第149話招かざる客

この度、アトラ王国の王宮で開かれるパーティーには、

アリエル達の姿を一目見ようと、多くの貴族達が参加する。



何故なら、既に貴族達の間では、美しい3人娘の噂は広まっており、

出来る事なら妻に迎えたいと思っている者達が多い為だ。



また、息子を同伴させた貴族達は、莫大な金をかけて

プレゼントも用意している。




その光景を見た京太は、引き攣った笑みを浮かべていた。




「みんなすごいね?」




「確かにそうですわね。


 多分、アリエル達の気を引きたいのでしょう」




「それって、あの2人が許すかなぁ・・・・」




イライザは、笑いながら答える。




「フフフ、無理ですわ。


 お父様も、お母様も、嫁に行かす気が無さそうですから」




「だよなぁ・・・・・」




京太が、イライザの意見に納得していると、音楽が鳴り始めた。


そして、会場が静まり返ると、扉が開き、エイリーク アトラ国王を筆頭に

エヴィータ アトラ王妃、ナイトハルト アトラ第1王子、

フィオナ 第1王子夫人、ハーリー アトラ第2王子、

ライナス アトラ第3王子が姿を見せる。




「あれっ?


 イライザとマチルダは、いいの?」




「京太様が、あそこに並ぶのでしたら参加しますわ」




マチルダも、京太の横で頷いている。




「ごめん、無理・・・・・」




イライザは、溜息を吐く。




「まぁ、今は構いませんが、結婚式を挙げ、皆に正式に紹介したら、

 そう言っておられませんよ」




「はい、承知しています・・・・・」




2人がそんな会話をしていると、エイリーク アトラ国王が

壇上にて、挨拶を始めた。




「皆の者、今宵は我が娘達の披露の席に、よくぞ集まってくれた。


 これより紹介させて頂くが、しっかりと顔を覚えてやって欲しい。


 それから、本日は珍しい食材を、各地から取り寄せて料理を作らせた。


 それらも思う存分、楽しんでくれ」




エイリーク アトラ王の挨拶が終わると、盛大な拍手が起きる。


だが、エイリーク アトラ王は、右手を上げて、それを止めた。




「それでは紹介しよう、我が娘達だ」




扉が開き、アリエル達が入ってくると、会場にどよめきが起きる。


3人共、エヴィータ王妃の選んだドレスと装飾品に身を包み、

どことなく恥ずかしそうにしているのだが、その姿が

余計に男たちに目を惹く。




「おお、美しい・・・・・」




「まるで、人形のようだ・・・・・」




皆が口々に褒め称える。




「ああ、まるで、天使のようだ・・・・・」




――天使です・・・・・




最後の「天使」の発言に、京太は心の中で突っ込みを入れた。


アリエル達は、国王と王妃の間に並ぶ。




「改めて紹介しよう、ハミエ アトラ、ラティ アトラ、最後にアリエル アトラだ」




3人娘は、自分が紹介されると、カーテシーで応えた。




その後は、観覧となり、料理や会話を楽しむ筈だったが、

貴族連中は、こぞって息子を従えて早々とプレゼントを渡しに行き、

3人の前に、長蛇の列を作っていた。




そのせいで、料理卓に集まっているのは、京太の仲間達だけ。




「これ、食べ放題だね・・・・・」




「う、うん、そうね・・・・・でも、料理が無くなりそうで怖いわ」




イライザが見ていたのは、フーカ、クオン、エクスの3人だった。


3人は、好きな物から、次から次へと食べ歩き、

皿が空になると、次の料理に向かって行った。




――イナゴの大群・・・・・・




京太が3人を眺めていると、声がかかる。




「京太様、お久しぶりで御座います」




振り返ると、そこにはシーワン王国のキーラ女王が立っていた。




「キーラ女王陛下、お久しぶりです」




「その節は、お世話になりました」




京太は、キーラ女王から最近の街の様子などを聞いたりしていた。


すると、1人の女性が近づいて来た。




「京太様、少し宜しいかしら」




挨拶に来たのは、武装国家ハーグのアリソン タガート女王だった。




「アリソン女王陛下、この間は、有難う御座いました」




「いえ、こちらこそ、3国同盟のお話を頂き、感謝致しております」



「では!」



「ええ、喜んで参加を表明致しましたわ」


 


