第163話黒の大陸 王城にて

ボルケノ軍、スティーブ兵団長の案内に従い、京太達は王都に向かって歩く。




勿論、生き残った兵士達も一緒だ。


彼らは、京太達に降伏した兵士達なので、表立って逆らう者はいない。


それでも、一部の兵士は、あの時の恐怖を忘れたのか

京太達に攻撃を仕掛ける機会を狙っている。




――このままで。終わってたまるか!・・・・・・




――ああ、王都に到着するまでの間に、決着をつけるぞ・・・・・




集団の中に紛れるようにして、ヒソヒソと話しをしていた。




そして、その日の夜・・・・・


兵士達から少し離れた所で、野宿をしている京太達のもとへ近づく影。




「大丈夫だ、物音1つしない・・・・・完全に寝入っているぞ」




京太達のテントに耳をあてて、中の様子を伺った男が合図を送る。


すると、その後ろに控えていた男達が剣を抜いた。




「いくぞ!」




男達は、一斉にテントの中に押し入る。


しかし、そこには、誰もいなかった。




「え!?」




「どういう事だ・・・・・」




焦る男達の後ろから、京太達が姿を現す。




「僕達に、何か御用ですか?」




男達は、剣を持ったまま、振り返った。




「いつの間に・・・・・」




「主様、命を要らぬ者達が、集まった様だが・・・・どうするのじゃ?」




ラゴが、淡々と問うと、京太も感情なく答えた。




「そうだね、夜襲を仕掛けるとか・・・・・本当に・・・残念だよ」




京太は、誰かに呼ばれたのか、この場に遅れてやって来た男に問う。




「これ、どう責任を取るの?」




「・・・・・申し訳御座いません。


 こんな馬鹿な真似をする者が、本当に現れるとは・・・


 この件は、こちらで、始末をつけさせて頂きます」



京太に謝罪を述べたのは、兵団長のスティーブ。



そのスティーブ兵団長に向かって、襲撃者の1人が、大声で叫ぶ。



「兵団長、本当にこれでいいと思っているのか!?


 こいつらは、王都を破壊するかもしれないんだぞ。


 そんな奴らを、王都になんて・・・・・


 俺は、認めない。


 絶対に認めないからな!!」



最後の最後まで、諦めず、大声で叫んだが

スティーブ兵団長は殴って、その男を止めた。



「いいかよく聞け!


 我らは、負けたんだ。


 その場合、我らを生かすも殺すも、京太殿に委ねられている。


 言っていることが理解できるか?


