第164話黒の大陸 狼煙

イヴァン アルバ国王との話し合いは、無事に終える事が出来た。


元々、無理難題を突きつけるつもりは無かった為、京太の出した案を

イヴァン アルバ国王は、了承した。



だが、大勢の貴族が絡んでいた為、今後の宰相など職に就く

新たな人員を配置するには、当分、苦労する事だろう。



今後、コルクの街は、ボルケノ王国で、面倒を見る事が決まり、

資金も、ボルケノ王国が出す。


また、今回の戦争においては、宰相のサドラと一部の貴族の起こした事だと公表し、

爵位と全財産の没収の上、奴隷に落とす事で話が着いた。


その奴隷の主は、京太。


その為、二度と奴隷から解放されることは無い。



当初、罪を擦り付け合い、爵位や財産没収に難色を示した貴族達だったが、

死罪を申し付けると、途端に態度が豹変し、命乞いを始めたのだ。


はっきり言って、死罪の方が楽だと思えたのだが、

死の恐怖から、逃れる事しか考えていなかった貴族達は

奴隷に落とされてから正気に戻る始末。


彼らの責任は、本人だけでは済まない。


親、子供、親族の全てが奴隷となるのだ。


当然、主は京太。


その為、一生、奴隷から這い上がる事は無い。



イヴァン アルバ国王も、この度の責任を取り、

国王の座を辞すると言って来たのだが、

残った貴族や、重鎮達から

『今、交代されては、国が亡ぶ』と説得され、

現在も国王として頑張っているが、時機を見て退位するとのこと。



一先ず、落ち着いた、この度の一件だが

これで、解決したわけでは無い事は、分かっている。


コルクの街の事は、既にサンドベージュに、伝わっているだろう。


そう思った京太達は、サンドベージュの出方を待つことにし

一旦、コルクの街に戻る事にした。




ボルケノ王国を旅立った京太達が

コルクの街に近づくと、何やら怪しい気配を感じる。



――急ごう・・・・・


馬車をかせて、

コルクの街の前まで来ると、大勢の兵士達が、入り口付近で待機していた。


また、その者達とは別に、通行する1人1人を、念入りに調べている兵士達もいた。




「これ、サンドベージュから、兵士が来たんじゃない?」



「思ったより、早いね・・・・・」



そんな会話をしながら、京太達も街の入り口に近づくと、

案の定、兵士に止められた。



「検問だ、お前達は何処から来た?」



この時点で、サンドベージュの兵士だと確信する。



「シーワンです。


 僕達は、冒険者なので」



「冒険者だと・・・・・この国に、ギルドは無い筈だが」



「そうなんですか、知りませんでした」



京太は、海で遭難し、この島に流れ着いたと説明をするが、

兵士は、持っていた紙と見比べた後、応援を呼んだ。



50人を超える兵士達が、京太達を取り囲む。




「貴様らには聞きたい事がある。


 あちらの馬車に、乗り換えて貰おうか」




京太は黙って、男の指示に従う。


当然、仲間達も一緒だ。


京太達が、乗せられた馬車には、

扉があり、鍵までついている。



「京太・・・」



「うん、わかっている」



馬車が動き出し、連行されている最中、

京太達は、兵士達の会話に耳を傾けた。




「【ゴブレ】、この者達で間違いないんだろうな」




「ああ、お前達も見ただろ、手配書の人相」




「勿論さ、でも、こんなに簡単に見つかるとは

 思っても、見なかったぜ。


 なぁ、俺たち褒美とか、貰えるのかな?」


「どうだろうな?


 でも、【ルーベン】様が、領主になれば、

 何かしらの褒美はあるかもしれないな」



「だといいけどよ。


 そのルーベン様は?」


「ああ、最後尾の馬車に、乗っておられるよ。

 

