第166話黒の大陸 思わぬ出会い

王都に、向けて出発した京太達。



御者の席には、ソドム ウーゴ子爵とルーベンが座っている。




「ルーベン殿、彼らは、本当に、陛下に会いに行くのか?」




「ああ、間違いないだろう。


 先ほど、陛下や街の事について、質問をしてきたからな」




「・・・・・そうか」




「そんな事よりも、彼らが陛下と敵対したら

 私達は、どうなるのだ?」




「ハハハ・・・・・、考えたくも無い・・・・」




「だよな・・・」




2人は、考えたくも無い未来が来ない事を祈りつつ、

御者を務めた。





~王都セイバー~



この『黒の大陸』のほぼ中心に位置する場所にある

サンドベージュ王国の首都、セイバー。


今、この街にある城の会議室にて、とある作戦について、

議論が交わされていた。




「このまま一気に攻め入りましょう」




「何を言っているのだ!


 我々は、蛮族ではない。


 一度、話し合いの場を設けるべきだ!」

 



この会議の中心人物。


【ビーズ オーム】子爵と【タロト コード】子爵は、

お互いの主張を譲らず、昨日から続く会議は、全く進展していない。




ビーズ オーム子爵は、強硬派で、

『力でねじ伏せれば、何も問題など無い!』と豪語する男だ。



一方、タロト コード子爵は、慎重派で、

出来るだけ血は流さず、今後の事も考えて行動する男なので

今迄、総指揮を執っていたのだが、

ここ半年、全く戦果を上げていない。



その事について、ビーズ オーム子爵を筆頭に

貴族連中から、不満の声が上がり、

この度、会議をする事となったのだ。



「タロト コード子爵、貴殿は、何がしたいのだ?


 このような事では、陛下の目的の妨げにしかならんぞ!」




「それは・・・・・」




『陛下の目的の妨げになっている』とまで言われてしまえば、反論できない。


それに、実際に戦果は無いので、言い訳も出来ない。


また、この状況を、不利だと考えた

タロト コード子爵側だった準男爵や男爵といった貴族達も、

ビーズ オーム子爵側に寝返っている。



その為、孤立してしまったタロト コード子爵に打つ手は残っていない。



この状況に、ビーズ オーム子爵は、隠れて笑みを浮かべる。



――フフフ・・・・・上手く行った。


  これで、あの地は、私の物だ・・・・・・




思惑通りに、話が進むビーズ オーム子爵は、

仲間の貴族に合図を送る。



すると、1人の貴族が立ち上がった。



「そろそろ、採決を取ろうではないか。


 これからの『ダクネス国侵攻作戦』の総指揮は、

 ビーズ オーム子爵が行う事に、異議を唱える者は?」




宰相である【ドワイビー】の言葉に、異議を唱える者はおらず、

この時から、『ダクネス国侵攻作戦』の総指揮は、

ビーズ オーム子爵が、受け持つこととなった。




会議を終え、それぞれの貴族達が、会議室から出て行った後

宰相のドワイビーは、セシード セイバー国王に報告へと向かう。



皆が退出し、1人、会議室に残った、タロト コード子爵は項垂れていた。



勝ち誇った顔で言い放ったビーズ オーム子爵の、

あのセリフが、脳裏を過る。



「タロト殿、今までご苦労だったな、

 だが、成果が無ければ何の意味も持たないと私は思うぞ。


 まぁ、今後は、御自宅でゆっくり休むと良いでしょう」



その言葉の後、笑みを見せたビーズ オーム子爵の顔が忘れられないのだ。



――このままでは・・・・・・



戦果を上げられない理由、それは、

タロト コード子爵が、ダクネス国と繋がっているからだ。



切っ掛けは、些細な事。


戦争が始まって半年が過ぎた頃、タロト コード子爵は、

『暗い森』と呼ばれる場所に、斥候も兼ねて調査隊を送り込んだ。



この暗い森を通り抜ける事が、出来れば、戦況が有利になる。


そう考えての決断だったのだが、送り込んだ調査隊は

数週間経っても、戻って来なかった。


その為、タロト コード子爵は、人数を増やし、十分な食料を持たしたうえで

再び、救出隊を兼ねた斥候を送り出した。



しかし、結果は同じ。



送り込まれた救出隊に、『暗い森』の魔獣達は、容赦なく襲い掛かる。



「何なんだ、この森は!」



現れた魔獣の強さと凶暴さに、救出隊は分断されてしまった。




「最悪だ・・・・・」



思わず本心を漏らした【オールド】だが、指示は、的確におこなう。



「一旦、引け!

