第153話黒の大陸 出港



京太達に、同行しているベンジャミンは、

様子を窺っていた。



そして、その時が来る。




正午になり、京太達が『どこかで昼食を摂ろうか』と相談を始めたのだ。



──ここしかない・・・・



そう思い、話に割り込むベンジャミン。




「お食事でしたら、城の方でご用意しておりますので、

 どうぞ、お越し下さい」



「えっ!

 そうなの?」


驚きはあったが、断るのも、申し訳無いので、

お言葉に甘えさせて頂く事にする。


ベンジャミンの案内に従い

市場の端まで戻ると、

そこには、立派な馬車が6台用意されていた。




「こちらに、お乗りください」




皆は、普通に乗り込むが、

ただ一人、ダイだけは緊張したまま固まっている。


「ダイ、行きますよ」


そう促され、背中を押されたダイは、馬車へと乗り込んだ。



暫くして、城に到着する京太達。


ベンジャミンは馬車を降りても、案内を続け、

京太達を謁見の間へと招き入れる。




謁見の間に入ると、キーラ女王以外に、他の王族の姿もあった。




「エヴィータ王妃、それから、ご息女の皆様、京太様

 並びに、そのお仲間の皆様、ようこそいらっしゃいました」



キーラ女王に応えるエヴィータ王妃。



「こちらこそ、突然の訪問でしたのに、この様に出迎えて頂き、感謝致します」



「アトラ王国は、志を同じくする同盟。


 遠慮など、不要です。


 それに、今回は、我が子達を紹介できる良い機会を設けさせて頂けたと

 感謝しておりますのよ」



キーラ女王の言葉に続くように、1歩前に出るウォック。



「お初にお目にかかります、ウォックと申します」



続いて少女が一歩前に出て、カーテシーをする。



「私は、レインと申します。


 エヴィータ王妃、並びにご息女の方々、

 それから京太様とお仲間の皆様、どうぞ宜しくお願い致します」



シーワン王国側の挨拶が終わると、

アトラ王国側の挨拶が行われたのだが、

その最後に、何故か、京太も含まれていた。




――なんで、僕まで・・・・・・



そう思っていると、マチルダが、小声で呟く。



「お姉さまも、私も、王族として挨拶を致しましたわ。


 それなのに、旦那様が挨拶をしないなんて、あり得ない事です」



確かにその通りなので、京太は、改めて挨拶をおこなった。



皆の挨拶が終わると、

その後は、和やかに昼食会が行われ、ゆっくりとした時が過ぎる。



食事を終えても、皆がそれぞれに団欒を楽しんでいた。


その最中に、話し合ったのか、

午後からは、京太達とは別行動をすることを告げるエヴィータ王妃。



「大丈夫ですか?」



「ええ、港の視察に向かうのですが、

 その案内をキーラ女王とベンジャミン殿が、勤めてくださるので

 心配は、不要です」




「わかりました。


 それでは、キーラ女王、宜しくお願い致します。


 エヴィータ王妃、合流は、夕方で構いませんか?」



「ええ、宜しくね」



そう告げたエヴィータ王妃とキーラ女王は、

食事会場を後にする。



その後、夕方になると、

視察を終えたエヴィータ王妃達が、戻ってきた。




「今日は、とても楽しかったわ、本当に有難う御座います」



同行したキーラ女王も笑顔で答える。



「そう言って頂けると、私も嬉しいですわ」



2人が楽しそうに会話をしていと、アリエルがエヴィータ王妃に話し掛ける。



「ママ様、また来たいです」



「ええ、そうね、また、来ましょう」



「はい!」




アリエルとの会話を終えたエヴィータ王妃は、

京太に転移の鏡を出してもらう。




「京太様、お願いしますね」




「はい」




エヴィータ王妃達に続き、ナイトハルト、フィオナ、が転移の鏡を潜る。



「さぁ、貴方達も行きますよ」




今日1日、緊張のしっぱなしで、考えの追いつかないダイは、

スミスに言われるがまま、右手と右足を揃えて歩きながら転移の鏡へと向かう。



「ダイ兄ちゃん・・・・・大丈夫?」



「あ・・・ああ・・・大丈夫だ・・・・・」



どう見ても大丈夫とは思えないダイの背中を

メイドが押して、転移の鏡を潜らせる。


残っていたスミスは、スーと手を繋いで転移の鏡を潜った。



「僕も、行って来るよ」



そう言い残し、転移の鏡を潜る京太。


京太が、潜り終えると同時に、転移の鏡は消えた。







シャトの街に戻った者達は、それぞれの仕事などに戻っていくが

ダイは、どうしていいのか分からない。



