第169話黒の大陸 再び

京太は、コッソリと外の様子を確認する。



――さて・・・と・・・



テントから出てみると、誰も気づいた様子もなく、

兵士達は整列していた。




「貴方達、適当にサボってんじゃないわよ!」




「も、申し訳御座いません!」




――聞き覚えのある声・・・・・・




昨夜の事が脳裏に浮かび、思わず怯む。




「ねぇ、京太何しているの?」




不思議そうにソニアが聞いていた。




「ん・・・・・なんか、身の危険を・・・・・」




その京太の声に気付いたイケメンの男性が、

手を振りながら、近づいて来る。




「ダ~リ~ン!」




「げっ!」




慌てて結界の張っているテントに逃げ込む。


テントまで追いかけてきたゲルマは、結界に阻まれ、中に入れない。




「ダーリン、逃げないでよ、襲わないから!」




「・・・・・・京太、・・・・・知り合い?」




「お兄ちゃん・・・・・」




「主は、男性が好きなのですか?」




「エクス、冗談でも止めてくれ・・・・・」




テントの外で騒ぎ立てるゲルマを放置し、皆に昨日の事を説明した。




「それで、無事・・・・・だったのよね」




「ソニア、その目、疑っているの?」




「そんな事無いわ、ただ・・・・・・」




ソニアが指を差した方向には、必死に結界を叩く、ゲルマの姿があった。


防音結界が働いている為、声や音は、聞こえてこないが

結界に張り付くゲルマの姿を見て、恐怖を覚えた。



「ひぃ!」



悲鳴をあげる京太を見て、仲間達は、笑いを堪えている。




「本当に怖かったのね」




「ああ、だから・・・・・」




何かを言おうとした京太の横を、ミーシャが通り過ぎ、

テントの入り口に近づくとそのまま外に。




突然現れたミーシャを見て、ゲルマの動きが止まる。


だが、2人が何かを話しているかは、防音結界のせいで聞こえない。


ただ、話しをしている最中、時々、ゲルマの表情が明るくなる。




――何を話しているんだろう・・・・・・




そして、最後には、満面の笑みでミーシャに抱き着いた。




その光景を見た京太は、何故か寒気がする。




――何を話したの?・・・・・・


  僕は、どうなるの?・・・・・・




話しを終えたミーシャは、テントに戻ってきたが

いつも通りだ。



ゲルマは、結界の外で大人しく待機している。


  


「ミ、ミーシャさん、何をお話したのかなぁ?」




「大丈夫、問題無い。


 後は、任せて」




ミーシャは、女性陣を集めると、コソコソと話し合いを始める。


ただ、同じテントにいる為に、

時々、身の危険を感じる言葉が聞こえて来る。




「一緒に行くの?」




「添い寝・・・・・で・・・の?」




――添い寝とは、なんだ・・・・・・




女性陣の話し合いが終わると、ミーシャが代表して京太に伝えた。




「あの子、敵意は無いって言っていました。


 それと、旅に同行させて欲しいらしいの、

 勿論、『京太さんを襲わない事』を条件に付けましたけど」




「ゲルマが、ついて来るの?


