第143話アラアイ教国 枢教院の者達

扉を叩き、応接室に入って来たオルゴ達。




「京太様、お待たせ致しました。


「こちらは、大神官のカロリーナ様と

 大巫女のアリエル様です」




カロリーナは、普通の女性だったが、アリエルは、幼女にしか見えない。


その事に京太が驚いていると、アリエルが声を掛けてくる。




「私の姿に驚いているのですね」




「あっ、すいません・・・・・」




京太は謝罪をしたのだが、

その声に、アリエルと付き人のハミエとラティが驚く。




――この御声は・・・・・・




アリエルとハミエとラティには、聞き覚えのある声。




「申し訳ありませんが、少し、4人で話をさせて下さい」




突如、カロリーナとオルゴに告げるアリエル。




「あの、アリエル様?」




「少し、この方とお話をさせて頂きたいのです。


 話が終われば、迎えに行かせます。


 ですから、今は言う通りにして下さい」




カロリーナとオルゴは、アリエルに従い、応接室から出て行った。


2人が部屋から離れた事を確認すると、

アリエルは、京太に話しかける。




「京太様でしたね、我が国の者が、ご迷惑をお掛けし致しました」




アリエルは、頭を下げる。




「お気になさらずとは言えないけど、

 今後の行動で、示して頂ければと思います。


 それで、ホルグは、どうなるのでしょう?」




「はい、枢教院の方々の判断に、委ねようと思います」




「そうですか・・・・・この国の枢教院ですか・・・・

 あまり良い話を聞きませんが、

 本当に、任せて大丈夫なのですか?」



「はい、このような事は、全て枢教院の方々に、お任せしておりますので」



この返答に、京太は呆れかえる。



――こいつ、本気で裁く気があるのか・・・・・・・

  それに・・・・・




アトゥムから天使族は全滅したと聞いていたが、力と記憶を引き継いだ時、

この地上界に降りた天使が、生き残っている可能性がある事もわかっていた。




その3人が、今もアラアイ教国を引っ張っていたのだが

記憶の中の天使だった頃の3人と、目の前にいる3人では、明らかに違い過ぎる。




「アリエル、ハミエル、ラティエル、本当に、それでいいの?」



「!!!」



本当の名を呼ばれた事で、3人は、目の前の京太が神であると確信すると

椅子から降りて、膝を付き、謝罪を口にした。



「やはり、そうでしたか・・・・・申し訳ございません」



「どういう事か、説明をしてもらってもいいかな?」



「はい、勿論です。


 ・・・・・ですが、その前に、1つ、お伺いしたいのですが・・・・・・」



ゆっくりと顔を上げるアリエル。


それに倣って、2人も顔を上げた。


「聞きたい事があるの?」



「京太様、いえ、アトゥム様、

 何故、そのようなお姿なのでしょうか?


 以前、この地上に降り立つときに、ご面会をお許し下さった時に見たお姿とは

 随分、違うように思えるのですが?」



普段、京太が放つオーラ、雰囲気は、アトゥムから受け継いだもの。


その為、アリエルたちは、京太をアトゥムだと、誤解しているのだ。



──あーそう言う事か・・・・・



京太は、自身のオーラを変化させる。



「その気配は、太陽神様!!!」



思わず声を上げてしまうラティエル。




創造神と、面会を果たすことは難しいが

その配下ともいえる他の神なら、

仕えていれば、会う事は容易い。



天界において、ラティエルは、太陽神に仕える天使の1人だった為

この感じ取れるオーラを間違える筈はない。



平然とした顔で、答える京太。



「そう、ラーのものだよ」



「では、貴方様は?」



「僕は、京太だよ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 ただ1つ、言えるとすれば、僕は、彼らの同胞であるという事だけだよ」



「同胞ですか・・・・・ではなぜ、太陽神様のお力までも・・・・・」



必死に問いかけるラティエルだが、京太は、何も答えようとはしない。



「京太様!!!」



思わず立ち上がりかけたラティエルに、京太が殺気を向ける。

その体からは、冥府の神オリシスのオーラが放たれていた。



3人の周りから景色が消え、足元の床さえも消えつつある。


今まで3人を責めなかった京太だが、

この街の事に対して、話を進めず、

自身の欲望である神に対して質問をしようという態度に

嫌悪を示したのだ。



「貴様、何を勘違いしている?


 この場で、お前たちの質問に答える義理などない。


 それに、このような状態になるまで、放っておいた事に

 罪の意識というものは無いのか・・・・・


 それとも、それすら、もう、どうでもよいと思っているのか?」



3人の頭に響き渡る京太の声。


立ち上がりかけたラティエルは、膝をガクガクと震わせながら、腰を下ろす。



必死に、声を絞り出すアリエル。



消えつつある床に、頭を付ける。



「も、申し訳ございません!


