第150話黒の大陸 招待

城の隠し部屋から、シャトの街の屋敷に戻った京太は、

ウルド ツールから貰った封筒を開く。




中に入っていた手紙は、

『黒の大陸』にあるヴァンパイア(ツール)領への招待状だった。




――あの男、どういうつもりなんだろう・・・・・




1人、部屋で悩んでいると、扉が開き、ミーシャが入って来る。




「京太さん、どうかしたの?」




「黒ずくめの男の事、覚えている?」




「ジーパ国の首謀者ですよね」




「確かにそうなんだけど、今日のパーティーに来ていたんだ」




「えっ!?」




「僕に会いに来たみたいなんだけど、これ・・・・・」




京太は、手紙をミーシャに見せた。


手紙を受け取り、目を通すミーシャ。




「・・・・・・黒の大陸・・・・・ヴァンパイア領?」




「知ってる?」




「いえ、噂でしか知りません」




「そっかぁ・・・・明日、皆にも聞いてみるよ」




「はい・・・・・」




その後2人は、眠りに就いた。




翌朝、2人で食堂に入ると、

エイリーク国王、エヴィータ王妃、アリエル達が食事をしていた。




「お早う御座います、一家団欒していますね」




「京太殿か、貴殿のおかげで、

 こうして家族で食事が出来ることに、感謝している」




「ははは、それは、良かったです」




京太とミーシャも空いている席に座って食事を摂り始めると、

イライザとマチルダも姿を見せた。




「おはよう」




「うん、おはよう」




「後で、話があるんだ、いいかな?」




「わかりました」




食事を終えた後、京太達は、会議室へと場所を替え、

仲間達に昨日の出来事を説明して、『黒の大陸』について尋ねるが

エイリーク国王が聞いた事がある程度で

他の者達は、知らなかった。



「場所さえわかれば、なんとかなると思ったんだけど・・・」




「もしかして、京太、行くつもりなの?」




「うん、行った事無いからね。


 でも、皆は、無理して付き合わなくていいよ」




しかし、皆は、間髪入れず、返事を返す。




「「行くに決まってるわよ!」」




その日から、全員で『黒の大陸』についての情報を集めに奔走する。



そんな中、京太が教会に立ち寄ると、エリカが話しかけて来た。




「京太様は、『黒の大陸』についてお調べになられているのですか?」




「そうなんだけど、エリカは、何か知っている?」




「いえ、私は、知らないのですが、大巫女様ならと思いまして・・・・・」




「!!」




あの、会議室に集まった時、アリエル達は、いなかった。


京太は、お礼を言うと、急いでエヴィータ王妃のもとに向かう。


屋敷に戻り、階段を駆け上がって、エヴィータ王妃の部屋の前まで辿り着く。




しかし、扉を叩くが、誰も出て来ない。




――外出中か・・・・・




諦めて立ち去ろうとすると、メイドのビアンカが、声を掛けて来た。




「京太様、エヴィータ王妃様なら、アリエル様達とご一緒に王宮に行かれましたよ」




「そうなんだ、ありがとう」



ビアンカにお礼を述べて踵を返す。



――夕食の時にでも聞いてみよう・・・・・



その日の夕食には、偶然にも全員が揃っていた。


その中で、京太は、アリエルに話し掛ける。




「アリエル、『黒の大陸』の事で、何か知ってる?」




「はい。


 あまり詳しくは、ありませんが・・・・・・・」




アリエルから聞いた話は、『黒の大陸』にも教会があり、

そこで崇拝されているのは、

【闇と混沌の神、アぺプ】と【冥府の神、オリシス】だということ。



また、この大陸には、3国があり、何年も領地を巡って争っているとの事だった。


その3国の中の1つ、ダクネスは魔人と呼ばれる者達の国で、

2国から狙われているらしい。



そこまで聞いて、ウルド ツールの住んでいる国が、

他国から狙われている事が分かった。



――あいつ、僕に何をさせたいのだろう・・・・・・



そんな事を考えながら、話の続きを聞く。




「2国の内の1つサンドベージュは、人族だけが生活していますが、

 もう1つの国、ボルケノは、亜人と人族が、共同で生活しています」




「ダクネスには、人族はいないんだ。」




「私もこの国については、噂でしか聞いた事がありませんので、

 はっきりとは分かりません。


 ただ、日があまり射さず、日中も暗く、

 人族が生活するのには向いていないと聞いています」




「わかった、もし僕達が接触するなら、どの国がいいの?」




この質問に、アリエルは悩む。




「・・・・・はっきり言いますと、何処の国もお勧め出来ません」




「そうなの?」




「はい、どの国も他国との接触が無いので、

 余所者は敵だと思い、捕らえに来ると思います。


 実際に教会から、新しい者を派遣するにしても、

