第151話黒の大陸 揉め事と後始末

野次馬が去った後、近くにいたクオンが、話しかける。




「お兄ちゃん・・・・・あのね・・・・・

 これ、あげてもいいかな?」




自分達で食べるつもりで買っていた肉串やパンの入った袋を、京太に見せる。



――ただ、あげるだけだと、この先に繋がらないけど・・・・・・・



「取り敢えず、話を聞いてみようか?


 その時に、あげればいいよ」




クオンは、嬉しそうに頷く。


クオンは、両親が殺され捕らえられていた過去がある。


その時、京太が助けなければ、奴隷、若しくは

この子達と同じ様にホームレスになっていた。



そのような過去を持っているせいで、

クオンが子供達から目を離す事が無かった。



京太が子供達に近づくと、

それに気付いた年長の男の子が、年下の子供達を庇う様に前に出る。



「僕達に、何か御用ですか?」



「驚かせてごめん、ちょっと話が聞きたいと思ったんだ」



京太が話しかけていると、横からクオンが顔を出す。




「これ、何処かで一緒に食べない?」




クオンの差し出した袋に、子供達は、興味を示す。




「【ダイ】兄ちゃん・・・・・」




後ろに隠れていた少女は、ダイと呼ばれた少年の服を引っ張る。




「【スー】、ちょっと待って!」




「おなか・・・・・空いたよ・・・・・」




ダイが、スーと向き合っている間に、京太の仲間達も集まる。




「京太、どうしたの?」




「皆、もういいの?」




「うん、まぁ・・・・それで、何をしているの?」




ソニアは、路地の方に顔を向ける。




「子供?・・・・」




「うん、ちょっとね・・・・・」




ソニアは、クオンが袋を差し出している状態から、察した。




「話を聞いてみようと思っているんだ」




「なら、もっと広い所に行こうよ」




皆も、ソニアの意見に賛同し、隙を与えず子供達の手を握る。




「案内してくれる?」




手を握られた女の子は、笑顔で、ソニアの手を引っ張った。




「お姉ちゃん、こっち」




子供達は、食べ物が貰えると思い、

近くの空き地に、京太達を連れて来た。



クオンは、食べ物の入った袋を差し出す。



「好きなの食べていいよ」



「ありがとう・・・・・」




ダイは、お礼を言うと、クオンから袋を受け取り、

小さな子供から順番に配った。


食べ物を受け取った子供達は、

ダイに促されて、お礼を言うと、近くの廃材に座り、

食事を始めた。




「主、私達も、食事にしましょう」




「うん、そうだね」



京太達も、食事を始める。



子供たちは、久しぶりのまともな食事という事もあって

食べる事に、一生懸命。



その姿を見ている京太。



──この子たちは、どうなるんだろう・・・・・


何気に、考えてしまう。



そんな事は、気にしている様子もない子供たちは

食事を終えると、ソニア達と遊び始める。




京太は食事を終えていたダイを呼ぶ。




「僕に何か御用ですか?」




「うん、話が聞きたいんだけど、いいかな?」




「はい、約束通り食事を頂いたので、何でも聞いて下さい」




何のお礼も出来ないダイは、聞かれた事に答える事にした。




「市場で大人が言っていた、『お前達の親父のせい』ってどういう事なの?」




その質問に、ダイは、大人達に囲まれた時と同じ様に下を向く。




「・・・・僕の父は、この国の分隊長だったんだ・・・・・」




――ああ、そういう事か・・・・・・




京太は、何となく理解をした。


ダイは、ゆっくりと話し始める。




「少し前に、隣の国の亜人連邦と戦争があったんだ・・・・・

 その戦争で、僕たちの国は負けて、

 亜人奴隷を、強制的に解放する事になったんだけど、

 その事で、損をした人達が

 『お前達の父親が、欲をかいて勝手に戦争を仕掛けたからだ!』って言うんだ」




その話が、嘘でない事は、当事者である京太は分っている。




「確かに、父は戦争に負けました。


 だけど、父が欲望の為に戦争を仕掛けたなんて・・・・・

 絶対に何かの間違いです」



ダイが必死で言い切る姿から

自宅では、良い父親だったことは窺えるが

戦争に加担していたことは事実である。

       


