第165話黒の大陸 襲撃者達

奴隷にした兵士達を伴い、コルクの街に戻る。


だが、奴隷に落とされた兵士達の足取りは重い。




特にルーベンに至っては、領主代理から奴隷になった事が余程堪えたのか、

放心状態のまま、足を進めていた。




中々進まない足取りで、コルクの街に向かっていると、

後方から、馬車と兵士の一団が迫る。


その馬車を見て、兵士が口を開く。




「貴族の馬車だ・・・・・」




豪華な馬車3台を中心に、馬に乗った兵士20名が、一定の間隔で護衛をしている。




「先に行って貰おう」




京太達は、道の端に寄り、通り過ぎるのを待つ。


しかし、馬車は、京太達を通り過ぎた所で止まった。



そして、豪華な馬車から、1人の男が降りてくる。




「ルーベン殿では、ありませんか!」




ルーベンは、未だに放心状態。


だが、馬車から降りてきた男は、ルーベンの肩に手を掛け

必死に揺する。




「ルーベン殿、ルーベン殿!」




肩を強く揺さぶられたルーベンは、その男の顔を見た。




「・・・・・【ソドム】子爵?」




「ああ、気が付いたか、

 今まで、貴殿に任せていたコルクの街の領主に、私が任命されたのだ」




ソドム ウーゴ子爵は、ルーベンの知人である。


また、王都に住居を構えている、領地を持たない貴族でもあった。


しかし、スエード コルク伯爵が亡くなったとの報告から、

王の命により、ソドム ウーゴ子爵がこの地を治める事になり、

その引っ越しの最中に、偶然にも再開したのだ。




「一体、どうしたというのだ?・・・・・」




ソドム ウーゴ子爵は、ルーベンの首についている奴隷の首輪に気が付く。




「何故、貴殿が奴隷の首輪など・・・!」



辺りを見渡したソドム ウーゴ子爵は、

兵士達にも、奴隷の首輪が、ついている事に気が付き、

再び、ルーベンに問う。




「答えてくれ、何が、あったというのだ!」




ソドム ウーゴ子爵の様子から、異変に気付いた、

護衛の兵士達が警戒を強めると、馬車から2人の男が下りて来る。



「なにがあった?」



「いえ、それが・・・」



護衛の兵士は、ソドム ウーゴ子爵の知人に、

奴隷の首輪がついている事などを話すと

辺りを見渡した後、ゆっくりと歩き出した。




そんな状況下で、手掛かりを探すように、

辺りを見渡していたソドム ウーゴ子爵は、

奴隷の首輪のついていない京太を見つける。




「少年、私はソドム ウーゴというものだ。


 どうして、こうなっているのかを聞かせてくれないか?」




「いいですよ」



そう答えた京太が、話を始めようとした時、

先程、馬車から降りてきた内の1人が、ソドム ウーゴ子爵の肩に手を掛けた。




「子爵様、その者から離れた方が宜しいですぞ」




「しかし・・・・・」




ソドム ウーゴ子爵は、確認するまでは、離れたくない。



しかし・・・・



「子爵様、【ナボット】殿の言う通りです。


 一度、お下がりください」




「・・・・・【カルロ】殿、貴殿も、そう思うのか・・・・

 わかった・・・・・」




ソドム ウーゴ子爵が京太から離れると、カルロは剣を抜く。




「答えろ、貴様は、何者だ!?」



「え?」



この国、サンドベージュの王都には、

『守護四聖』《しゅごしせい》と呼ばれる最強の4人がいる。


4人は、それぞれに、火、水、風、土の精霊から授かった力を持ち、

無詠唱で、自身の属性魔法を自由自在に操る事が出来た。


同時に、武術にも秀でた才能を持っているからこそ、

最強の戦士『守護四聖』と呼ばれているのだ。



その中の1人、火の守護者、カルロが京太の前に立ち塞がる。




「お前が、答えないというなら・・・・・」




カルロの視線が、京太の仲間に向く。




――こいつもか・・・・・・




京太は、全力で前に踏み出す。


嫌な気配を感じ、カルロが、京太に視線を戻したが、もう遅い。


全力で放った京太の拳が、カルロの顔面を打ち抜く。


その威力は絶大で、胴体を残したまま、首から上を破壊する。


そして、取り残された胴体が、ゆっくりと倒れた。



ソドム ウーゴ子爵は、茫然としている。



「今のは、なんだ?・・・・・・」



警護の兵士達にも、何が起こったのか分からない。


彼らは、衝撃音で気付き、振り向いた時には、カルロは、死亡していたのだ。



「い、今のは、君の仕業なのか?・・・・・」



ソドム ウーゴ子爵は、震える足を抑え、京太のもとへと向かう。




「お待ちください」




ソドム ウーゴ子爵を止めるナボット。




「あ奴は危険すぎます。


 ソドム様、近づいては、なりません」




「では、『主のみ使い』である、貴殿が、なんとかしてくれるのか?」




「「えっ!」」




今まで、様子を見ていた京太の仲間達にも、今の発言が聞こえた。




「あの人、今、『主のみ使い』って言ったよね」




「うん・・・・・」




京太の仲間達の騒めきが、自身の事だと理解したナボットは、

ソドム ウーゴ子爵を背中に庇い、京太の前に進み出る。




「私は、ナボットと申します。


 どうやら、先程のソドム様との会話が聞こえたようですね」




「・・・ああ」




京太の吐き捨てるような態度に、ナボットは、苛立ちを覚える。




「そのような無礼な態度、許せません。


 貴方には、相応の罰を与えましょう」




ナボットは、持っていた杖の先を、京太に向ける。




「その檻の中で、反省しなさい」



ナボットが魔法を放つ。


すると、地面から蔦が伸び、京太を囲むように、檻が完成した。




「その蔦は、剣では切れませんよ。


 それは、『主のみ使い』である私の魔力で出来ていますから」




京太は、檻の中から命令を出す。




「・・・遠慮は要らん、やれ!」




その言葉が合図となり、京太の仲間達は、護衛の兵士に襲い掛かり、

一瞬で壊滅させた。




「な、何をする!