 数々のご無礼、どうか、お許しください!!」


アリエルの態度を見て、それに倣い、頭を下げる2人。



「・・・・・わかった。

 

 これ以上、この件には触れないでおくが・・・・・

 今の事は他言無用。


 わかったな」



京太の言葉に、「はい」と返事を3人は返した。


すると、変わりつつあった景色は、元の光景へと戻った。



「それでは、話してくれるかな?」



「隠し事なく、お話致します」



アリエルは、話始める。




「この国は、ある時から、変わり始めました。」



「ある時?」



「はい。


 枢教院の中の数人が代替してから、変わり始めました。


 この度、罪を犯したホグルも、その中の一人です。

 


 その代替わりの後から、私達の耳にも良からぬ話が聞こえてきしたので

 何度か、枢教院の者達と話し合いを致しましたが、

 『そのようなことは無い』との一点張りで、

 話を聞いても頂けないのが現状なのです」




確かに、彼女達は、地上に降り立った時から、巫女となった者に、

神の声を聞こえるようにする力を与える代わりに、

戦闘力や魔法を使う力の殆どを失っている。



その為、難しい事だったのかもしれない。




「今の私達が出来る事は、神の声を聞くこと以外には、

 治癒の力しか持っておりません。


 勿論、少々の戦闘も行えますが、

 その力は、人族より、少し秀でている程度のものです。


 ですから、どうか、お力をお貸し頂きたいのです」




京太は、力を貸したいと考えている。


ただ、具体的な事を何も聞かずに返事は出来ない。


京太は、もう一度、アリエルに聞いた。




「もし、僕が力を貸すと答えたら、僕は何をすればいいの?」




「京太様のお言葉を、この国の民に届けて頂きたいと思っています。


 現在、この国で一番力を持っているのが、枢教院の方々です。


 最近では、彼らの中には、

 自身が『神』だとうそぶく者も出て来ております。


 そのせいなのか、私達が、何を言っても、枢教院の方々の邪魔をされ

 民に伝わる事がないのです。


 ですので、どうか、お力をお貸しください」




──この世界の為に、天使の力の殆ど手放したアリエル達を

  見捨てる事は出来ない・・・・・


  

アリエルの切実な願いを京太は聞き入れる事にした。



その後、3人と少し話をした後、

カロリーナとオルゴを、応接室へと招き入れた。



「お待たせして申し訳御座いません」




アリエルが、待たせた事に対して謝罪を口にする。




「いえいえ、お気になさらないで下さい。


 それで、お話は、纏まったのでしょうか?」




カロリーナの問いに対して、アリエルは、すっきりとした表情で答えた。




「ええ、明日の枢教院の方々との会議の結果次第で、

 私達は、この国を出て行く事にしました」




その言葉に、京太、カロリーナ、オルゴが驚愕の表情を見せる。




――僕、聞いて無いよ・・・・・




「ちょ、ちょっと待ってください!