「なら、あの戦争からずっとホームレスなの?」




「はい・・・・・

 四富貴だったライオネル様とボッシュ様と同じ様に

 僕の家も、財産を没収されたんだ」




「それで、家が無くなった事は、分ったけど、お母さんはどうしているの?」




「・・・・・母は・・・・・母は、死にました。


 母は、酒場で働きだしたのですが、

 ある時、朝になっても家に帰って来なくて・・・・・

 それで、探しに出掛けたら、

 兵士の方が、路地裏で死んでいたと教えてくれました」



ダイは、話しの途中から、拳を握り、涙を流していた。



「ごめん、辛い事を聞いた」



ダイは、無言で首を振った後、再び口を開く。




「構いません。


 もう、気にしていませんから・・・・・」




口では強がりを言っているが、どう見ても気にしている様子だった。


その様子を見て、京太は、あの戦いの真実を教えた方が良いのか悩む。




――さて・・・・・




京太は、結論を出す為に、ダイに質問をする。




「ダイは、これからどうするの?」




「・・・・・僕は・・・・・父の潔白を証明します。


 そして、今度は、こちらから戦争を仕掛け、亜人連邦を倒します」




――また、繰り返されるのか・・・・・・




京太は、覚悟を決める。




「ダイ、それは、止めておいた方がいいよ」




「それは、出来ません。


 僕は、必ず・・・・・・」




ダイの決意を聞く前に、京太が口を挿む。



「1つ、聞きたいんだけど、皆が言っていることが事実だった場合

 ダイは、どうするの?」



「そんな事、ありえません!」



「それはわかった。


 それなら、例えばでもいいよ、事実だった場合を考えてみてよ」



京太の問いに、ダイは悩んだ。



そして・・・・



「それが本当の事でしたら、ぼ、僕は、父を許せません。


 だけど・・・・・」



「だけど?」



「あの方たちが言っていました。


 あの戦争を始めたのは、亜人連邦で、

 そのせいで、僕たちはこうなったんだと・・・」



「あの方?」



この子供たちに、誰かが嘘を吹き込んでいる。


それを知った京太。


許せる筈がない。



──また、戦争でも仕掛けるつもりなのか・・・・・



「その『あの方』って誰?


 良かったら、案内をしてくれないかな?」



「どうして、あの方に会いたいの・・・」



問い直したダイの視界に、ラムの姿が映り

とあることを思い出して、激高する。



「お前たち、亜人連邦の関係者だろ!

 よくも、父上を!」



ダイは、隠し持ち歩いていた錆びた小剣を取り出し、

京太に向けたと同時に、仲間の子供たちに声を掛けた。



「こいつらは、敵だ!

 みんな離れろ!」



その言葉に、驚き、慌ててダイのもとに向かう子もいたが、

その場に座り込み、泣き出す子もいた。


泣き出した子を、宥めるソニア達だが、

そんなソニア達に向かって石が飛んで来る。



「ちょっと、この子もあんた達の仲間でしょ、当たったらどうするのよ!」



ダイの元まで逃げ延びた子供たちの攻撃に対して、

叱咤するソニア。


「お前たちは、敵だ!

