第170話黒の大陸 ウルド ツールの襲撃

ウルド ツールは、命令を下す。




「我が下僕たちよ、この場の人族を、根絶やしにするのです!」




「さぁ、貴方達、戦闘開始よ、ここで負ければ王都も危険なのよ!」




ゲルマも激を飛ばす。






戦闘が始まったが、グール相手では、やはり不利な事は否めない。


グールは、剣で斬られても動き、兵士に噛みつく。


その為、兵士達は、慎重になりすぎ、動きが鈍い。


そして、徐々に恐怖に包まれてゆく。




「ヒィィィィィ!」




また1人、そしてまた1人と倒される度に恐怖が、その場を支配し始めた。




「だ、駄目だ・・・・・勝てっこねぇ・・・・・」




武器を捨て、逃げ出そうとする兵士達。


しかし、回り込まれ、逃げ場を失う。




「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」




また1人、グールに囲まれ、生きたまま噛みつかれる。




「クックックッ・・・・・ようやく私の願いが・・・・・・」




ウルド ツールは、恍惚とした表情を浮かべながら、

兵士達が蹂躙される様を見ている。


だが、恍惚とした時間は、直ぐに失われる。


ウルド ツールは眉間に皺を寄せて、不機嫌に呟く。




「貴方は、最後だと言った筈ですよ、京太さん!」



「『待つ』なんて約束していないよ」



「クッ、やはり、言う事を聞いて頂けませんか・・・ならば!」




ウルド ツールが両手を広げ、何かを呟くと、

グール達の後方に大きな魔法陣が現れる。




「我が祈りを以って、新たなる混沌へと導きたまえ。


 いでよ、わが下僕達よ!」



ウルド ツールの言葉に従い

黒い光りを放つ魔法陣から、

アンデットと、武装したスケルトンが続々と出現した。




「もう、無理だ・・・・・」




「・・・・・俺達、ここまでだな」




意気消沈する兵士達。




「あんた達・・・・・」




ゲルマもかける言葉を失う。




そんなゲルマに京太が近づく。




「ゲルマ、兵士を連れて王都に戻れ、

 あれが相手だと、餌になるだけだ、急いで撤退させろ!」



「わかったわ、でも・・・・・」



 「大丈夫。


 ここは、僕達が食い止める。


 此処で死者を増やせば、あいつの思惑通りになる。


 急ぐんだ!」



京太に背中を押されたゲルマは、急いで命令を下す。



「みんな、撤退するわよ!」



その声に反応し、兵士達は、ゲルドのもとへと向かうが

そう易々と、ウルド ツールが逃がす筈がない。



グール達が、兵士達を追いかける。




「逃がしては、なりません!」



ウルド ツールの言葉に、反応したマジックスケルトンが、

言葉とは思えないような叫び声で、呪文を唱え、

逃げ道を塞ぐように、アースウォールを発生させた。




突如、現れた壁で道を塞がれ、グール達との距離が詰まる。


しかし、京太の仲間達が、そのあいだに立つ。




「早く、逃げなさい!」




「あっ・・・・・はい」




兵士達は、アース ウォールの壁から、逃れるように走り出す。



「無駄な、努力を・・・・・」



ウルド ツールが、そう呟いた時、

地が揺れるかと思う程の轟音と同時に、壁が崩れる。



ウルド ツールの顔が歪む。




「また・・・・・貴方ですか・・・・・」




ウルド ツールは、京太を睨み付ける。




「早く、ここから逃げて下さい!」




「あ、ああ、助かる」




兵士達は、破壊された場所から、次々に逃げ始めた。




ウルド ツールは、苦虫を噛みつぶしたような表情で見ている。


当然、良い雰囲気ではない。


苛立ちが、抑えきれなくなったウルド ツールが叫ぶように、声を上げた。




「そうですか、そうですか、ああ、そうゆう事をするのですね。


 仕方ありませんね、予定変更です。


 下僕達よ、あの小娘どもを、始末しなさい!」




京太の仲間に向けて、500体以上のグール達の群れが、一気に襲い掛かる。



しかし・・・・


『ドゴォォォォォン!!!』



またしても、轟音が響き渡り、先頭に立っていたグール達が、圧し潰される。




「今度は、なんですか!」



ウルド ツールが、睨みつけていると

砂埃が舞う中から、少年が姿を現す。



その姿を見て、誰の仕業なのかが理解出来た。



「レオン チャニング・・・・・どうして、貴方が・・・・・」



「久しいな、ウルド殿、いや、悪魔信仰の司祭、ウルド ツール」



「・・・・・貴方も、私の邪魔をするのですか・・・・・」



ウルド ツールを、睨みつけていると

レオン チャニングとは別の者の声が響く。



「貴様の戯言と思い、見過ごしていたのじゃが

 まさか、本気だったとはな・・・」


 

