第152話黒の大陸 相談と雇用と旅行気分?

京太が兵舎に連れて行った、ヨゴーテの年齢が14歳だと判明する。


同時に、彼が、やはりライオネルの息子という事も間違いのない事だった。



兵舎に着いた途端、ヨゴーテが叫ぶ。




「俺は、四富貴、ライオネルの跡を継ぐ為に、この地に戻って来たんだ。


 お前たちも、前の方がいいだろ、

 だったら、この俺に、従えよ!!!」




ヨゴーデは、必死に叫んだが、兵舎にいた兵士達は、

冷ややかな目を向けている。



そんな中、1人の兵士が、ヨゴーテに近づき、肩を叩く。



「はいはい、言いたいことは言えたんだろ、良かったな。


 なら、次は、俺たちの番だ。


 質問には、素直に答えてくれ。


 例えば、お前をこの街に入れた者の事とか・・・ほら、奥に行くぞ」


 兵士は、ヨゴーテの背中を押し、奥へと連行した。

 



その後、ヨゴーテの自白に伴い、

賄賂を受け取り、街に入れた警備兵を筆頭に、

手を貸していた者達を捕らえ、

この件は、一応の方が付いた。



 

 数日後、京太は、ダイと話をした、あの場所に行ってみると、

 そこには、ダイを始め、あの時の子供たちの姿があった。




京太の姿を見つけて、駆け寄る子供達。



「皆、元気そうだね」


何事も無かったかのように、話しかける京太に、

ダイは、頭を下げた。



「本当にごめんなさい!」




ダイが頭を下げると、他の子供達も頭を下げる。




「いいよ、気にしていないから」




京太は、そう言って、その場を去ろうとするが、ダイが声をかけた。




「京太さん、お願いです、話を聞いて下さい!」




京太は、立ち止まる。




「何?」




「あの・・・・・僕達に出来る仕事を、紹介して貰えませんか?」




「えっ!?」




「この街の人に頼んでも、仕事が貰えなくて・・・・・

 でも、他の国から来た京太さんなら、僕達を雇ってくれるかもと思ったんです」




「そうか、でも僕は、君達の敵だった男だよ。

 