 敵の言う事なんて聞くもんか!」


「そうだそうだ」と言いながら、再び石を投げようとする子供たちだが

突如、背後に現れたクオンとエクスに抑え込まれ、動きを封じられる。



「いい加減にしないと、牢屋に放り込みます」



エクスの一言で、子供たちの動きが止まった。



「みんな!」


振り返るダイ。


その目の前には、ラゴの姿がある。



わっぱよ、大人しくせよ。

 

 さもないと、我が主に剣を向けた事、この場で後悔させることになるぞ」



ラゴの威圧を込めた言葉に、ダイは、震えて小剣を落とす。



ゆっくりと近づいた京太は、ダイに事実を伝える。



「あの戦いは、亜人連邦が、内戦で弱っていた所を狙って

 シーワン王国が仕掛けたんだよ。


 そして、女、子供を奴隷にする為に攫ったんだよ。


 ダイには、厳しいかもしれないけど、これが事実だよ。


 あと、その証拠という訳でもないけど、

 あの戦いの後、国王が退位して、新しく女王に変わっただろ」




「・・・・・」




「僕が話したことが事実で、なければこんな事は起きないよ」




京太の話を、聞き、ダイは俯いていたが、

顔を上げ、動揺しながらも、京太に聞き返す。




「ど・・・・・どうして、貴方が、そんな事を知っているのですか!」



京太は、答える。



「当事者だからだよ、僕達は、亜人連邦の内戦を治める為に、その場にいたんだ。


 そして、内戦が終わる頃、

 シーワン王国は見計らったかのように

 兵を送り込み、鳥人族と猫人族の村を襲い

 亜人達を捕虜にしていたよ。


 僕は、本当の事を伝えたよ。


 この事実を信じるのも、信じないのも君次第」




京太は、そう伝えて、仲間に声をかける。




「帰ろうか・・・・・」




すると、1人の少女がラムの服を引っ張る。




「お姉ちゃん、帰るの?」




「うん・・・・・」




ラムは、少女の頭を撫でる。




「お姉ちゃん、また遊んでね」




ラムは、笑顔を向けるだけで返事をしなかった。


いや、正確には出来なかった。


理解が出来ず、怖くて泣いていた小さな子供達は、今でも笑顔を向けてくれる。


しかし、京太達が敵だったと理解出来た子供達は、

先程までとは、違っていた。




京太は、仲間が集まる間に、もう一度、ダイに声をかける。




「僕は、君に間違った人生を送って欲しくない。


 それだけだよ」




京太は、そう言い残して、仲間と共に、その場から去った。



帰りの道中、京太は、皆に告げる。



「間違った情報を伝え、子供たちを囲おうとしている者がいる。


 そいつは、絶対に許さない・・・・・」



その言葉に、応えるように、クオンが、京太の前に飛び出す。



「私も許せないの。


 だから、お兄ちゃん、ちょっと出かけて来るね」



それだけ言い残し、京太の返事も聞かず走りだすクオン。


その背後からついて行くエクス。



「あ~あ、行っちゃったわね」



「そうだね・・・」



「なら、私達も・・・」



そう言って、その場から去るソニアとセリカ。



4人が、去った後、京太の腕に抱き着くラゴ。



「主様は、何も心配せんでも良いぞ。

 探索は、あ奴らに任せて、わらわ達は、宿に帰ろうぞ」



「うん、そうだね」


京太達は、再び宿に向けて歩き出した。




その日の夕方、4人は、戻って来た。



「あの子たちの寝床は、突き止めたんだけど・・・」



歯切れの悪いソニアを引き継ぐように、セリカが伝える。



「私たちからは、子供たちの姿しか見えませんでしたけど、

クオン達からは、何か見えた?」



「子供かどうか分からないけど、奥に大きい人がいたよ」



「大きい人?」



「年齢が、分かり兼ねます」



「ああそう言う事か」



京太が納得していると、クオンが追加の報告をする。



「2人いたんだけど、その人たちが、今日会った子達に、

 色々聞いていたよ」



「わかった。


 ありがとう」

 



