第157話黒の大陸 コルクの街へ

コルクの街から、京太達に向かって来る兵の数は約100名。


そして、その兵士達の前を、首に鎖を付けた

奴隷達が隊列を組んで向かって来る。


その数も、約100名。


合計200名程の軍勢が、京太達の相手。




200対13。



どう考えても、200名の方か有利と思えるせいで

兵士の中には、気を抜いている者の姿が多く見てとれる。




――ガキ1人に女が12人、楽勝だろ・・・・・・




――そうだな、それなのに、この数で迎え撃つなんて・・・・・

   団長は、気でも触れたのか・・・・・




――おい、流石にそれは、聞こえたら不味いんじゃないか・・・・・・

  まぁ、俺も同意見だがな・・・・




兵士達は、この状況に冗談のように、不満を口にしながら、進む。




――でも、これって、あれだろ、兵長のノッカー様の救出と

  ボルケノの奴らに、俺達の力を見せつける為だろ・・・・・



――確かに、あいつ等が見ているかもしれないしな・・・・・・



そんな事を、兵士達が小声で話をしていると、動きが止まった。



そして、号令が響く。



「展開、武器を構えよ!」




号令のもと、隊列が組み直され、広がっていく。




その様子を、先陣を切ったクオンとエクスも、

立ち止まり、眺めている。


そこに、京太達が合流した。



「お兄ちゃん、放っておいていいの?」




「うん、構わないよ。


 それに、相手の出方を見たいしね」




京太の言葉に従い、手を出さず、兵士達の行動を眺めていると

完全に京太達を取り囲むことに成功する。




「全員、その場で待機」




新たな号令の後、京太達を取り囲む兵士達の一部が開く。


護衛と共に、馬に乗った男が京太達の前に進み出た。




「私は、サンドベージュ王国、兵団長【ニルド】、

 我が国の兵長、ノッカーを返して頂きたい」



話しを続けるニルド。



「無事、ノッカーを帰せば、命だけは保証してやる。


 だが、逆らうのであれば、容赦はせぬ。


 ノッカーも、貴様らを始末した後にでも、探すとしよう」




――デジャブ?・・・・・・



ソニアは、嫌な顔をしながら話す。



「あの男も同じような事言っていたわよね・・・・・」



「うん、そうだね」



京太は、ソニアに答えた後、ニルドに向かって歩く。



「僕たちは、貴方達に、従う気はありません。


 それに・・・・・」



京太は、倒れている馬の方に向けて指を差す。



「あの馬の死体の影に、そのノッカーとか言う男の死体もありますよ」




京太は、後で埋めようと思い、死体を、一カ所にまとめていたのだ。



京太の言葉を受けて、ニルドは兵士に確認をさせる。



すると、確認に向かった兵士が、悲鳴を上げた。




「ヒィ!」



確認に向かった兵士が見たのは、

目を見開き、口を開いたままのノッカーの生首だった。


当然、身体もそこにあるのだが、

インパクトが強すぎて、気が付いていない。




「どうした?


 何を見たのだ!?」




ニルドの声が響く。


兵士は、恐怖に震えながらも、ニルドの乗る馬の近くまで行き、片膝を付く。




「ほ、報告いたします。


 ヘ、兵長ノッカー様の・・・・・なま・・・・生首を確認・・・しました」




「・・・・・生首・・・だと・・・」




ニルドにとってノッカーは、直属の部下の1人だった。


その為、部下が殺されたとわかったニルドの怒りは、一気に頂点に達する。




「貴様等、生きて帰れると思うなよ・・・・・・」




ニルドは、京太を睨みつけながら叫ぶ。




「殲滅だ!


 情けなどいらぬわ!」




ニルドの命令に従い、兵士達が一歩踏み出した。



だが、その直後、上空から落ちて来た雷いかづちにより、

大爆発が起こる。


その爆発により、兵士も奴隷も関係なく、吹き飛ばされる。




「うわぁぁぁ!」




「ぎゃぁぁぁ!」




「ひぃぃぃぃぃ!」




200名程いたニルドの軍は、

降り注ぐ雷の前に、成す統べなく、次々に塵と化し、

気が付くと、半数も残っていない。




その現状に、ニルドは、言葉を失う。




「な、何がどうなっているのだ・・・・」




愕然とするニルドだったが、京太達の攻撃は、終っていない。




「ダークプレス」




京太の放った魔法により、生き残っていた者達は、

磁石で引き付けられるかの様に地面に倒れ込むと、

声にならない叫びを上げながら鈍い音を放ちながら潰れた。




茫然とするニルド。




「私は、何と戦っているのだ・・・・・」




ニルドは、勘違いをしていた。


京太から、目を離さず、正面ばかりを見ていたので、

遥か上空から攻撃を仕掛けている2人に、全く、気が付いていなかったのだ。




だが、生き残っていた1人の兵士の言葉で、気付く。




「上空に、何者かがいます!」




茫然としていたニルドだったが、

空を見上げると、そこには、白い羽を生やした少女と

真っ黒なゴスロリ服を着た少女が、浮かんでいた。




――そういう事だったのか・・・・・・




理解が追い付いたニルドが怒りを露わにする。




「貴様、よくも・・・・・」




二ルドが言い終える前に、ニルドの視界から

京太が消えた。



「え!?・・・・・」



驚くニルドの視界を、黒い何かが塞ぐ。


それは、一気に間合いを詰めて、放たれた京太の拳。




その拳がニルドの顔面を捉える。



悲鳴を上げる事も許すことなく、馬上から、吹き飛ばされた。




地面を転がり、岩などに衝突して、

体中の骨が砕けたニルドを放置して、京太は告げる。




「武器を捨てて、降伏して下さい!


