第175話帰還 京太達の変化

エヴィータ王妃の取り出した地図は、シャトの街の拡大計画図だった。




「これって・・・・・」




「そうよ、この街を拡げるのよ。


 それで、屋敷も、新たに建てようと思っているのよ。


 どうかしら?」




――どうかしらって言われても・・・・・




「もう計画は、進んでいるんですよね」




「少しはね、ですが、それでは足りないのよ」




――確かに、街の人口が増えすぎたからなぁ・・・・・・




京太は、詳しい内容を聞き、了承する事にした。


その理由は、ナイトハルト。


ナイトハルトは、警備隊員の数が500人を超えているにも拘らず、近隣の家を借りて兵舎の代わりにしていたのだ。


しかも、自費で・・・・・




その事を知った京太は、直ぐに街を拡げる事に賛成したのだ。



お土産を渡す用事もあったので、その日の夜、ナイトハルト宅を訪れる。



「京太殿、帰って来れたのだな」




「はい、色々とご迷惑をお掛けしました」




「あははは、そんな事はないさ。


 私は、今がとても楽しく、充実しているんだ」




ナイトハルトの顔を見た時、

今なら、国王になれると思えるほど凛々しいものだった。


そう思った京太は、ナイトハルトに聞く。




「次期国王の座には、未練は無いのですか?」




京太の質問に、キョトンとした顔をする。




「京太殿も人が悪い。


 もし、私にその気があったら、今を楽しいとは思えない。


 それは、フィオナも同じだ。


 私達は、今の生活が本気で気に入っているんだ」




「くだらない事を聞いてすみません」




「いや、いいさ、気にしないでくれ」






この後、京太は、シャトの街拡大計画の話をし、

今の屋敷をナイトハルトに使って欲しい事を伝えた。


同時に、兵舎の増築を約束する。




「それは、有難いが、いいのか?」



「はい、使用人も必要なら、王都から雇って頂いても構いません」



「いや、それには及ばない。


 フィオナが、王都で面倒を見ているホームレスの子供達がいるんだ。


 前々から、仕事を与えたいと言っていたから、その子達を雇う事にするよ」




ナイトハルトの言葉に、隣にいるフィオナが笑顔で頷いている。




京太は、後日、詳しい説明をする事を約束して、ナイトハルトと別れた。




翌日、京太は、アルゴ商会に顔をだしたり、街を拡げる場所の視察へ出向く。



今回の作業は、出来るだけ短期間で終わらせる為に、王都からも人を雇ったり、

仕事の無い冒険者も採用した。




街の拡大が急ピッチで進められる中、

やはり、一番苦労したのが、ナイトハルトだった。


通常の警備の他、拡大箇所の周辺警備、周辺の魔物討伐と

朝から晩まで働き詰めの毎日。


やはり、人員不足は否めない。


その為、新たに警備兵の募集をかける事にしたのだが、

シャトの街の警備兵の仕事は厳しいが、

給料が良く、食事が美味い事で有名なので、

150名の募集に対して、500名の応募があった。




その為、ナイトハルトは、京太に相談を持ち掛ける。




「京太殿、申し訳無いが、駐屯所を増やす事は、出来ないだろうか?」




「話は聞いていますよ。


 それで、何人を雇うつもりですか?」



「150名だったところを200名にしようと思っている」



「わかりました」



京太は、テーブルに地図を広げる。




「ここが、本部で・・・・・・」




2人が相談をしていると、エヴィータ王妃が姿を見せる。




――今日は、1人なんだ・・・・・・



京太の考えを見透かしたように答える。



「今は、王宮に行っているの。


 あの人に、会いに行ったのよ」



「会いにって、毎日会っているじゃないですか」



「仕事をしている所を見せたいのよ」



「誰が?」



「1人しかいないでしょ」



京太は、ナイトハルトの顔を見た。



「私に振らないでくれ・・・・・・」



気持ちを察した京太は、頭を切り替え、先程の続きの話をする。



「それで、駐屯所の件でしたね・・・・・」



すると、エヴィータ王妃が割り込み、次々と場所を決めて行く。



「これで、どうかしら?」



「母上、問題ありません」



ナイトハルトの言葉に、京太も頷く。



「では、その様に指示を」



「はっ!」



ナイトハルトは、京太の屋敷を出て、現場へと戻って行った。




拡張工事は順調に進み、1年後には、ほぼ完成した。


京太達も新しい屋敷へと引っ越しを終えており、