 貴様ら、この男が、どうなってもいいのか!」




ナボットの威嚇は、京太の仲間には通用しない。




「どうぞ、ご自由に・・・・・」



ソニアが、そう言い放つと、ナボットは、視線を京太へと戻す。



ナボットと目が合った京太は、手刀で、易々と蔦を切った。


地面に落ちると同時に、枯れる蔦。




「えっ!?


 何を・・・・・どうして・・・

 主のみ使いであるこの私の魔法を・・・・」




「お前が、『主のみ使い』だと・・・・・かたるな!偽者!」


 


「な、何の根拠があって・・・・・」



「根拠?


 この大陸は、【闇と混沌の神、アぺプ】と【冥府の神、オリシス】の縄張りの筈。


 だが、お前は、地の魔法を使った。


 それに、お前の名前も知らん」



「え?

 どういう事だ・・・・・」


勢いで、口を滑らせてしまった京太。


ナボットは別にして、ソドム ウーゴ子爵達の耳には、届いていないことを祈る。



しかし、聞いてしまったナボットは、動揺しながらも、

京太に、杖の先を向ける。



「吐け!

 貴様は、何者だ!

 先程の言葉は、どういう意味だ!

 吐かぬというなら、こうしてくれる!!!」



ナボットは、杖の先に魔力を溜め、京太に向けるが

その瞬間、ナボットの心臓に2本の剣が突き刺さった。




「主に、二度も攻撃は、許せません」



「わらわの主様に向かって、その様な無礼な態度、

 死を以て償うのじゃ」




エクスとラゴが、ナボットに近づき、剣を抜くと

ナボットは倒れた。



「ふんっ!」



「ラゴ、代わりに怒ってくれてありがとう。


 エクスも、ありがとう」




京太は、感謝を告げ、

2人の頭を撫でていたのだが、

ラゴは、その場を離れて、ソドム ウーゴ子爵のもとへと歩み寄る。



「貴様は、ソドム ウーゴとか申したのぅ」



「お前達は・・・・・」



「お前達とな・・・・・

 貴様は、立場が分かっておらぬようじゃな。

 

 貴様の口の利き方1つで、

 あの馬車に乗っている者共の命も、失われることを理解せよ」



「・・・申し訳ない。


 今後、気を付ける。


 それで、あなた方 は?」



「わらわ達の事は、どうでもよい。


 それよりも、貴様は、コルクの街に向かっているという事で、間違いはないか?」



「はい、あの街の領主に、任命されましたので、

 その道中でした」


「あの街の領主にか・・・」


「はい、前任のコルク殿が、亡くなられたので

 新たに、陛下に、任命されました」



「そうか、それが何故、わらわ達を攻撃することになるのじゃ?」



「それについては・・・・・」



ソドム ウーゴ子爵は、ルーベンの方を見た。



「知り合いか・・・・・」



「はい、その・・・

 知人が、奴隷の首輪を付けていた理由が知りたくて・・・・・」



「知りたいか・・・

 何も隠すほどの事ではない」


ラゴは、何も問題ないとばかりに答える。



「簡単な事じゃ、こ奴らは、わらわ達を亡き者にしようとしてな、

 その報いを受けて、奴隷になっただけじゃ」



「そんな・・・・・」



「心配せぬとも、貴様も、今から同じ立場になるのじゃ

 仲良くするのだぞ。


 それと、これは、関係のない事だが、コルクは、死んでおらぬぞ」



「え!?」



「コルク殿は、生きておられるのですか?」


「生きてはおるぞ」



京太が近寄り、話に割り込む。



「奴隷としてですが、間違いなく生きているよ。


 それと、これを付けてください」



京太の手にあるのは、奴隷の首輪。



「奴隷の首輪を、私が・・・」



「嫌なら、別に構いませんが、その時は・・・・・」



馬車を見る京太。


その意図を理解したソドム ウーゴ子爵は、即答する。


「わかった。


 甘んじて受けるが、だが、家族に危害を与えれば・・・」



「そんな事はしませんよ。


 奴隷の首輪は、付けてもらうけどね」


 


ソドム ウーゴ子爵は、家族もろとも奴隷の首輪をつける事になったが

生き延びることは出来た。



「これから、私たちは、どうなるのだろうか?」



「コルクの街の領主は、諦めてもらいます。


 それから、王都への案内をお願いします」



「王都ですか?」



「はい、一度、コルクの街に戻るつもりでしたが

 こう何度も、兵士を送られては、面倒なので、

 国王に、話を付けようと思います」



「あの、本気ですか?」



「勿論、本気」



「それでは、コルクの街が?」



「それは、大丈夫。


 ボルケノとは、休戦協定を結んだし、

 街の管理も頼んでおいたから」



「休戦協定?

 街の管理?」



「そうだよ。


 だから、心配はいらないよ」



ソドム ウーゴ子爵は、初めて知る情報に、驚きを隠せない。

勿論、ルーベンも知らなかった。


そんな2人の気持ちなど、お構いなしに、京太は告げる。



「なので、案内を宜しく!」



京太達は、ソドム ウーゴ子爵に案内を任せ、

兵士達を連れて、サンドベージュの王都セイバーに向けて出発した。



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