京太に断りを入れると、人型に変化し

片膝をついた。




「御無沙汰しております、【創造神、アトゥム様】」




京太は、誤解をされたが、面倒だったので、そのままにする。



ユグドラの言葉に、ブランドは固まる。



「我は、神に喧嘩を売ったというのか・・・・・・」



動揺を隠せないブランド。




「ブランド、こちらに来るのだ!」




ユグドラの厳しい声に、ブランドも人型になり、

ユグドラの隣に並び、両膝をつく。




「申し訳御座いません!


 全ては、私の不徳の致すところです。


 どうか、この罪は、私一人に・・・・・・」




頭を下げ、懇願するブランド。




「神よ、我が息子の罪、私の命で、許して頂けないでしょうか?


 私の心臓なら、薬にもなりましょう。


 牙1つでも、人族の街なら、潤います。


 ですので、どうか、わが身で、息子の罪をお許しください」




――なんか、重い・・・・・・

  それに、僕は、アトゥムじゃないし・・・・・




その時、外が静かになった事を不思議に思い、ホワイリーが顔を出す。




「どうかしたのですか?」




横穴から出て来たホワイリーだったが、目の前の光景に、驚きと怒りを表す。




「貴様等、我が同胞に何をした!」




翼を広げ、京太に飛びかかろうとしたホワイリーを、

近くにいたボル、イエーギー、ブルドが慌てて止める。




「ホワイリー様、落ち着いて下さい!」




3体の竜は、必死に抑え込み、現状の説明をする。



そして・・・・・・



ホワイリーは今、ブランドの横で、人型に変化し、正座をしている。


そして、上空で待機していた竜達も、今は、ブランド達の後ろで、頭を下げている。




「・・・・・・」




「アトゥム様」




「京太でいいよ」




「では、京太様、度重なる不敬・・・・・」




流石にユグドラにも、弁解の言葉が見つからない。




「あの・・・・・」




ゆっくりと手を上げる。




「ん?」




「度重なるご無礼の数々、お許しください」




「度重なる?」




ブランドは、気になり聞いた。




「実は、先程、手土産を持って謝罪に来られたのですが、

 『食い殺す』みたいなことを言って・・・・・追い返しました。


 それで、その後に、竜人達を嗾けしかけて・・・・・」



ユグドラが、倒れた。



「父上?


 父上ぇぇぇぇぇ!!」




「一度、休憩しようか」




京太は、そう言い残し、仲間の元に戻った。




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