第168話黒の大陸 ダクネス国侵攻作戦

~その頃、




京太達は、予定通りに旅を進め、王都が目の前という所まで来ていた。


しかし、王都に近づくにつれて見えてきたのは、

王都の外に多くの兵士達が待機し、出撃する準備を整えているところだった。




それらを見送る為なのか、多くの民衆も集まっている。



京太達もその中に紛れ込み、様子を窺う。



兵士達が、整列し、静かになると

小太りの男、総指揮官となったビーズ オーム子爵が、檀上に姿を見せる。




「兵士諸君!


 これより『ダクネス国侵攻作戦』を開始する。


 隊長は、前へ」




最前列に構えていた兵士達が、ビーズ オーム子爵の前に並ぶと

各隊長が一言述べた。




「私は、【シャドウ】、本日より、全体の指揮を執る。


 私の命令は、総指揮官であるビーズ オーム子爵の命令だと思え、

 逆らう事は、許さん。


 与えられた任務は、確実に実行するように!」




シャドウに続き、【ライフ】、【ヨーダ】、【ゲルマ】の3人が挨拶を終える。


総隊長シャドウを筆頭に、残りの3人も、どう見ても、怪しい雰囲気の男達。




京太は、王都へ行くことを止め、

本来の目的であるウルド ツールのもとに向かう為に

一般兵の後に続く、『志願兵』に紛れ込む事にした。



志願兵とは、市民の中から、自主的に参加し、

武勲を立てる事で、兵士になろうと思う者達の集団だ。




ただ、戦いに参加しても、少しのお金しか出ない。


その為、多くの収入源は、現地で魔獣や魔物を狩って、稼ぐことになる。


志願兵には、当然、防具や武器なども与えられておらず、

それぞれが持ってきた武器や防具を使う為、

服装なども、揃っていない。



その為、紛れ込むことは、容易に出来た。


ただ、ソドム ウーゴ子爵の家族と、その使用人、1部の兵士は、この場に残す。


だが、その他の奴隷となった兵士達や、

ソドム ウーゴ子爵本人とルーベンも同行させる。


家族が、同行しないことに安堵しているソドム ウーゴ子爵のもとに

ルーベンが近寄る。


不安を口にするソドム ウーゴ子爵。



「私たちは、バレやしないか?」


「それなんだが・・・・・」



ルーベンの手には、2枚の仮面が握られていた。



「こ、これは・・・・・」



「これな、ただの仮面ではないらしい・・・・・。


 京太殿が言うには、幻術の魔法がかけてあり、本人だと絶対に分からないそうだ」



「それは、有難いのだが・・・」


ソドム ウーゴ子爵は、手渡された仮面を見つめる。


「・・・怪しくないか?」


「ええ、私もそう思うが・・・・・」



──何故、魔物の仮面なのだ!!!・・・



心の中で、そう叫ぶが、命令に背くことは出来ず

2人は、渋々、その仮面をつけた。


魔物の仮面をつけているのは、2人だけではなく、

奴隷となった兵士達も同様の仮面をつけているのだが

身バレを防ぐ為に、防具を脱がさた状態で、

魔物の仮面をつけているのだ。


傍から見たら、変人にしか、見えない。


その為、他の参加者達から、声を掛けられる心配も無かった。


上手く紛れ込み、進軍する京太達だったが、

その日に野営の時に、事件が起きる。



理由は簡単。



京太の連れている女性達に目を付けたビーズ オーム子爵が、

彼女達を食事に招いたのだ。




断る事も考えたが、『不敬罪』とか言われても面倒くさいので、

仕方なく了承し、ビーズ オーム子爵のテントに行った。




「よくぞ参った。


 私の事は、知っているだろ」




檀上で挨拶をしたのだから、知っていて当然なのだが、

ビーズ オーム子爵の両隣で、

酌をさせられている冒険者のような女性の事が気になった。




京太のその視線に気が付いたのか、

ビーズ オームは、京太達を連れて来た兵士に文句を言う。




「何故、男がいるのだ!


 私が呼んだのは女だけだ、そのガキを、ここから放り出せ!」




ビーズ オーム子爵の命令により、

兵士達が京太を引き摺り出そうと腕を掴む。


しかし、京太は、その腕を返し、兵士を地面に転がす。




「えっ!?」




理由が分からず、地面に転がされた兵士が呆気に取られていると、

ビーズ オーム子爵が声を上げた。




「シャドウ!」




「ここに・・・・・」




現れた事に驚く兵士達、反対に、京太達は誰も驚かない。




――隠蔽のスキルか・・・・・




シャドウと同じ様に、3人の部下が姿を現すと、

京太に歩み寄る。



「大人しく従えば、手荒な真似は、しない。


 今すぐ、ここから立ち去れ」


その場を動かず、京太はシャドウに問う。



「僕の仲間をどうするのですか?」



その問いに答えたのは、ビーズ オーム子爵だった。



「そんなの、決まっているではないか、私は貴族。


 平民は、私に逆らう事は許されていない。


 この2人と同じ様に、私の物にしてやるのだ、感謝しろ」


 