 あれ、こいつらの仲間だよ」



天井を指差す京太。



「ええ、その事なんですが、仲間を抜けてもいいそうです」



「は?」



「元々、ここでの暮らしに、ウンザリしていたそうですが

 妹と暮らす為に、この仕事をしていたようです。


それで、抜けるなら、王都で暮らしている妹も、

一緒に連れて行きたいそうです」



――あいつ、この国から、出て行きたかったのか・・・・・



それでも、京太には、言わなければならない事がある。



「それは、わかったけど、僕、襲われかけたんだよ!」



「大丈夫です。


 殺す気は無かったそうですから」



「いや、殺す気が無くても・・・・・」




何を言っても、無駄だと悟った京太は諦めた。



「わかった、同行しても、構わないよ」



「ありがとう。


 それでは、中に入れてください」



京太はゲルマに対し、結界の通行を許す。




「入っていいわよ」



ミーシャは、声を掛けて、ゲルマに手招きをする。




「あら、ホント、不思議ねぇ・・・・」




ゲルマは、そう言いながらテントの中に入って来ると、3人の姿を見て笑い出す。




「フフフ・・・・・面白い物があったわ。


 ねぇ、猿轡、外してもいいかしら」




「いいよ」




ビーズ オーム子爵の猿轡が外される。




「ゲ、ゲルマ、こ奴らを殺せ!」




怒りの表情を浮かべてビーズ オーム子爵が命令をするが、

ゲルマは、あっさりと断った。




「嫌よ、ダーリンをどうして殺さないといけないのよ!」




「ダ、ダーリン・・・・・だと、貴様、この男に懐柔されたのか!」




「してねぇよ!」




ゲルマより、先に京太が答えた。




「ほんっと、恥ずかしがり屋ね」




ゲルマが、京太にウインク。




――もう、何処かに行きたい・・・・・・




ゲルマが、ビーズ オーム子爵に話しかける。




「私ね、この島を出て行く事に決めたのよ、

 あの子が色々紹介してくれるって言うしね」




ゲルマが振り返った先では、ミーシャがピースサインをしていた。




「それに、いい男、見つけたし、楽しい旅になりそうだわ」




ゲルマが振り返った先では、京太が拳を握り、親指を下に向けていた。




「フフフ・・・だから、貴方達ともお別かれなの、ごめんねぇ~」




謝罪の気持ちの全くこもっていない言葉を述べた後、

テントを出て行こうとするが、

最後に投げかけたビーズ オーム子爵の言葉に、ゲルマの動きが止まる。




「待て!待てと言っているのだ!


 そ、そうだ、貴様の妹がどうなってもいいのか!


 病に侵された状態の妹が、この島を出れると思っているのか!」



ゲルマの様子が一変する。



「【メルロ】に何かしたら、貴様を殺す。


 いや、貴方の一族全員、根絶やしにしてやる!」




「ヒィ!」




威圧されたビーズ オーム子爵は、ロープに縛られたまま、

後退りをするような仕草を見せるが、実際は、全く動けていない。




京太は、怒りを露にしているゲルマに近づく。



「妹さんの所に、案内をして下さい」



「えっ!」



「あ、先に軍隊を、王都に戻るように、命令をして下さい。


 その後、妹さんの所に案内をして下さい」




「どういう事?・・・・・」



困惑するゲルマにミーシャも近寄る。



「どんな容態かは、知らないけど

 京太さんなら、治療できるかもしれません、急いで!」



「わ、わかったわ」



ミーシャの言葉に、ゲルマが頷くと

京太は、結界を解いた。



そして、ゲルマがテントから飛び出すと、

タイミングを図った様に、爆発音が響く。



「何!?」



慌てて京太達が、飛び出すと、

そこには、グールと化した魔法士と戦士の集団が、

兵士達に、襲い掛かっていた。



「いつの間に・・・・・」


そう思っていると、テントの中から、誰かが話し掛けてきた。



「クックックッ・・・・・お久しぶりですね、京太さん。


 いくら待っていても来ないものですから、私が来て差し上げました」


その声に、京太は聞き覚えがある。


テントの中にいたのは、やはり、ウルド ツールだった。



「ウルド殿!

 助けに来てくれたのか!」



声を上げたのは、ビーズ オーム子爵だった。



「まだ、生きていたのですね。


 本当に、貴方にはガッカリですよ、

 金銭や、不用な者の排除まで手を貸し、あなたを援助して差し上げていたのに

 この兵士達を、私の領地まで連れて来れないとは・・・・・本当に残念です」




ウルド ツールは、ぶら下がっている2人の首を一太刀で刎ねた後

ビーズ オーム子爵の心臓に、剣を突き刺した。




「『グフッ、』・・・・・ウルド、貴様・・・・・」




「あなた方の命、大切に使わせて頂きます」




ウルドは、取り出した『黒い水晶』に、ビーズ オーム子爵達の魂を吸い込ませた。


 


「ああ、残念です、本当に残念です。


 この国の兵士達の魂を回収した後、

 京太殿の体を頂こうと思っていたのに・・・・・」




――魂・・・・・憑代・・・・・・!




「貴様、ジーパ国と同じことを!」




「少し違います。


 あの国では、皆さんの願いを叶えただけです。


 手数料として、幾らかの魂は、頂きましたが」




「・・・・・・何を企んでいる」




京太は、ウルド ツールから目を離さない。




「簡単な事です。


 実は私、人間と亜人が大嫌いなのです!」




「はっ?」




「考えて下さい。


 己の欲望の為には、簡単に裏切り、殺す。


 これは、我が国、ダクネス国も同じなのですがね。


 そんな世界が嫌になりましてね。


 だから私は、考えました。


 どうすれば良いかを・・・・・そして、見つけたのです。


 この世界から、人を根絶やしにする方法を!」




ウルド ツールは、両手を広げ、仰仰しく叫んだのだ。


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