 それなのに僕の事を信用出来るの?」



黙り込むダイ。



年長の子供達も、ダイと同じような反応を示している。



このままでは、埒が明かない。



京太が、口を開く。


「一度、仕事に就くと、我儘を言ったり、勝手に休憩とか出来ないよ。


 それに、仕事は、この街とは限らない。


 それでもいいの?」



──仕事がもらえる!・・・



そう思ったダイに迷いは無かった。


だが、他の子供達は、お互いの顔を見るばかりで、

返事が出来ずにいた。



その為、ダイが説得しようとしたが、京太に止められる。




「ダイ、この国から離れる事になる。


 それに、全員が同じ場所で、働くとは限らないんだ。


 だから、自分の意思で決められないのなら、連れて行けないよ」



ダイは待った。


だが、何時間経っても

誰一人として自分の意思を示さなかった。




「ダイ、本当に、この街を離れてもいいんだよね」




「・・・・・はい」




「わかった。


 取り敢えず、ついて来てくれるかな」




京太は、仲間達と泊まっている宿にダイを連れて行こうと歩き出す。




すると、さっきまで『キョロキョロ』としていた最年少のスーが、

『トテトテ』と近寄って来た。




「ダイ兄ちゃん、何処行くの?」




「スー・・・・・僕は、皆と離れて、他の街で仕事をするんだ」




「しごと?・・・・・・・」




「うん、働いてお金を貰うんだ」




「わかった、スーも仕事するよ」




「??」




「仕事をするのは、僕だよ」




ダイの返事を聞き、スーは、泣きそうな顔をする。




「スーがしごとは、ダメなの?」




ダイは、京太の顔を見る。




「いいよ、一緒に行こう」




「うん!」




ダイは、皆に手を振り終えると、

スーと手を繋ぎ、京太と共に宿へと向かった。



宿に着いた京太は、二人を部屋に招き入れる。




「食事は後でして貰うけど、今日は、この部屋に泊まって。


 それと、明日、テストをするから、その結果で今後の事を決めよう」



「わかった」




一旦、ダイ達と別れた京太は、

別室にいる仲間達と合流し、2人の事を話した。




「それで、ダイだけど、ナイトハルトに預けて警備隊に入れようと思うんだ」




ソニアが答える。




「男の子は、それでいいとしても、女の子はどうするの、


 まだ、小さかったわよね」




「うん、6歳」




「・・・・・・」




「いつも通り、スミスに任せようか」




「あのね、京太。


 スミスだって限界はあるのよ。


 人数が増えて、メイドも増えて、王族も増えて、大変なのよ。


 これって、誰のせいかしら?」




京太に視線が集まる。




「でも、屋敷の事は、僕達よりも、

 スミスに任せた方が上手く行くと思うんだ」




「「・・・・確かに」」




その意見には、皆が同意する。




「主様、それでどうするのだ、今から子供を運ぶのか?」




「いや、一旦、僕一人でシャトの街に戻り、

 転移の鏡を使って、こちらにナイトハルトとスミスを連れて来るよ」




「それは、理解したのだが・・・

  主様は、どうして『転移の鏡』を持って来なかったのだ?」




「それは、アリエル達にとって、

 転移の鏡は、今一番必要な物だったから」



「えっ!?


