第158話黒の大陸 お買い物

かろうじて生きていたニルドを含め、全員をロープで縛り、

身動きが取れないようにしてから

ホムの案内に従い、コルクの街へと向かう京太達。



街の入り口に到着すると、待機していた兵士が、声をかけてきた。




「ホム、戻って来たのか?」




『ああ・・・』と気の抜けた返事をするホム。



「おいっ!


 他の者達は、どうした?」



「まだ、あの場に残っている・・・・・・」



「そ、そうか・・・・・」



声を掛けた兵士は、敵襲に備え、待機している兵士達への伝達を送ると、

ホムの後ろを歩く京太達に、目を向けた。




「ちょっと待って!」




ホムと京太達の間に割り込む。




「お前達は、何処から来た?


 ホム、この者達は何なのだ!?


 答えろホム!」



そう叫びながら兵士は、剣に触れる。



「【オルガ】、止めろ!

 

 剣から手を放すんだ!」



ホムの制止する声を聞かず、オルガは剣を抜く。



「答えろ!


 他の者達は、どうした!


 さもないと、この場で・・・・・ウグッ!」




オルガは、言い終える事も出来ずに、クオンに殴られて、吹き飛んだ。




「だから、止めろといったのに・・・・・」




ホムは、溜息を吐きながら、オルガに憐みの目を向けていた。




「お兄ちゃん、この人、どうする?」




「さっきと同じでいいよ」




「わかった」




クオンは、エクスと2人で、オルガを縛り上げると、その場に放置した。




――そこも一緒なんだ・・・・・




オルガも縛って放置し、街の中に足を踏み入れると

第3陣の兵士達が集められており、

京太達の行く手を阻む形となった。



「結構多いね」



「はい、皆、戦う為に集まった人達です。


 この街で功績を上げれば、領主様から兵士として雇ってもらえます。


 それに、亜人を捕まえれば、自分の奴隷にする事も出来ますし、

 その奴隷を売って金銭に変えることも出来ますから」




「その奴隷って、簡単に手に入るの?」




「はい、市場で売っている『奴隷の首輪』を買い、

 自分の魔力を流して、捕らえた者の首につけるだけです」




「それだけ?


 逃げられたりしないの?」




「はい、奴隷の首輪を付けられた者が、逃げたり逆らうと、

 首輪が絞まり、死んでしまうので・・・・・」




「その首輪は、誰でも買えるの?」




「買えます。


 国が経営している専門店が市場にありますから、

 そこでなら、簡単に手に入りますよ」




――いい事を聞いた・・・・・




京太は、わくわくした気持ちが顔に出ないように、

我慢をしながら話を続けようとするが

仲間達には、京太の気持ちがバレていた。



「お兄ちゃん・・・・・」



苦笑いを浮かべてるしかない京太は、コホンッと咳ばらいをし

気持ちを切り替えて、ホムに話しかける。



「その奴隷の首輪の店に連れて行ってくれるかな?」




「はい」



話を終えて、前に進もうとするが

第3陣の中から、ホムに話しかけて来る者がいた。



「ホム、先程の騒ぎは何だ?


 それに、この者達は?」



兵士の問いかけに、ホムは、何と答えようか迷っていると

先ほどクオンに殴られ、意識を失っていた筈のオルガが目を覚まして

大声で叫ぶ。


「敵だ!