レオン チャニングは、声の方に向かって跪き、

こうべを垂れた状態で待機する。



そこに現れたのは、銀髪で色白の少女。



その姿を見て、動揺するウルド ツール。



「【アイシャ】様が何故・・・・・」



アイシャと呼ばれた少女は、ウルド ツールに視線を向け、問いかける。



「ウルドよ、わらわを覚えているのなら、ボケては、おらぬようだな。

 ならば、この度の事、どういう事か、説明してみせよ!」




「・・・・・・」




「言いたくないのか・・・それとも・・・・

 まぁ、どちらでも構わね。


 だが、責任は取って貰うぞ」




アイシャこと、【アイシャ ツヴェス】は、命令する。




「【ナサド】、【ネラ】、【ノーグ】、【ヒム】出番じゃ、行け」



「はっ!」



何処からともなく現れた4人は、アイシャ ツヴェスの命令に従い

グールの群れに飛び込むと、体を変化させる。



人型から変化した彼らは、巨大なウェアウルフとなった。




ウェアウルフと化した彼らの勢いは凄まじく、周囲のグール達を薙ぎ払うと、

その風圧で鎌鼬が発生し、少し離れていたグールまでもを切り裂いた。




「フフフ・・・・・こ奴らの前では、

 腐った者共など、歯牙にもかけぬわ。


 自身の愚かさを、知るがよい」




アイシャ ツヴェスの下僕による蹂躙劇を、

京太達を含め、皆が黙って見ている。


だが、これを是としない者がいた。




「アイシャ様、お願いが御座います」




「レオンよ、どうしたのじゃ?」




「ウルドの討伐は、私にお任せ頂けないでしょうか?」




アイシャ ツヴェスは、レオン チャニングを睨む。




「勝てるのだろうな、わらわの前で、敗北は許されぬぞ」




「はい、心得ております」




「では、好きにするがよい」




「感謝致します」




レオン チャニングが、ウルド ツールに向かって歩き始めると

アイシャ ツヴェスが、京太に話しかける。




「そこの人族よ、よく聞くがよい。

 

 ヴァンパイアの始末は、ヴァンパイアがつける。                                               


 よって、手出しは無用ぞ」



京太は、軽く頷く。



その間に、レオン チャニングは、ウルド ツールの正面に立った。




「レオンか・・・・・」




「ウルドのおっさん、久しいな」




「ああ、私は、貴族連中が嫌いだから、会いたくなかったのだよ」




「奇遇だな、俺もだ。


 覚えているか?


