第146話アラアイ教国 崩壊の序章

アラアイ教国に取り残していたメイドやその他の者達をシャトの街に運び込んだ後

京太達は、再び、アラアイ教国のホグルの屋敷に戻った。


本来なら、アリエル達も、こちらに呼ぶ予定だったが

エヴィータ王妃が「そんな危険な所に、向かわせることは出来ません!!!」と

言い出し、アリエルを手放さなかった為

仕方なくハミエとラティも街に残す事になった。




ホグルの屋敷に戻り、張ったまままにしていた結界の外に出てみると、

未だに『ピクピク』と痙攣する聖騎士達の姿があった。




「放置したまま忘れていた・・・・・・」




「あれからずっとこのままだったんだ・・・・・」




改めて京太と仲間達は、聖騎士達をロープで縛ってまわる。


最後に馬車の近くに倒れていたホグルをロープで縛った。




――こいつ、誰も助けて貰えなかったんだな・・・・・




捕らえた聖騎士達が多い為に、屋敷に入れず、

仕方なく、馬房にまとめて放り込んだ。



勿論、この屋敷の主でもあるホグルも聖騎士達と一緒だ。




深夜、各自の魔力の多さで誤差はあるが、

次々と痺れが取れて、目を覚ます。




「これ、どうなっているんだ!」




「おい・・・・・動けねえ!」




聖騎士達は、ロープで縛られて身動きが取れない。


そんな中、ホグルも目を覚ます。




「誰か!誰か、いないのか!」




馬房内の騒ぎ声が大きくなると、その声は、屋敷内にも届く。


最初に、気が付いたのは、京太の隣で寝ていたラム。




「五月蠅いなぁ~」




京太達は、同じ部屋で雑魚寝をしていた為に、他の仲間達も目を覚まし始めた。


勿論、その中には、京太の姿もある。




「皆、起きたんだ。


 でも、ここから先は、やる事無いから寝てていいよ。


 それとも、街に戻る?」




そう言いながら、『転移の鏡』を取り出す京太。


仲間達は、自室の方が落ち着くせいなのか、次々に『転移の鏡』を通り、

シャトの街の屋敷へと戻って行く。




「ごめん・・・・・おやすみ・・・・」




1人、もう1人と、『転移の鏡』を通る。



途中、マリアベルが京太に伝える。



「京太様、フィオナ姉様がいるから、私もいい?」



「勿論だよ、でも今日は、遅いから僕の屋敷で寝てよ」




「はい・・・・・」




それだけ言うと、マリアベルは、

ディーノとドワイトを連れて『転移の鏡』を抜けた。




「後は、スミスに任そう」




「そうじゃな」




その声に、京太が振り返ると、ラゴとフーカが立っていた。




「!!・・・・・ラゴとフーカは、屋敷に戻らないの?」




「帰らぬわ!


 わらわは、主様のやろうとしている事は、お見通しじゃ」




「そうだよ!


 あたしも手伝うよ」




「手伝うと言っても・・・・・・」




「主様、こ奴は、天使とのハーフ。


 羽を広げて、適当に飛んでもらうだけでも、効果はあるぞ」




ラゴの発言で、京太のやろうとしている事を、理解している事がわかった。




「わかった、2人には、手伝って貰うよ」




そう言うと、京太は『転移の鏡』をアイテムボックスに収納した。




「じゃぁ、始めようか」




京太が呟く。


隣で、ラゴとフーカが見守っている。




――僕の中の神の力を・・・・・・




京太は、このアラアイ教国に来る事になった出来事から、

良い感情は、持ち合わせていない。


その感情を表すように、アラアイ教国の上空に光を隠すように、

黒い雲が集まり始めた。




この現象に、国民は驚き、皆が空を眺めている。




「なんだ・・・・・」




「どうなっているの?」




国民が、空を見ながら独り言を呟いている最中も、

黒い雲はアラアイ教国を包み込むように広がった。


アラアイ教国に注がれる光が無くなった時、国中が騒ぎが起きる。



「もしかして・・・・・サバクの街と・・・・・」



1人が、思い出したように呟いた。


この国の人々は、信仰心が強かった為に、誰もが『天罰』の事を知っている。


その為、半数以上の人々は、上空を黒い雲が覆い始めた時に、

その事を思い出していたが、口に出すことは控え、

『まさか、我が国が・・・』という思いから、心の中で否定していたのだ。



しかし、現実は甘くない。




黒い雲が上空を覆い、完全に光を失うと、何処からともなく声が響く。




「お前達は信仰を忘れ、我が巫女を蔑ろにした・・・・・・


 巫女は、我がもとに返して貰った・・・・・・・


 お前達は、間違えたのだ・・・・・」




言葉は、巫女を通さず、アラアイ教国の民のもとに届いている。




神の意志を知ると同時に、大巫女がいなくなった事を知った国民は、

教会や、枢教院の者の屋敷に押しかけた。


そのせいで、自分は関係ないと、勝手に思っていた枢教院の者達は、

屋敷に閉じ籠り、誰にも会おうとしなかった。




「不味い・・・・どうしてこんな事になったんだ・・・・・」




自室に鍵をかけ、閉じ籠っていた男は、扉の外から話しかけられる。




「旦那様、私は、貴方の言葉に騙されてこの屋敷にお仕えしていたのですね。


 それに、大巫女様がいなくなられた事も、枢教院の方々の仕業ですか?」




扉の外から聞こえて来た声に、男は怒鳴り散らす。




「知らん!