 難しい国でしたから・・・・・」




アリエルの話を聞き、京太は、段々と行く気が失せる。




「なんか、碌でも無い所だね」




「ええ、そうですね、ボルケノは『力が全て』と言うような国ですし、

 サンドベージュは、領地と奴隷の数が、

 『格』と思っているような国でしたから・・・・・」




――『禁呪』の事が無かったら、絶対いかないだろうなぁ・・・・・・




行く気が失せながらも、招待状を貰ったので、準備を始める。




それから2週間後、準備を終えた京太達は、シーワン王国を目指して出発する。




数日後、無事にシーワン王国に到着すると、

キーラ女王に面会を求めた。


急な事だったが、京太の名前を出すと、

すぐさま面会に応じて貰えた。



「無理なお願いをして、申し訳御座いません」




「構いませんわ」




キーラ女王は、嫌な顔などせず、京太達を笑顔で出迎える。




「アトラ王国でのパーティー以来ですわね」



「はい、その節は、有難う御座いました」




「お礼を言うのは、こちらです。


 3国だった同盟の計画に、我が国も参加させて頂けることになりましたし、

 それに、アリソン タガート女王陛下にもお会い出来ましたから」




「僕も約束が守れて良かったです」




「フフフ、それで今回は、どうしてこちらに?」




「はい、実は・・・・・」




京太は、『黒の大陸』へ行く事。


その為に船が必要だから、船を売って欲しいと頼む。


キーラ女王は、少し考えてから、話始める。



「『黒の大陸』ですか・・・・・・

 あの大陸に辿り着くには、『メイルストロム』を超えなければなりません」




「メイルストロム?」



「メイルストロムというのは、大渦の事です。


 ですが、ただの大渦とは違います。



「メイルストロムは、海の底に穴でも開いているかのように

 全てを飲み込む大渦が、いくつもある場所なのです」




「そこは、避けて通る事は・・・・・?」




「勿論出来ます。


 ただし、2週間ほど船旅が長くなります」




「そうですか・・・・・」




京太は、仲間を危険な目に合わす位なら、遠回りした方が良いと考える。


ここにきて、辿り着くまでの道程が見えた。



「教えて下さり有難う御座いました。


 船旅は長くなるけど、安全に行こうと思います」




「わかりました。


 船と乗組員の手配は、こちらで致しましょう。


 ただ、時間を頂く事になりますが、構いませんか?」




「はい、勿論です」




京太は、キーラ女王との話し合いを終え、その日の宿探しに向かう。


キーラ女王から、船の補強と乗組員の手配の為に、

10日程、滞在するように言われており、

それまで、皆で泊まれる宿を探して、街の中を散策しながら歩く。




そして現在・・・



「ねぇ、京太。


 宿を探す筈なのに、どうして市場に来たの?」


 


「今回は、長旅になりそうだから、色々な食材を買い込もうと思って」




「じゃぁ、私達も買っていい?」




「勿論だよ、代金は僕が払うから、好きな物を選んでいいよ」




フーカは、大喜びで京太に抱き着く。




「ありがとう、京太、大好き!」




そう言うと、フーカは、ハクを連れて市場の中を先に進む。




「あの子達、ホントに元気ね」




「ハハハ、ソニア達も、好きな物を選んでね」




「うん、ありがとう。


 そうさせてもらうわ」




皆は、それぞれに市場を巡る。


京太は、声をかけられる度に、仲間のもとに行き、

希望する商品を買い込む。




京太達が買い物を楽しんでいる最中、突如、怒鳴り声が聞こえてきた。




「汚ねぇガキがウロウロしてんじゃねぇ!

 邪魔だ!何処かに行きやがれ!」




気になって、急いでその場に駆けつける京太達。


そして、到着したその場で、目にしたのは

ボロボロの恰好をした5人の子供達が

店主らしき男に足蹴にされ、追い払われようとしている光景だった。




「お前らの親父のせいで、

 俺達がどんだけ苦労したか、わかっているのか!」




店主の言葉に、野次馬たちも同意し、子供達を睨みつけている。




「・・・・・それは・・・

 父上が・・・・・・」




子供達の中で、一番年長と思える子供が、何か言おうとしたが

言葉に詰まり、下を向く。




「・・・・・分かっているんなら、此処から消えてくれ」




店主らしき男は、そう言い残すと、店の中へと戻っていった。




店主が去ると、野次馬も散る。



すると、野次馬の誰かが落としたのか、食べ残したと思われる肉串が落ちていた。



それを、子供達の中で一番小さな子が拾い、汚れを手で払うと、

嬉しそうに食べ始めた。






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