第162話黒の大陸 王都へ

街を守る為、立ち塞がる京太達。


だが、奴隷解放の事など、気にもしておらず、

自己利益の為だけに参加し、

初めて京太達の姿を見た者達は、笑みを浮かべた。




「殆どが、女ではないか・・・・・それに男のガキが1人か・・・・・

 これは、儲かる・・・・・」




今回の戦いは、単純にコルクの街を蹂躙するだけだと思っている者達が多く、

少しでも多くの利益を得る為に、貴族連中までもが、

私兵を送り込んでいる状態なのだ。




そんな慢心している状態で、京太達の姿を見た者達が、

相手の力量など、まともに計れる筈も無い。




「全員、突撃!


 奴らを捕獲した後は、そのまま街に攻め込むのだ!」




ボルケノの王、イヴァン アルバの命令で、

今回の指揮を担当している兵団長の【スティーブ】は、突撃を命じた。




合図に従い、我先にと、走り出す兵士や私兵達の後方に

命令を無視して、その場で待機している者達の姿が見えた。



その者達は、タイミングを見計らい、全く別方向へと駆け出す。




──あれって、もしかして・・・・・



思い当たる節がある京太だが、今は、目の前の敵に集中することにし

アイテムボックスから剣を取り出す。




亜人達の中には、人族よりも身体能力が高い者が多い。


その特性を活かした走りで、一気に、京太に接近する。




「俺達が、一番乗りだぜ!」




「おう!」




先頭を走る犬人族の【ビルマ】と【フッド】の狙いは、京太。




「人族如き、我等の相手には、ならんわ!」



「それに、あのガキさえ始末してしまえば、

 後は、女。


 今回は、おいしい話だぜ!」



犬人族の特性なのか、京太に近づくにつれ

ビルマとフッドの口角が上がり、涎を撒き散らし始める。



だが、あと数歩という所で、突然、首を刎ねられた。




京太に対して、真っ直ぐに突撃をして来たビルマとフッドは、

速さで勝るクオンとエクスの横からの攻撃に、対応が出来なかったのだ。




「何が起きたんだ・・・・・」




ビルマとフッドの後を追っていたリザードマン達の足が止まる。


そこに、ハクのブリザードが放たれ、リザードマン達が凍り付いた。




生きたまま氷の彫刻にされたリザードマン達の間を縫うように、

クオンとエクスが走り抜けて敵に襲撃をかけた。




クオンとエクスの攻撃を合図とばかりに、

ボルケノ軍に向けて、イライザとマチルダの魔法が放たれる。


マチルダが水の魔法ビックウェーブで、

ボルケノ軍を押し流す。




死ぬことは無かったが、体力を奪われた兵士達が立ち上がると、

今度は、イライザが雷の魔法を放つ。



「ギャァァァァァ!」



「ぐわぁぁぁぁ!!」




雷は、水を辿り、次々に兵士達を感電させる。


恐れを抱いた兵士や、隊長たちは、

我先にと、近くの森へと逃げ込もうと走り出したが

そこは、エルフであるラムとミーシャのもっとも得意とする戦場。



『エルフは、森や山での戦闘が得意』


それは、誰しもが知っている事。


だが、そんな事も忘れてしまう程、

頭が回らなかったボルケーノの兵士達。


森に逃げ込んで、安堵する。



しかし、そこに容赦なく、矢や魔法が降り注いだ。



「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」



何処に、隠れても襲われる恐怖に、兵士達の足がすくむ。



「駄目だ、もう駄目だ・・・」



「何を言っているんだ、早く立て!


 ここにいても、殺されるだけだぞ!!」



必死に、逃げ惑う兵士達。


その姿を見て、仲間同士で固まっていた貴族の私兵達は、

兵士達とは離れ、別の道を辿り、撤退を始めた。



「こっちだ」



今回の戦いには、貴族の子弟なども、武勲を上げさせる為に、

親たちから、無理やり参加させられている者も多くいた。



同時に、その者達に万が一の事があってはならないと

森の中に、馬車を隠していたのだ。



隠しておいた馬車へと、隠れて進む貴族の息子と、私兵達。


だが、無理やり参加させられ、恐怖に陥った貴族の息子は、

そんな状況などお構いなしに、大声を上げる。



「だから、僕は嫌だったんだ!


 どうして、こんな目に遭うんだよ!」




「若様、お叱りや文句は、あとで幾らでも聞きます。


 ですので、今は、急いでください」



貴族の息子の背中を押し、

身を隠しながら、必死で護衛をして、

やっとの思いで、辿り着いた場所には、破壊された馬車しかなく

馬も、何処かへ逃げていた。



「どういうことだ・・・・・」



「おい、馬車は、何処にあるのだ?」



未だ、状況が呑み込めていない貴族の息子。



「そ、それが・・・・・」



口籠る私兵。


そんな者達の前に、ゴスロリ服を着た少女が姿を見せる。



「貴様ら、何処に行こうとしておるのだ。


 逃げ道など何処にもないぞ?」



「なんだ、この女」



「!!!


