第179話竜の襲撃

京太がこの世界に降り立ってから、断罪された貴族は、少なくない。


その為、恨みを持つ者も存在する。




【ドロール カフカ】元子爵もその一人。


長男の【マーベル カフカ】が、後を継ぎ、

次男のゲイル カフカは、騎士団長に成り上がり、

カフカ家は、順風満帆と思えた。




しかし、ゲイル カフカが、京太との試合で敗北しただけではなく、

その際に行った反則も露見した為に、死刑となった。


その一件で、責任を問われ、爵位を失い、同胞だと思っていた貴族達も離れ、

今までの繁栄が、嘘だったかのような状態におちいり、

肩身の狭い思いをしている。



今日も、ドロール カフカは、日中でありながら、ワインを飲み、愚痴を零す。




「これも、全て、あのガキのせいだ!・・・・・」




その姿を見て、長男、マーベル カフカは、溜息を吐きながらも、

父親であるドロール カフカの深酒を止めようとする。



「父上、あまり飲みますと、お体に障ります」


 

「マーベルか、儂のことなど、気にしなくてよい。


 それに、子爵家で無くなった我が家の事など、誰も気になどしておらん」




グラスのワインを一気に飲み干すと、ドンッと音を鳴らし、

テーブルの上に力強くグラスを置く。




「皆、あのガキのせいだ!


 ルドガー ダガート国王は引退させられ、

 アリソン王妃が国王になられたのも

 全部、あいつの仕業だと聞いた。


 この武装国家ハーグを、滅茶苦茶にしたのは、全て、あいつだ・・・・・」




酒を飲み、愚痴を溢しながら眠った父親を、

マーベル カフカは、憐れむ目で見ている。




――あの一件以来、ただの酔っ払いになってしまったな・・・・・




マーベル カフカは、使用人を呼び寄せ、ドロール カフカを寝室に運ばせた。



誰もいなくなった部屋で、マーベル カフカは、ソファーに腰を下ろした。


すると、扉が開き、執事が顔を覗かせる。




「マーベル様、商人の【ランドルフ】殿が、見えておりますが、

 如何なさいますか?」



「構わん、通してくれ」



「畏まりました」



執事は、一礼した後、部屋を出て、ランドルフを呼びに戻った。


暫くして、現れたランドルフは、いつもの様に笑みを浮かべている。




「御無沙汰致しております、マーべル様」




「今日は、何の用だ?」




「はい、貴方様が、お父上、ドロール様の事で、悩んでおられるようでしたので、

 お力になれればと思い、参上した次第で御座います」



ランドルフは、笑みを絶やさない。



「何を考えている?」



「はい、実は・・・・・・」



ランドルフは、七西連合で起きた事を話す。


そして、自身の親戚にあたる前ムツ地区代表が、京太に倒された事も話した。




「それで、貴様は仇でも取るつもりなのか?


 もしそうだとしても、相手は手ごわいぞ」




「十分に存じております。


 ですので、我々が手を出せば・・・・・・」




「負けるだろうな」




「はい、私もそのように思います」




「では、どうするというのだ!」




ランドルフは、不敵な笑みを崩さない。




「亜人連邦の北に、『火の山』と呼ばれる竜の住処が御座います」



マーベル カフカは、ランドルフの考えに気が付く。



「もしかして・・・・・・」



「はい、我々では、敵わぬのなら、敵う者に戦ってもらうだけです」




「竜を扱えるのか?」



「それは、流石に、難しいと思いますが、

 この時期、竜は産卵を終え、卵を抱えている筈です。


 その卵を奪い、奴の街に置いて来たら、どうなるのでしょう?


