第140話アラアイ教国 神教の街

食事まで時間があった為に、街の中を散策する事を決め

一階の食堂に下りると、宿の入り口には、聖騎士達の姿があった。



京太達の姿を見つけた聖騎士は、真っ直ぐに京太に近づき、話しかけて来る。




「何処かにお出かけでしょうか?」



「はい、街に出てみようと思っています」




「では、ご案内致します」



「あ、大丈夫です。


 行き先も決めてませんから、ウロウロすると思うので・・・」



京太が、遠回しに断りを入れたのだが、

聖騎士は、『それでも構いません』と言い、

案内を申し出る。



こんな事で、揉めても仕方ないので、京太は、その申し出を受け入れ

街の案内を頼んだ。



宿を出て、市場に向かって歩く。


道中、当然、街の人々とすれ違うのだが、

聖騎士の姿が見えると、自然と街の人々は、道を譲り、頭を下げた。



感謝から、頭を下げているのなら問題は無いのだが、

どう見ても、そのようには思えない表情をしている。


だが、京太達の四方は、聖騎士達で固められている為

おいそれと、街の人々に、声を掛ける事が出来る状態ではない。



このような状況で、ゆっくり散策など出来る筈もなく、

京太達は、少し早めに宿に戻った。



その翌日。


やはり、宿の入り口には、聖騎士の姿がある。


昨日の様子から、単に京太達の警護をしている訳ではない様に思えた京太は、

自ら、聖騎士に近づく。



「聞きたい事があるのだけど」



「お答えできる質問なら、お答えいたします」



「ありがとう。


 今日の予定なんだけど、

 枢教院のホグルっていう男に会いに行こうと思っているんだけど

 案内をしてもらえる?」



「なっ!!!

 ホルグ様を呼び捨てだと!無礼な!」



「お、おいっ!」


京太の物言いに、思わず声を上げる聖騎士だったが

もう1人の聖騎士に咎められ、姿勢を正し、改めて京太に問う。



聖騎士が落ち着いた表情へと変わる。




「失礼した。

 それで、どの様な御用件でしょうか?」




「本人に直接言うよ」




「申し訳ありませんが、

 枢教院の方々への面会は、簡単に許される事ではないのです。


 それに、面会を申し出るなら、その理由を先にお知らせ頂き

 面会の予約を、お取りいただかないと・・・・・」



――これって理由を言ったら、ダメなパターンもあるみたいだな・・・・・



京太は、確認の意味も込めて、イライザ達の方に向き直る。


京太の視線に気が付いたイライザが前に進み出ると

3人の王女がその後ろから続いた。



「私が、面会を求めていると伝えて下さい」



「申し訳ありません。


先ほども申しましたが、他国の国王であっても、

枢教院の方々にお会いできる権利はございません。


御面会を求めるのでしたら、御用件を、お聞かせください」



「貴方方に理由を言う必要が無いと言っているのです。

 

 それとも、貴方に、この件が、解決できるとでも?」



「そ、それは・・・・・」



たじろぎはするが、先日の聖騎士と違い、この男は一歩も引かない。



「こ、この国は、神のみ使いの住まう国、

  そして、枢教院の方々は、『神のしもべ』いえ、例えるのなら

 『この地に降り立った神の代行者』ともいえる存在なのです。


 その様な方々ですので、

 たとえ一国の国王であっても、簡単に面会が許される存在ではありません。


 もし、今回、その言えないことが御用件だと仰るのでしたら

 お帰り頂くしかありません」



聖騎士は、そう言い終えると、

京太の前から、立ち去ろうとする。



その聖騎士の態度と言い分に腹を立て、

京太の背後から、もの凄い殺気を向けている者達がいた。



――この男、何を考えているの・・・・・


──主への冒涜・・・・・


──我が、主様への無礼・・・・・許さんのじゃ・・・・


その中の1人、エリカが前に出て、聖騎士に声を掛ける。


「貴方、名前は?」


「その服装は、教会の者!


 まぁいい。


 私は、聖騎士第2隊、隊長の【ボードン】だ。


 ホグル様に会いたければ、理由を話すんだな」




同じ信徒だと思ったのか、敬語で話す事さえめたボードン。



話が途切れると、ボードンは、部下に伝えた。



「後の事は任せる。


 彼らの気が変わったら、報告に来い」



「はっ!」



ボードンは、その場を部下に任せ、兵舎へと戻って行った。



ボードンが去った後、聖騎士達が、王女たちの方へと向き直る。



「そういう事だ、お前達が、ここで要件を話すか、

 それとも、この街を出て行くかだ。


 当然、この街にいる限り、俺達が監視させていただくがな」




京太は、聖騎士達が、この場にいる意味を理解する。




――見張り・・・・・・だったんだ・・・・・




見張りの為に残った聖騎士達は、

立っている事さえも放棄し、近くの椅子に、どっしりと腰を下ろすと

店主を呼びつける。




「おい、店主!