 もしかして、例の奴らの仲間か!」



私兵達が、慌てて武器を構えたが、もう遅い。


 


「貴様等に、逃げ道などあると思っているのか。


 愚かどもめが・・・・・


 自己の行いを反省しながら、旅立つがよい。


 ダークプレス」




貴族の息子共々、この場にいた全員が押し潰され、

息の根を止められた。




「ふんっ!


 口ほどにも無い奴らじゃ・・・・・」




ラゴは、そう言い放つと、森の中へと姿を消す。






その頃、命令を無視し、その場に待機した兵士達は

少し離れた場所に、姿を隠していた。



その隊の隊長のヨーグルは、考えていた。



──最悪、日をまたいでボルケーノに戻れば、何とかなるか・・・・・

  それとも、何か他に手が・・・・・



必死に思考を巡らせていると、突然声が掛かる。



「あっ、やっぱり、あなた達だったんだね」



ヨーグルが顔を上げると、そこには笑顔の京太がいた。



「!!!


 何故、ここに?」



「うん、こっちに逃げていくのが見えていたから」



ヨーグルは、焦った表情になったが、京太は、笑顔のままだ。



「戦いに参加しなかったのですね」



「ああ。


 貴方には、恩がある。


 それに、こんなやり方は・・・嫌だ」



必死に絞り出した言葉は、子供の言い訳のような言葉だが

この言葉は、ヨーグルの本心なのだ。



「なら、戦いを終わらせましょう」



「え?」



「この大陸には、用事があって来たので

 あまり時間もありません。


 なので、とっとと終わらせます。


 それで、お願いがあります」



京太は、そう言うとアイテムボックスから奴隷の首輪を取り出した。



「これを、付けてください。


 勿論本当に、奴隷にするつもりはありません。

 ただ、これを付けていてもらった方が、貴方達も安全なんです」



ヨーグルは、直ぐに理解し、奴隷の首輪を付ける。



「奴隷を開放してくれた貴方だ。


 信じよう」



その言葉を聞いた兵士達も、次々に奴隷の首輪を取り付けた。


皆が取り付け終えると、

京太は、『ここで待っていて』とだけヨーグルに告げて、

その場から去った。





その頃・・・・・


兵士から、報告を受けたスティーブは、敗北を悟る。




「ここまでか・・・・・」



降伏しか、生き延びる術が無い事を理解すると、

直ぐに行動に移す。




―― 一人でも多くの仲間を救わねば・・・・・・




同時刻、スティーブと同じ様な考えに至った兵士達は、

武器を捨て降伏する道を選ぶ。



ただ一つ、違う所があるとすれば、

万が一、奴隷にされても、

京太なら直ぐに解放してくれるので、

改めて攻めればいいと思っての行動だった。




その行動を後押しするかの様に、

スティーブから、武器を捨てて降伏する様にと、命令が下る。


安堵と共に、笑みを浮かべる兵士達。



「考える事は、一緒だな」



「まぁ、次は、もっと上手くやるさ」



兵士達は、笑顔で武器を手放した。




しかし、完全に舐めていた心を、捨てきれてはいなかった。


その思いが、行動にでる。



京太の仲間達と、遭遇すると、

悪態をつき、攻撃を仕掛けてみるのだ。


だが、その攻撃が躱されると、直ぐに武器を捨て、降伏をする。



そして、下卑た笑みを浮かべている・・・・。



その可笑しな様子に気付いたラゴが、確証を得るために動く。




ラゴに遭遇した兵士は、やはり同じような行動にでる。




兵士達は、最初に相手が少女だから、

『勝てる!』と思い、攻撃を仕掛けて来るが

敵わないとわかると、直ぐに武器を捨て、両手を上げた。




「待った!

 待った!