 これは、私の予想ですが、

 竜は彼らの仕業と思い、街を破壊し、人族を襲うでしょうね」



「確かにその通りだが、どうやって竜から、卵を奪う?」



「それは、ご安心を。


 私が雇った裏仕事を生業としている者達を使いますので」



「それで、私は、何をしたら良いのだ?」



「ええ、少々、資金を提供して頂けると・・・・・」




マーベル カフカは、仇を討つ事など不可能だと思っていた。


しかし、『相手が竜なら・・・・・』というの言葉に、

可能性を感じ、資金を提供する事にした。




それから、3ヵ月後、見世物小屋の商隊が、シャトの街を訪れていた。


見世物小屋をしながら旅をしている一行は、京太の屋敷に顔を出し、

広場での営業許可を求めた。


この世界に、娯楽というものは、少ない。


その為、何処の街でも、このような一団は、歓迎される。


それは、シャトの街でも同じ。


無事に、広場での営業許可を得る事が出来た。



この見世物小屋とは、現代でいう動物園に近く、

檻の中の魔獣や魔物を見せる事で

見物人から、お金を取っている。


その中には、簡単な芸を披露する魔物もいるのだが

それとてサーカスには、及ばない。



その様なものでも、この世界においては、

人気のある娯楽であることは間違いはない。



翌日より始まった、見世物小屋の営業には、

早朝から、大勢の人々が押しかけ、盛況を博していた。



だが、この見世物小屋は、ランドルフの作戦の為の道具なのだ。


その事に、京太達は、気が付いていない。



この商隊の中には、『竜の卵』が隠してあり、

このシャトの街に、竜を呼び込もうとしているのだ。



初日の営業が終った後、

彼らは、一通りの挨拶を終えると、『買い物に出かける』と言い残し、

全てを置いたまま、シャトの街から消えた。


この事は、翌日になり、営業が行われる気配が無い事を不審に思った人々が、

警備隊長のナイトハルトに伝えて、初めて発覚したのだ。



『竜の卵をシャトの街に置いてくる』という、

ランドルフとマーベル カフカの作戦は成功した。



その事に、気が付いていないナイトハルトが

テントの中を調査している時、

外で、待機をしていた警備兵が、焦りながら飛び込んで来る。



「隊長、大変です。


 空から、魔物の集団らしきものが、この街に向かっております」


テントから飛び出すナイトハルト。


その目に映る、魔物の大群。



それは、徐々に近づきつつある。


「隊長・・・・・」


「至急連絡、人々は、家の中に篭り、

 決して外に出ないように伝えよ!」


「はっ!」


警備兵達は、ナイトハルトの指示に従い、

一斉に、街の中へと散らばって行った。


その間にも、魔物達は、シャトの街に接近している。


──この者達の相手を、私1人で、対応するなど無理だ・・・

  ならば、京太殿に、一刻も早く、伝えねば・・・・



ナイトハルトは、京太の屋敷に、向かおうとしたのだが・・・・・

突如、話しかけれる。


「ナイトハルトお兄ちゃん、あれ、何?」


いつの間にか、この場にいたクオンとエクス。


「2人とも、どうしてここに?」


「うん、見世物小屋に来たんだけど、

 なんか、やっていないみたいだね?」


いつもと変わらぬ態度に、ナイトハルトは、落ち着きを取り戻す。


「ああ、どういうことか分からぬが、この小屋には、誰も、いないのだ。


 それに、あれを見てくれ」


指を差した方を見るクオンとエクス。


