第171話黒の大陸 悪魔

ウルド ツールは、王都を眺めることの出来る高台に現れる。


「フフフ・・・・・ここで、高みの見物でもさせて頂きましょう。


 私には、まだまだ、多くの贄が必要なのです。

 ですが、あの街なら、十分に集まるでしょう。


 その為には・・・・・・」



ウルド ツールは、呪文を唱え始めたが、

そこに、何者かが割り込み、剣を投げつけた。


その攻撃を躱したウルド ツールだが、

同時に呪文を唱える事を止めてしまう。



「なにをする!!」


剣の飛んできた方向に、顔を向けるウルド ツールだったが

その者の姿を見て、息を飲んだ。



「ここで、何を呼ぼうとしているのだ?」



ウルド ツールの前に現れたのは、アイシャ ツヴェス。



「貴様に、聞きたいことがあって、追いかけて来たのじゃ。


 確かに、姿かたち、魔法、全てウルド ツールじゃが・・・

 貴様の匂いには、何かが混じっているように思えての。


 貴様は、本当に、ウルド ツールか?」


 

アイシャ ツヴェスの問いに、

ウルド ツールは、冷静さを装うが、額からの汗は、隠せなかった。



「ウルドよ、顔色が悪いようじゃのぅ・・・・・」



「何を言っているのか分かり兼ねますが、

 私は、正真正銘、ウルド ツールですよ。


 その証拠を、ご覧頂きましょう」




ウルドは、再び、足元に魔法陣を展開し、召喚魔法を使う。



魔法陣が妖しく光り、顔を布で隠した人型の何かが、姿を見せる。




「1体1では、敵いませんので、応援を呼ばせて頂きました」




顔を布で隠し、ローブを羽織った者は、ウルド ツールの横に並ぶ。




「顔を見せても構いません。


 ご挨拶をして下さい」




ゆっくりとローブを脱ぎ捨て、顔を隠していた布を取る。



「貴様は!・・・・・・」



「ウヴゥゥゥゥ・・・・・」



「忘れていました。


 彼女は、口が聞けません。


 なので、この私が、代わりに答えましょう。


 彼女の名は・・・・・・・」



名前を口にしかけた時、レオン チャニングが到着し

ウルド ツールの横にいる者の姿を見て叫ぶ。



「ケリー!」



ケリーと呼ばれた女性に反応は無い。



「そうです、この娘の名は、ケリー ダース。


 私の部下にして、最高傑作です!」



「貴様、これは、どういうことだ?」



「どういう事・・・・・といわれましても・・・・

 あっ、もしかして、本当に復活出来ないほど、

 魔物に喰われたとおもっていたのですか?


