第161話黒の大陸 反撃の一歩

~ボルケノ国、王城~




京太と接触したヨーグルは、謁見の間にて報告をしていた。




「陛下、この度、コルクの街で奴隷にされていた者達が解放されました」




「なんと!


 一体、何があったのだ」




「詳しくは存じませんが、京太と名乗る者が、

 サンドベージュからコルクの街を奪ったようです」




続けて、ヨーグルは、京太が、休戦協定をの申し出をしてきている事を伝えた。




「休戦協定か・・・・・」




悩む【イヴァン アルバ】国王に宰相の【サドラ】が横やりを入れる。




「陛下、その申し出ですが、受ける必要は、ありません。


 ヨーグル隊長の言葉が事実なら、これ程の好機は御座いません。


 今こそ、軍を進める時です。


 そして、コルクの街を奪えば、この先の戦闘が有利になりますぞ!」




謁見の間に集まっていた重鎮達からも、サドラの意見を後押しする声が飛びかう。




「そうだ!」




「今こそ、決着をつける時だ!」




戦いを望む声が大きくなるにつれ、ヨーグルは焦る。




――あの者達が、奴隷を開放してくれたのは

  戦いを止める為。


  だが、このままでは・・・・・・




今回の一件は、兵士達の間でも、半分に割れていた。


しかし、上層部が戦争をすると判断を下した場合、兵士達は黙って従うしかない。




ヨーグルは、必死に心の中で祈る。




――どうか、休戦協定に同意してくれ・・・・・




だが、その思いは砕け散る。



「同意したふりをして、内部で混乱を起こさせましょう。


 その隙に、一気に攻め込みましょう」



貴族達もこの意見に賛成し、『コルク襲撃作戦』が行われる事になった。



――すまない、京太殿・・・・・・





決行日、ボルケノ軍は、いつもより離れて軍を配置した。


そして、万が一の事も考えて、

少し離れた場所に奇襲部隊も配備した二段構えだ。




「では【ノック】、頼んだぞ」



「ああ、任せてくれ」



「よし、街から煙が上がれば、作戦開始の合図だ」



実行犯となる兵士達は、血気盛んな者達で構成されており、

全員が、戦争推進派だった兵士達。




その為、ヨーグルの姿は無い。




作戦開始の時刻になり、10頭の馬に乗った亜人達が、

コルクの街に向けて走り出す。




「アイツらも、今日で終わりだな」




「ああ、俺達の手で、終らせてやろうぜ」




「「おう!」」




手紙を渡す役割の亜人達が、コルクの街へと辿り着いた。




「我々は、ボルケノ国から手紙を持ってきた。


 京太殿に、お目通り願いたい」




その言葉を受けて、コルクの街の門が開く。



ノックを先頭に、ボルケノの兵士達は、ゆっくりと馬を進め

上手く街の中へと入った。




――上手く行ったぜ・・・・フフフ、目にもの見せてやる・・・・・・




奴隷となった兵士の案内に従って進むと、

京太達の滞在する屋敷に到着する。




「このままお待ちください」




「ああ、・・・」




ノック達は、馬から降りて待機していると

案内をしてきた兵士が屋敷の扉を叩き、

中から出て来たメイドに告げる。




「ボルケノからの、使者が参りました」




「畏まりました、私がご案内させて頂きます」




メイドが、屋敷の扉を大きく開けた。




――クククッ・・・・・そろそろだな・・・・・・




ノックが、作戦開始の命令を出すと

背後にいた亜人が、発煙筒を焚き、

街の外で、待機している仲間に合図を送った。



同時に、ボルケノの兵士達は、

案内をしてきた兵士とメイドに襲い掛かる。



「貴様等、何を!・・・・・」



「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」



不意を突かれた兵士とメイドは、

帰らぬ人となった。



ボルケノの民は、仲間の人族に対しては、友好的だが

関係のない者達に対しては、厳しい態度で接する。


まして、敵対国の人間など、生かすつもりなど毛頭ない。



街に潜入した10人のボルケノ軍は、屋敷の中へと突入する。



「奴らは、この中だ、絶対に逃がすな!」



屋敷の扉を蹴破り、兵士達は、一階と二階に分かれて捜索を開始した。



屋敷の二階へと上がり、

1部屋ずつ捜索する兵士達の前に、突然、幼い少女が姿を見せる。