話を聞いた京太は、翌日の行動を決めた。






翌朝、食事を終えた京太は、1人で昨日の空き地へと足を運ぶ。


すると、そこには、ダイが廃材に座っていた。




「ダイ・・・・・」




ダイも京太に気付くと、立ち上がる。




「京太さん、話しを聞いて貰えますか・・・・・?」




京太が、ダイの横に座ると、ダイが口を開いた。




「僕の母は、戦争が始まった頃、『絶対に間違っている』って言っていたんです。


 でも、僕には、何の事か分からなかったんだけど、

 昨日の話を聞いてやっとわかりました」




「・・・・・」




「京太さん、僕は、これからどうしたらいいのですか?」




「それは、自分で決める事だよ」



「僕が決める・・・」



ダイが、俯き、考え始めると、

突如、ダイを呼ぶ声が聞こえて来た。



「ダイ、お前、何をしているんだ?」



声を掛けて来た男は、昨日、ダイと一緒にいた子供達を連れている。



男は、京太を睨む。




「話は、聞いたぜ。


 お前が、父上の仇なんだろ」



「父上?」



「そうだ。


 俺は、ヨゴーテ


 ライオネルの息子だ。


 貴様のせいで、財産は没収され、国から追放されたけど

 俺の思想に、賛同してくれる仲間がいるから、こうして戻って来れた。


 ここでお前を殺し、もう一度四富貴に返り咲く。


 覚悟しろ!!!」




ヨゴーテは、持っていた剣を抜き、京太に向ける。




「仇は、取らせてもらうぜ」



子供達は、ヨゴーテに命令されたのか、各々に木の棒や石を持っていた。


その様子を見て、ダイは慌てて止める。



「お前達、止めろ。


 あの戦争は、俺達の国が、先に仕掛けて負けたんだ。


 だから、止めるんだ」



その言葉に、反発するヨゴーテ。



「そんな事は、どうでもいいんだよ。


 俺は、親父達の仇を討ち、

 亜人共を皆殺しにする。


 そして、この国を正しい方向に戻す!」




そう言い放ったヨゴーテは、子供達に命令をする。




「おい、痛い目に合いたくなかったら、俺の言う通りにしろ!」



震えながら武器を構える子供たち。



ダイは、京太と子供達の間に、割り込んだ。




「本当に止めるんだ、取り返しのつかない事になるぞ!」




必死に説得しようとするダイを無視して、

ヨゴーテは、京太に攻撃を仕掛る様に大声で命令を下す。




「何を見ている、全員でかかれ!」




子供達は、震える手で武器(木材)を持ったまま突っ込んで来た。



その目には、不安と恐怖が浮かんでいる。




――こんなの・・・・・・・許せない!




京太が飛び出そうとした瞬間、4人が割り込み

子供たちの武器を奪い、無力化する。



「エクスにクオン。


 それに、ソニアとセリカ」



「ずっと、見張っていたから、間に合いました。


 お兄ちゃん、子供たちはもう大丈夫です!」



「ありがとう」



京太はヨゴーテに詰め寄る。



「小さな子を使って何をしているの?」



「う、五月蠅いっ!」



京太は、剣を振り下ろすヨゴーテの腕を掴んだ。




「ぐわぁぁぁぁぁ!!痛い、痛い、痛い!」




ヨゴーテは、堪らず握っていた武器を落とす。




「君は、他の子と違って大人だよね、幾つなの?」




「痛い、痛い、痛いぃぃぃぃぃ!!!」




痛がるばかりで答えが返って来ない。


京太と視線が合うダイ。




「・・・・・確か、14か15歳です」




「ダイ、お前・・・・・」




「あれっ!


 痛がっていた筈なのに、答えられるんだ」




その言葉と同時に、先程以上の力を籠めた京太は

そのまま腕を捻り上げる。



「がぁぁぁぁぁ!!!

 い、痛いぃぃぃぃっ!!!」



目に涙を浮かべるヨゴーテに伝える。



「警備兵の所に連れて行くね」




そう告げた京太は、その状態のままヨゴーテを引き摺り、歩き出したが

一度立ち止まり、ダイと向き合った。




「この国は、間違えたんだよ。


 でも、王妃だったキーラが、女王になり、生き残った四富貴の2人と共に

 新しくやり直そうとしているんだ。


 いい? 今ならまだ、やり直しが出来るんだよ」




そう言い残して、京太は、ヨゴーテを連れて警備兵の待機所へと向かった。


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