 この場から離脱する」



その声に反応した兵士達は、その場からの離脱を試みる。


魔獣から逃れるために、木の影に隠れる救出隊。



しかし、この暗い森で救出隊を襲うのは、魔獣だけでは無かった。



『一息つける』そう思った瞬間、

身を隠していた木が、救出隊に襲い掛かる。



「うわぁぁぁぁぁ!」



「助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」



叫び声と同時に、木に吸い込まれていく兵士達。




「全員、木から離れろ!」




救出隊の隊長オールドは、大声で仲間に呼びかけた。


しかし、数人の兵士は、木に吸い込まれてしまった。



「ここは、どうなっているのだ・・・・・」



ここは、『暗い森』ではなく『喰らい(う)森』。


強力な魔獣が闊歩しているが、本当に恐ろしい敵は、

マンイーターの『キラートレント』の存在だったのだ。



オールドが、周囲をよく見ていると、

兵士達を追い込むようにキラートレントが少しずつ動いていた。



――クソッ・・・・・・


気が付くのが遅かった為に、絶体絶命の危機に晒され

逃げ道も見つからず、諦めかけたその時、

森の中から、子供のような声が響き渡る。



「おじさん達、息を止めて!」



このままでは、キラートレントの餌食になるだけなので、

この声に最後の望みを託した。



オールドが息を止めると

森の奥から煙が流れてくる。



流れ込んでくる煙は、少しずつ広がり、

最後は、森全体に、もやがかかったと思える状態になった。



その時、「こっちだよ」という声と同時に

何者かが、オールドの手を掴む。



その手の大きさは、子供のように小さい。


焦りながらもオールドは、その手の主に話し掛ける。



「待ってくれ、仲間がいるんだ!」



「うん、わかってる。


 大丈夫だから、安心して」



落ち着いた優しい声に促され、

オールドは、引っ張られる手に、抵抗する事無く従った。


それから暫くは、靄のかかった森の中を歩いていたが、

次第に景色が見えるようになってくる。




「もう大丈夫だよ」




オールドは、手を握ってくれていた少年にお礼を伝える。




「ありがとう、助かった。


 ところで、君は?」




オールドのその言葉に、少年は、突然笑い出す。




「あはははははは・・・・・・


 無知な奴だな、我の事を知らぬとは・・・・・」



全く訳が分からないオールドは、ただ突っ立っている。



「では、改めて自己紹介じゃ、我が名は、【レオン チャニング】、

 ダクネス国、三貴族の1人だ」




――ヴァンパイア族の大物!!・・・・・・




オールドは、慌てて剣を抜き、身構えた。




「ほぅ・・・・・我と一戦交えたいのか・・・・・でも、残念だ。


 約束があるのでな」




レオン チャニングは、目の前から煙のように消える。




「何処だ!」




姿が消えたレオン チャニングを、オールドは必死に探す。




「何処に消えたんだ!」




剣を構えたまま辺りを見渡すが、レオン チャニングの姿が見えない。


必死に探していると、突然、耳元で声が聞こえた。




「戦うつもりはない。


 その様な無粋な物は捨てよ」



「えっ!?」



驚くと同時に、何かに剣が当たり、折れる。




「何が起きたのだ?・・・・・」



驚いているオールドの目の前に、再びレオン チャニングが姿を見せる。




「慌てるな、先程も申したが、我に戦うつもりは無い。


 それに、『貴様らを助けて欲しい』と頼まれたからここで張っていたのだ」




「頼まれた・・・・・だと」




「ああそうだ、今から案内をしてやる。


 大人しくついて来るがよい」




レオン チャニングが合図を送ると、

3人の女性と共に、助け出された仲間達が姿を見せた。




「隊長!」




「生き残ったのは、これだけか・・・・・」




「はい、申し訳御座いません」


 


助け出された者達は俯く。




「気にするな、貴様達だけでも生き延びてくれたのだ。


 よく頑張った」




「・・・・・ありがとう御座います。


 ですが、私達が助かったのは、あの方々のおかげです」




兵士達の視線の先には、先程の女性達と楽しそうに会話をする

レオン チャニングの姿があった。




オールドは、再びレオン チャニングのもとへ。




「レオン チャニング殿、先程は失礼を致しました。


 私と部下を助けて頂き、改めて御礼申し上げます」




オールドは、頭を下げた。




「止めてくれ、先程も申したが、我等は頼まれただけの事。


 気にせずとも良いぞ」




オールドは、先程から気になっている事について触れる。




「レオン チャニング殿、先程から頼まれたと言っていますが、一体、誰に?」




「おお、そうであったの、肝心な事を伝えていなかったな。


 我に頼んで来たのは、お主の仲間達だ」




――仲間!・・・・

  もしかして・・・・・




「今から、案内をするが構わぬか?」




「はい、お願いします」




オールドは、レオン チャニングの案内に従い、森の中を進んだ。

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