第180話3体の竜

襲って来るワイバーンの群れは、完全に京太を狙っている。



「グァ!」



集団で襲ってくるワイバーンの攻撃を、ラゴとアイシャが防ぐ。



「主様に、手は出させません!」



「羽の生えたトカゲなど、わらわの相手になる筈が無かろう」



2人は、次々にワイバーンを地面に落としたが

相手も必死な為、攻撃の手を緩めない。


四方八方から、ワイバーンが襲い掛かる。


正面の露払いは、ラゴとアイシャの2人に任せ

後方からの攻撃は、フーカとセリカが担当し、

京太を、完全にガードする。




京太は、その光景を横目で見ながら、先を急ぐ。




そして、竜の姿が見えた。



竜の数は、3体。



睨み合う京太と3体の竜。



その中の1体。

真ん中にいた赤竜が、京太に話しかけて来る。



「人族の子よ、道を開けよ」



「何故、僕の街を襲おうとするのですか?」


その問いに、答えたのは、右側の青竜。


ただ、その態度は、良いとは言えない。



「人間の様な弱い生き物は、黙って俺達の言う事を聞いていればいいんだよ!」



その言葉に便乗するように、左側の黄竜も、文句を言って来た。



「そうだ、兄貴の言う通りだ!

 そこをどかなければ、貴様らは、俺っちの餌になって貰うぜ」




鼻息荒く、睨みつける竜。


京太は、黙ったまま剣を抜く。




「話し合いは、無駄みたいだね・・・・・


 僕も引き下がるつもりは、ありませんから、貴方達を排除します」




「羽虫の分際で・・・・・」




赤竜は、威嚇するように声を上げると、口から炎を吐いた。




――『ファイヤーブレス』か・・・・・




京太は、落ち着いている。



「ファイヤーウォール」



京太のファイヤーウォールは、ファイヤーブレスを完全に防いだ。



「ほう・・・・・我の炎を防ぐとは・・・・・」



赤竜は、感心しながらも、次の攻撃へと移る。


赤竜が、翼をバタつかせると、『風の刃』が京太を襲う。



京太は、応戦する構えを見せるが、後ろに控えていたフーカが声をかける。



「ここは、私に任せてよ!」



「ウインドウォール」



フーカも、同じ属性の壁で『風の刃』を防ぐ。



「ここからだよ!

 ライトニングアロー!」




フーカの光の矢は、空を埋め尽くすほどの数に分散した後、3体の竜に迫る。



「むぅ・・・・・」



「えっ!?」



「うっ!」



ライトニングアローは、竜達を串刺しにした。




「「「グワァァァァァ!!!」」」




矢に貫かれ、旋回しながら地面に落ちて行く竜達。


その様子に、ワイバーン達も動きを止める。




青竜と黄竜は、地面に激突したが、

赤竜は、ギリギリの所で持ちこたえ、地面に足をつけた。




「貴様ら・・・・・・」




赤竜は、何かを言いかけたが、殺気を感じ、上を見る。


その感は正しく、目に映ったのは、

剣を振り下ろしながら、降下してくる京太の姿だった。



「グヌッ!」



間一髪、致命傷を避ける事は出来たが、その代償は大きく

片側の翼を斬り落とされてしまう。


「グァァァ!!!」


地面に降りたつ京太。



なんとか意識を取り戻した、青竜と黄竜は、参戦しようと試みるが

フーカが放ったライトニングスピアで、

地面に翼を固定されて、身動きが取れない。



「兄者ぁぁぁ!」



叫びを上げる黄竜。


そこにワイバーンを殲滅させたラゴとアイシャが合流する。




「ククク・・・やっぱりトカゲは、地面がお似合いじゃ」




そう言って笑うラゴの横で、頷くアイシャ。



「全くじゃ、それより決着がついたように見えるが・・・・・・


 そこの赤いトカゲよ、まだ戦うのか?


 もしそうなら、此処から先は、わらわ達が相手じゃ」




「グヌゥゥゥゥ・・・・・」




悔しそうに唸る赤い竜。




「アイシャよ、返事が帰って来ぬようだぞ、

 お主、あの黄色いトカゲの首でも落として見せよ」



ラゴの挑発に、アイシャよりも先に、黄竜が反応する。



「ふんっ、貴様に、俺っちの首が落とせるとでも思っているのか!


