第154話黒の大陸 上陸を目指して

出港した京太達は、のんびりと船の旅を楽しんでいた。




「旦那、当分は、ゆっくり出来ると思いますが、船の旅は何が起こるか分かんねえ、

 だから、用心だけは、しておいて下さいよ」



「わかった」



ゲルガからの忠告を受けた京太は、何処までも続いている海を眺める。




――この世界に来て、本当の意味での船旅は、初めてだよなぁ・・・・・




確かに、ジーパ国への旅の時は、転移の鏡を利用した為

船旅というには、あまりにも短すぎた。




だが、今回は違う。



転移の鏡は、王城とシャトの街の屋敷とを繋げたまま置いて来た。


なので、今回は、ゆっくりと船旅を楽しめる。



そう思っていた・・・・・。




確かに、2週間を過ぎても、天気も崩れず、穏やかなものだったのだが

その翌日の朝、甲板に出ると、船員達が慌ただしく働いていたのだ。




「何かあったのですか?」




近くにいた船員に声をかける京太。




「あれを見なよ」




船員の指し示した方向の空には、暗雲が広がっていた。




「雨?」




「違うよ、嵐が来るんだよ!」




それだけ言い残し、船員は走り去る。



京太は操作室へと向かう。




「ゲルガ、嵐が来るって聞いたんだけど」




「ああ、でかいのが来るぞ、

 旦那達は、部屋から出ないでくれよ」




「わかった」




京太は、操作室から離れると、すぐさま仲間達の部屋へと向かい

『嵐が来るから、部屋で待機するように』と伝えた。


皆は『わかった』と返事をしてくれたのだが、

何故か、フーカとラムは、興味深々の様子。




――本当に、大人しくしていてよ・・・・・・



そう思いながら、京太も自室へと戻った。



その日の午後から、海は荒れ始め、

翌日には大荒れへと変わっていた。



当初、興味を示していたフーカとラムも、

大きく揺れる船の中で、バランスを取る事に必死になっている。




「これ、いつまで続くのよ!」




「嵐が過ぎるのを、待つしかありませんよ」




「でも、こんなの、どうしたらいいの!」




フーカは、八つ当たり気味にハクに言い返している。


船は、上下に揺れ、皆が近くの物に掴まり、必死に耐えている。


だが、ラゴだけは平気な顔をしていた。




「あー!