 残念ですが、それではあまりにも、勿体ないではありませんか。


 彼女は、腐ってもヴァンパイア三貴族の1人、

 魔力も力も、別次元の存在。


 なので、この様に使わせて頂きます」




ウルド ツールは、懐から『黒い水晶』を取り出すと、

アンデットと化したケリー ダースの胸に押し込んだ。




「ウグググググゥゥゥ・・・・・・グガァァァァ!!!」




苦しみ、地面に倒れ、藻掻いていたケリー ダースだったが、

暫くすると、音も立てずに立ち上がった。



ケリーダース?は、辺りを見渡す。



「・・・・・ここは、どこだ?」



言葉を発したことに、喜びを表すウルド ツール。



「成功です。


 やはりあの書物に書かれていたことは正しかった。


 これで、私は、報われます。


 さぁ、あの者達を始末しなさい!」




アイシャ ツヴェスに指を差し、ケリー ダース?に命令を下すが、

動く素振りも見せない。




「何をしているのです。


 早く、あの者達を始末しなさい!」




ウルド ツールは、ケリー ダース?を睨みつける。


しかし、ケリーダースは、歯牙にもかけてもおらず

ウルド ツールに、問いかけた。



「・・・・・おまえが、復活させたのか?」



「え!?」



「ここは、何処だ!?」



「貴様、主人に向かって・・・・・」



その瞬間、『ヒュッ』という音と同時に、

ウルド ツールの両足が地面に転がった。


『ドカッ』という音と共に、倒れ込んだウルド ツールは、

やはり、痛みを感じておらず、ただ、驚いている。



「どういう事ですか・・・」


「・・・」


「どういう事なのかと、聞いているのです!!!」


その場に、響き渡るウルド ツールの声。


それが、気に障ったのか、ケリーダース?は、

両足の無いウルド ツールを持ち上げた。



「傀儡のくせに、五月蠅い、男だな」



ケリー ダース?は、つまらなそうに周囲を見渡した後、

ウルド ツールの体に手を突き刺し、何かを取り出す。


すると、切り口から、血が溢れ出し、

痛みを感じていなかったウルド ツールが、悲鳴を上げた。


「がぁぁぁぁぁ!!!」



「本当に、五月蠅い奴だ」


そう言い放つと、頭と残っていた腕を斬り落とした上で、空へと放り投げる。



何かを取り出され、空へと放り投げられたウルド ツールは、

ヴァンパイア特有の能力で、思念が心臓に移され、

今までの出来事を、ある程度、思い出していた。




──どうやら、私は、操られていたのですね・・・・

  残念な事です・・・・

  気付くのが遅すぎました・・・・




放り投げられた体は、タイミングよく現れた怪鳥に銜えられ

何処かへ運ばれて行く。



「まぁ、あれの餌くらいにはなるだろう」



そう呟き、ウルド ツールから取り出した物を、飲み込み

アイシャ ツヴェスへと視線を向けた。


その時、ケリー ダース?の視界に、

到着したばかりの京太達が映ると、

背筋に、悪寒が走る。



「なんだ、この感覚は!」


 

後退りをしながらも、京太から目が離せない。



京太も、ケリーダース?を見て、嫌な感覚と

神々の記憶が蘇る。



一歩進む度に、アトゥム達から受け継いだ記憶が鮮明に思い出させる。


その記憶が、目の前のケリーダース?を悪魔だと警告する。



 自然と、怒気を孕んだオーラを、浮かび上がらせる京太。




「貴様が、何故ここにいる。


 全滅させた筈なのに、どうしてここで、生きているのだ!」




京太の体は、自然と魔力に包まれる。



「答えろ!」



「貴様如きに、話すと思うのか!」



「ならば、力を使ってでも、答えてもらうだけだ」



「貴様のようなガキの攻撃、この俺様に効く筈がない」



「わかった」



京太が、前に出ようとするが、

それを、アイシャ ツヴェスが止める。



「貴様は、先程の人族だったな」



「そうだ」



「しかし、こ奴の恐れ方が、尋常では無いのだが」



「そうか、それよりも、何かを僕に伝えに来たのでは、ないのか?」




「そうであった。


  その者は、ケリー ダースと言い、我が同朋であった。


  しかし、ウルドの奴に殺され、アンデットにされていた様なのだが、

  黒い水晶を体に埋め込まれてから、なにやらおかしくなったのだ」




――黒い水晶・・・・・あれが、今度は悪魔を復活させたんだな・・・・・




「わかかりました、情報、感謝致します。


 ですが、この先は僕の仕事ですので、下がってください」




京太は、そう促したが、アイシャ ツヴェスは、引き下がらない。




「貴様は、始祖であるわらわに命令をするのか!」




逃げられると、後々面倒な事になると分かっている京太は、

つい、言葉が荒くなってしまう。




「始祖が何だと言うのだ!


 貴様等の失態が、今の現状を生み出した事が、わからぬのか!