 歯向かうのであれば、容赦はしません」




先程の光景を思い出した兵士や奴隷達に、

逆らうだけの気力は残っておらず、

全員が武器を捨てた。




京太は、生き残っていた者達を一カ所に集める。




――奴隷の殆どが、亜人か・・・・・




集まっている中から、奴隷を見つけ、話し掛る京太に

彼らは、怯えた顔を見せる。




「大丈夫だから、怖がらなくていいよ。


 ただ、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」




京太の問いかけに、怯えながらも頷く、犬人族の男。




「貴方は、この国の人?」




「違う、俺達は、ボルケノの者だ」




「そうなんだ。


 なら、どうしてこの国で奴隷になっているの?」



あくまでも確認である。



お互いに、戦い敗北して、奴隷になったのであれば

致し方ない事。



だが、違う理由なら・・・・・


そう思ったらからこそ、京太は問いかけたのだが

残念なことに、京太のその感は、当たっており

犬人族の男が話した内容は、こうだ。




彼らは、ボルケノ国の住人だが、サンドベージュに近い村に住んでいた。


それが仇となり、ある時、サンドベージュ軍に襲撃され、

村は壊滅させられたのだ。



そして、魔封じと奴隷の首輪と取り付けらた後、女は兵士達の慰めものに、

また、子供と老人は労働力に、

最後に男達は、戦闘に参加させられる事になった。




「なら、あの街には、まだ仲間がいるのですね」




「ああ、そうなんだ。


 だから、お願いだ。


 俺達を仲間の所に戻らせてくれないか?」




犬人族の男は、必死に伝えたが、

京太から返って来た答えは、『無理』の一言だった。




「頼む、お願いだ!」




「最後まで、話しを聞いて下さい」




「え!?」




「貴方達が街に行っても殺されるだけですよ、

 だから代わりに僕達が行きます。


 幸い、案内役の人達なら沢山いますから」




京太は、笑顔を兵士達に向けた。


目が合い、怯える兵士。



それとは反対に、安堵したような表情を見せる犬人族の男。



──仲間を開放してもらえるのか・・・・・



犬人族の男は、どうして助けてくれるのかと

疑問に思い、それを口にする。




「貴方達は、一体?・・・・」




「ただの冒険者だよ、用事があってこの国に来たんだけど、

 その道中に、戦いに巻き込まれたんだよ。


 でも、乗り掛かった舟だし、ついでに助けてあげます。


 ただし、僕達の言う事は聞いて下さい」




「わかった、他に手段は無いだろうから、貴方達に任せる」




他の亜人達も、この犬人族の男の意見に賛成した。



京太は、ラムとミーシャに声をかける。




「悪いけど、拠点にこの人達を案内してあげて欲しい」




「それは構わないけど、私達を放ったまま、先に行かないでよね」




「勿論だよ、この人達の仲間を助け出したら、僕達も一度、拠点に戻るよ」




「わかったわ」




ラムとの話し合いを終えると、ミーシャに声をかける京太。




「ミーシャ、頼んだよ」




「はい、待っています」




ラムとミーシャは、直ぐに行動に移る。




「じゃぁ、ついて来て案内するわよ」




亜人達を連れて行く仲間を見送った後、兵士に告げる。




「街への案内をお願いしたいのですが、

 誰か、いませんか?」




京太のお願いに手を上げたのは、人族の奴隷だった。




「あの・・・・・私が、案内します」




「貴方は?」




「【ホム】と言います」




ホムを、兵士達が睨みつける。


その視線に、目を背けるホムだったが、

拳に力を込め、再び京太と視線を合わせる。




「私は、この国の兵士でしたので、この街の事は、詳しく知っています」




「わかりました。


 ですが、質問をさせて下さい。


 どうして、貴方は奴隷なのですか?」




「それは・・・・・」




ホムは、とある言葉を口にする。




「私は、罪を犯してはいない。


 それに、戦争にも加担した訳でも無い人を、奴隷にする事にも反対です」




ホムの言葉を聞き、捕まっている兵士達の口々から罵声が飛ぶ。




「貴様、未だにそんな事を言っているのか!?」



「そんな事を、言っているから奴隷にされたんだぞ!」




「この裏切者!」




「反逆者!」




「裏切り者!」



奴隷に落とされた理由を理解した京太は、

未だ、ホムに対して、罵声を浴びせ続ける兵士達を一喝する。




「静かにしろ!」




一瞬にして静まり返る。




「許された時以外は、口を開かないで下さい。


 もし、言う事を聞いて頂けないのでしたら、物理的に静かにして貰います」




今迄と違う雰囲気で話す京太に、兵士達は、怯え、素直に首を縦に動かした。




その後、ホムの案内を得た京太達は、街に向けて進みだした。




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