 ラゴ、ズルい!」



ラゴは魔法を使い、体を浮かせていたのだ。


その光景を見たフーカも、真似をする。




『パタパタ』と羽を動かし、体を浮かせたのだ。




「初めから、こうすれば良かったわ」




揺れを感じる事の無くなったフーカは、空中で待機の状態。


それを、エクスとクオンが見つけて、飛びついた。




「私達も、浮かせて!」




2人に抱きつかれたフーカは、バランスを崩し、床に落ちる。




『ぎゃぁぁぁ!!!』




その瞬間、船が大きく揺れ、3人は床を転がっていく。




「いやぁぁぁぁぁ!!」




「目が、まわるぅぅぅぅぅ!」




「・・・・・」




転がる3人を見ながら、

自分達も同じ目に合わないように、必死に掴まっている他の仲間達。


そこに、浮いた状態で、移動していた京太が姿を見せる。




「皆、大丈夫?」




イライザは、必死に掴まりながら、京太に話しかけた。




「京太様は、物を浮かせる事は出来ますか?」




「勿論、出来るよ」




「では、私を浮かせて下さい」




その言葉に、他の仲間達も反応する。




「イライザ、自分だけ助かるつもり!?」




「お姉様、ズルいです!」




京太は、不満を口にするソニアとマチルダを放置し、

イライザを浮かせて見せた。




「まぁ、楽になったわ」




笑顔を見せるイライザに、ソニアが飛びつく。




「これで、助かる・・・・・」




『フー』と息を吐き、落ち着いた表情を見せたソニアだったが、

 その上に、セリカが乗る。




「ぎゃ!」




「本当に、揺れなくていいですね」




「セリカ、重たいよ!」




「私は、重くありません!」




言い合いを始める2人だったが、サリーとマチルダが、その上に乗る。




「うげっ!」




「ぐふっ!」




2人の潰れた様な声に、サリーとマチルダは笑った。


そんな中、全員の重さを感じているイライザが、苦しそうに伝える。




「みんな・・・・・・重い・・・・・」




「「「重く無いわよ!」」」




そんな事を言いながらも、イライザの上から、離れるしかないが

だが、あの状態に戻るのは、勘弁してもらいたい。


マチルダは、京太に質問する。



「京太さん、何か良い物は、ありませんか?」




「・・・・・こんな物しか無けど・・・」




京太がアイテムボックスから取り出したのは、

部屋よりも、少し小さい位の魔獣の死体だった。




「これ、【ビッグボア】よね・・・・・」




京太は、ビッグボアを浮かせている。


すると、ミーシャが、その上に飛び乗った。




「これ、いいかも・・・・・」




ミーシャの表情を見て、次々とビッグボアの上へと移る。




「これなら、揺れないし、フカフカでいいわ」




ビッグボアの大きさのおかげで、全員が乗っても余裕があった。


そこに、先程、転がっていった3人が戻って来る。




「何、こんなのあったんだ・・・・・」




呆気に取られながらも3人は、ビッグボアの上に飛び乗った。




「主様、大丈夫か?」




心配そうにラゴが話しかける。




「これ位なら、1日中でも問題無いから

 ラゴも休んでいいよ」




「では、そうさせてもらうぞ」




ラゴもビッグボアの上に乗り、休む事にした。




翌日、嵐がおさまると、ゲルガは京太達の様子を見る為に、部屋を訪ねた。


すると、部屋の扉は開いており、

部屋の中には、見た事も無い程の大きな魔獣の上で寝ている京太達を発見する。




「なんじゃこりゃ!!!」




叫び声の大きさに、京太が目を覚ます。



「ゲルガ・・・おはよう・・・」




「だ、旦那、これは、どういう事なんだ?」




「ああ、ごめん、昨日、ちょっと使ったんだ。


 今、片付けるよ」




皆を起こした後、京太は、ビッグボアをアイテムボックスに収納した。




「旦那は、凄い物、持っているんだな」




「あははは・・・・・偶然捕まえただけだよ」




ゲルガと京太は、会話をしながら甲板へと向かう。


甲板にでると、海は、先日の嵐が嘘のように静まり返り、

太陽が顔を覗かせていた。




「当分、嵐は来そうにないよね」




空を見ながら、ゲルガに尋ねる。




「ああ、嵐は大丈夫だ」




「嵐は・・・・・?」




「そうだ、もう少し進むと、右側に島が見えて来る。


 その島の周辺は、【半魚人】の暮らす海域だ。


 アイツらは、言葉も伝わらねぇし、

 こちらを見つけたら襲って来るから、気を付けた方がいい」




「離れても駄目なの?」




「ああ、アイツらの行動範囲が広いという事もあるが、

 黒の大陸は、その先にあるから、どうしても通らないと駄目なんだ。


 まぁ、これだけ離れていれば、大丈夫だと思うけどな」




――フラグじゃ、無いよね・・・・・




正午を過ぎた頃、ゲルガの言っていた島が見えて来る。




「あの島の周辺が、半魚人の住処らしいよ」




「そうなんだ」




クオンは、そう言いながら、京太の横で島を眺めている。



波も無く、穏やかに船は進む。



フラグを回収することもなく、

無事に島を通り過ぎる事が出来た京太達。




だが、その3日後、突然船が停止した。




「ゲルガ、どうしたの?」




「あれを見てくれ」




ゲルガが示した方向には、遠くから見ても分かる程、海が荒れていた。




「あれは?」




「『メイルストロム』だ」




京太は、空に上がる。


そこで京太が目にしたのは、

全てを飲み込む程の大きな渦が、幾つも発生しており

行く手を阻んでいる光景だった。




「これが『メイルストロム』・・・・・」




甲板に降りて来た京太に、ゲルガが声をかける。




「旦那、予定通り、遠回りするぜ」




「そうだね・・・・・」




ゲルガは船員達に、大きく迂回するように指示を出した。






それから3週間後、難を逃れた京太達は、大陸を目にした。


同時に、船員が叫ぶ。



「島が見えたぞ!」




船員の声に、皆が甲板に集まる。




「あれが、黒の大陸か・・・・・」




京太が、独り言のように呟くと

いつの間にか横にいたソニアが答える。



「本当に、遠かったわ・・・」



そんな会話をしている内に、船はどんどん進み

島の近くまで到達する。



そこで、一旦、船を停め、積んでいた小舟を降ろした。




「僕達が小舟に乗り込んだら、ゲルガ達は、もう少し離れて待機していてよ」




京太は、嵐の時に使ったビッグボアを取り出す。




「これ、皆で食べてよ」




船員達は、大喜びで京太にお礼を言う。




「旦那、感謝するぜ、これでアイツらの疲れも取れるぜ」




「そう言ってくれると嬉しいよ。


 でも・・・・・ここで、待たせてしまう事になるけど・・・・・」




申し訳無さそうに話す京太に、ゲルガは笑顔で答える。




「旦那は俺達の主だ、何も気にしなくていいぜ。


 それに、暇だったら、漁でもしているからよ」




その笑顔に感謝しつつ、京太と仲間達は、小舟に乗り込んだ。




「ありがとう、行ってきます!」




京太達は、ゲルガ達に手を振りながら黒の大陸を目指した。




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