「あれって、もしかして魔物?」


「そうだ。


 どうやら、この街に向かっているようなのだが・・・」


それを聞き、満面の笑みを浮かべる2人。


「あれは、私たちが倒しますので、ナイトハルトお兄ちゃんは、

 京太お兄ちゃんに、知らせてください」


それだけ言い残し、2人は、魔物に向かって駆け出した。



その後、京太の屋敷に到着したナイトハルトは、

全てを、報告をする。


話を聞き、京太が、窓からのぞくと、確かに魔物の大群が迫っていた。


「空からか・・・・・」


少し面倒だなと、思っていると、

一緒に話を聞いていた仲間の中から、

ラゴ、アイシャ、フーカ、セリカが手を上げる。


「空中戦なら、わらわがでよう」


「うむ」


「京太、任せて!」


「後衛は、お任せください」


4人は、すぐさま屋敷から飛び出し、魔物の群れへと飛んで行く。


4人を見送った後、京太は考える。


──何故、この街を狙っているんだ・・・・・

  それに、見世物小屋の人達の、行方が分からないなんて・・・・・

  一度、見世物小屋に、行ってみよう・・・・



そう決めた京太は、残った仲間達と共に

見世物小屋へと向かう。




専行して、魔物の群れに向かったクオンとエクス。


その上空には、魔物の群れ。



「あれって、ワイバーンだよね。


 近づいたら、襲って来ると思ったけど・・・・・」


ワイバーン達は、クオンとエクスに目もくれない。


「無視してます・・・」


エクスは、転がっている石を手に取り

ワイバーンに向けて投げてみる。


石は、見事にワイバーンに直撃したのだが、

傷を負う程の威力は無かった。


だが、直撃したワイバーンは、怒りを露にし、方向を変えて

クオン達に、襲い掛かる。


嚙み殺そうと、大口を開けるワイバーン。


剣を構え、返り討ちにしようと武器を構えた時、

何処からともなく聞こえてきた咆哮により、

ワイバーンは、攻撃を止め、隊列へと戻って行った。


相手にされなかったことに苛立つ。


「トカゲのくせに、生意気です・・・・・」


エクスの見つめる方向には、ワイバーンより、二回りほど大きな魔物の姿があった。



「あれは、何ですか?」


「竜です。


 この地上で、一番強いと、うそぶいているトカゲです」


悪意たっぷりに、答えるエクス。


その返事を聞きながら、クオンは、竜を眺めている。


「ねぇ、エクス、あの竜がシャトの街に向かっているんだよね」


「はい、そうです」


「街が、危険だから、ここまで来たんだよね」


「はい、悔しいです」


「このままで、終わりたくないわよね」


「勿論です」


「なら、あいつらを落とそう」


「はい!」



クオンには、何か策があるようで、2人は、街に向けて駆け出す。



だが、2人よりもワイバーンの群れの方が速い。



クオンとエクスを置き去りにして、どんどん街に近づいてゆく。


空を黒く染めながら、どんどん近づくワイバーンの群れ。



このまま街に、到着するかと思われたが、

街より少しな離れた所に待機していた

4つの影が、動き出す。



「わらわ達の出番じゃな・・・」


「うん・・・・それにしても、多いね・・・・・」


「なぁに、トカゲなど、何匹いても結果は、変わらぬ。


 そろそろ、来るぞ」


アイシャの言葉通り、先頭のワイバーン達が、突撃を敢行する。


「おい、ヴァンパイア、早く、眷属でも呼ばぬか?」


「五月蠅いわ!

 