 【ケリー ダース】の事」




ウルド ツールは、考えたそぶりをみせた後、

思い出したとばかりに手を叩いた。




「あーあー、いましたね。


 確か、私達の同朋だった者ですね。


 ですが・・・・・・彼女は、不慮の事故で死んだ筈では?」




「よくも、ぬけぬけと・・・・・」




レオン チャニングは、力強く拳を握る。


だが、ウルド ツールは、笑みを浮かべて、お構いなしに話し続けた。




「失礼、あれは事故というより、自業自得でしたね。


 人族の子供など見捨てれば良かったものを、

 無理して助けようとするから、

 復活が出来ぬ程、食い荒らされてしまうのです」



その言葉に、激怒するレオン チャニング。



「お前が、あの魔獣達をしかけた事は、

 もう、わかっているんだぞ!」




ウルド ツールは、『キョトン』とした顔の後、大声で笑い出す。




「アハハハッハ・・・・・バレていましたか。


 私は、彼女の事が少々、苦手でしたからね。


 だから、少し、悪戯を仕掛けてみました。


 そうしたら、彼女・・・・・・・・クックックッ・・・・・ハッハハハ・・・」




そう言ってウルド ツールは大笑いをする。




「貴様は、絶対に許さねぇ」




レオン チャニングが剣を抜く。




「行くぜ!」




高速移動で、一気に間合いを詰める。


しかし、ウルド ツールは、予測していたかのように、距離を取る。




「遅いですよ。


 それから、色々と気を付けた方が良いですよ」




「何?」




レオン チャニングの足元が光り、爆発した。



「グワァ!」



吹き飛ばされはしたが、空中で体勢を整えるレオン チャニング。




「ハハハ・・・・・人の警告は、聞くものです」




「貴様・・・・・」




レオン チャニングは、もう一度、距離を詰めにかかる。




「また、同じ手ですか・・・・・」




ウルド ツールは、先程と同じ様に、距離を取ったつもりだったが

何故か、目の前には、レオン チャニングの姿があった。




「遅ぇよ!」



レオン チャニングは、魔力を纏わせた剣で切り裂く。


咄嗟に避けたが、間に合わず、左腕を斬り落とされるウルド ツール。


だが、表情に変化はない。



「ふむ、少々舐め過ぎたようです。


 今度は、こちらから仕掛けましょう」




ウルド ツールは、左腕を失った事も気にせず、

身体に魔力を纏うと、剣を作り出し、襲いかかった。


近接戦に自身のあるレオン チャニングは、

受けて立つつもりで、振り下ろされた剣を受け止める。




しかし、ウルド ツールの魔力で作られた剣は、

レオン チャニングの剣をすり抜けた。



――なにっ!・・・・・・



咄嗟に躱すが、間に合わず、同じように左腕を斬り落とされた。




「ぐわぁぁぁぁぁ!」




叫び声をあげるレオン チャニングを見て、ウルド ツールは笑う。




「いいですね、その声、最高です」




「うぐっ・・・・・まだだ」




必死に立ち上がるレオン チャニングを、あざ笑うかのように、

次の攻撃の準備を終えていた。



ウルド ツールの手には、『魔力の塊』のような物がある。



「はぁ、味気なかったですよ。


 では、さようなら」




ウルド ツールは、その塊を、レオン チャニングに向けて投げつける。


なんとか、立ち上がったレオン チャニングは、

再び剣に魔力を纏わせ、その塊を切り、掻き消すつもりだ。



しかし・・・


「ガァァァァァァ!!」



叫び声を上げるレオン チャニング。


魔力の塊を掻き消すつもりで、剣を振り下ろしたのだが、

その塊と剣が触れた瞬間、

黒炎が、レオン チャニングに襲い掛かったのだ。



「ハハハハハッ!


 面白い、こんなに簡単に引っ掛かるなんて・・・・・

 本当に、馬鹿ですね」




ウルド ツールは笑いながら話す。




「それは、『終末の炎』です。


 その炎は、全てを焼き尽くすまで消えません。


 これで、本当にお別れです」



ウルド ツールは、その場から立ち去った。




「「「若様!」」」



黒炎の中で、藻掻くレオン チャニングに、

抱き着くヴァンパイア ブライド達。




「レディ、ローザ、リリア、離れろ、お前達まで消えるぞ・・・・・」




「構いません!


 最後までお供致します」




「レディ・・・・・」




「若様、置いて行かないでよ・・・・・」




「リリア・・・・・」




「ご一緒です」




「ローザ・・・・・」




「すまない・・・・・・」



4人は、黒炎に身を任せる事にした。



アイシャ ツヴェスは、拳を握りしめる。



──あのようなものを、何処で・・・・・



『終末の炎』。


それは、悪魔しか使えないといわれている魔法。


ウルド ツールは、その魔法を、

不思議なカプセルに、閉じ込めて持っていたのだ。



ヴァンパイアの始祖、アイシャ ツヴェスでも、

あの黒炎には、容易に、手を出すことは出来ない。



目の前で、同族が消滅する姿を、見ている事しか出来ず、

悔しさを、滲ませている。


そんなアイシャ ツヴェスに、声を掛ける京太。


「あの・・・・・手を出すなって言っていたけど

 助けてもいい?」



その問いに、驚くアイシャ ツヴェス。



「貴様、なんと申した?」


「だから、助けてもいい?って聞いたんだよ」



「貴様は、あれをどうにか出来るというのか?」




「多分、出来るよ」



そう答えた京太に答えたのは、ソニアだった。



「京太!

 返事なんて聞かなくていいから、早く助けなさいよ!」



「はいっ!」



ソニアに、急かされた京太は、

事前に体に纏わせていた魔力を、右手に集めながら

レオン チャニングに声を掛ける。



「4人は、出来るだけ引っ付いて下さい」


その声を聞いた3人は、今まで以上に、レオン チャニングに抱き着く。




「ちょっ、お前ら、苦しい・・・・・」




「若様、我慢してください!」



背丈の関係で、レオン チャニングの頭は、柔らかいものに包まれている。



──そろそろいいかな・・・・・



そう思いながら、魔法を放つ。



「ホーリー レインヒール」




京太の神気を流し込まれたホーリー レインヒールは、

呆気なく、黒炎を消した。



だが、神気の力は絶大で、

4人は、全身に大火傷を負う。




「痛てぇぇぇぇぇ!


 これ、ただの火傷の痛みじゃねぇぞ!」




「あー・・・・・」




「いー・・・・・」




「うぅ・・・・・」




京太は、急いでハイヒールを使い、傷を癒した。




「大丈夫ですか?」




「ああ、助かった。


 感謝する・・・・・んっ・・・(クン、クン)」



レオン チャニングは、神気の匂いに気付く。



「お前、人じゃねえな」



「えっ!?


 人ですよ」




「違う、その匂いは・・・・・・」




京太は、慌てて口を塞ぐ。




「助けたのですから、黙って下さい」




レオンは、首を縦に振る。




――良かったぁ・・・・・・




「それにしても、なんで、こんなとこにいるんだ?」




「まぁ、事情がありまして・・・・・・」




「わかった。


 助けてくれたし、今回は何も聞かねえよ。


 それじゃぁ、我は、奴を追う」




レオン チャニングは、3人のヴァンパイア ブライドと共に去って行った。




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