 そいつらは敵だ!」



その声に従い、第3陣の兵士達は、武器を構えた。



「大人しく投降していただこう。


 さすれば、命までは奪わぬ」



先ほども聞いたようなセリフを言う兵士。


ホムは、返す言葉を見つけられない。


そこに、クオンが割り込み、京太に話しかける。



「お兄ちゃん、また敵が現れました」


「殲滅です」


第3陣は、既にやる気に満ちている。



「仕方ないよね」



「了解です!」



特攻隊長のクオンとエクスが、有無を言わせずに飛び出した。



「また、あの子達・・・・・

 今回は、私達も行くわよ」



「はい」



「勿論よ」



ソニアを筆頭に、サリー、ラムが続く。


5人を見送った京太が、右手を上げ、手を前後に動かすと

上空で待機していた3人が姿を現す。



「あれは、攻撃合図・・・」



「そうじゃな」



「なら、いっくよぉ~」



フライの魔法で、浮いているミーシャ、黒い翼のラゴ

白い翼のフーカの3人は、上空からの攻撃を開始する。



雨のように降り注ぐ攻撃を受け、一気に陣形が、崩れ始める。



その隙をつくように

先陣を切ったクオンとエクスが、真正面から突撃した。



第3陣の先頭は、冒険者らしき者達。


2人に向かって大鉈を振るう。



「このガキどもがぁぁぁぁぁ!」


大鉈の攻撃を、あっさりと躱した2人は、

すれ違い様に、左右の足を切り落とした。



「ぎゃぁぁぁ!!!」



地面に倒れ込んだ男の眉間に、剣が突き立てられる。



「先ずは1人です」



一瞬にして、冒険者らしき男が倒されたことにより、

呆然とする兵士達だったが、

直ぐに正気を取り戻させるかのように、次々と悲鳴が響き渡る。



犯人は、ソニア達。



遅れて突撃したソニア達が、縦横無尽に暴れまくり、次々と兵士達を屠った。



隊列も整える事が出来ず、右往左往する兵士達に、次なる災難が襲い掛かる。



上空で待機していた3人が、再び、魔法を放ったのだ。


それにより、逃げ道などないことを悟った兵士達は動きを止め

自然と、武器を手放してしまう者達が現れた。



そのような状態の中、イライザの言葉が響き渡る。



「武器を捨て、降伏の意を示しなさい」



その一言により、戦意を失った者達は、武器を手放したが

一部の者達は、まだ戦意を失っていないらしく

先陣のクオン達に、剣をを向けている。



「10人・・・・・」


「1人で2人。

 

 それでいい?」


ソニアの言葉に、4人は頷くと同時に動く。


戦意を失っていない10人は、丁度真ん中あたりに配備されていた為

5人の強さを、はっきりとは見ていない。


また、魔法攻撃の威力も計れていなかった。


だからこそ、戦意を失っていないのだが

この選択は、戦意を失った者達に、絶望を与えるだけとなった。


最初に、敵と交戦したのは、エクス。


襲い掛かる2人の剣を弾き飛ばすと、

そのままの勢いで、2人の首を、いとも簡単に飛ばした。


次にクオン。


「お前、人族だな・・・・

 貴様のような小娘に、この俺様が負ける事は無い。

 