仕方なく、辺りを見渡していると、声を掛けられる。




「ダイ、お前は、こっちだ」



声を掛けたナイトハルトは、フィオナと一緒に屋敷を出ると

ダイを伴って兵舎へと向かう。



ダイが屋敷から出て行くと、スーにも、声が掛かる。



「スー、貴方は、こちらです。


 これから、貴方が使う部屋に案内します。


 ついて来なさい」



「はい」



スーは、スミスの後ろを、ついて歩く。




2人がいなくなると、京太にも声が掛かった。



「京太様、私達の荷物ですが、私の部屋にお願いしますね」



「わかりました」



エヴィータ王妃の部屋に行き、荷物を置いた京太は、

転移の鏡を元の位置に戻し、国王の隠し部屋と繋げると、

再び、シーワン王国に向けて、飛び立った。




翌日早朝、シーワン王国の宿に戻った京太は、

いつも使っていたベッドに倒れ込む。




「疲れたぁぁぁぁぁ」



思わず声を上げ、倒れ込んだ京太だったが、

ベッドの感触の違いに気付き、体を起き上がらせた。



布団が、少し盛り上がっている。




「ん?・・・・・」



軽く触れてみる。




『ムニュ・・・』




「あんっ!」




慌てて、布団を捲ると、そこにはラムがいた。




「うわぁぁぁぁぁ!!」




大声を上げたせいで、ラムが目を覚ます。




「・・・・・ん、京太、お帰り・・・・・」




「あははは・・・・・ただいま」




ラムは、挨拶を終えると、再び眠りに就く。




――仕方ない・・・・・ソファーで寝るか・・・・・




京太は、仮眠をとる為に、ソファーへと移動した。




――なんか、疲れたなぁ・・・・・




ソファーで横になると、自然と瞼が重くなり、

京太は、知らぬ間に眠ってしまった。






数時間後・・・・・



「お兄ちゃん、お客さんだよ!」



京太を、起こすクオン。



「ん・・・・・」



「下に、兵士が来ているよ」



「ああ、わかった」



目を覚ました京太は、

食堂で待機していた、兵士と会う。



兵士は、キーラ女王の使いの者だった。




「船と乗組員の準備が出来ましたが

 如何なさいますか?


 宜しければ、港まで、ご案内致します」



その言葉を聞き、京太は、仲間達に声を掛け

全員が集まると、兵士の案内に従い、港へと向かった。



港に到着し、案内された船は、

予想した物よりも大きく、立派な物だった。




――大き過ぎない・・・・・・




皆と一緒に船を見上げていると、

髭を生やした、色黒の男が声を掛けて来る。




「あんたが、この船に乗るのか?」




「はい、京太と申します」




「俺は【ゲンガ】、この船を任された者だ、宜しくな」




差し出された手を握ると、力を込められる。


ゲルガは、笑顔を作りながらも、京太を挑発しているのだ。




――そういう事なら・・・・・・




京太も力を込め返す。



すると、ゲンガの顔から笑顔が消え、表情が歪み始める。




「ぐっ・・・・・」




京太は、更に力を込めた。


途端に、ゲルガが悲鳴を上げた。




「ぎゃぁぁぁぁぁ!


 潰れる潰れるっ!


 参った、勘弁してくれっ!!」




京太は、握られていた手を離す。




「どうして、こんなことを?」




「・・・・・すまない、この船の主は、強いと聞いていたもんで、

 つい力試しがしたくなったんだ。


 本当にすまない」




「船の主?・・・・・」




「ああ、この船は、あんたの船だと聞いているぞ」




京太は、案内をしてくれた兵士に聞く。




「この船、貸してくれたのではないの?」




「いえ、女王陛下から、京太様の船だと伺っております」




「そうなんだ・・・・・」




京太は、この先の事も考えて、受け取る事にしたのだが、

もう一つ、聞いておかなければならない事がある。




「ところで、ゲンガさんは、誰に雇われているの?」




「旦那、『さん』付けは止めてくれ、

 旦那は、俺達の雇い主なんだからよ」



「!!!」



京太は、新たな事実を知った。




――聞いて良かったぁ・・・・・




キーラ女王は、先の事や、船の整備の事も考えて、

船員を雇い、代金を支払った。


しかし、主は、京太としていたのだ。



そんな事を知らなかった京太は、驚くばかり。




「本当に、御礼は、どうしよう・・・・・?」




京太が悩んでいる間に、仲間達は、荷物を船員に任せて

船に乗り込んでいく。




「京太ぁ!