 俺達の負けだ、降参だ」



へらへらしながら、両手を上げる様は、

歪でしかない。



ラゴの怒りが増す。




「ほぅ、ならば何故、最初からそうしないのだ?」




「へへへ・・・・・もしかして、勝てるかもと思っただけだ。


 お嬢ちゃん、そんなに怒るなよ」




兵士の態度は、降伏する者と思えない様な態度。




その態度が、ラゴの怒りの限界を超えさせた。




「貴様等は、何か勘違いをしておる様じゃのぅ・・・・・


 わらわ達が、コルクの街の奴隷を開放したから、

 降伏すれば、この度も事も、どうにでもなると思っておるのではないのか?」




ラゴの質問は、的を得ていた。


その為、兵士達の顔から、笑顔が消える。




「顔は、口ほどにものを言うようだな・・・・・」




ラゴは、ゆっくりと近づき、男を斬り殺す。




助かると思っていた兵士達。


だが、現実は甘くなく、目の前の光景に言葉を失っている。




「ヒィィィィ!」




ここに来て、改めて後悔をする兵士達。


彼らにとって、ラゴは、もはや恐怖そのものへと変化した。




「お、お許しください・・・・・

 お許しください・・・・・

 お許しください・・・・・」




呪文のように謝罪を繰り返す兵士達に、ラゴは告げる。




「許さぬ」




その後、その光景を見た者達から、

『降伏すれば、助かる』と言うのは、全くのデマだったと

兵士達の間で広まった。



勿論、このラゴの行動は、京太も知っている。


ボルケーノという国は、当初から京太を舐めていたのだ。


それに、謁見もせず、休戦協定を言い出した事からも

詰めが甘く、お人好しだとも捉えられていた。



だからこそ、その場しのぎで、降伏さえすれば

後は、どうとでもなると踏み、その旨を、スティーブに厳命しており

今回このような手に打って出たのだ。




このような現状に、京太は、落ち込む。



「僕は、本当に休戦協定を結んで欲しかっただけなんだけど・・・・・・」




表情も、雲っており、項垂れた状態で、動きを止めている。



──もっと段取りに時間を掛け、慎重に行動するべきだったか・・・・・


──亜人と人族が共存している国と聞き、甘えがあったのか・・・・・



──奴隷を解放したのは、間違いだったのか・・・・



その様な考えが頭の中を巡り、

自問していると、背中に温かいものを感じた。




「京太様、元気を出して下さい。


 私達は、何があっても貴方の味方で、妻ですから、

 この様な時は、頼って下さい」



単純な事だが、このイライザの思いと行動が、

京太を、落ち着かせた。



京太は、後ろから抱き着いているイライザの手を握る。




「有難う」




京太は、深く悩むことを止め、この元凶を断つことにした。




「このまま王都に乗り込もう」




「はい!」




皆も京太に従い、残っていた兵士達を屠りながら先に進む。



「相手を殺そうと思って、武器を手に取ったのなら、

 その相手に殺されても、文句は言えません。


 貴方達には、その自覚があったから、

 今、この場にいるのではありませんか?」



天にも届きそうなほどの声で、告げたイライザ。


それは、相手を恐怖に陥れるには、十分な効果をもたらした。




先程まで、下卑た笑みを見せながら降伏を謳っていた兵士達も、

京太の周りの女性達の鬼の様な表情に怯え、

降伏する事も出来なくなっている。



怯えて、動きを止めれば、殺される・・・・


走って逃げても、追いつかれる・・・・・


戦いを挑めば、傷をつける事も許されず、殺される・・・・


残るのは、兵士達達の悲鳴。


まさに地獄絵図。


阿鼻叫喚のちまたと化していた。




そんな中、高価な装備を纏った男が、

京太の前に現れ、両膝を付く。




「私は、兵団長のスティーブと申します。


 この度の戦、我等の敗北を認めまので

 どうか、お怒りをお静め下さい」




スティーブ兵団長は、頭を地につけて謝罪を口にする。


しかし、京太が言葉を発する前に、ラゴの怒りが爆発した。




「戦だと・・・・・貴様らは、だまし討ちをし、街に兵を送り込んだ。


 そして、関係の無い者を殺しておいて、その様な戯言を口にするのか!」




「・・・・・」




「答えぬか・・・・・ならば、このまま先に進ませてもらうぞ」




その言葉を聞き、スティーブ兵団長は、回り込み、再び頭を下げる。




「お怒りは、ごもっともです。


 私に出来る事なら何でも致します。


 ですから、どうか・・・・・」




ラゴが、何か言おうとしたが、京太が止める。




「ラゴ、有難う。


 この先は、僕が話すよ」




「むぅ・・・・・」




京太は、スティーブ兵団長と視線を合わせる。




「僕は、休戦協定を申し入れました。


 しかし、貴方達は、その事を利用し、街に兵を送り込んだ。


 それは、誰が決めたのですか?」




「・・・・・宰相のサドラ様だ」




「では、その方のもとに案内をして下さい。


 それと、この場に残っている兵士達に集合をかけて下さい」




「わかった」




スティーブ兵団長は、京太の命令に従い、行動に移す。


まず、近くにいた兵士に、戦いは終わった事を告げると同時に、

この場に集まる様にと指示を出す。



そして、自らも伝えてまわる。



暫くして、京太の前に、生き残っていた兵士達が集まった。



「それでは、案内をお願いします」



「わかった」






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