 貴様は、わらわの眷属に頼らぬと、

 この程度の輩を、追い払う事も出来ぬのか?」


「ぐぬぬぬ・・・・・」


喧嘩を始めるアイシャとラゴだったが

それを、珍しく、フーカが注意をする。



「ねぇー、今は、そんな場合では、無いでしょ。


 もし、ここを突破されたら、2人の責任だって、京太に言いつけるよ」



2人は、顔を見合わせた。


「「すまぬ・・・・・」」


2人が謝罪を述べていると、セリカの声が聞こえてきた。



「来ます!」


その言葉で、正面に向き直った3人は、全力で、攻撃を始める。



「急旋回の出来ぬトカゲ共、自ら死地に、赴くがよい。


 ファイヤーウォール」


ワイバーンの鼻先に現れた炎の壁。


止まることの出来ないワイバーン達は、自ら炎の中に飛び込み、灰と化した。



「どうじゃ、眷属など呼ばぬとも、トカゲ共など、獲るに足らぬわ」


腰に手を当て、大笑いするアイシャ。



それを見ていたラゴが続く。



「ならば、わらわも見せようぞ」



ラゴは、そう言い放つと、黒いオーラを纏わせた両腕を前に出した後、

横に広げた。


すると、魔力を纏った無数の槍が現れる。


「全てを打ち抜き、この地より、かの者達を消滅させよ。


 ドラゴンランス」


ラゴから放たれた槍は、ワイバーン達を貫通し、前後関係なく、地に落とす。


「フフフ・・・どうじゃ、わらわの方が多いぞ」


自信満々で告げるラゴ。



雷を纏わせた矢を射りながら、溜息を吐くフーカ。


「2人共、本当に、京太に言うよ?」


「「・・・・・ごめんなさい」」


再び、フーカに、怒られてからは、

ワイバーンの殲滅に、本腰を入れ、次々にワイバーンを倒してゆく。


だが、想像以上に、数が多い。


地面が、黒く染まるほど、ワイバーンを倒しているが

それでも空は、黒いままだ。


「このままだと、きりがないのぅ・・・・・」


「確かに、そうだが、貴様に何か策でもあるのか?」


「ああ、あれを見よ」


ラゴの示した先には、ドラゴンの姿が見えた。


「あ奴が、命令をしておると思うのだが、お主は、どう見る?」


「間違いないと思うが

 あそこまで、どうやって行く?」


「やはり、こ奴らを倒さねばなるまい」


覚悟を決めた瞬間、背後から、槍が飛んできた。


振り返るラゴ。


そこには、シャトの街の壁の上に立つ、クオンとエクスの姿があった。


「行きます!」


「お姉ちゃんに続きます」


シャトの街とワイバーン達の距離が近づいた為に、

出来る攻撃方法。


完全な力業。


壁の上から、槍を投げて攻撃する。



普通の者達には不可能だが、この2人なら、出来るのだ。


迷いなく、槍を投げるクオンとエクス。


ビュッ!という音と共に、放たれた槍は、見事にワイバーンに突き刺さる。


「今回は、無視なんて、絶対させないから!」


そう言いながら、次々に槍を投げるクオンとエクス。


それでも、数が減った気はしない。


硬直状態が続く中、再び、竜が叫ぶ。


すると、ワイバーン達の行動に変化が起きた。



今までは、上空から襲い、喰い殺すという感じだったが、

新たな攻撃は、特攻。


ワイバーンの群れが、地上に降り注ぐ。


形振り構わない攻撃に、とうとうシャトの街への侵入を許してしまう。


待ち構えていたナイトハルトが、大声で叫ぶ。


「これ以上の侵入を許すな!


 陣形を崩さず、確実に仕留めよ!」



指示に従い、ワイバーンとの戦闘を繰り広げる兵士達。


当然、京太の仲間達も参戦し、ワイバーン討伐に尽力している。



そんな中、アイシャ、ラゴ、フーカ、セリカのもとに、京太が現れる。



「結構、まずい状況だね」



「うむ、確かにその通りなのだが、

 指示を出しているあのトカゲさえ倒せば、

 なんとかなりそうなのだ・・・」


ラゴの示した最後尾辺りには、確かに竜がいた。


だが、その周りには、多くのワイバーン。



──あの竜を、早く倒さないと・・・・・



何でもない事のように言い放つ京太。


「あれ、倒してくるよ」


驚きながらも、問い返すラゴ。


「だが主様、このワイバーン《トカゲ》共は、どうするのじゃ?」


「全滅は、時間が掛かりすぎるから、

 ある程度の数を、倒しながら進むよ」



「わかった。


 ならばわらわが、露払いとして同行しよう」


その言葉を聞き、アイシャ、フーカ、セリカも、同行を申し出た。


「わかった。


 でも、無理はしないようにね」


「うむ」


「了解した」


「はーい!」


「はい」


シャトの街付近のワイバーン達は、他の仲間達に任せ

事態の解決の為、5人は、ワイバーンの群れの中に、突撃を開始する。



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