第167話黒の大陸 訳ありの労働者

レオン チャニングの案内に従い、歩く。



『喰らう森』を抜けてからも、森の中を歩いているが、

ここでは不思議なくらい魔獣の姿を見ない。




暫く進むと、森の向こうで何かが光った。


レオン チャニングの後ろを歩くオールドの目にも、それが何かが分かった。




「湖!」




森の中に突然現れた湖。


空の光を反射して、輝いて見える。




「美しい・・・・・」




「うむ、我も気に入っておる」




光りの中に佇むレオン チャニングを見て、オールドは驚く。




「レオン殿、光りを浴びても大丈夫なのですか!?」




「ん、・・・ああ、我はデイウォーカーだ、案ずるな。


 それに奴らには、『遮光ジェル』を塗っているので心配はいらん」




オールドが、女性達を見ていると、その中の1人が駆け出し、


レオン チャニングに抱き着く。




「若様、今日は、泳がないのですか?」




「【リリア】、我の頭の上に乳を載せるでない!


 それに、あ奴らも待っておるだろうから、今日は無理だ」




「はぁ~い」




ヴァンパイア ブライドの1人、リリアは、仲間のもとに歩み寄る。




「今日は、ダメだって・・・・・・」




「当り前です。


 若様は、お忙しいのです。


 私達も遊んでいる暇などありません。


 急いで城に戻り、若様の着ぐるみパジャマを隠さなければ・・・・・


 若様の趣味が、皆様に知れ渡ってしまいます」




――おい・・・・聞こえているぞ・・・・・・




「【ローザ】、あれは子供の時の物だ、今は使っておらぬ!」




「そうでしたか・・・・・


 ですが、背丈は、今も変わっておりませんので、お似合いだと思います」




「それは、褒めておるのか・・・・・」




「勿論です!」




「そうかい、なら、礼を言うが、くれぐれも客人に誤解を与えるなよ。


 【レディ】、2人を見張っておけ」




「畏まりました」




レディと呼ばれたヴァンパイア ブライドは、襟を正し、頭を下げた。


その後、湖のほとりを歩き、再び森の中に入る。




森の中を歩いていると、何かが体に触れる。




「うわぁ!」




オールドや他の兵士達は、驚いて声を上げた。




「魔物除けの結界の中に入ったのだ、あれを見よ」




レオン チャニングの指で示した方向には、

広大な畑があり、多くの人達が働いていた。




「ここは、一体・・・・・」




「我の領地だ。


 因みに、あそこで働いている者達は、亜人と人族だ」




「何故、こんな所に・・・・・・・」




レオン チャニングは、腕を組み、働いている者達を眺めながら口を開く。




「人族の王は、奴隷を作るのが好きなようだな」




「えっ?」




「ここにいる者達は、全員奴隷にされかけたり、

 逆らって親族を殺された者ばかりだ。


 生きる希望を失くし、最後に、この森で死のうとしていたのでな、

 畑と住む場所を提供してやったのだ」




オールドと兵士達は、レオン チャニングの言葉を、重く受け止める。




黒の大陸では、貴族が幅を利かせている為に、

平民達には生き辛く、自殺者も多い。




それでも、貴族達は、己の利益を優先し、

気に入った者がいれば、直ぐに召し抱え、自分の物にする。


逆らえば、家族全員を不敬罪で、

奴隷に落として売り払い、金を手にするのだ。




その為、死んだと思っていた者達が生きていると知れば、

今以上の戦力を持って、ダクネス国を滅ぼしに来ることは明白だった。




「レオン殿、この者達をどうするおつもりですか?」




「知らん、この者達を、我は拘束しておらん。


 だから、あ奴らが、ここにいたいのなら、ここで暮らせば良いし、

 出て行きたいのなら、出て行けばよい。


 ただ、ここは我の領地。


 攻めて来ると言うなら、相応のもてなしをしてやろう」




レオン チャニングは、そう言った後、歩き出した。


オールド達も急いで、後を追う。


すると、大きな一軒家の前でレオン チャニングは止まる。




「約束の者達を連れて来たぞ!」




扉を叩きもせず、大声で用件を伝えると、

家の中から、扉に近づく足音が聞こえて来る。


『バァーーーン』と扉が壊れるのではないかと思う程の勢いで扉を開けたのは、

『暗い森』へと斥候に出掛けた兵士の1人だった。




「隊長・・・・・・」




「元気そうだな」




オールドが優しく声をかけると、男は、両膝を地面につける。




「オールド隊長、申し訳ございません。


 預かった兵の半分を死なせてしまいました」




「【サイクス】顔を上げてくれ、お前の責任ではない。


 気に病むな」




「オールド隊長・・・・・」




「それより、他の者達は、どうした?」




「ただいま参りますので、暫く、お待ちください」




サイクスの言葉通り、オールド達の姿を見つけた者達から、次々に姿を現した。




「隊長、ご無沙汰しております」




「隊長!」




オールドは、怪我や、食事の事を心配していたが、

集まった仲間の表情から、そんな考えは無駄だと知る。




「お前達は、これからどうするのだ?」




オールドの質問に、先行して来た者達の表情が曇る。




「隊長は、ここにいる人達の事情をお聞きになられましたか?」




「・・・・・・ああ」




「・・・・・僕の母は、とある男爵の妾です。


 元々、父と母と3人で暮らしていたのですが・・・・・・」




そこまで聞き、レオン チャニングの言葉が、脳裏を過る。


この兵士の父親は、殺されたのだろう。




オールドは、貴族の汚い部分ばかりを思い出してしまう。



――まともな貴族もいるのだが・・・・・・


そんな事を考えていたが、気持ちを切り替え

肝心なことを問う。



「お前が、此処に残りたいというのであれば、残れば良い。


 ただし、斥候の最中に魔物に殺された事にするが良いか?」




「はい、有難う御座います」




この兵士を皮切りに、他の者達も残りたいと言い出した。




「わかった、好きにするが良い。


 ただし、死んだ事にするからな」




オールドは、御礼を言われる度に、複雑な気持ちになった。




翌日、オールド達は、ヴァンパイア ブライドのレディの案内で、

無事に拠点に戻る事が出来た。




オールドは、その足でタロト コード子爵へと報告の為に向かう。




「オールド、この度の働き、感謝する」




「勿体なきお言葉、有難う御座います。


 ただ1つ、報告してたい事が・・・・・・」




オールドは、タロト コード子爵を信じ、全てを話した。




「・・・・・そうか、生きていてくれた者達がいるのだな」




「はい、それで、この先、どうしたら」




「決まっておろう、今更連れ帰っても、酷い目に合わされるのがオチだ。


 この度の報告は、聞かなかった事にする」




「えっ!?


 それでは、あまりにも・・・・・」




「まぁ、話しは最後まで聞け・・・・・


 彼らついては、死んだままにしておこうと思う。


 それから、必要な物があったら、お前が届けてやれ。


 同時に、こちらの情報をリークし、彼らに被害が及ばないようにしてくれ」




その後、レオン チャニングからも情報が届くようになり、

お互いの情報を交換するようになったのだ。



それからは、戦っているふりだけで、お互いに負傷者を出さずにいたのだが

今後は、そうもいかない。


タロト コード子爵が任を解かれ、

ビーズ オーム子爵が、総司令としてこの地に赴任してくる。




この事を伝える為、レオン チャニングに急いで連絡を取った。


そして、『気を付けるように』とも、伝えた。





――どうか、ご無事で・・・・・・




それから数日後。


ビーズ オーム子爵の手によって

『ダクネス国侵攻作戦』が、新たに開始される事になった。




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