 それだけの理由なのか?」




ラゴは、呆れたように聞き返した。




「そうだよ、他に理由なんて、あるわけないよ」




「そうじゃのぅ・・・」



――貴重で、便利な転移の鏡を、他人の為に置いてくるなんて・・・

  主様は、天然なのか、優しいのかよくわからん・・・・・・




ラゴが、そんな事を思っていると、京太が笑顔のまま

ラゴの頭を撫でる。




「取り敢えず、行って来るね、 子供達の事は頼んだよ!」




ラゴは、少し顔を赤くしながら、上目使いで答える。




「主様は、ズルいのじゃ・・・・・こんなの・・・・・嫌とは言えん・・・」




京太は、窓から飛び出すと、アトラ王国に向けて飛び立った。






その日の夜、無事にシャトの街に到着した京太は

ナイトハルトの屋敷訪問し、事のあらましを話し

警備隊で雇って貰えないかと尋ねた。



すると・・・・・



「そうだな、俺が、一から育てるのも面白い。


 だが、その前に一度、会わせて貰えないだろうか?」




「わかった、明日の朝、迎えに来るから」




ナイトハルトと別れて、屋敷に戻った京太は、

スミスとエヴィータ王妃に

転移の鏡を持って行く事を告げる。




「直ぐに返すから、心配しないでいいよ。


 それで、その子の事なんだけど・・・・・」




スミスが答える。




「その娘に、私が会えば良いのですね」




「うん、お願い出来るかな?」




「はい、その後の事も任せて頂けるのでしたら、構いません」




「勿論だよ、宜しく頼む」




これで話は終ったと思ったら、エヴィータ王妃が、とんでもない事を言い出した。




「明日は、この街から『転移の鏡』で移動するのよね」




「はい、そうですけど・・・・・」




「なら、私も行きましょう、勿論、娘も連れて行くわよ!」



「!!!」



明日の予定を決めると、エヴィータ王妃は部屋を飛び出して、

娘達のもとへと向かった。




翌日、京太は、エイリーク アトラ国王が王宮に出掛けた後、

転移の鏡を回収した。




そして、屋敷の玄関で待っていると、エヴィータ王妃と3人の娘の他、

スミス、ナイトハルト、フィオナ、メイド2名が集まる。




――完全に旅行気分だな・・・・・・




京太は『転移の鏡』に魔力を流し、

シーワン王国で、使っている宿屋の部屋へと繋ぐ。




「準備出来ました」




「早く行きましょう!」




エヴィータ王妃は、3人の娘と2人のメイドを引き連れ、『転移の鏡』を潜る。


それに続き、皆も、転移の鏡を潜り抜けて、シーワン王国へと入った。




大きな物音がした後、騒がしくなった事で、

隣の部屋にいた仲間達が、駆け付ける。


初めに、部屋に入ってきたのは、イライザだった。



思わず声を上げるイライザ。



「お母様!?」




エヴィータ王妃の姿を見つけたイライザが驚いていると、

他の仲間も部屋に入ってくる。




「あ~アリエル達も来たんだ!」




「主、これは、一体・・・・・」




「エクス、仕方が無いんだ・・・・・」




京太の様子から、屋敷での様子を察した仲間達は、

苦笑いをするしかなかった。




食事を終え、京太が改めて、ダイとスーを紹介すると、

ナイトハルトが立ち上がる。




「私は、ナイトハルト アトラ、アトラ王国の第1王子だが。


 君が、私のもとで、働きたいと言っているんだね」




アトラ王国の王子と聞き、ダイに緊張が走る。


だが、父がやっていた作法を思い出し、見よう見まねで膝を付いた。




「私は、ダイ・・・です。


 ナイトハルト王子様、宜しくお願い致します」




「わかった、君が務めるのは、シャトの街の警備隊だ。


 訓練は厳しい、それに、泣き言は許されない。


 それでも、働く気は、あるか?」




ダイは、頭を下げたまま返事をする。




「はい、宜しくお願い致します」




「始めは見習いからだ。


 雑用ばかりだが、訓練には参加出来る。


 頑張れよ」




「有難う御座います」




ナイトハルトがダイと会話をしている間に、スミスは、スーと面会をしていた。




「貴方、お名前は?」




「スーだよ」




「では、スー。


 働く事になれば、あの子と一緒には、いられません。


 それでも、ついてきますか?」




スミスは、ダイに指を差しながら聞いたが、

スーが気にしているのは、そこではなかった。




「ごはん・・・・・食べれる?」




「真面目に働けば、御飯も食べれます。


 それに、お金も貰えます」




「・・・・・なら、やる。


 がんばるよ」




「そうですか、では、初めに言葉使いを直しましょう」




「うん!」




「『うん』ではありません。


 これからは、『はい』と答えて下さい」




「はい!」




スミスとスーの様子を見ていたエヴィータ王妃も頷いていたので、

京太は、この先の事を任せる事に決めた。




その後は、大人数での観光になったのだが、ナイトハルトとフィオナは、

2人だけの世界で買い物を楽しみ、

エヴィータ王妃は、娘達の為に気に入った物を次々と購入し、

京太のアイテム ボックスに入れていく。




そのエヴィータ王妃と3人娘の後ろを、スーと手を繋いだスミスが歩いていた。




ただ、大人数で、騒ぎながら市場を散策した為に、

街の警備をする者達から、上の者達に報告が行き、

最後には、キーラ女王の耳に入った。




「それは、事実ですか!?」




「はい、京太様の一団の中に、

 立派なドレスを着た方々が、数名おられまして・・・・・

 その・・・・・どの様に、対応致しましょうか?」




――呼びつけるのも、失礼になるかもしれないわね・・・・・・・




突然の報告に、キーラ女王も戸惑い、

自国なのだから、呼びつけても何も問題は無いのだが、

そんな事も、忘れてしまっていた。




「急いで、ベンジャミン卿とヨアヒム卿をここへ」




執務室で仕事をしていた2人は、キーラ女王の呼び出しに応じる。




「キーラ女王陛下、如何なされましたか?」




キーラ女王は、先程聞いた事を2人にも話した。




「どちらにしろ、京太様の関係者でしょうから、私が直接伺いましょう」



「それでは、私は、食事などの手配を」



「2人共、頼みましたよ」



「御意」




城を出たベンジャミンは、3台の馬車を連ねて、急いで市場へと向かう。



市場に到着したベンジャミンは、

直ぐに京太達を見つける事が出来た。




ベンジャミンは、馬車を降り、護衛を連れて京太達のもとへと走る。




「京太様!」




その声に気付いた京太が、振り返る。




「ベンジャミンさん?」




息を切らしながら、ベンジャミンは尋ねた。




「申し訳御座いません、あちらにおられる方は、どなた様でしょうか?」




ベンジャミンの視線の先にいるのは、エヴィータ王妃と娘達。


隠し通せる筈がない。



「あーーー、エヴィータ王妃と娘達・・・・・かな?」




答えを聞いたベンジャミンは、頭を抱える。




「京太様、お願いですから、こちらにもお知らせください」




「うん、ごめん。


 今朝、到着したばかりだし、お忍び?だからいいかなって」




「そんな・・・・・困りますよぉ・・・」




項垂れるベンジャミンだったが、直ぐに、気を持ち直し

城へ知らせを走らせた後、京太に告げる。




「この先は、私も同行させて頂きます」




京太は、面倒をかけてしまった罪悪感もあり、ベンジャミンの同行を認めた。



「あ、うん」




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