第181話火の山

青竜の名前は【ブルド】、黄竜は【イエーギー】と言うらしい。


因みに赤竜は【ボル】。




ボルは、あの後、シャトの街に到着したのだが、

京太やフーカに、やられた傷が治っていなかった事と

走るという慣れない行動の疲労から、そのまま意識を失っていたのだ。




京太達は、『匂い』で分かると思っていたので、

誰も迎えに行かなかったのだが、

いくら待っていても姿を見せない事から、不安になり、

全員で迎えに行くことになったのだが、

警備隊からの報告により、

街の外で、横たわっているボルを発見したのだ。



「あれ、生きている?」



「たぶん・・・・・」



ブルドとイエーギーが近づく。



「おい、兄貴、大丈夫か?」



「ZZZ・・・・・」




「こいつ、寝ていやがる」




「なら、もう少し、放置しておこう」






京太達は、ボルの事を警備隊に任せ、出発の準備を続ける。


謝罪の品だが、やはり喜ばれる物が良いと思い、

ブルドとイエーギーの意見を聞きながら揃えた。




そして、準備が整ったところで、ボルを起こす。


勿論その役目は、2体の竜だ。




「おい、兄貴、そろそろ起きろよ」



イエーギーは、そう言ってボルを蹴る。



――えっ!?


