第160話黒の大陸 解放

奴隷達の後を追う形で歩く京太は、街での出来事を思い出していた。




コルクを奴隷にし、街の奴隷達を開放するように命令を出させたのだが

想像していた通り、反発が起こり、領主の決定に従わない者達が現れた。




特に、奴隷を使って儲けていた娼館は、猛反発。


死活問題となる命令だけに、素直に応じる筈がないことは

わかっていたが、どの店も、頑なに拒否を示すので

京太は、会って話を聞いてみる事にした。




場所は、オズワルドの経営する店『テンプテーション』。


場所が場所だけに、1人で行こうと思い、皆にその旨を告げたのだが

こちらも猛反発に遭い、現在、京太の隣には、ラゴとミーシャが座っている。




暫く待っていると、扉が開き、小太りの男が現れた。




この男は、この街最大の娼館の主【オズワルド】。


誰もが顔と名前を知っている男だ。




「あんたが、話しを聞いてくれるのか?」




「はい、宜しくお願い致します」




京太達の向かいのソファーに座ると、

開口一番、オズワルドは訴える。




「こんな真似をされては、私の店は潰れてしまう。


 もう一度、考えて貰えないだろうか?」




「・・・・・では、質問をさせて下さい。


 貴方の店では、奴隷は何人位働いていますか?」




「全部で27人だ」




「では、従業員の数は?」




「68人だ」




「それなら、奴隷を売っても、問題ありませんよね。」



相手の出方を見る為にも、強気で押す京太だが、

オズワルドも一歩も引かない。



「勝手なことを言わんでくれ、

 私の店は、この街で一番大きい店だぞ!


 毎日、どれだけの客が来ると思っているのだ。


 それに、奴隷に仕事を教えるにしても、

 それなりの金が掛かっておる。


 なのに、『はい、そうですか』と納得して、簡単に手放す筈がないだろう」


 


オズワルドは、押さえていた感情が、表に現れ始めた。




「いいか、この国で奴隷は認められているんだ、それをお前みたいなガキが、

 勝手に歪めていいのものでは無い!


 わかったら、失せろ!


 これ以上の話がしたければ、領主を連れて来い!」




京太達が席を立つ。




「領主に伝えておけ、『次は、必ず貴様が来い』とな」




勝ち誇った顔をする、オズワルドに京太は言い返す。




「僕も、奴隷について、この国で決められている事でしたら、

1つだけ知っています」




オズワルドと、京太の視線が重なった。




「敵を捕らえたら、奴隷にできるそうです」




「き、きさま・・・・・」




京太の挑発に、オズワルドはまんまと乗ってしまう。




「いいだろう、貴様がその気なら、私も貴様を敵とみなそう、

 その場合、君とその隣の娘達は、私のものになるがね・・・・・」




――馬鹿な奴だ・・・・・この屋敷で、私が負ける事など無い!・・・・・




自信満々のオズワルドは、既に勝った時の事を考えている。




――あの、黒いドレスの少女は、小柄だが、あれは上物・・・・・・・

  それに、もう片方はエルフ・・・・・

  流石に神に近いと言われる種族だ、

  あれなら、高くても客は飛びつく・・・・・




余裕の笑みを浮かべるオズワルドは、後ろに立っている護衛に声をかけた。




「この者達を捕らえよ」




静かに発した言葉だったが、後ろに立っていた護衛だけでは無く、

部屋の外で待機していた護衛にも声が届いた。




部屋に雪崩れ込む護衛達。


一瞬にして京太達は、取り囲まれる。




壁際に立ち、見学していたオズワルドが、再び指示を出す。




「男は厄介だ、殺せ。


 女は、生きたまま捕まえろ」




指示に従い、護衛の男たちが動き出す。




だが、先走り、ラゴに襲い掛かった男が吹き飛ばされた。


壁にぶつかり、首が在らぬ方向に曲がってしまった男を見た後、

ラゴが京太に問う。




「主様、手加減は、しなくていいのだな」




「それ、遅くない?・・・・・まぁ、構わないけど」




「うむ!」




呆気に取られて動かなかった男達に、

今度は、ミーシャが攻撃を仕掛ける。


1人、2人と致命傷となる一撃を加え、次々に倒す。



「グハァ!」




「グワァ!」




腹から空気が抜けるような短い声を発した後、

護衛の男達は、倒れて動かなくなる。




「クソッ!・・・・・・

 おい、おまえら、高い金を払ってやっただろ

 こんなガキども、とっとと取り押さえろ!」



オズワルドの必死の声も空しく、護衛の男たちは全滅した。



「こんなことが・・・」




茫然としているオズワルドの耳に、

『カチッ』という音が聞こえると同時に

 奴隷の首輪がつけられる。




「えっ!?」




「敵を捕らえたら、奴隷に出来るんですよ」




京太は、オズワルドを奴隷にし、娼館を手に入れた。


だが、その事で、仲間の女性陣から在らぬ疑いを掛けられる。




「今回の事、娼館が欲しかった訳じゃないわよね」




「勿論だよ!」




「本当よね」




「当然だよ!」




「ねぇ、お兄ちゃん、娼館って何?」




「クオンは、まだ知らなくていいよ」




エクスが、クオンに耳打ちをする。


すると、クオンの顔が一気に赤くなった。




「お兄ちゃん!


