第159話黒の大陸 奴隷

コルクの屋敷へと向かっていると、

貴族街を囲むように壁が建っていた。


当然、その入り口にも、兵士達が待機していたが

ニルドの顔を見ると、背筋を伸ばし、敬礼をする。



「ニルド兵団長、お疲れ様です」




「ああ」




ニルドが軽い挨拶を交わした後、京太達は、後ろをついて門を潜る。


その時、兵士がニルドに声をかけて来た。




「恐れ入りますが兵団長、後ろの方々は?」




ニルドの首には、奴隷の首輪がついている。


その為、余計な事は話せない。




「コルク様の客人だ、我々が同行している。


 気にするな」




「はっ!」




兵士は、ニルドに従い、京太達を通す。


貴族街に入り、進んで行くと、一際大きな屋敷が正面に見えて来た。




「あそこが、コルク様の屋敷だ。


 それから、あ奴らは、我が国の兵士ではない。


 コルク様が、雇った傭兵だ。」




ニルドが指し示した屋敷の前には、確かに大勢の傭兵が待機していた。


その者達が、ニルドを見つけると、一際大きな男が声をかけて来る。




「おっ!ニルド兵団長じゃねえか、やっとおでましか。


 コルク様が連絡が来ねえって、騒いでいたぜ」




「だから、今こうして・・・・・」




ニルドが話しを始めると、ゾロゾロと傭兵達が集まって来る。


その者達の視線は、ニルドではなく、その背後にいる女性陣だった。




「おい、女だ。


 女がいるぞ!」




「ヘヘヘ・・・エルフもいるぜ」




傭兵達の話題は、もっぱら京太の連れている女性に移っており

品定めをするかのように、ジロジロと見ている。




「ニルドさんよぉ、1人位置いて行く気はねえか?」




「無理だ。


 こちらは、コルク様の客人。


 失礼な事はよせ!」




「チッ!」




一番喰いついていた傭兵が、舌打ちをして道を開ける。




「ついて来い・・・・・」




京太達は、その声に従い、屋敷の入り口に向って歩く。



扉を叩くと、中から首輪をつけた女性が姿を見せた。




「ニルド様、コルク様がお待ちですが・・・・・

 その者達は?」




「ああ、コルク様に紹介をしようと思って連れて来たんだが・・・・・」



暫しの無言の後、首輪を付けた女性が、扉から離れる。




「・・・どうぞ、ご案内いたします」




京太達は、無事に屋敷へと侵入し、応接室へと案内をされた。




「こちらで、お待ちください


 それと、武器のたぐいは、

 こちらでお預かり致します」



京太の仲間達の武器は、アイテムボックスに収納している。


だが、京太だけは、腰に剣を下げていた。




京太が首輪を付けた女性に武器を預けると、

女性は一礼をして部屋から出て行った。



京太は、コルクが来るまでの間、

この部屋に入るまでの間に、屋敷で見た事を思い出している。



その理由は、使用人と思われる者達が、奴隷の首輪をつけていたこと。


唯一、首輪を付けていないのは、傭兵のみ。



それに、この部屋も、どう見てもおかしい。


部屋は、とても広いのだが、美術品や骨とう品のようなたぐいは一切なく

あるのは、部屋の中心に設置されている簡素な応接セットと

四隅に立つ傭兵のみ。




「京太、あのおじさん達、気持ち悪いよ」




武装した男達の視線が、フーカに集まる。




「このガキ・・・・・」




短気な傭兵の呟きに対して、フーカが何か言おうとした時、

多くの傭兵を連れて、コルクが入って来た。




ニルドは、すかさず立ち上がる。




「コルク様、お忙しい所を申し訳ありません」