 なんでも、最後まで見届けたいそうだ」



「そんなに、俺たち、信用無いのかなぁ・・・」



「どうだろうな・・・」



この後も続いた兵士達の会話から、わかった事。


それは、京太達が、コルクの街を占拠した時、

街の外周を警備していた兵士が、王都に救援要請を送ったらしい。



だが、実際に援軍を連れて乗り込んでみると、

この街を占拠した者の姿は無く、

街自体も、戦闘があったと思えぬ程、落ち着いた状態だったのだ。




その為、今回の援軍を率いていた隊長のルーベンは、

『敵を退けた』と王都に早馬を走らせ、

この街の代理領主に、なったつもりらしい。




代理とは言え、適任者がいなければ、そのまま領主になることもある。


また、王都から領主が派遣されたとしても、

それまで、この街を守れば、それなりの地位は約束される。




ルーベンは、このチャンスを逃さない為に、街の防衛に力を入れると同時に

敵(京太)の姿を見た者から、特徴を聞き、人相書きを作らせた。



そして現在・・・

手配書の男を捕らえた兵士達と共に、

京太達を、どこかに運んでいる。



馬車は街から遠く離れ、広く、何も無い場所で、急に止まった。



御者をしていた者が、馬を開放すると同時に、

急いでその場から立ち去る。




「やれ!」




合図とともに、火矢や魔法の炎が、

京太達の乗っている馬車に向かって、一斉に放たれた。


360度からの一斉攻撃。


京太達に逃げる道など、残っていない。




一度目の攻撃を終えると、

待機していた兵士達により、二度目の攻撃が直ぐに始まった。




京太達を確実に仕留める為、過剰なほどの攻撃を連続で繰り返し、

馬車が廃になるまで続けた。




「攻撃止め!」




合図とともに攻撃が止み、静けさが訪れる。




兵士達が囲む、円の中心の馬車からは、煙が上がっており、

まだ、近づく事も、死体を拝む事も出来ていない。



少し、煙が収まったその時、

ルーベンの目に、煙の中に立つ何かが映る。




――もしかして、まだ、生きている?・・・・・・




目の前の煙が、晴れて行くとともに、

その正体が、露となった。




「撃てぇ!!!

 攻撃を続けろぉーーーーー!」




ルーベンの叫びに、慌てて攻撃を再開しようと兵士達だったが、

京太達には、十分な時間だった。




煙の中から飛び出す数が6つ。


ソニア、サリー、クオン、エクス、ハク、ラムは、それぞれの方向に走り出す。


勿論、逃亡の為ではなく、相手を殲滅する為だ。




自分の事よりも、仲間が攻撃をされた事に、全員が怒りを覚えいた。




――絶対に許さない・・・・・




勿論、京太も同じ考えで、誰一人逃す気は無い。


この度の件は、京太自身が招いたとも言える。




相手に従って付いて行っても、何とかなると思っていた。



確かに何とかなった。


今回も京太の結界魔法により、全員無事だ。


だが、京太の心は晴れない。




――もっと・・・・・何か別の方法が、あったのかも・・・・・・




1人で、悩んでいても戦いは、待ってくれない。




「京太様、また『自分のせいだ』とか、くだらない事を考えていませんか?」




イライザに図星をつかれ、言葉を失う。



その様子にイライザは、『クスッ』と笑った。



「京太様、私達は、ただ、闇雲に貴方に従っている訳では、ありませんわ。 


 自分の意思でここにいるのです。


 だから・・・・・」




イライザの言いたい事はわかる。


そんな、イライザと他の仲間達に、感謝を言葉にする。




「有難う。


 気持ちを切り替えるよ」




まだ、完全に心が晴れた訳では無いが、幾分かは楽になっていた。




――本当に、ありがとう・・・・・・




もう一度、心の中で感謝を告げた後、残っていた仲間に指示を出す。




「ラゴ、フーカ、空から攻撃。


 逃げだす者達の始末を頼むよ」




「うむ」




「はーい!」




2人は、空に向って飛び出した。


同時に、煙の中から、周囲に向けての魔法攻撃が始まる。




兵士達は、何も出来ず。

先程とは、全く逆の構図へと変わっていた。


外から、中心にいる京太達に向かって放たれていた攻撃が、

今では、中心から外に向けての攻撃が始まっている。




威力の違いから、いともたやすく倒れてゆく兵士達。


包囲網は、完全に破壊された。




その圧倒的な強さに恐怖を覚え、逃げ出そうとする者達がいたが、

上空から様子を伺っている2人が、逃がす筈もない。




戦場は、京太達の独壇場へと変わった。


あまりの力の違いや、

次々に倒される仲間達に、完全に心が折れた兵士達。




「無理だ・・・・・勝てる訳ねえよ・・・・・」




兵士の1人が、武器を捨てた。


その動きに追従するように、武器を捨て、降伏を始める兵士達。


それは、伝染病のように瞬く間に広がり、

この場での決着がつく原因となった。




抵抗を続けた最後の1人を倒し終え、戦いは終わった。


それでも、残ったのは、10人にも満たない。


京太は、その者達を一カ所に集める。




「皆さんには、これをつけて貰います」




アイテムボックスから、大量に購入した奴隷の首輪を取り出し、

生き残った兵士に見せる。



「あの、この後、俺達は、どうなるんだ?」




「えっ!?


 奴隷として生きて貰うだけですよ」



愕然とする兵士達の中には、

領主代行のルーベンの姿もあった。


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