第147話アラアイ教国 崩壊

避難勧告は行ったが、気になって神殿に降り立つ京太。


すると、案の定、巫女と巫女見習いの30名が、そのまま残っていた。




――予想通りかな・・・・・・




京太は、祈りを捧げている巫女に声をかける。




「逃げなかったの?」




祈りを捧げている巫女達は、聞き覚えのある声に、安堵し、涙を流す。




「神様、どうか、私達もお連れ下さい」




目を瞑っていたせいで、未だに京太に気付かない。




「・・・・・あの・・・・お姉さん・・・・・」




京太は、巫女の肩を叩く。


そのリアルな感触に、肩を叩かれた巫女が目を開ける。




「少年?・・・・・・どうして此処に?」




「お姉さん、話しを聞いて貰えるかな?」




声の主が少年だと気付き、驚きを隠せないが、声には聞き覚えがあった。




「神様・・・・・ですよね・・・・・?」




「あーーーその答えは、後でいいかな、

 それよりも、アリエル達に会いたい?」




「大巫女様は、生きておられるのですか!」




「うん、元気だよ。


 ただし、以前とは、ちょっと違うかも・・・・・・」




「どういう事でしょう?」




京太は、アトラ王国でエヴィータ王妃に気に入られ、

娘の様に可愛がられている事に、必死で言い訳を考えるが

良い案が浮かばない。


なので、諦めた」




「僕のせいかな・・・・・


 今までと違う生活に、身を置かせる事にしたんだ。


 だけど、以前の様に慕っても問題は無いけど、色々察してあげてね」




京太の返事に、巫女達は疑問に思う所もあったが、

無事だとわかり、安堵する。




その様子を見ていた京太は、提案を持ちかける。




「君達も来る?


 ただし、守って貰わないといけない事もあるけど・・・・・」




「はい、お願い致します。


 大巫女様に会えるのなら、どんな事でもお約束致します」




――アリエル・・・・・慕われていたんだ・・・・・・




京太は、そんな事を思いながらも、巫女達に守る事を伝えた。




「1つ目、僕の正体を明かさない。


 これは、この先ずっとだよ。


 2つ目、僕の呼び方だけど、『神様』は禁止。


 僕の名前は『京太』だから。


 最後に、この約束が守れないなら、記憶を消させてもらう」




京太の最後の『記憶を消す』行為だが、神から引き継いだ記憶の中に

それらしき魔法を見つけていたので、約束に加えてみたのだ。




「守って貰える?」




巫女達にとって、神に出会えた記憶を消す事など、出来る筈も無く、

全員が約束を守る事を誓った。




「なら、今から案内するよ」




京太は、アイテムボックスから、『転移の鏡』を取り出し、魔力を込める。


いつもの様に、一度は光り、その後、光りが収まる。




「1人ずつ、この鏡を潜り抜けて」




「「はい」」




巫女は、両手を胸の前で握りしめ、祈るような姿勢で、『転移の鏡』を潜った。


『転移の鏡』を潜り抜けた先は、何処かの屋敷。


最後の巫女が、『転移の鏡』を潜り抜けた後、京太も潜る。




「スミス!」




京太の声に反応するように、いくつかの足音が近づいて来る。




「お帰りなさいませ、旦那様」




応対に出て来たのは、メイドのチエリだった




「チエリ、スミスは?」




「エヴィータ王妃に連れられて、アリエル様の買い物に同行されています」




京太は、先日の事を思い出す。




――今日、行ったんだ・・・・・




「ごめん、チエリ、この子達のお世話、お願いしていいかな?」




「はい、メイド長から、京太様が帰ってきた場合の応対は、

 私に任されていますから」




――なら、問題無さそうだ・・・・・・




京太は、巫女達の事をチエリの任せて、アラアイ教国の

巫女達の集まっていた神殿に戻ると

ラゴとフーカが待機していた。




「お帰り~」




「ただいま。


 ラゴの言っていた通りだったよ、巫女は、全員ここにいたよ。


 ところで、ラゴは、どうして白いドレスなの?」




京太の疑問に答えたのは、フーカだった。




「それはねぇ~・・・・・羽が無いからだよぉー」




そう言って、フーカは、羽を『パタパタ』させる。




「五月蠅い!


 良いではないか!