同時に、街の名前についても、この際、変えた方が良いかもとの提案もあり

考慮する事となった。




それから、エルフの里から来ている3人娘、ルロ、レイラ、ヤンは、

正式にナイトハルトの下に就き、それぞれが『隊長』に任命された。




隊長に任命された3人娘は、エルフの里から、

この街に来たがっている者達がいるので

使って欲しいと、ナイトハルトに頼む。


流石に、エルフの里が関係しているので

ナイトハルトは、即答を避け、京太に相談する。



ナイトハルトから話を聞いた京太は、

アルの街のギルドマスター、クラウスに連絡を取り

その旨を書いた書状を送って貰う事にした。





まだ、細々とした仕事は残っているが、

ほぼ、街が完成して来たところで、京太は呼び出される。


呼び出した相手は、京太の嫁―ズ。


その為、ゲルマとメルロは、いない。


しかし、アイシャ ツヴェスは参加している。




「京太、実はね、気になる事があるの」



不安そうな顔のソニア。



「どうしたの?」



「私達、知り合ってから、もうすぐ7年経つのだけど・・・・・」




「そうだね、案外早かったね」




「そうなんだけど、何か気付かない?」




「クオンは、少し成長したかな?」




「私達は?」




京太は、仲間達を見回す。




――エルフは判り難いし、ラゴやエクスは剣。


  フーカは変わらない。


  ハクも判り難いな・・・・・




京太は、人族の仲間を見る。


ほぼ、最初から行動を共にしていた

ソニア、セリカ、サリーの3人は、出会った時のままの様に感じた。




京太が、その事を話すと、『やっぱり』と皆が口にした。




「どういう事?」




代表して、ソニアが話を続ける。




「京太、最近、鏡見た?」



「えっ!何かおかしい?」



「ううん、そうじゃなくて、自分の容姿に違和感ないの?」




ソニアの言いたい事が、何となくわかった。




「もしかして、僕は、出会った時のままなの?」




「うん、身長も伸びていないし、年を取った感じが無いの」




「えっ!?」




「それで、私達も話し合ったんだけど、クオン以外は、成長していないみたいなの。


 勿論、力とか、魔法などの能力は別、

 仲間と認知された時も凄かったけど、

 貴方と関係を持ってからの方が、もっと凄いのよ。


 でも、外見の成長は、止まったみたいんだけど・・・」



――あ、これ、僕のせいだ・・・・・・


彼女たちに、何かしらの変化が生じていることに、気付く。


いつまでも、嘘を吐き通せない。



「明日まで、待ってくれないかな?」



「わかった」



京太達は、一度解散した。




その日の夜、京太の部屋には、エクスとラゴの姿があった。



「主、どうしますか?」



「体に影響が出ているんだ。


 今更だけど、きちんと話すよ」



「まぁ、わらわには、どうでもいい事だが、

 主様が気にするのなら、それで良いと思うぞ」



ラゴが、京太に抱き着く。


それに、倣ったようにエクスが、反対側から抱き着くと、

背後にあった布団が、急に膨らみ、モソモソと動き出した。



そして、布団から出て来た手は、空いていた京太の背後から、首に抱き着く。


そして、見えてきたのは、銀色の髪。




「「「アイシャ!」」」




ヒョッコリ、顔を出したアイシャ ツヴェスは、

先程の話も聞いていたようだ。



「なんじゃ、神の事で悩んでおったのか」



そう言って、アイシャ ツヴェスは、京太の首に噛みついた。



『カプッ』



幸せそうに血を吸うアイシャ ツヴェスに聞く。



「アイシャは、知っていたの?」



アイシャ ツヴェスは、一旦、吸血行動を止め、顔を上げる。




「知っていたと言うよりも、匂いじゃ。


 ヴァンパイアは、匂いに敏感なのじゃよ。


 それに、わらわは、アペプ様に会った事がある。


 その時の匂いが、京太からしておったので、わかったのじゃ」




「それなら、神の使いの可能性も・・・・・」




「それは無い。


 神の匂いは、わらわ達にとって特別なものじゃ。


 血が纏う神気の匂いは、神しかせぬ」




アイシャ ツヴェスは断言する。




「そうなんだ。


 ところで、明日は、アイシャも話を聞くよね」




「当然じゃ」




そう返答した後、アイシャ ツヴェスは、再び京太の首筋に噛みついた。




カプッ


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