コルクは、一瞬ニルドを見たが

直ぐにその視線は、女性達へと移った。



「ニルドよ、そちらは、今回の戦利品か?」



ニルドは、言葉に詰まる。



「あの・・・・・」



――どうすれば・・・・・・



そう思った時、ラゴがテーブルを見つめたまま、声をあげる。




「この屋敷では、客人対して、茶の1つも出さぬのか・・・・・」




コルクの視線が、ラゴへと移る。




「どういう事だ?」



険しい表情のコルクの視線は、再びニルドへ。



「いえ、それは・・・・・」




口ごもるニルドを余所に、待機していた傭兵の1人が、ラゴの後ろに立った。




「小娘、貴様は、一度、痛い目に合わないと、分からないようだな」




傭兵は後ろから、ラゴの首を掴もうと、手を伸ばす。



しかし、ラゴに触れる事は出来なかった。




「勝手に触らないでもらえる?」




傭兵の腕は、隣に座っていた京太に掴まれていた。




「話せ!クソガキ!」




京太の手を振りほどこうと、傭兵は必死に抵抗するが、びくともしない。



傭兵を握っている手に力を込める京太。




「ウグァァァァァ!」




その光景に、コルクの表情も変わっていた。


 


――なんなんだ、このガキは・・・・・




京太は、コルクに向き直ると、傭兵の手を放した。




「この街の兵士達に襲われたんですよ。


 それで、奴隷にすると言われたんで、仕返しに来ました」




「はっ?」




驚くような仕草を見せるコルト。



その目の前で、ニルドに命令をする京太。



「ニルドさん、ソファーに座って下さい」



京太を睨みつけながらも、仕方なくソファーの腰を掛けた。



その状況を、黙って見ていたコルクが、口を開く。



「奴隷の首輪・・・ですか・・・・・フフフ・・・」




 コルクは、ニルドの奴隷の首輪に気が付いていた。




「ニルドを奴隷にしたようですね」



「その通りです!


 この国は、弱肉強食ですよね。


 あ、違った。


 奴隷の数が、格を決めるんでしたっけ・・・」




「馬鹿にしているのか・・・・」




ワナワナと震えるコルクだが、

突然、大きな声で、笑い出す。




「ハハハ・・・・・・本当に面白い。


 京太とか言ったね。


 この国の最前線の街を守る、この私が

 奴隷の首輪の事を知らないとでも思っているのか。


 いいか、この街で首輪を販売しているのも私の店。


 そんな私が、奴隷の首輪に、気付かない筈が無いんだよ。


 ここまで来るのに、兵士にも会っただろう。


 だが、止められることは無かった。


 それが、どういうことか理解できるか?」



コルクが手を叩くと、待機していた大勢の傭兵が部屋の中へと入って来た。



「私はね、君の強さを、理解しているんだよ。


 だが、どうだろう。


武器も無い、この状態で、我々が襲い掛かれば、君は何とかなっても

他の者達はどうだろう。


君が、幾人かの傭兵を倒している間に、

君のお仲間を1人でも捕らえ、捕虜にすることが出来れば

我々の勝ちなんだよ。


さぁ、選びたまえ、痛い目に遭って捕虜となるか

それとも、今すぐ捕虜になるかを!」



コルクは、勝ち誇った表情をしているが、

京太に、変化はない。



「好きにしてくれればいいよ。

 

 でも、それなりの抵抗を、こちらもするけどね」



「このガキ・・・」



コルクからの指示が飛ぶと同時に、我慢していた傭兵達が、一斉に襲い掛かる。



だが、何かに衝突し、傭兵たちは、一斉に尻餅をついた。



「なんだこれ?