 お嫁さん達では、ダメなのですか!!」




「いえ、満足しています・・・・・」




そして・・・・・・京太は、今後一切、

娼館の業務に関わらない事を約束させられた。


今後の運営については、女性陣だけで相談をして、決める事となった。




その後も、揉め事がある度に、京太達が出向き、話し合い(一部武力)で、

奴隷を開放させることに成功し、落ち着いたところで、ボルケノに出向いたのだ。








そして現在、京太達の目の前には、ボルケノの軍が立ち塞がっている。


京太は、前に進み出ると、振り返り、奴隷達に告げる。




「皆、武器を持っていない事を証明する為に、両手を上にあげてくれ」




奴隷達は、京太から、国に帰れる事を聞いているので、素直に従う。




「あと、あの中に、知り合いがいると思う人達は、前に出て来てくれるかな?」




京太の指示に従い、8人の女性と子供1人が前に進み出る。




「一緒に行こう」




京太は、皆と一緒に、ボルケノの軍に歩み寄る。




「誰か、知り合いを見つけた人いる?」




全員が首を横に振る。




「もう少し、近づこう」




暫く進むと、『あっ!』という声が聞こえた。




「見つけたの?」




声を上げた奴隷の女性は頷いた。




「呼んでみようか?」




「はい・・・・・【グランッ】!」




ボルケノ軍の中にいたグランは、聞き覚えのある声に驚く。




「もしかして・・・・・・」




グランは、武器を落とし、ゆっくりと近づく。




「グラン!


 敵の罠かも知れないぞ!」




仲間の止める声も聞かず、グランは、歩みを止めない。




京太は、奴隷の首輪を外した。




「もう、自由だよ」




そう言って、背中を押すと、

女性は、京太に頭を下げた後、グランのもとへと走る。




「グランッ!」




「お、オリーブ!」




グランも走り出す。




2人は、戦場の真ん中で抱き合った。




「助かったのか?」




「ええ、あそこの京太さんが、あの街の奴隷を、全員解放してくれたのよ」




「なんだって!」




「だから、お願い、武器を捨てて。


 あそこにいる人達は、全員ボルケノの民よ、武器も持っていないわ」




オリーブの話を聞き、グランは急いで仲間のもとに戻り、

テントで待機している隊長に知らせた。




「それは、本当なのだな」




「はい、私が、ここにいる事が、なによりの証拠になると思います」




隊長が悩んでいると、テントの外から、次々に歓声が聞こえて来た。




急いでテントの外に出ると、

グランたち以外にも、知り合いを見つけた女性達が兵士と抱き合い、

無事を喜ぶ姿があった。




「事実のようだな」




隊長は、1人で京太達のもとに進む。


京太も、その事に気が付くと、1人で隊長のもとに向かった。




2人は、両軍の中心で合流する。




「私は、ボルケノ軍、先発隊、隊長の【ヨーグル】だ。


 この度の事、感謝する」




「僕は、京太と言います。


 後ろの人達は、全員、貴方達の国の方だと言っていました。


 保護をお願いしてもいいですか?」




「勿論だ・・・・・だが、1つ聞かねばならない事がある。


 京太殿、貴殿の狙いは、何だ!?」




「休戦協定です。


 本心を言えば、永久に止めて頂きたいのですが、

 その辺りは、お互いの事情があると思いますので

 初めは、休戦協定から、お願いできませんか?」




ヨーグルは、この考えに賛同したい。


しかし、勝手に判断する事は出来ない。




「少し、時間を頂けないか、私個人で判断出来兼ねるのだ」




「わかりました、僕はコルクの街に滞在していますので」




「わかったが、あの街は・・・」




ヨーグルは、『返事を持って行けない』と伝えようとした。




「大丈夫ですよ、あの街は、制圧しましたから」




京太は、『待っていますね』とだけ伝え、奴隷達の首輪を外し始めた。


開放された女性達から聞いた兵士達の行動は早かった。


未だ、知り合いと出会えておらず、

立ち尽くしていた女性たちのもとに行き

保護に務める。



京太は、奴隷の受け渡しが完了すると、

仲間達と共に、コルクの街に向かって歩き始める。


その後ろ姿を見ながら、ヨーグルは誓う。




「この話、何としても纏めてみせるぞ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る