両隣に座らせられている女性の服の中に手を入れ、

下卑た笑みを見せているが

女性達は、目に涙を浮かべ、じっと我慢をしている。




――やっぱり、そういう事か・・・・・・



ビーズ オーム子爵は、再び京太に言い放つ。



「わかったら、出て行け!」



──このやろう・・・・・


怒りが露になりそうだったが

京太は、視線に気が付く。


それは、仲間達からのもので、『任せて』と言っていた。




京太は、仲間を信じ、シャドウの部下に連れられて、テントから出て行く。


テントから連れ出された京太は、

何故か人気の無い場所に、連れて来られた。




「僕は、何処に連れて行かれるのですか?」



「ごめんねぇ~、あのデブ親父の命令なの。


 でも、その前に少しぐらい遊んでもいいわよね」




――・・・・・ん、・・・・・こいつ男だったよな・・・・・




京太の脳裏に、嫌な想像が浮かぶと同時に、背筋が凍る程の冷気を感じた。




「・・・・・おい」




そう、彼、ゲルマは男色家で、ショタ好き。


京太は、ゲルマのストライク。



「嘘、冗談だろ・・・・・」



後退りする京太に、ゆっくりと迫るゲルマ。



「大丈夫よ、痛くしないから、私に任せて」



優しく微笑みながら、上着を脱いだ筋骨隆々のゲルマは、

瞳を潤ませながら近づく。



――怖ぇぇぇぇぇ!・・・・・・



ゲルマは、異常な跳躍を見せ、京太に飛び掛かった。




「げぇぇぇぇ!」




間一髪、回避に成功。




「あら、逃げられたわ」




「来るな!近寄るな!変態!」




「失礼ね、変態だなんて・・・・・・誉め言葉でしか無いわ」




――こいつ、本気で危ない奴だ・・・・・




「なんで、僕を狙うんだ!」




「ふふふ・・・・・私の好みだからよ。


 ねぇ、お姉さんのいう事を聞いてくれたら、逃がしてあげてもいいのよ。


 私だって、貴方みたいな可愛い子、殺したくないもの」




そう言って体を『クネクネ』する様子は、ワームよりも恐ろしい物体に思える。




「僕に男の趣味は無い。


 だから、諦めて!」




「嫌ぁねぇ、身体はオトコでも、心はオンナよ。


 だから、胸はあるわよ」




ゲルマは、そう言って胸筋を動かし、京太にアピールをする。




「それは、胸じゃねえ、キ・ン・ニ・ク。


 そんなに、ピクピク動かないよ!」




「私は特殊なの、スペシャルよ。


 それに、貴方の事、本気で気に入ったわ」




「謹んで、お断りします」




「つれないわねぇ」




そう言いながらも、ひたすら襲い掛かるゲルマを、京太は必死で躱していた。




――こんな、ドラゴンと戦っていた方がマシだよ・・・・・・




結局、朝まで逃げ切り、出発の時間になった。




「ホント、貴方って、焦らすのが上手ね」




「焦らしてなんか無い!


 二度と、関わらないでくれ!」




「ふふふ・・・・・い・や・よ」




ゲルマは、そう言って去って行った。




「あいつは、なんなんだ・・・・・」




どっと疲れが襲って来た京太だったが、

皆の事が心配になり、急いでビーズ オーム子爵のテントに戻る。




「みんな!」




飛び込んだテントの中には、

ボコボコに殴られ、ロープで縛られて

猿轡さるぐつわをはめらたビーズ オーム子爵と、

天井から、ぶら下げられている2人の姿があり

床には、高級そうな敷物の上で、スヤスヤ眠る仲間達の姿があった。



「カオス?」



京太は、一番近くで寝ていたミーシャに声をかけて起こす。




「ミーシャ、ミーシャ、起きて」




揺すってみるが、起きない。


もう一度、起こそうとすると、寝ぼけて起き上がったミーシャに捕まり、

そのまま抱き着かれる。




――いい匂い・・・・・それに・・・・・温かい・・・・・




昨日から、魔物ゲルマに追われて、

一睡もしていない京太は、誘惑に負け、

テントに防御結界と防音結界を張り、眠りに落ちた。




その中で、一番最初に目を覚ましたのは、ラゴだった。


辺りを見渡し、ミーシャが抱き着いている京太を発見。




『キョロキョロ』と辺りを見渡す。




「わらわももう一休み」




ラゴは、京太の背中から抱き着き、再び眠る事にした。




――早起きは、得じゃ・・・・・・




結局、昼過ぎまで眠っていたが、フーカの大声で、全員が目を覚ます。




「あーーー!


 ズルい!」




羽をパタパタさせ、京太の上にダイブ。




「グフッ!」




ミーシャに抱き着いていた為に、横腹に攻撃を受けた京太は、目を覚ます。




「ううう・・・おはよう・・・フーカ、出来たら優しく起こして・・・・・」




「おはようじゃないよ、2人だけズルいよ」




「2人?」




後ろから抱き着いているラゴに気が付く。




「ラゴ?」




「ん・・・・・主様、およよう」






不貞腐れるフーカを宥めながら、昨日の事を聞いた。


あの後、ビーズ オーム子爵は、予想通り、ゲスな行動に出ようとした。


しかし、抵抗した為、物理的な話し合いとなり、

最初に、攻撃を仕掛けてきた2人をボコった後、

ビーズ オーム子爵とも話し合い(物理的)を行った結果だという。




――う~ん、これから、どうしようか・・・・・・




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