 酒と食い物だ。


 代金は、こいつ等にツケておけ!」




――ああ、やっぱり話し合いでは、無理なんだな・・・・・




「ちょっと、あんた達!」




マリアベルが何か言おうとしたが、京太がそれを制し、

聖騎士のテーブルに向かった。




「話す気にでもなったのか、

 だが、今は、俺達の食事の方が先だ、それまで待ってろ!」




聖騎士は、そう言うと、テーブルに置いてあった酒に手を伸ばす。


しかし、酒を飲もうとした瞬間、

京太が、聖騎士を殴りつけた。



京太に殴られた聖騎士は、

顔面を破壊され、床に倒れたまま動かなくなった。



「なっ!貴様!」



聖騎士達が立ち上がるが、その後ろに、ディーノとドワイトが待ち構えていた。




「貴様等の相手は、俺達だ」




2人に頭を鷲掴みにされ、持ち上げられると、

その状態のまま、サンドバッグと化し、殴られ続けた。


この場に1人残された聖騎士は怯え、

股間から何かを漏らしているが、ディーノには関係ない。




「お前が、最後だな」




そう言って、ディーノが頭を鷲掴みにし、先程と同じように持ち上げると、

聖騎士は涙を流しながら懇願した。



「殺さないで下さい・・・・・お願いします。


 何でもします・・・・・」



懇願する聖騎士に近づくマリアベル。




「『何でもする』って言ったわね。


 なら、ホグルの所に案内しなさい」




「それは・・・・・」



躊躇する聖騎士。


断ることなど許されない。



マリアベルが悪い笑みを浮かべ、ディーノに話しかる。




「ねぇディーノ、この人、死にたいみたいよ」




「姫、宜しいのですか?」




「構わないわ」




その言葉に、殺される事を確信した聖騎士は、慌てて声を上げた。




「案内します!させて下さい!」




「そう・・・・仕方無いわね、じゃぁ、殺さないで上げるわ。

 ただし、逃げようとしたら・・・・・わかっているわよね」



「はっ、はい!」



「なら、ディーノ見張って置いてね」



「畏まりました」




ディーノが頭から手を離すと、聖騎士は床に落ちた。



マリアベルは振り返り、京太に話しかける。



「案内してくれるそうよ」




「分かった。


 だけど、他にも聞きたい事があるから、先に聞いてもいいかな?」




京太は、聖騎士に近づき質問を始めた。




「何故、僕達を監視していたの?」




「それは・・・・・・」




返事を躊躇する聖騎士の頭をディーノが、鷲掴みにし、力をこめる。




「うぎゃぁぁぁぁぁ!」




痛みに悲鳴を上げる聖騎士だったが、ディーノは、直ぐに力を緩めた。




「話してくれるよね」




「ほ、ホグル様の命令で・・・・・」




聖騎士は、諦めて口を割る。


ホグルは、子飼いのニール アスティンと

聖騎士隊総隊長ヨグルから連絡が無い事に焦り、

万が一、このアラアイ教国に、怪しい者が現れたら報告するように

指示を出していた。




「なら、ホグルは、僕達がここに来ている事を知っているのですね」




「・・・・・・はい、ボードン様が、報告に向かわれたと思います」




「それなら、僕達も動こう」




翌日、京太達は、捕らえた聖騎士に道案内をさせて、

ホグルが枢教院を務める【神コンス】を崇める街に向かった。




民の街を抜け、信徒の街に入ると、

そこから【神コンス】の信徒達の集まる街を目指す。


しかし、コンスを信仰する信徒の街に入ると、多くの聖騎士達が街受けていた。




――ただでは、通してもらえないみたいだね・・・・・




聖騎士達の中から、ボードンが姿を見せる。




「貴方達は、ここで何をしているのですか?」




ボードンは、剣を抜く。




「このまま、連行させて頂きます」




信徒達の注目が集まる中、ボードンは部下に命令を出して、

京太達を捕らえようと動く。




聖騎士達が、正面のみならず、背後からも現れ、京太達を取り囲む。




信徒達の目が、聖騎士達に阻まれ、京太達の姿が見えなくなると、

ボードンは、京太に近づき、呟いた。




「貴様らは、俺の出世の為に、役に立つんだな」





ボードンの態度は、今までとは違っていた。




「それが、貴方の本性ですか・・・・・」




ボードンは、何も答えず、ただ笑いながら京太の顔を見ている。


その間にも、聖騎士達は京太の仲間達を捕らえようと

動き始めた。



だが・・・



「私に触らないでよ!」



フーカの手に触れた聖騎士が、殴られて吹き飛ぶ。



続けて周囲から響き渡り始めた鈍い音。




殴られ、吹き飛び、周りに被害を出しながら、

聖騎士達の数はどんどん減っていく。


その光景に、ボードンの顔からは、余裕の笑みが消え、

顔色も悪くなる。




「貴様、こんな事をして・・・・・・」




ボードンが、悪人のお決まりのセリフを言おうとしたが、

接近したクオンの一撃に意識を失い、その場に倒れ込んだ。


「殺してはいません。

 

 みねうちです。」


それを見ていたエクスが、聖騎士に向けて真似をする。



「みねうちです!


 みねうちです!」



言葉と見た目は同じだが、エクスの『みねうち』を受けた聖騎士達が

息を吹き返すことは無かった。






ボードンを紐で縛り、ドワイドに担がせると

連行している聖騎士に、案内を続けさせる。



信徒の街から、神教の街に入ると、周りの景色が変わった。




先程と違い、街の賑やかさは無い。


しかし、時折すれ違う人々の表情には、落ち着いた雰囲気がある。




――ここが、【神コンス】を崇める街か・・・・・・




聖騎士を先頭に、ゆっくりと歩を進めて行くと、

正面に大きな建物が見えて来た。




「あちらが、ホグル様のお屋敷です」




「わかった、ここまで案内、ありがとう」




京太は、そう告げると、聖騎士を殴り、意識を失わせる。


そして聖騎士を紐で縛り、ディーノに担がせると、

ホグルの屋敷へと進む。




屋敷に辿り着くと、警備兵に伝える。



勿論、その役目は、京太では無く、4人の王女達。




いつもの様に自己紹介を終えると、警備兵に向けて言い放つ。




「ホグルに会いに来たわ、今すぐ、面会を求めます」


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