 部下の管理も出来ず、偉そうに言うな!」




「な、なんだと・・・・・」




怒りに震え、京太に敵意を向けようとした瞬間、

何故か脳裏に死が過る。




――えっ!?・・・・・・




アイシャ ツヴェスにとって、初めての経験だった。




――ヴァンパイアである、この私が、死を・・・・・・




その時、風が吹き、京太の匂いが鼻腔をくすぐる。


その匂いは、遠い記憶に残っていた匂いに似ていた。




数千年前、アイシャ ツヴェスは、神に会った事がある。


その神の名はアペプ、【闇と混沌の神、アぺプ】。




まだ、幼かったアイシャ ツヴェスは、その時は、神だと知らず

優しいおじさんだと思っていた。




数日間、一緒に遊んだ後、こんな事を言われる。




『好きなように生きなさい。


 たとえ、日の光でも、貴方を止める事は出来ません』




この時、アペプにより、アイシャ ツヴェスの体は変化させられ

ヴァンパイアでも日の下を歩ける存在、デイウォーカーになったのだ。




その時の匂いは、未だに覚えている。


だからなのか、懐かしさから、涙を流し、静かに口を開いた。




「アペプおじさん・・・・・」




その言葉に、京太の中にあるアペプの記憶から、

1人のヴァンパイアの少女を思い出される。



「ツーヴェ・・・・・」



名前ではなく、敢えて名字を崩した呼び名で呼ばれていた。


そんなアイシャ ツヴェスを知る者は、他にいない。




「おじさまなの・・・・・・」




――しまったぁ、思わず口走ってしまったけど・・・・・・




京太は、焦りを誤魔化し、話題を変える。




「今は、目の前の事に集中しましょう」




「はい!」




幼い少女の様な瞳で、アイシャ ツヴェスは、京太を見つめていた。




――これ、絶対、不味いよな・・・・・・






京太は、諦めて、正面の悪魔と向き合う。




「貴方は、ここにいていい存在ではありません。


 消えて下さい」




「戯言を言う前に、かかって来い」




悪魔は、魔力で複数の分身を作りだす。



「へへへ・・・・・来ないのなら、こちらから行くぞ」


そう言い放った悪魔だが、その瞬間に、

矢、雷、炎、氷、無数の魔法が、分身も巻き込み、悪魔に襲い掛かった。




「ギャァァァァァ!!」



悪魔の叫びが、響き渡る。


分身は消え、その場に残っているのは、本体の悪魔のみ。


ゆっくりと近づく京太。


ゆっくりと立ち上がる悪魔。


「貴様、このままで済むと思うなよ!」


そう言い放った悪魔だったが、周りからの一斉攻撃を受け

再び、地面に倒れ込む。



「僕は、1人で戦っている訳では、ないよ」



「ぬぐぐぐ・・・」


──何故、この私が、何度も、無様な姿をさらさなければならないのだ・・・


  本来の力さえ、戻っていれば・・・


  どれも、これも、あの木偶が、贄を用意してから

  私を、呼び出さなかったからだ・・・


  だが、今更、そんな事を、言っても仕方がない・・・


  このままでは、私が滅んでしまう・・・


  仕方ない、ここは、闇の中に戻り、復活の時を、再び待つとしよう・・・・


  その為には・・・



覚悟を決めた悪魔は、京太から距離を取り、魔法を放つ。


「炎よ!」


放たれた魔法は、地面に衝突し、煙を巻き上げる。


──今だ!!


視界を塞いだタイミングで、悪魔は、背を向けて飛び立つ。



「次は、負けぬ!」



そう言い放った時、再び背後に、悪寒が走る。



「逃げても、無駄だ!」


背後に、迫っていた京太が、悪魔を真っ二つにした。



落ちて行く悪魔。


地面と衝突したが、動く気配もしない。


完全に息の根が止まっていた。


だが、悪魔の死体を、放置など、出来る筈かない。


京太は、浄化の光を使い、

悪魔を完全に消滅させた。


戦いは終ったのだ。




ウルド ツールは、何処かで手に入れた書物により、

思考をコントロールされ、悪魔に利用され破滅した。


最後に、自我を取り戻したようだが、

今は、何処にいるかもわからない。


今、此処に残っている者は、京太達と、ヴァンパイア達。




レオン チャニングは、悪魔が消滅した所に手を置いて、涙を流している。


勿論、その後ろには、ヴァンパイア ブライドの3人もいる。




「ケリー、すまない。


 助けてやれなかった・・・・・そっちで静かに暮らせよ」




挨拶を終えると、立ち上がり、京太のもとへ。




「色々、助けて貰ったな、我に出来る事があったら言ってくれ」



感慨に耽ながら、京太に伝えたレオン チャニングだが、

直ぐに、後悔することとなった。



その原因は、空気を読まない京太。



「良かったぁ、では、一緒に行きましょう」



「へ?」



「レオンさん、今、『出来る事があったら言ってくれ』って言いましたよね」




「あ、ああ・・・・・」




「貴族に二言なんて・・・・・」




「ある訳無いだろ!」




「それは、良かった」




――こいつ、何を企んでいるんだ・・・・・・




京太は、この場にテントを立て、その中で会議を始めた。


出席者は、京太と、その仲間達、アイシャ ツヴェスと従者のウェアウルフの4人。


後は、レオン チャニングとヴァンパイア ブライドの3人。




では、会議を始めます。


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