 早くおいでよ、とっても広いよ!」



フーカの誘いを受けて、京太も船に乗り込む。



実際に乗って見ると、想像以上に大きく、寝室や食堂も配備されていた。




「旦那、良い船だろ!」




「うん、気に入ったよ」




「そうか、それで出港は何時になるんだ?


 俺達は、明日でも構わねえぜ」




「有難いけど、明後日にするよ、

 キーラ女王に御礼も言いたしね。


 それと・・・」

 




京太は、ゲンガに、お金の入った小袋を渡す。




「これで、余分に食料と飲み物、

 あと、足りない物を購入しておいて欲しいんだ」



「ああ、任せてくれ」



返事をしたゲンガに、もう1つの小袋を渡す京太。



「こっちのお金は、出航までの滞在費。


 食事をしてきてもいいし、

 ゲンガ達用の酒を買ってもいいよ」



ゲンガは、金を受け取ると笑みを見せる。




「旦那、有難いぜ」




ゲンガは、嬉しそうに仲間を引き連れ、買い物へと出掛けた。




京太は、仲間達に、明後日、出港だと告げた後

イライザとマチルダを引き連れ、城へと向かう。




城に到着し、キーラ女王に面会を求めると、

いつもの様に、直ぐに案内をされた。




「キーラ女王、この度は、立派な船を用意して頂き、有難う御座います」




「そんなに畏まらないで下さい。


 この国を、助けて頂いた事に比べれば、大した事では、ありませんから」




「そう言って頂けるのは、有難いけど、もらいすぎている気がするので、

 何かお礼をさせて頂けませんか?」




京太の提案に、キーラ女王は、少し考えた後、

思いがけない事を口にする。




「では、娘を貰って下さい」




「えっ!?」




「この国の未来、それとアトラ王国、

 アクセル王国、武装国家ハーグの未来の為にも

 娘を貰って頂けませんか?」




「えっと・・・・・僕は、御礼がしたいのですが・・・・・」




「ええ、存じておりますよ」




キーラ女王は、京太に笑顔で向き合う。




――なんとかならないかな・・・・・




そう思いながら、左右にいるイライザとマチルダを見ると、

悟ったような表情をしている。




――どういう事!・・・・・




驚く京太の表情を見て、吹き出しそうになったイライザは、助言?をする。




「京太様、キーラ女王陛下ですが、お母様と同じ匂いがしますわ」




「え!?」




「私も、お姉様と同意見です。


 この雰囲気と言い、お母様に、そっくりです」




――それって、断れないって事・・・・・だよね・・・・・




2人と話をしている間に、キーラ女王は、娘のレインを呼んでいた。




「お母様、何か御用でしょうか?」




「レイン、貴方は、京太様に嫁ぐ気はありますか?」



京太からは、断りづらい。


いや、断れない。


だからこそ、京太は願う。




――断ってくれぇぇぇぇぇ!


  


だが、そんな望みは、儚く敗れた。



キーラ女王の言葉に、レインは瞳を潤ませる。




「有難う御座います、お母様。


 わたし、幸せになります!」




――もう、断れないよね・・・・・・




諦めた京太の表情を見て、イライザとマチルダは、笑顔で言葉をかける。




「京太様、これも運命ですよ」




「そうです、今更、1人増えても変わりませんわ」




――まぁ、いいか・・・・・



そう思ったが、レインは、まだ12歳、戦闘経験も無い。



これから向かうのは、黒の大陸。


いきなり危険な場所に向わす訳にも行かず、

黒の大陸から戻って来てから

一緒にシャトの街に戻る事を提案し

それまでは、この国で、滞在してもらう事にも納得してもらった。




「わかりました、それまでに私も準備を致します。


 あと、メイドも数人連れて行きたいのですが、宜しいですか?」




「構わないよ」




「有難う御座います。


 京太様、必ず、迎えに来て下さいね」




「わかった」




京太達は、挨拶を終えると、宿へと戻る。





あれから数日が経ち、出港の朝を迎えた。


京太達の見送りをする者の中に、レインの姿もある。




「京太様、私、待っていますから、必ず帰って来て下さい」




「うん、必ず帰って来るよ」




レインは、港を出て行く船に、何度も手を振っていた。


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