 私は、ホグル殿や他の方々に従っただけだ!


 私は、何もしていない!


 関係ない!


 出て行け!


 話し掛けるな!」



そう言い放つと、扉の外からの返事はなく、

遠ざかる足音だけが聞こえて来た。




「いなくなったのか・・・・・・」




男は安堵し、自室のソファーに腰をかける。


だが、暫くすると、大勢の足音が部屋の前で止まり、

扉を破らんとする勢いで叩かれる。




『ドンッドンッドンッ!!!』




「出て来て説明しろ!」




「大巫女様に何をしたんだ!」




押しかけた民の勢いを、扉は支えきれず、とうとう破壊され

部屋に押し入られる事になった。




この様な事が、各教会や枢教院の者達の屋敷で起こり、街は混乱に陥る。


そんな混乱の中でも、神殿の中では、今も必死に祈りを捧げる者達の姿があった。


残されていた巫女や巫女見習いの少女達である。




「神様、どうか、進むべき道を・・・・・・」




祈りを捧げていると、暗雲の中から一本の光が神殿に向かって差し込む。


その光の中を、白い羽を生やした少女が、巫女達が祈りを捧げる場所に降り立った。




「「天使様!」」




確かに天使だが、ハーフ天使のフーカだった。


勿論、顔バレしないように、京太が即席で作ったお面を被っている。




――んっと・・・・・・京太って言ったら駄目なんだよね・・・・・




チラッと横を見た後、フーカは、陰に隠れているラゴを真似る事に決めた。




「主様から伝言じゃ、『2日後、この地に天罰を下す。災いを招いた者は許さぬ』


 良いな、ちゃんと伝えたのじゃぞ!」




そう言うと、フーカは雲に向かって飛び去って行く。



フーカは、途中で合流したラゴに話しかける。




「どう?うまく出来た?」




「何故、わらわの真似をするのだ!


 しかも、微妙に間違っておるぞ・・・・・」




「いいでしょ、それっぽく出来たんだから!」




フーカの影の様に付き添っていたラゴは、溜息を吐く。




「まぁ、良い。


 伝える事は出来たのだ、主様のもとに戻るぞ」




2人は、暗雲の中へと消えてゆく。


その後、暗雲から光が伸び、

神殿に天使が降りて来た光景を、国民達も見ていた為に、

人々が、神殿に押しかけた。




巫女達は、出来るだけ多くの国民を神殿に招き入れる。


『ザワザワ』と話し声がする中、壇上に巫女達が並ぶ。




「皆さん、お集まり頂き有難う御座います」




「巫女様、この国は、どうなるのですか!」




巫女は、言葉を飾らず話し始める。




「このアラアイ教国は、一部の者達の私利私欲の為に、利用されていたようです」



国民にどよめきが起きると同時に、怒りの声が響く。



「枢教院だ、あいつらのせいだ!」




その言葉に同意するように、枢教院の者達を断罪する声が広がった。




「皆さん、お静かに!」




巫女達が、必死に呼び掛け、騒ぎが収まる頃、1人の女性が聞いた。




「巫女様、大巫女様は?」




返事を聞く為に、神殿内が静まり返る。




「分かりません・・・・・もう、この地には、いないようです」



その答えに、国民は見限られた事を悟る。



「俺達、神様でなくて、

 枢教院の者達の為に生きてきたんだな・・・・・・」



「ああ、まんまと騙されたぜ・・・・・」



「そんな・・・・・」



それぞれの思いを言葉にしている時、

この場にいた聖騎士が、膝から崩れ落ちた。




「俺、聖騎士だから知っていたんだ。


総隊長や副隊長が枢教院の命令で、他国に兵を・・・・・」



「戦争を仕掛けていたのか?」



「ああ、都合が悪くなると、神の裁きだと言っていた・・・・・・」



「なんてことだ・・・・・」



国民は、ここに来て、初めて神に見捨てられた理由を知る事になった。



誰一人、言葉を発する事が出来ず

静まり返る中、巫女は、最後の言葉を告げる。




「今回、天使様は『2日後、この地に天罰を下す。災いを招いた者は、許さぬ』と

 神様からの伝言を持って来られました」




天罰が落ちる事を理解した国民は、愕然とする。


だが、巫女は話を続ける。




「皆さん、希望を捨てないで下さい!


 神様は、猶予を下さったのですよ。


 ご存知かと思いますが、『サバクの街』の場合は猶予も無く、

 天罰を落とされました。


 しかし、私達には、天使様という使いを出されてまで、

 神様を信じる者達を救おうとして下さっているのです」


 

巫女の言葉に、民は顔を上げる。



「巫女様、我々は、これからどうしたら?」




「この地を去るのです。


 神様は、神を信じる者が、被害に遭わぬように知らせてくれたのですから」




その言葉を聞き、国民は神殿から戻ると、この話を広めた。


すると、その中から、『神の手助けをする』と言い、

枢教院の者達の屋敷を孤立させる為に

神教の街へ続く道を破壊し、門を閉める者達が現れ、

本当に孤立させた。




その翌日、民の街と信徒の街の住人は、

アラアイ教国から旅立つ。




そして、予告された『天罰の日』が訪れた。




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