――悪いが、死んで貰うぜ・・・・・・



兵士は、血の付いた剣を振り上げ、ゆっくりと近づく。




――子供を殺す趣味は、無いんだが・・・・・



そう思った瞬間、目の前にいた筈の少女の姿が消えた。




「え!?」




先程まで、正面にいた筈の少女が、今は、自分の横にいる。




――あれっ、俺の体は、あそこにあるのに・・・・・・




兵士の首は切り離され、床に落ちた。




「お兄ちゃんに知らせないと・・・・・」



クオンは振り返り、どこかへ駆け出して行く。


クオンと入れ違いとなり、部屋から出て来た兵士達は、

仲間が殺されている事に気が付くと大声を上げた。



「ちきしょう!!!


 ノック隊長、1人、やられました」




「チッ、あいつは馬鹿か!


 これで、完全に気付かれたじゃねえか!」




血気盛んなだけの兵士を連れて来た事が、裏目に出たのだ。




――どこかに火を点けて、一度、退却するか・・・・・・




ノックは、出来るだけ冷静に頭を働かせるが

その思考を遮るかの様に、悲鳴が木霊する。




「グハァァァ!」




「たすけてくれぇぇぇ!」




「ヒィィィィィ!!」




ノックにとっては、聞き覚えのある声ばかり。




――ちくしょう・・・・・どうなっているんだ・・・・・




つい先ほどまで、負ける事など考えていなかった。


しかし、二手に分かれて捜索を始めた途端に、

仲間達の悲鳴だけが聞こえて来る。



額から滝のような汗を流すノック。



「俺は、まだ死にたくねぇ、勝手に撤退させてもらうぜ」



ノックは、逃走を決意し、入り口に向って走ろうとした。



しかし、足が凍り付き、動けない。




「くそう!どうなっているんだ!」



慌てふためくノックの前に、ゾロゾロと人が集まる。




「後は、こいつだけなの?」




「そうよ、だから殺さないでよ」




「そんな事、私に言う前に、あの子達に言ったらどうなの?」




セリカから、注意をうけたソニアは、

ノックを剣で突いている、クオンとエクスに向かって指を差す。




「ちょっと!


 2人共止めなさい!」




セリカが、慌てて止めようとした時、一階の奥から京太が姿を見せた。



「休戦協定は、駄目だったみたいだね」




「ねぇ、京太、この後、どうするの?」




「うん・・・・・やり返すよ・・・・・」




京太は、ノックを放置したまま、

屋敷の外に出ると、ボルケノの奇襲部隊と鉢合わせとなった。




「完全にやる気のようですね」



そう言いながら、イライザは、溜息を吐く。




「ほ~んと、馬鹿ばっかり。


 戦争なんて、全然面白くないのに・・・・・・」




フーカの言葉に、ラゴが頷いた。




「わらわもそう思うぞ。


 戦争などしても、苦しむ者が増えるだけだと言うのにのぅ・・・・・」




「京太さん、あの・・・」




「大丈夫・・・・・もう、決めているよ、全力で叩き潰そう」




「わかったわ」




ミーシャが返事をすると、京太は声を掛ける。




「行こう!」




その言葉が合図となり、京太達は、奇襲部隊に突撃し

あっさりと倒すと、その勢いのまま街の外で待つボルケノ軍へと進む。








一方、『遠見の鏡』を使い、合図の煙を発見していたボルケノ軍は

コルクの街へと、近づきつつあったが

兵士達の中には、この戦闘に対して、気が乗らない者も少なからずいた。




「相手は、あの、京太って人だろ」




「ああ・・・」




「・・・・・俺の妹だけど・・・・・あの人に助けられたんだよ・・・・・」




「知っているよ、俺もあの場所にいたんだから・・・・・」




暫くの沈黙の後、口を開いた。




「命令に逆らえないけど、戦いたくないな・・・・・」




そんな思いを抱いていても、軍はどんどん進み、

とうとうコルクの街に到着した。



「これより、この街を奪い、我がボルケノのものとする。


抵抗する者には、遠慮など不要。


我らの力を見せつけるのだ!」



大きな歓声が上がり、勢いに便乗して、軍を進めようとした時、


街の入り口に立つ複数の影を発見した。















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