 俺っちの鱗は、そんなに軟じゃないぜ、やれるものなら、やってみろってんだ!」




「ラゴよ、ちと、わらわに、力を貸すのじゃ」




「なぜ、わらわが、力を貸さねばならぬのだ!」




「なんじゃ、妹の『おねがい』も聞けぬ程、度量の狭い姉なのか?」




「ぐ・・・・・良いだろう、わらわの力を貸してやろう・・・・・」




ラゴは、そう言うと、珍しくドラゴンソードに変化し、

アイシャに向かって飛んで行く。


その剣を、当然の様にキャッチしたアイシャは、

恍惚の表情を浮かべている。



「流石じゃ、・・・・・美しいのぅ・・・・・」



アイシャが手にしている剣を見て、驚きを隠せないドラゴン達。



「「「ドラゴンソードだと!」」」



驚愕の表情のドラゴン達。




そのドラゴン達とは対照に、口角をあげ、妖艶な表情で牙を見せているアイシャは

ドラゴンソードを持ったまま、黄竜に近づく。




「トカゲよ、待たせた・・・・・最後に言い残す事は、あるか?」




「ま、待て、それはシャレにならねえ・・・・・わかった、俺っちが悪かった。


 謝る、謝るから、勘弁してくれ!」



額から、汗を流す黄色い竜。



「そうか、なら、相手を変更しよう」



アイシャは向きを変え、青竜に迫る。


その途端、青竜は、頭を地面につけ、『伏せ』のような姿勢を取る。




「ごめんなさい・・・・・」




「ほう・・・・・・なら、残るは、赤い竜だな」




アイシャは、何気なくドラゴンソードを振るう。


ヴァンパイアの魔力を纏ったドラゴンソードが放つ風の刃は

あっさりと、赤竜の残っていた片翼を切り落とした。


「ウグァァァァァ!!!」



「流石の切れ味じゃ・・・・・」



アイシャの目が、紅く染まり、赤い竜に向けて笑みを零している。



両翼を失くしても、赤竜のプライドは、揺るがない。


「我は、偉大な赤竜の末裔。


 無様な姿を晒してまで、生きようとは思わぬ!」



赤竜は、アイシャに向き直る。



「我は、最後まで戦おうぞ、いざ、しょおぉぉぉぉ!グフッ!!!」



赤竜は、話の途中で、後頭部に、京太のライダーキックを喰らい、

意識を失った。



「ラゴ、もういいよ。


 アイシャも有難う」




赤竜の後頭部に蹴りを入れた京太は、

青い竜と黄色い竜に近づく。




「話し合いに、応じてくれるよね」




「「は、はい!


 勿論です!」」




2体の竜は抵抗を止め、今回の襲撃のいきさつを説明する。




それは、竜達の住む『火の山』に人族が入り込み、

母なる白竜から、卵を盗んだ事が始まりだと説明する。




「それで、どうして僕達の街を、襲うんだ?」




「我等には、どんなに離れていても『匂い』で、卵を見つける事が出来ます」




「それって、シャトの街に、卵があるって事?」




2体の竜は頷く。




「じゃぁ、行って見ようか」




「え!?」




「匂いで、わかるんでしょ、なら、街に行って見ようよ」




「宜しいのですか?」




「いいよ、でも、暴れないでね」




「はい、勿論です」




京太は、赤竜を放置し、青竜と黄竜の傷を治して、

シャトの街を目指す。



一方、シャトの街を守りきったナイトハルト達だったが、

遠くから、接近する2体の竜に驚く。




「全員、戦闘態勢!」




――京太殿が、負けたのか・・・・・・そんな、馬鹿な・・・




京太達が戻らず、竜が接近する事で、

街に残っていた京太の仲間達と、ナイトハルト達は、不安を覚えた。




――彼が、勝てなかった相手に、我々が・・・・・・




そんな思いの中、竜の上から手を振る人の姿を発見する。




「あれっ?」




「あれ、京太だよね・・・・・・」




「ええ、京太さんです」




「ラゴにフーカ、セリカもアイシャもいるよ」




「・・・・・・」




ナイトハルトは、兵士に急いで指示を出す。




「戦闘態勢解除、武器を収めろ!」




武器を収めると同時に、街の外に2体の竜が降りてくる。


ラゴ、フーカ、アイシャ、セリカが、飛び降りる。


続いて、青竜から、京太が降りてきた。


その青龍に向かって話しかける京太。


「じゃぁ、案内をお願いできる」


「はい」


青竜と黄竜が向かった先は、あの見せ物小屋。



「ここ、調べたよね」


「はい。


 たしか、そのようなものは、無かったかと」


京太の問いに、ラインハルトも頷いているが

青竜と黄竜は、ここにある事は間違いないと返答する。


「わかった。


 それで、その場所も、わかる?」


「はい」


ズンズンと見世物小屋に、近づく2体の竜。


風を起こし、屋根を吹き飛ばすと

見世物となっている魔物たちに近づく。


すると、魔物の中にいた大柄な牛のような魔物に、青竜が声を掛けた。


「そこから、離れよ」


竜に睨まれた牛のような魔物は、

その体格からは、想像できない程、俊敏な動きで

その場から退いた。


「この下から、匂いがします」


青竜の言葉に従い、

牛のような魔物が寝床にしていた場所の藁を避けると扉が現れた。


「!!!」


「こんなところに!!!」


驚いているラインハルトを他所に

京太が扉を開けると、2つの卵が姿を現した。



「無事で、良かった」


安堵したように、呟く青竜に、

京太は、2つの卵を差し出す。



「これは、人間がした事だ。


 申し訳ない」



京太は、頭を下げた。



「頭を上げてください。


 貴様等は、知らなかったのだろ。」

 


「だが、僕の街に持ち込まれていた事には変わりない。


 なので、直接、謝罪に伺いたいのだが」




「それは、構わないが、どうなっても知らぬぞ」




「ああ、わかっている」




「ならば、案内しよう」



青竜の言葉に、黄竜も頷く。



京太達は、出発を明日にし、謝罪の為の土産を準備するとともに、

ナイトハルトの警備隊に、見世物小屋の一団の捜索を行うように指示を出した。




その後、京太は、街の外で、食事を振舞う事を決め、

野外でバーベキュウを催し、

2体の竜に肉を振る舞い、親睦を深めた。




その頃、意識を取り戻していた赤竜は、

一生懸命、地上を走って、シャトの街に向かっていた。




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