細かい話は、後程、話し合うらしいが

これで、3国の同盟は、完成したとも思えた。



そんな時、背後から京太に話しかけて来る者がいた。


それは、シーワン王国の女王、キーラだ。




「京太様、ご無沙汰しております」



「キーラ女王陛下、先達ては、色々とお世話になりました」



「いえ、こちらこそ、ご助力頂き、感謝しておりますわ。


 それで、良ければ・・・・・」



キーラ女王陛下の視線の先には、アリソン女王陛下の姿。




京太は、これも何かの縁だと思い、お互いを紹介する。




「キーラ女王陛下、こちらが武装国家ハーグのアリソン タガート女王陛下です」




「初めまして、武装国家ハーグ、アリソン タガートと申します」




「私は、シーワン王国、キーラと申します。


 京太様から、他に女王陛下がいると聞かされた時から、

 貴方様に、お会いしたかったの」




「そうでしたの、では、あちらで、ゆっくりとお話致しましょう」




2人は、京太に挨拶を終えると、その場から離れて行った。




その後は、このパーティーに招待されていた七西連合のオーウェンや、

亜人連邦のアーチボルトなど、今まで出会った者達からの挨拶を受ける京太。




一段落し、京太が会場の隅の方でゆっくりしていると、

クラウスが声を掛けて来た。



「京太様」



「クラウス、どうしてここに?」




「長老の付き添いですよ。


 今回は、エルフの里にも招待状が来ましたので、

 久しぶりの王都見物も兼ねております。

 

 それと、娘達にも会おうと思いまして」




「そうだったんですね、ここには、ラムとミーシャしかいませんけど、

 シャトの街に来ていただければ、3人にも会えますので

 是非、お立ち寄りください」




「それは、有難い。


 長老も、お喜びになると思います」




クラウスは、最後に『アルの街のギルドにも顔を出して欲しい』

と京太に頼んでから、その場を去った。




1人になった京太は、アリエル達を会場の隅から見ていた。




――この国に連れて来て良かった・・・・・・




1人で、そんな事を思っていると、再び声がかかる。




「ご無沙汰しております、京太様・・・・・」




その声の主は、ウルド ツールだった。




「久し振りだけど、どうやって入ったの?」




「私は、ヴァンパイア、忍び込むのは得意です。


 宜しければ、少し、バルコニーで、お話しませんか?」




「いいよ」




京太は、ウルド ツールと共にバルコニーへと出る。




「今日は、一体、何の用なんだ!」




ウルド ツールは、笑顔で答える。




「そんなに怖い顔をしないで下さい。


 私は、貴方と敵対する気は、もう、ありませんから・・・・・」




「なら、どうしてジーパ国を壊した?」




「それは、既に終わった事です。


 あそこは、私利私欲に溺れた者達の国でした・・・・・


 国中の民が楽をする為に、同族を殺すような国ですよ、壊れて当然です」




確かに『禁呪』を知り、仲間を生贄にしていた事は、事実。




「でも、『禁呪』を知らなければ・・・・・」




「そう思いますか?


 遅かれ、早かれ、何かをしでかしたと、私は思います」




京太は、生贄にしたという事実の前に、

『そんなことは無い』と断言は、できなかった。




「フフフ・・・・・返事に困りますよね」




ウルド ツールの目が、寂しそうに見える。


だが、京太は『気のせいかも?』と思い、そこには触れない。



京太は、話を変える。



「それで、此処には、何か用事があって来たんだろ」




「ええ、勿論です」




ウルド ツールは、封筒を京太に差し出す。




「私が帰った後で、お読み下さい」




そう言うと、ウルド ツールは、

バルコニーから、暗い夜空に向けて飛び立った。



受け取った手紙を、しばらく見つめている京太だったが

その手紙を胸の内ポケットに仕舞い込むと

会場へと足を進めた。



京太が会場に戻ると、皆が探していたようで、ソニア達が近づいて来る。




「京太、何処に行っていたのよ!」




「ごめん、外で涼んでいたんだ」




「そうなんだ、それより、私達も、アリエル達に会いに行きましょうよ」




「わかった」




京太は、ソニアとセリカに腕を引っ張られながら、

仲間達と共に、アリエル達のもとへと向かった。


アリエル達のもとに着くと、エイリーク アトラ国王とハーリー アトラが、

鉄壁のガードで守っていた。




「陛下・・・・・それに、ハーリーも・・・・・何をしているの?」




京太の質問に、エヴィータ王妃が笑いながら答えた。




「貴族の子弟が、アリエル達の手の甲にキスをしようとしたのよ、

 別にそれは、よくある事なんだけど・・・・・この2人が・・・・・」




エイリーク アトラ国王は、憤慨している。




「キスなど、まだ早い!」



ハーリー王子も同意して、頷く。



「妹達には、まだ早すぎる!


 本日は、あくまでもお披露目であって、

 決して、社交界へのデビューではない。


 だから、そんな真似は許さない」




その様子に、イライザは溜息を吐く。




――この先、どうなるのかしら・・・・・・




その遣り取りを京太は、生暖かい目で見ていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る