 どうなってやがる?」



京太が、結界を張っていたのだ。



「これ、懐かしいわね」


ソニアが、結界に、懐かしさを感じているが・・・・・


「あの、これ、野営の度に、毎回張っているんですけど・・・」



気付かれていなかったことに、やるせなさを感じている京太に

ソニアが、続けて話しかけた。



「ねぇ、京太。


これって、こちらからは、攻撃出来たわよね」



「うん」



「なら、武器を出してよ」



「わかった」



アイテムボックスから、預かっていた武器を取り出すと

各々が武器を手にする。



その光景に、コルクは驚いているが

手を出すことは出来ず、ただ、睨んでいるだけ。



その間も、必死に結界を破壊しようとする傭兵たちだが

びくともしないどころか、京太の仲間達からの攻撃を受け

次々に数を減らしている。


このままでも、勝つことは出来るのだが

この状況に、不満を持つ者達がいた。



「お兄ちゃん、私、外に出て戦ってもいい?」


クオンだ。


敵が近づかないと、攻撃が出来ないことに、ご不満のようで

結界を飛び出して戦いたいと言って来る。


まぁ、負ける事は無いので、京太が許可を出すと

何故か、クオンとエクスだけでなく、皆が飛び出す。



おかげで、一瞬で戦いは終わった。




傭兵達が、京太達の相手になる筈も無く、

赤子の手をひねるより簡単に屠られた。




「な、なんだと・・・・・

 こ、こんな筈では・・・・・」



敵わない事がわかると、慌てて逃げ出そうとするコルクだったが、

部屋の入り口には、既にラムとミーシャが待ち構えている。




「逃がさないよ!」




逃げ道を失ったコルクは、右往左往した後、落ちていた剣を拾う。



「それは、戦うって事でいいですよね」



京太が、一歩前に出る。



すると、コルクは武器を放り投げ、両手を上げた。




「わかった、条件を聞こう。


 なんなら、雇ってやる。


 どうだ、貴族に仕える事が出来るのだぞ・・・・・」



その問いに答えたのは、ラゴ。



「貴様は、立場がわかっていないようだな。


 何故、主様が貴様の様なくだらない者に、仕えねばならんのだ!」




「ならば、何が欲しいのだ!


 金か?権力か?それとも女か?」




「「「女は、ダメ!!!」」」




仲間達の声がハモる。




「え、と・・・そういう事です。


 それに、僕は、そういうものが、全部手に入る方法を知っていますから」




「なんだと?・・・・・」



そんな手があるのかと驚くコルクだが、

何かを忘れているみたいだったので

その答えを京太が伝える。




「この国のルールだと、敵を捕まえたら奴隷に出来ると聞いています」




コルクは、京太の考えが理解出来た。




「もしかして・・・・・この私を奴隷にするとでもいうのか・・・・・」




「ご名答」




アイテムボックスから、使わず、取っておいた奴隷の首輪を取り出した。




「ま、待て・・・・・話し合おうではないか?」




後退りするコルクだったが、あっさりと捕まり、奴隷の首輪をつけられた。




「魔封じと条件発動が付いているから、下手な事は出来ませんよ」




床に座り込み、愕然とするコルクに、命令を与える京太。




「貴方の奴隷を、全員ここに集めて下さい」




「貴様、何を・・・・・グワァァァァァ!」




口答えしようとした瞬間、首輪が絞まる。




「わかった・・・・・・誰か、誰か、いないか!」




部屋に現れたメイドに、『全員、急いで集まるように』と伝えた。



暫くすると、京太達のいる部屋に、奴隷達が集合する。




「コルク、奴隷を全員、僕に譲渡しなさい」




「な・・・・・わかったぁぁぁぁぁ!」




再び、首を絞められたコルクを見て、思わずため息を吐く。




――懲りない人だな・・・・・・




集められた奴隷の譲渡が終わると、次の命令を与える。




「この街の奴隷を、全て買い取って、僕に譲渡して下さい」




「・・・・・はひっ!(はいっ!)」




コルクは、この時から、財産をはたいて奴隷の買い付けに翻弄した。


一週間後、街の広場には、京太に譲渡された奴隷達が集まっていた。




「皆さ~ん、こん、にちわぁ!」




「・・・・・」




「ぐっ・・・・・子供向け番組のようには、いかないか・・・・・」




ミーシャが、心配そうに顔を覗き込む。




「京太さん、大丈夫ですか?」




「あっ、うん・・・・・」




やるせない京太だったが、気持ちを切り替える。




「これから、『ボルケノ』に向かいます」




奴隷達から、声が上がる。



京太は、コルクから奴隷を譲渡された後、出身地を聞き出していた。


その為、此処に集まっている者達は、全員、ボルケノの出身者なのだ。




「静かに!


 これから、大切な話をします。


 まず、僕の指示があるまで、勝手に国に戻らないで下さい。


 そんな事をすると、他の人達が帰れなくなります」




奴隷達は、黙って聞いている。




「それから、武器は、持たないで下さい。


 戦いに行く訳では、ありませんから」




皆が聞いていたと、信じる事にして、号令をかける。




「それでは、行きましょう!」




京太達は、奴隷達を引き連れて、ボルケノへと出発をした。


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