 貴様の行動一つで、我ら全員が、死ぬこともあるのだぞ。


 それを、理解したうえで、こんな事をしたのなら・・・貴様は・・・」



 睨みつけるスティーブ兵団長に、謝罪の言葉を口にする襲撃者たち。



「俺たちに、そんなつもりは無かった。


 いや、そこまで考えていなかった。


 だけど・・・・・」



まだ、物足りないのか、再び何か言おうとしたが、

スティーブ兵団長の本気の目を見て、怯み、謝罪をくちにする。



「申し訳ありません」



「うぅ・・・・」



スティーブ兵団長は、兵士に命令し、

襲撃者たちを何処かへ連れ去った。


兵士達が連行した後、スティーブ兵団長は、もう一度、京太に頭を下げる。




「京太殿、申し訳御座いません。


 二度とこの様な事は、起こさせませんので、どうか・・・・・・」




「わかった。


 今回の事は、任せるよ」




「有難う御座います」




今回の襲撃を知らせたのは、ヨーグルと一緒にいた兵士の1人。


彼は、襲撃者達の話を偶然耳にしていた。


襲撃が成功しても、失敗しても、碌な事にならないと思ったので

直ぐに、スティーブ兵団長に相談したのだ。



当然、スティーブ兵団長の顔が歪む。



「愚かな事を、思いつくものだ。


 どちらにしろ、このまま放ってはおけぬ。


 直ぐに知らせに行こう」




スティーブ兵団長は、この話を京太に知らせると同時に、

万が一に備えて頂く事と、自分達での処理を望んだのだ。



そして現在、襲撃者たちは、森の奥深くに連れて来られた。



「こんな所まで連れて来て、俺達をどうするのだ!」




「・・・・・」




「おい・・・・・」




兵士達の様子から、襲撃者達は、恐怖を感じる。




「お、おい、俺達は仲間だろ・・・・・なぁ・・・・・」




「・・・・・貴様らの行いが、仲間を危険に晒したのだ」




「それは・・・・・」




兵士達は、襲撃者達の首を刎ね、地中深くに埋めた。




翌日、スティーブ兵団長は、兵士を集めて、昨日の事件を話す。




「昨日、京太殿達に夜襲をかけた者達がいる。


 我等は、降伏した身だ、本来、故郷に帰る事も許されないが、

 この度の一件の首謀者に会わせる事を条件に、帰還を許るされているのだ。


 皆も、その事を肝に銘じてくれ」




わが身可愛さからの行動かも知れないが、兵士達は頷き、理解を示す。


その後は、スティーブ兵団長の言葉が効いたのか

何事も無く、王都に辿り着いた。




王都に入る時、警備をしている兵士達は、

スティーブ兵団長が、敵を捕らえたと勘違いをし、

問題なく、王都への入場を許された。



暫くして、京太がスティーブ兵団長に、話しかける。



「スティーブさん、兵士の方々は、解散でもいいよ」




「え!?


