第145話アラアイ教国 一時帰国

ホグルの屋敷から飛び出した京太の仲間達が、聖騎士達を相手に戦っていると

馬車に乗って、ホグルとヨンドが現れた。




「なんだ!まだ、捕らえていないのか!


 あそこは、私の屋敷だ、早く取り返せ!」




聖騎士達に、発破をかけるホグルだったが、

徐々に減っていく聖騎士達。



この状況に、苦虫を嚙みつぶしたような顔をするホグル。




「くそぅ・・・・・なんで、捕らえる事が出来ないのだ・・・・・・」




先日、自分が捕らえられた事も忘れたような発言をするホグルだったが、

屋敷の中からアリエルが姿を現した事により、

チャンスとばかりに、大声で命令をする。




「見よ!大巫女様がおられたぞ、この国の柱と言える大巫女様を救い出すのだ!」




聖騎士達は、気合を入れ直すと、目の前のクオン達やラム、フーカなどを無視し、

屋敷に向かって突撃を開始した。




「お兄ちゃん!」




「主!」




「京太!」




それぞれが、追い返そうと周囲の敵を倒して回るが、

聖騎士達は、屋敷の5メートル手前まで到達した。




「大巫女様を救い出せ!」




京太に襲い掛かろうと剣を振り上げたその時、

聖騎士達は、見えない壁に阻まれ、自らの勢いで転倒する。




「なんだ・・・・・・」




京太は、アリエルに伝える。




「ちょっと、行って来るよ」




アリエルは、その言葉に笑顔で頭を下げる。




「行ってらっしゃいませ」




その言葉に頷いた京太は、『見えない壁』を抜け、聖騎士達の前に現れた。




「皆、有難う。


 此処からは、僕が相手をするよ」




京太の言葉を合図に、戦っていた仲間達は、一斉に見えない壁の内側まで退却した。


仲間の退却を確認すると、京太は魔法を放つ。




「ショック ウエイブ」




京太から放たれた電流の波は、

京太を中心に広がり、聖騎士、ホグル、ヨンドを感電させた。



屋敷の周囲で、『ピクピク』する者達を放置したまま仲間に告げる。




「終わったよ」




京太は、見えない壁を解除し、仲間達と合流する。


その時、助けた少女の1人が屋敷の中から駆け出した。




「お父さん!」




ホグルの隣で痙攣しているヨンドに近づくと、体を揺さぶり、もう一度声をかける。




「お願い、お父さん、起きて!」




京太は、娘に近づく。




「大丈夫だよ」




「え?」




驚きの声を上げる少女の横で、京太は、ヨンドに向けて『リカバリー』を使う。


すると、先程までの痙攣が収まり、目を開いた。




「【ネム】か・・・・・」




「お父さんっ!」




父親であるヨンドが目を開けた事に喜び、抱き着く。




「良かった・・・グスッ、本当に良かった・・・グスッ・・・・・」




抱き合い、再開を喜ぶ2人に、京太は告げる。




「嬉しい事は分るけど、取り敢えず、中で話をしない?」




ヨンドが京太に顔を向けた時、その先にいる1人の男の姿が視界に入る。




「ベンゼス!?」




痺れの治まったヨンドは、娘と共に屋敷の中へと入って行く。


全員が屋敷に入ると、京太は、念の為にもう一度『見えない壁』を発動させる。






屋敷の中に入ったヨンドは、ベンゼスに話しかけた。




「どうして、ここに?」




「ああ、こちらの京太殿に助けて頂き、

 大巫女様と合流して、枢教院から、脱出していたんだ」




「そうだったのか・・・・・いや、そうでは無くて、

 ベンゼス殿が、ここにいる理由だよ」




「それは、京太様に、娘を助けられていた事を知ったからだ」




「そうだったのか・・・・・」




「と、言っても、大巫女様を襲うように、ホグルに命令された後だったけどな」




2人は、顔を見合わせる。


先に視線を逸らしたベンゼスが口を開いた。




「私は、この国を出る事にしたよ」




「・・・・・そうか」




「お前は、どうする?」




「・・・・・そうだな、慕ってくれる者達と一緒なら、

 それも良い考えだ」



「お互いこれからだな・・・・・」



2人は、約束をして、握手を交わすが


そこに、京太が割って入る。




「僕の街に来たらいいよ」




「えっ!?」




「僕の街なら、住む所と食べ物には、困らないよ」




「でも、宜しいのですか?」




「構わないよ、取り敢えず行って見る?」




京太は、そう言うと『転移の鏡』を取り出した。


アリエル達も興味津々で、『転移の鏡』に近づく。




「ちょっと待って」




京太が魔力を流すと『転移の鏡』の枠が光を放つ。


そして、光が収まると、振り返る京太。




「じゃぁ、行こうか」



『転移の鏡』に向かって歩き出す京太。


そして、鏡の中に入り、姿を消した。


その後に続く、京太の仲間達。




その光景を見て、恐る恐るアリエル達が続き、

最後に、ベンゼスとヨンドが鏡の中へと入った。




鏡を抜けた先の光景にアリエルは驚く。




「ここは・・・・・」




「僕が領主を務める街、シャトの街にある屋敷の中だよ」


窓に近づき、外の様子を窺うアリエル。



「ここが、京太様の街なのですね」




「そうだよ。


 そう言えば、マリアベルも初めてだったね」




「そうよ、早速、屋敷を案内して頂戴!」




「わかったよ」



そう答えた時、エリカが声をかけて来た。



「私は、教会に戻ってもいいですか?」