 今、降伏すれば、俺様の奴隷にしてやるぞ」



状況が理解できていない男のセリフに、怒りを見せたのはエクスだった。


「お姉ちゃんへの侮辱・・・・殺す」



「エクス、受け持ちは2人だよ」



「お姉ちゃん、でも・・・」



「大丈夫、直ぐに終わるから」



エクスの見守る中、クオンは、駆け出す。



「残念だ。


 まぁ、腕を失った位、気にはしないがな」



言い終えると同時に、剣を振りかぶり、

クオンめがけて、振り下ろした。


しかし・・・


「遅いよ」


そう言い放ったクオンの姿は、振り下ろされた場所には無かった。


「なにっ!」


驚くと同時に、男の背後から、心臓に向けて剣が突き刺さる。


血を吐き、その場に倒れ込んだ男の息は、既に止まっていた。



圧倒的な強さの前に、もう1人の男は、慌てて逃げ出す。



だが、逃がすつもりなど、毛頭ない。



クオンは、一瞬で追いつき、袈裟切りで、息の根を絶った。



その間に、ソニア、サリー、ラムも、敵を倒しており

もう、立っている者はいない。



「お兄ちゃん、人数が多いけど、どうする?」



「そうだね、取り敢えず、ここで待機していてもらおう。


 ソニアとミーシャ、見張りをお願いできるかな?」



「ええ、任せて」



ソニアとミーシャに見張りを任せた京太達は

ホムの案内に従い、

市場にある奴隷の首輪を販売している店を目指す。



「こちらです」



案内された店に入ると、妖艶な格好をした美女が出迎える。



「いらっしゃい。


 こんな時に、来るなんて物好きだね。


 それとも、あの騒ぎの原因は、お兄さんたちかい?」



「だとしたら、売って貰えないの?」



「いや、構わないよ」



「良かった。


 少し見せて貰うよ」



「ええ、ごゆっくり」



女性の言葉に甘えて、京太達は見てまわる。


店の中には、様々な首輪が展示されていて、思った以上に種類があった。



「お姉さん、これ、色々あるけど、何が違うの?」



「そうね、デザインが違うのは、

 貴族や商人の中には、そういう物にこだわりを持っていて、

 綺麗な物や派手な物をつけさせる人がいるからよ」




京太は、奴隷の首輪を見ながら話を続ける。




「奴隷の首輪にも効果の違いとかあるの?」




「勿論よ、人や亜人にだって、力や魔力に差があるわよね、

 だから、奴隷の首輪にも、魔力を封じる効果を持つ物や

 奴隷の行動を制限することの出来る物もあるんだよ」




女性は、そう言うと、自らがしている首輪を見せる。



「これが、魔力封じと条件発動という効果のある首輪よ」




「条件発動?」




「ええ、例えば、主に攻撃するなとか

 主が、条件を決めることの出来る奴隷の首輪なのよ」



「じゃぁ、お姉さんがここにいるのも・・・」



「ええ、私は、この場所から動けないのよ。

 なので、戦闘は、他の場所でやって貰えたら有難いわ」



「わかった、努力するよ」



「フフフ・・・ありがと・・・」



京太は、色々と見て回り、とある首輪の前で足を止める。




――これ、いいなぁ・・・・・・




「お姉さん、これ、幾つあるの?」




「幾つって?


 そんなに必要なのかい?」




「うん、そうなんだ」




「あたしは、売れると有難いけど、結構高いよ」




「幾らするの?」




「1つ銀貨20枚だよ」




――日本円にして20万か・・・・・・




懐かしい事を思い出しながら、京太は購入を決める。




「それ、100個ある?」




「ええっ!


 ちょっと待っておくれよ、そんなにあるわけないじゃない

 在庫は50個だよ」




「じゃぁ、魔力封じの首輪は?」




「それだったら・・・・・」




女性は、在庫を確認する。




「76個だねぇ・・・・・こっちは、銀貨15枚だよ」




「わかった、魔力封じの首輪50個と

 魔力封じと条件発動の付いた首輪を50個」




「あいよ」




京太は、2種類の首輪を受け取り、金貨17枚と銀貨50枚を渡した。




「相手に付ける前に、自分の魔力を首輪に流す事を忘れないでね」




「わかった、有難う」




京太は、店を出た後、全ての首輪に魔力を流す。




――これで、良し・・・・・




「一旦、戻ろう」




そう言うと、ニルド達を放置していた場所へと戻った。




「大人しく待っていたんだね」




兵士達は、京太の顔を見た途端、怯えた表情を見せる。




「ヒィ!」



身動きの出来ない兵士達に近づくと、仲間達に手伝って貰い、

全員に奴隷の首輪をつけた。



兵士達に首輪をつけ終えると、

瀕死状態のニルドにも、奴隷の首輪をつけ、回復魔法を掛けた。


そして、未だ気絶しているニルドに、大量の水を掛けて起こした。




「ウグッ!ブハァァァ!!」




目を覚ますニルド。




「やっと起きたんだ」




ニルドの視線の先には、京太が座っている。




「貴様・・・・・」




ニルドは、目の前の剣を取り、京太に襲い掛かろうとした瞬間

首輪が絞まる。



「く、苦しい・・・・き、貴様、何をした!?」




「僕からのプレゼントです」




「・・・・・奴隷の首輪か?」




「そうだよ、僕は、この国のルールに従って、

 捕まえた敵を奴隷にしたんだ」




近くで会話を聞いていた兵士達も自分の首を触って確かめる。


今迄、捕らえた亜人達に、奴隷の首輪を使って好き勝手にしていただけに

その奴隷の首輪の効果を、誰よりも知っている兵士達の顔が、青色に変わった。




「さぁ、街に戻るよ」




京太が、立ち上がって歩き出すと

兵士達は、慌てて立ち上がり、京太の後に続いた。




勿論、街に戻るという命令に従おうとしなかったり、

行動が遅れた者の首が絞まったのは、言うまでもない。




再び街に戻ると、京太は、ソニア達に任せていた兵士達にも

奴隷の首輪をつける。



「あれ、足りない・・・」



仕方なく、もう一度先程の店を訪れ

奴隷の首輪を購入したが、数が足りず、

全ての兵士に取り付けることは出来なかった。



その為、拘束した状態にして待機させるが

当然、見張りも付ける。


その者達を見張るのは、奴隷の首輪をつけた兵士達。


その者達に、この場を任せて、

京太は、ニルドに命令をする。



「じゃぁニルド君、コルクの屋敷まで案内を、してくれるかな?」



「貴様・・・・・」



「早く頼むよ」



ニルドは方向を変え、コルクの屋敷へと歩き出した。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る