 宜しいのですか?」



スティーブ兵団長は、王城に辿り着き、

何らかの条件を提示してからの解散かと思っていただけに

この発言には、驚いた。


しかし、京太は、何でもない事の様に、話しを続ける。




「うん、あまり大勢だと大変でしょ、だから構わないよ」




「え、あ、その、有難う御座います」




スティーブ兵団長は、数人の兵を残し、解散を言い渡す。



「皆、今回の長旅、ご苦労だった。


 この場で、解散を言い渡すが、今後の行動には

 責任を持つように。


 以上だ」



解放された兵士達は、何が起こったのか理解が出来なかった。


自分たちは、捕虜になった筈。


だが、自身の故郷に到着するや否や、解散を言い渡されたのだ。



この行為は、甘いともとれるが、

自身の思考以上の行動や行為をとられると、人は、勝手に憶測を膨らます。


安易に、解放されただけだと考える者の方が少ない。



そう・・・


『殺すことなど容易に出来る。だから、貴様ら如きが、何処にいても問題ない。』


多くの兵士達は、そう感じてしまった。



この度の戦で、感じてきた恐怖が、ここにきて効果を発揮し、

勝手に、底知れぬ恐怖を与えたのだ。



だからなのか、解放された筈なのに、兵士達の足取りは重い。


そんな兵士達を見送ったスティーブ兵団長は、

京太達を連れて王城へと向かった。



「王様には、会えるの?」



「はい、ですが、どうか陛下だけは、許して頂けませんか?」




スティーブ兵団長は、足を止め、再び京太に頭を下げる。




「指示を出したのは、王様?」


「確かに、貴族の後押しがあり、最終的には王の命令となっていますが、

 実際に提案をしたのは、あの時、申しましたが、宰相のサドラです」




「なら、僕の狙いは、そのサドラという男と貴族連中だよ。


 でも、忘れないで欲しい。


 今後の成り行き次第では、この国の王も、許さないよ」




「ええ、わかっております。


 そうならない様に、努力致します」




再び頭を下げるスティーブ兵団長に、問いかける京太。




「王様の事が、大切なんですね」




「はい・・・・・私は、平民の出身です。


 そんな私を拾って下さり、この兵団長の地位まで育てて下さったのは、

 陛下ですから」




京太は、王城に着くまでの間、スティーブ兵団長から、

この街の事などを聞きながら歩いた。




王城に到着すると、スティーブ兵団長は、

警備の兵士に話をつけた。




「行きましょう」




狙いが、貴族と宰相のサドラだと告げてから

スティーブ兵団長の足取りが軽い。




――この人、余程、王様が好きなんだなぁ・・・・・・




そんな事を思っている内に、謁見の間に辿り着く。




「今、陛下と、一部ですが、貴族の方々も、揃っているそうです」




「わかった」




京太は、仲間に目配せをする。


皆が頷くと、スティーブ兵団長が

控えていた兵士に、開けるようにと促した。



謁見の間に入る京太達。



檀上には、イヴァン アルバ国王が座っていた。



そこから、少し離れた所で、宰相のサドラが、

京太達を値踏みするかのような目で見ている。




――あ奴らが、コルトの街の・・・・・



京太達は、その視線に気付いているが、敢えて無視をした。



スティーブ兵団長が、片膝をつき、陛下に挨拶を終えると

イヴァン アルバ国王が、口を開く。



「スティーブよ、この度の任、誠にご苦労であった。


 それで、コルトの街を占領していたのは、その者達か?」




イヴァン アルバ国王は、労いの言葉と同時に、質問をする。




「はっ、左様に御座います」




「そうか、その者達か・・・・・」




イヴァン アルバ国王の話が途切れると、宰相のサドラが、

スティーブ兵団長に声をかける。




「流石、我が国の最強の戦士。


 これ程見事に捕らえて来るとは・・・・・

 だが、首輪も手枷もしていないとは、どういう事かな?


 あまり、感心出来ませんな」




その言葉に同意するように、両側に並んでいた貴族連中も頷く。




「サドラ殿、1つ、聞いても宜しいですか?」




「何でしょう?」




「この度の戦の責任は、どうするおつもりですか?」




話しが、噛み合っておらず、サドラは理解出来ない。




「どういう事か、分からないのだが・・・・・」




ここで、スティーブ兵団長は、事実を告げる。




「この度の戦、一般兵500に加えて、

 貴族の子弟やその者達が連れていた私兵、

 合わせて約700名でのコルトの街への襲撃作戦ですが

 我らは、敗北しました。


 この責を、どうするおつもりか聞いているのです!」




捲し立てるように告げたスティーブ兵団長は、宰相のサドラに問うが

理解が追い付いていない。



困惑しながらも、宰相のサドラが口を開く。




「敗北・・・・・?


 そんな事、あろうはずもなかろう。


 現に、貴殿が、その者達を捕らえているではないか」




未だ、理解していないサドラに、状況を分からせる為に

スティーブ兵団長は、首に巻いていたスカーフを外す。




サドラより先に、周囲の貴族が気が付いた。




「奴隷の首輪だと!!」




イヴァン アルバ国王も目を見開き、椅子から乗り出す。




「スティーブ・・・・・お主・・・・・」




「陛下、申し訳御座いません。


 約700名の内、この街に戻って来れたのは、170名です。


 しかも、全員が、奴隷になりました」




「壊滅的ではないか!


 しかも、生き残りが、170名だと・・・・・」




「はい・・・・・」




ここに来て、ようやく事態の重さに気付く。




「私は、具申しただけで、この度の戦を決めたのは・・・・・」




流石にサドラも『陛下のせいだ』とは言えず、貴族達を見る。




先程まで、勢いのあった貴族連中も、サドラと目も合わせようとなしない。


仲間に裏切られた宰相のサドラは、それでも必要に貴族連中を攻め立てる。




「貴殿等も、賛成したではないか!