 わらわも、少しは気を使って見たのだ」




そう言って、ラゴは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。




この場に巫女達が残っている事については、ラゴが京太に伝えていた。


京太とフーカも、その可能性は考えていたが、

ラゴは、『絶対に残っている!』と強く京太に進言していた。




「ラゴのおかげだよ、有難う。


 それで、枢教院の者達は?」




ラゴとフーカは、目を合わせると、笑い出した。




「それがの、あ奴ら、真っ先にこの地から逃げ出そうとしたのだが、民の方が早く動いていての。


 信徒の街への通路を破壊し、門を閉めたのだ」




「うん、おまけに重しも一杯置いていたよ」




「まぁ、最後には、逃げる事を諦め、

 残っていた聖騎士を連れて、屋敷に閉じ籠って、戦う準備をしているのだ」




「そうなんだ、じゃぁ最後の仕事に移ろうか」




「わかった!」




「うむ」




2人は、それぞれの別の方向に飛び立つ。


1人、神殿に残った京太は、一番高い塔に登り、体から魔力を解き放つ。




――【創造神、アトゥム】力を・・・・・




「この地に、『天の裁きを』」




今迄は、意識をせずに放っていた『天罰(天の裁き)』だったが、

ここに来て京太は、自身の思いで操れるようになっていた。




最初に落としたのは、ホグルの屋敷と、その周辺の神教の街。


上空の黒い雲から落ちて来た巨大な稲妻は、地上の全てを轟音と共に無に帰した。




その光と音は、この地に残されていた枢教院の者達や、聖騎士達、

その他の者達の目にも否応なしに届いていた。



その為、混乱が起きる。



大人しく従っていた屋敷の使用人や聖騎士達が、屋敷を飛び出し、

天に向けて祈り始める。



「神様、どうか・・・・お許しを・・・・・私は命令されただけなんです。


 どうか・・・」




祈りを捧げる聖騎士の前に、白いゴスロリ服を着た少女が、静かに降り立つ。




「今更、後悔しても遅い、貴様等、聖騎士は許さん」




ラゴは、そう言い残し、聖騎士の横を通り過ぎる。


ショックのあまり、両膝を付いたまま項垂れる聖騎士達だが、

その中の1人が、剣を抜き、ラゴに襲い掛かった。




「ならば、貴様も道連れだぁぁぁぁぁ!」




振り向いたラゴは、躊躇なく、聖騎士を切り捨てる。




「貴様等は、まだ殺し足らないのか・・・・・」




ラゴの怒りと同時に放たれた殺気に、聖騎士達は身動きが取れない。




「貴様等は、何処まで腐っておるのだ」




更に強く放たれる殺気に、気を失う者、顔色を無くし、振るえる者、

涙に鼻水、股間から水を垂れ流す者が続出した。




「屑共め・・・・・」




ラゴは、そう言い残すと、踵を返し、屋敷に向かって歩く。


屋敷に辿り着き、扉を破壊する。




そのまま屋敷の中に入り、メイドを捕まえる。



「お主、ここに地下牢はあるか?」



上擦った声で、返事をするメイド。



「はい!あります!」




「人は、おるか?」




その質問に、メイドは下を向いた。




「・・・・・・はい、旦那様の命令で、捕らえられた者が2人います」




「案内を頼む」




メイドは、重い足を引き摺る様にラゴの指示に従い、

地下牢へと進む。


牢の中には、全裸で傷だらけにされ、首輪を嵌められた女性が2人。




「酷い・・・・・」




メイドは両膝を付き、頭を下げる。




「申し訳御座いません。


 旦那様には逆らえず・・・・・・」




「わかった、この者達を牢から出して、ついて参れ」




ラゴは、地下牢に閉じ込められていた者達を助け出した。





その頃、京太も『転移の鏡』を使い、シャトの街から仲間を呼び寄せていた。


そして、ラゴと同じ様にそれぞれの屋敷に向かってもらい、


捕らえられている者達の探索と救出をお願いしていた。






暫くして、屋敷に捕らえられていた者達の全員を救出する。


同時に、奴隷の様に扱われていた者達も助け出す事が出来た。




その後、京太は、天の裁きを同時発動し、神教の街と神殿を完全に破壊した。




ただ、民の街や信徒の街には、行き場所が無いが為に、残った者もいる。



それを知っていたから京太は、2つの街に天の裁きを落とさなかった。




全てが終り、黒い雲が消えて行く様子を見ながら、残っていた民は誓う。




――二度と過ちは、起こさない・・・・・・・




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