  蹴るんだ・・・・・・




それでも、目を覚まさないボルを、今度は、ブルドが起こしにかかる。




「ボル、起きるんだ!」




ブルドは、ボルの顔を踏みつけた。




「人の感覚で考えたら、駄目なんだけど・・・・・」



京太の呟きに、仲間達も頷いていたところ

轟音が響き、砂埃が舞う中、ボルは、ゆっくりと目を開ける。




「・・・・・我は、どうしてここに?」




「おおっ、兄貴、起きたか」




「イエーギー、無事だったんだな」




「ああ、それに、これを見ろ!」




京太は、アイテムボックスから竜の卵を取り出し、ボルの前に置く。




「取り戻せたのだな」




「そうだ、だが、我等は、人族に騙された」




ボルは、怪訝な顔をする。




「どういう事だ?」




「我等が対峙した京太殿は・・・・・いや、この街は無関係だったのだ」




「卵は、ここにあるではないか!」




「それは、卵を奪った別の者が、京太殿と我等を戦わせるために仕組んだのだ」




「それを信じろと言うのか!」




「ああ、そうだ。


 少なくても我とイエーギーは、信じる事にした」




「お前達・・・・・」




「ボルよ、よく考えてくれ、今、我等は生きている。


 もし、卵を奪った奴らなら、我等は生きてはおらぬ。


 そう思わぬか?」




ボルは、ブルドの言う事も一理あると考え、今回の事は2人の判断に従った。




「良かった、それで、ここからが本番なのだが。


 京太殿は、人族のした事だから、謝罪に来るそうだ」




ボルは、京太の顔を見る。




「貴様、本気か?」




「ああ、本気だ。


 案内を頼む」




「殺されるかも知れぬぞ」




「それは、聞いた。


 それでも行くよ。


 それに、タダで殺されは、しないよ」




その言葉に、昨日の戦いを思い出し、3体の竜は焦る。




「わ、我等も力を貸す。


 だから、穏便にな」




「ああ、そうだ。


 俺っちも、その方が良いと思うのだ」




「我も助言をしよう」




「ありがとう」



御礼を伝える京太だったが、焦りが見える竜達に、

京太の仲間達は、疑いの目を向けていた。



その後、ボルの治療を行い、京太達は、竜の背中に乗り

見送りに来ていたナイトハルトに、声をかける。




「ナイトハルトさん、そちらは任せます」




「ああ、任せてくれ。


 それと、あの見世物小屋の事も調べておくよ、

 あの者達が、まだこの辺りにいれば、必ず捕らえて見せる」




自信を持ったナイトハルトの言葉に、京太は笑顔を見せた。




「お願いします!」




「気を付けろよ」




2人の会話が終わると、竜達は、京太達を背中に乗せ、空へと上がる。




「しっかり捕まっていてくれ」




ボルの言葉を合図に、竜達は、火の山にむけて飛んでゆく。



竜達は驚くほど速く、既にシャトの街は、見えなくなっている。




「本当に早いね」




フーカは、楽しそうに景色を見ている。




「ラゴお姉ちゃんも、こんな風に飛んでいるの?」




クオンが、ラゴに質問をした。




「わらわは、ここまで早くは無い。


 わらわの翼は、小さいからのぅ・・・・・」




ラゴは、そう言って、背中から翼を出した。




「ラゴお姉ちゃん、触ってもいい?」




「うむ、構わんぞ」




クオンは、ラゴの翼にそっと触れた。




「思ったより、柔らかいね」




クオンが優しく撫でていると、ラゴの身体に『ゾクゾク』っと、何かが走る。




「も、もうそろそろ良いか?」




少し、頰を染めたラゴに気付いたアイシャ。




「どれ、わらわも触らせて貰おうかのぅ」




アイシャは、ラゴの返事を待たず、翼の付け根を撫でる。


身悶えしそうになるラゴを見て、

アイシャは楽しそうに、再び、翼の付け根を攻めようとした。




「お主、いい加減にするのじゃ!」




ラゴとアイシャの喧嘩が始まる。




背中で暴れる2人に、イエーギーは注意を促す。




「すいません、俺っちの背中で暴れないで下さい」




「・・・・・ごめんなさい」






2人の喧嘩も終わり、

暫く乗っていると

目的地である『火の山』が見えてくる。




「そろそろ到着します」




竜達は、火の山の上空で一度、旋回をした後

火口?に飛び込んだ。




――えっ!?・・・・・・




驚く京太だったが、よく見ると、火口?の奥には何も無く、

平地が広がっていた。




――火口・・・・・じゃ無いのか・・・・・




平地に到着すると、京太達は背中から降りる。




「ついて来て下さい」




竜達に従い、大きく開いた横穴に向って歩く。


横穴に入ると、そこは、天然の広間となっており、

正面の一段高い場所には、白竜が横たわっていた。




3体の竜は、頭を下げる。




「【ホワイリー】様、只今、戻りました」




ホワイリーと呼ばれた白竜は、首を起こす。




「よくぞ戻りました。


 それで、私の卵は?」




「こちらに」




ボルの言葉に従い、京太は、アイテムボックスから、竜の卵を取り出す。


ホワイリーの見える位置に、置かれた卵を、

控えていた竜人族が、丁寧にホワイリーのもとへと運ぶ。




卵を優しい目で見つめるホワイリー。




「間違いなく、私の子供達です。


 3人共、疲れたでしょうから、休んで下さい」




「はっ、有難う御座います」




3体の竜は、御礼を述べたが、その場を離れない。




「どうかしましたか?」




「いえ、あの・・・・・ホワイリー様。


 この度の事について、人族が謝罪に来ております」




「人族など、私には見えません。


 気のせいでしょう」




「いえ、ですが・・・・・」




「いいですか、私は、子供達が戻って来た事で満足しております。


 本来なら、人族など、この場で引き裂いて殺したい位ですが、

 全ては、我が夫【ブランド】に任せましたので、

 死にたくなければ、お帰りなさい」




――そういう事か・・・・・・




ホワイリーは、『人族など、見たくもない』と

遠回しに言っているのだと理解する。


その為、京太は、黙って前に進み出て、

アイテムボックスから、謝罪の品を取り出し、

ホワイリーの前に並べた。




「物で、謝罪になるとは思いません。


 ですが、形になる物と思い、お持ち致しました」




京太は、それだけ伝え、頭を下げてから、天然の広間を、あとにした。




横穴から平地に戻ると、竜人達が待ち伏せている。




「貴様等、生きて帰れると思うなよ」




竜人達は、全員が武器を構え、殺気に満ちた目で睨んでいた。




「話を聞いてくれると、有難いのだけど・・・・・」




京太の言葉に、竜人の1人が反応する。




「なんだ、命乞いか?」




「そんな事は、しません。


 ただ、僕達は、同じ人族がした事に対して、謝罪に来ただけなんだ。


 僕達が盗んだ訳では無いんだよ」




「そんな事、誰が信じるものか!」




竜人達は、口々に叫ぶ。


そんな中、一番高そうな武装をした竜人が、前に進み出る。




「誰が盗んだとか、そんな事は、どうでもいいのだ。


 この度の犯行は、人族の仕業。


 我等は、これから人族に襲撃をかける。


 我等の神である竜に対し、盗みを働いた事を後悔しながら死ぬがいい」




竜人は、京太の心臓を槍で狙うが

その攻撃を素手で受け止める。




「もう一回、言ってくれるかな、


 今回の件で、人族を皆殺しにするのですか?」




「そうだ、貴様等に未来は無い!」




そう言い放った後、槍を引き抜こうとするが、京太は槍を離さない。




「貴様、槍を離せ!」




竜人が、力一杯引くタイミングで、京太は槍を離す。




「うわぁぁぁ!」




竜人は、自身の力で、尻餅をついた。




「大丈夫ですか?」




京太の惚けた言葉に、怒りが増す。




「全員殺せぇぇぇぇぇ!!」




尻餅をついた竜人の合図で、一斉に襲い掛かかる。


京太も仲間に伝える。




「殺さなければいいよ」




京太の言葉に、全員が頷いた。




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