 それに、後の事を考え、自身の兵を送り込んだであろう!」




ここに、姿を見せている貴族の殆どが、私兵を送り込んでいた。


中には、武勲を持たす為に、実子や子弟を送り込んだ者達もいる。




「兵団長・・・・・私の息子は?」




スティーブ兵団長は、首を横に振る。




「武勲を立てようと、先走った者達に生き残りは、おりません」




「なんと・・・・・」




その言葉に、数名の貴族は膝をつく。




――私は、何という事を・・・・・




「勝てる戦では無かったのか!?」




自身の事を棚に上げ、宰相のサドラに言い寄る貴族達。


その光景を、京太達は黙って見ている。




「スティーブよ、1つ聞かせてくれ。


 その者達は、何故、此処に来たのだ?」




イヴァン アルバ国王は、力無く問う。




「彼らは、責任を取らせる為に来たのです」




「責任とな・・・・・これだけの人が死んだのに、まだ、責任を求めるのか?」




イヴァン アルバ国王の発言は、看過できない。




「そうですか、責任は、取らないのですね」




「それは・・・・・」




イヴァン アルバ国王は、何か言おうとしたが、

京太の雰囲気が、先程と違う事に気が付き、言葉を引っ込める。




「責任を取らないのでしたら、貴方達がコルクの街を攻めたように

 今から、王都を攻めましょう」




京太は、そう言い残し、謁見の間から去ろうとする。




「待ってくれ!」




スティーブ兵団長は、慌てて止めようと

京太達の道を塞ぎ、両膝をつく。




「もう少し・・・・・あと、少しだけ、時間をくれないか?」




ボルケノで『最強』と謳われた虎人族のスティーブが、両膝を付き、懇願する様に

イヴァン アルバ国王は、自身の発言と配慮に欠けていた事を知る。




――我々は、間違えたのだな・・・・・



イヴァン アルバ国王は、近衛兵に命令を下す。



「サドラを捕らえよ!」



「陛下!」



サドラの叫びにも似た声を無視し、

檀上から下りてくるイヴァン アルバ国王。


そして、京太の前に立つ。




「京太殿、この度の件、全て私の責任だ。


 どうか、許して貰えないだろうか」




イヴァン アルバ国王は、頭を下げる。




「・・・・・僕は、休戦協定を申し入れました。


 しかし、貴方達は、その申し出を断り、戦う事を選んだのです」




「・・・・・」




「もし、僕達が負けていれば、どうなっていたのでしょうか?」



「確かに、思慮に欠けたと言わざる得ない。


 だが、我らも突然、休戦協定などと言われても、

 その言葉を、信用することが、難しかったのだ。」



「それは、理解できます。


 だから先に、コルクの街で、奴隷となっていた

 この国の者達を開放し、送り返した筈です。


 それでも、信用出来なかったと?」



「確かに、その通りなのだが・・・・・」



──あの時、ヨーグルの話をもっと聞いていれば、

  多くの兵士を、失わずに済んだのだな・・・・・


  私も、好機と告げるサドラの言葉を信じた一人だ。


  責任を取るとしよう・・・・


  だが、その前に・・・



「京太殿、この度の事、改めてお詫び申し上げる。


 貴殿の言う通り、申し開きの言葉もない。


 なので、責任は、きちんと取らせて頂く」



そう告げたイヴァン アルバ国王は

両脇に並ぶ貴族たちに向けて、言葉を発する。



「この度の件、貴殿らにも責任を取って頂く。


 此処にいる全員を捕らえ、連行しろ!」



イヴァン アルバ国王の命令で、貴族達も謁見の間から連れ出された。




静かになった謁見の間に残っているのは、

京太達とイヴァン アルバ国王、そしてスティーブ。



「陛下・・・・・」



スティーブの呟きに、顔を向けるイヴァン アルバ国王。



「私が不甲斐ないばかりに申し訳ない」



謝罪をするイヴァン アルバ国王を、

スティーブ兵団長は、必死に止める。




「お止め下さい、至らなかったのは、この私です。


 どうか、お顔を、お上げください」



「ああ、ありがとう」



「では、静かになった事ですし、話し合いを始めましょうか?」



再び、京太に向き合う事になったイヴァン アルバ国王は、

今後の事と、今回の賠償について話し合いを始めた。



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