 アリエル様、本気なんですか!」




カロリーナは、丁寧に話す事も忘れて、問いかけていた。




「はい、私は、この2人と共に、この国を離れます」




「訳を・・・訳を聞かせて下さい!」




カロリーナは、必死で食い下がろうとするが、

アリエルの中に、迷いは無い。




「彼らは、誰の言葉も聞かず、悪事を働いておりました。


 勿論、私たちは、そんな話を聞くたびに

 彼らを咎めてはおります。


 ですが、何一つ変わろうとはしませんでした。



 そんな状態ですから、ホルグが他国に踏み入り、

 教会という権力を笠に、今回の騒動を起こした事も、

 容易に理解できます。


 ですが、私がその事を枢教院の方々に問い詰めても、

 いつもの様に無駄足で終わるでしょう。


 既に、この国は終わってしまったのですよ」




枢教院の者達は、大なり小なりお互いの利権の為に、

騒ぎを起こしている。


だが、お互いの利益を守るために共存し

ある程度の事なら、完全に揉み消す事で、一致しているのだ。


そんな状況の中、アリエル達に居なくなられれば、

この国は、今迄以上に枢教院の者達の自由にされてしまう。




その事が、分っているだけに、どうしてもアリエル達を引き留めたい。




「アリエル様、お考え直し下さい!」




カロリーナに続き、今迄黙って見ていたオルゴも引き止めに掛かる。




「お考え直し下さい!お願い致します!」




「2人共、有難う。


 でも、まだ、決めたわけでは無いの。


 でも、明日の会議で、ハッキリすると思うから」




それだけ伝えると、アリエルは席を立ち、

京太と付き人を連れて出て行った。




運命の日。




枢教院11名、大神官カロリーナ、神官3名が、会議場に集まっている。


だが、肝心のアリエルの姿は、まだ無く、

場内には『ガヤガヤ』と騒がしい声が響いていた。




「今回は、大巫女様の招集だと聞きましたが、何かご存知かな?」




「いや、何も聞かされておらん」




「そうか、大神官にでも聞くしかないか・・・・・」




「流石にそれは、遠慮させてもらうよ」




枢教院の者達が、そんな雑談をしながら待っていると、

大巫女アリエルが姿を現す。



壇上に立つアリエル。




「本日は、私の呼びかけに応えていただき、感謝申し上げます。


 この度、集まって頂いたのは、緊急な用件を伝える為ですので、

 直ぐに始めさせて頂きます」




アリエルが合図を送ると、手枷、首枷を嵌められたホグルが、

ハミエとラティに連れられて入って来た。



その光景に、会議場には、どよめきが起きる。




「おおっ!これは、一体・・・・・・」




「ホグル殿・・・・・・」




「お静かに願います」




アリエルの声で、場内が静まり返ると、説明を始めた。




「この度、アクセル王国から、我が国に対して、抗議文が届いておりました。


 しかし、その抗議文を破棄し、アクセル王国に独断で聖騎士隊を送り込み、

 戦いを挑んだのが、この男、ホグルなのです」




流石の枢教院の者達も、驚きを隠せない。


だが、驚きの意味が違う。


彼らが、驚いていた理由は、ホグル程の男が、

捕らえられている事。


ホグルから、芋づる式に悪行が表沙汰になれば

枢教院の者達にとっても、良い事ではない。


だからこそ、彼らは、黙っている筈がない。




「大巫女様、それは事実なのでしょうか?」




「事実です」




アリエルの言葉に反応するように、ホグルが口を開く。




「嘘だ!嘘に決まっておる。


 私は、神を蔑ろにする不敬な者達を、少し脅しただけで、

 他に、何もしておらん!


 『これで、改心をしてくれたら』と思っての行動なのだ」




呼吸をする様に嘘を吐くホグルに、アリエルは、呆れた顔を見せる。


しかし、枢教院の者達の判断は違う。


ホグルの言葉に、ウンウンと頷いている。


「やはり、そうでしょうな。


 ホグル殿は、人一倍信仰心の厚い方だ。


 今回の事だって、何かの手違いでしょう」




「ああ、私もそう思う。


 抗議文の件にしても、証拠が無ければ、なんとも言えんしな」




口々に、ホグルを擁護し始めた枢教院の者達。


その言葉に、ホグルにも、余裕が戻る。




「大巫女様、そろそろこれを外して貰えんか。


 貴方でも、間違いはある。


 この場で謝罪をしてくれたら、

 全て水に流そうではないか」




ホグルの発言で、再び場内は喧騒に包まれた。


それは、ホグルを断罪するものではなく

大巫女に謝罪を求める声だった。



──やはり、そうなりますか・・・・・



場内が喧騒に包まれる中、アリエルがパンッと手を叩く。



その音で、場内が静まり返ると

アリエルが発言する。



「アトラ王国、アクセル王国、武装国家ハーグの3国が同盟を結び、

 アラアイ教国を敵国と断定しました」


その言葉は、アラアイ教国にとって重い。


この事実は、アリエル自身も京太から聞き、驚いたほどだが、

それ以上に、驚く枢教院の者達。




「ア、アリエル様、

 それは、どういう事でしょうか・・・・・?」



アリエルは答える。




「アトラ王国の巫女、エリカを拉致した件、

 また、アクセル王国内で、我が国の聖騎士が暴れた事。


 そして、聖騎士隊総隊長を筆頭に、

 3000名の聖騎士で襲撃をかけた事に対する報復です」




「3000人の聖騎士で襲撃・・・・・

 それはまるで、戦争ではないか?」




「そんな・・・・・」




知らされていなかった枢教院の者達に動揺が走る。



そんな中、アリエルは続ける。




「それでも、貴方達は、この男を庇うのですか!?」




静まり返る会議場に、ホグルの声が響く。




「それは、やつらが神を蔑ろにしたからだ。


 私は、神の代行者として、天罰を与えようとしただけだ!」




苦しすぎる釈明だが、今迄、美味しい利権を吸い合った者達は、

ここでも自己の利益を優先し、ホグルについた。




――ここで、ホグルに借りを作らせておけば・・・・・・




ホグルの援護に回る、1部の枢教院の者達。




「ホグル殿の考えも分からんでもない、

 ここは一度、時間を空けて話をすれば、

 他国への誤解も解けるであろう」




「そうだな、誰にでも過ちを犯すこともあれば、誤解をする事もある。


 大巫女様、如何ですか、一度冷静に話し合いを致しましょう。


 それまで、ホグル殿の事は、責任を持って、私共が預かります」




――やはり、何も変わらんか・・・・・・




アリエルは、溜息を吐いた後、告げた。




「貴方達の考えは、理解致しました。


 ホグル殿の事は、貴方達にお任せ致します」




その言葉に、ホグルは、いやらしい笑みを浮かべ、

枢教院の者達は、『うんうん』と頷いた。




「では、この手枷と首枷を外して貰おう!」




ホグルは、大声で勝利宣言の様に、大巫女に伝えるが、

返ってきた言葉に、会議場内は驚く事になった。




「それを外すのは、私達がこの場を去ってからにして頂きましょう」




「・・・・・?」




「どういう事でしょうか?」




「私は、本日を以ってこの地を去る事に決めました。


 二度と、この地に神の言葉が届くことは無いでしょう。」



それだけ伝えると、アリエルは、会議場を後にした。




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