「そうだね、街の皆も心配しているから、顔を見せて上げなよ」




「はいっ!」




エリカは、走って教会へと向かった。




その際、部屋の扉の外には、いつもの様に、

スミスがメイド達と共に待機している姿が見えた。



エリカと入れ違いで、部屋の中に入ってくるスミスを筆頭としたメイド達。




「お帰りなさいませ、旦那様」




「ただいま、まだ途中なんだけど、一旦戻って来たよ。


 それで、エヴィータ王妃は、いるかな?」




「はい、お庭で、お茶を楽しんでおられます」




「応接室に呼んで貰える?」




「畏まりました」




京太は、エヴィータ王妃の事をスミスに任せて応接室へと向かった。



暫く応接室で待っていると、エヴィータ王妃がスミスと共に姿を見せる。




扉を開けて入ってきたエヴィータ王妃は、

王妃とは思えない程、軽く手を振り挨拶をする。




「イライザちゃん、マチルダちゃん、元気~。


 それから、京太ちゃんハーレムの皆も元気そうね」




「それ、何の挨拶ですか!」




京太より先に、イライザが母に向かって言い放つ。



だが、エヴィータ王妃に改めるつもりなどない。




「事実じゃない。


 それよりも、新しい子が増えたのね!」




エヴィータ王妃は、そう言いながらアリエル達に近づくと、

そのままアリエルを抱きかかえた。




「この子、いいわぁ~、私の娘にするわ。


 名前は、何と言うの?」




「私は、アリエルと・・・・・・」




エヴィータ王妃はテンションが高く、アリエルの話を最後まで聞かなかった。




「アリエルちゃんね、エヴィータママよ、宜しくね」




「「母上・・・・・」」




――その子、天使なんですけど・・・・・




本物の娘2人の冷たい視線も気にせず、

エヴィータ王妃は、アリエルを膝の上に乗せたまま椅子に腰かける。




「話があるのでしょ、聞きますよ」




京太は、溜息を吐いた後、今回の旅の話を聞かせた。




暫く考えた後、エヴィータ王妃は、口を開く。




「そう、3国同盟ね、良いと思うわよ。


 ただし、国王にキチンと話してね」




「はい、それから・・・・・」




京太は、アリエル達とベンゼスとヨンド、メイド達やその他の者達について話す。




「アリエルちゃんと、ハミエとラティの事は、私に任せて」




そう言うと、思い付いたように話を続ける。




「やはり、先程の話は、私が国王にするわ」




「えっ!?」




「だって、アリエルちゃんに、パパを見せてあげないと可哀そうでしょ!


 勿論、ハミエとラティも連れて行くわよ」




――この人、本気だ!・・・・・・




アリエルと視線が合った京太は、笑顔で答える。



「良かったな、住む所とパパとママが出来たよ」



エヴィータ王妃の膝に座れせられたままのアリエルが見上げると、

そこには、満面の笑みで頭を撫でるエヴィータ王妃の姿があった。




「もう、何も、心配いらないわ、私が守ってあげるから」




アリエルにとって、この様に迎い入れられたのは、初めての経験だった。


この地に降りてから、敬わられ、神の如く扱われてきたが、

頭を撫でられたり、膝の上に座らされた事も無い。


まして、娘として迎えられるとは、思っても見なかった。



その為、胸が熱くなり、無意識の内に、危険な言葉を口にする。




「分かりました、ママ様」




「「「ママ様!!」」」




エヴィータ王妃が、見た事も無い程の笑みを浮かべた。




「聞いた!聞いたわよね!


 私の事、ママ様って呼んでくれたのよ!」




「お母様!」




「母様、興奮しないで下さい!」




2人の娘が必死に止めようとするも、エヴィータ王妃の暴走は止まらない。




「スミス、急いでこの子の部屋を決めて、勿論、私の部屋と繋げてね。


 それから、明日は、王都に家具を買いに行くわよ」




「畏まりました奥様」




エヴィータ王妃は、アリエルを抱いたまま、応接室から出て行こうとするが、

イライザが慌てて止める。




「お母様、まだ、話が終わっていません!」




道を塞がれた為に、仕方なく引き返す。




「もう・・・・・早くしてね」




そう言うと、椅子に座り直す。


イライザの合図で、京太が話し始める。




「先程の続きですが・・・・・」



透かさず割り込むエヴィータ王妃。




「ベンゼスとヨンドでしたね」



2人は腰を下ろさず、立っている状態だったが、

声を掛けられ、床に膝をついた。



「はい」



「貴方達には、執務を担当して頂きます。


 代表を務めていたのですから、出来るわよね」




アリエルの時とは、別人の様な視線を向けるエヴィータ王妃。



断る事など、出来る筈も無い。




「はい、ご期待に添えるよう、粉骨砕身の努力をいたします」




「わかったわ、それから、今後増えるであろうメイドやその他の者は、

 適正に応じて仕事を与えます。


 警備、警護は、ナイトハルトの所に行かせるわ。


 その他の者は、スミス、お願いね」




「畏まりました」




会議を早急に終わらせると、

エヴィータ王妃は、アリエルを抱いたまま、スミスを伴って応接室から出て行った。



──あの人、欲望に忠実だけど、優秀な人なんだよなぁ~・・・・・



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