第139話アラアイ教国 民の街

隣国、アラアイ教国迄は、極めて穏やかな道のりで、

予想以上に多くなった京太達のの移動速度が、落ちることは無く、

予定通りに、アラアイ教国の外周の街に辿り着いた。




アラアイ教国の街の作りは、少し変わっている。


街の中心には『神教の街』があり、そこには、神父やシスター、

他に巫女や教会で働く者たちの街がある。


神教の街は、信仰する神の違いから、12の区に分けられている。

そして、その12の区の代表者が、枢教院に所属し、

それぞれの区の運営と管理を行っている。



この街には、許された者しか訪れる事が出来ない。



その為、商売をしている者達も全て、神父、シスター、巫女の見習い達であった。




その神教の街を囲むように、『信徒の街』が形成されている。



ここに住んでいる者達は、一般の民ではあるが、

信仰心の深いと見なされた者達だけであった。


ただ、それも各区を治める代表者の者の判断であった。




そして、その信徒の街を囲むように、

それぞれの神を敬う者達が住む街、『民の街』が形成されていた。


その民の街を囲む壁の入り口で、京太達は順番を待っている。




「思ったより、人多いね」




「そうね」




「今日もここで野宿になるなかぁ・・・・・」




1人で周囲を見渡しながら、皆に話しかけて来るフーカは、楽しそうだ。




「フーカは、野宿がいいの?」




「うん、狩りも出来るし、一杯ご飯食べれるし、皆と一緒に寝れるから」




「お主は、気楽じゃのぅ・・・・・」




ラゴの言葉に、フーカが反応する。




「ラゴだって、『主様と毎日寝れる』って喜んでいたでしょ!」




フーカの発言に、ラゴに注目が集まる。




「お主、余計なことは言わんでよい!」




動揺するラゴの顔が真っ赤になっている事に、皆が気付き、

馬車の中に、『クスクス』と笑い声が響いていた。



暫く待っていると、馬車が動き始めて、入り口に近づく。


だが、日も押し迫っており、

街の中に入れるのか、分からない状態だったが、

入り口を警備する聖騎士が、京太達の一団に気付く。




「そこの者達、この国に何の用だ!」




聖騎士は、仲間を集めて道を塞ぐ。




「ここは、私達にお任せ下さい」




イライザは、そう言い残し、マチルダを連れて馬車から降りた。




「私達も行きましょう」




マリアベルも、コーデリアに声をかけて、2人で馬車を降りる。




「ディーノ、ドワイト、ついて来なさい」




「はい」




執事とは見えない程、大男のマリアベル専属執事、ディーノとドワイトは、

京太達の後ろの馬車から飛び降りて、マリアベルの元に向かった。




イライザは、聖騎士の前に進み出る。




「私は、アトラ王国第1王女、イライザ アトラです。


 隣は、妹の・・・・・」




「マチルダ アトラです」




2人が、丁寧なお辞儀を見せていると、マリアベルとコーデリアが追いついた。




――間に合った・・・・・




息切れも見せず、マリアベルは、イライザの隣に並ぶ。




「私は、アクセル王国第2王女、マリアベル アクセルです」




「あの・・・・・わたひゃ・・・・」




――噛んだ・・・・・・




「落ち着きなさい」




コーデリアは、マリアベルに窘められると、落ち着きを取り戻す。




「私は、武装国家ハーグ第3王女、コーデリア タガートと申します」




目の前に、突然3国の王女が現れ、その後ろで大男の執事が睨みを聞かせている状態に、聖騎士達は、たじろぎ、後退りを始める。




「貴方達は、礼儀に欠けているのですか!


 私達は、名乗りを上げました。


 ですが、その態度は、如何なものなのでしょう」




マリアベルは恫喝し、聖騎士達を睨む。




『はっ!』と我に返った聖騎士が、膝を付き頭を下げた。


それに見習い、他の聖騎士達も膝をついた。




「大変失礼いたしました。


 それで、この度は、どの様な御用件でしょう?」




「貴方に、話すとお思いですか?」




マリアベルは、再び聖騎士を睨みつけて、話を続ける。




「国と国との大切な話を、此処で話せと申すのですか?」




正論を叩きつけられ、返す言葉が無くなった聖騎士は、

『あの・・・・その・・・・』と繰り返すばかりで話になりそうになかった。




その時、騒ぎを聞きつけた男が、走ってマリアベル達の前に現れる。


男は膝を付き、謝罪を口にする。




「この度は、部下が失礼な事を致しました。


 どうか、寛大な心を持って、お許し頂きたい」




男は、既に内容を聞いていたようだった。




「貴方は?」




「私は、警備隊長の【セルラオ】と申します」


 


マリアベルは、一呼吸置いた後、口を開く。




「ここで咎めても仕方がありません。


 今回は水に流します。


 ですが、次は、ありません」




「感謝致します」




セルラオは、そう言うと、深く頭を下げた。


その後、セルラオの指示で、京太達一行は、入り口を抜け、街の中に通された。




「本日は、どちらに行かれますか?」




京太達に同行している聖騎士達の中から、セルラオが聞いて来る。




「今日は、もう遅いので宿に泊まります。


 何処か、案内をして下さい」




「はっ!」




セルラオは、部下に命令を下し、宿の確保に向かわせた。


4人の態度に、馬車の中では、ヒソヒソと話をしている。




(フーカ)「あの4人、権力使わせると怖いね・・・・・」




(ソニア)「うん、うん、・・・

      でも、マリアベルは、ちょっと悪乗りしていない?」




(フーカ)「それでもいいよ、私達、50人位いるんだよ。


      絶対、宿なんて見つからないと思っていたんだから」




(セリカ)「私もそう思っていました。


      でも、何とかなりそうで良かったです」




(ラゴ) 「お主ら、まだ宿が見つかった訳では無いぞ」




(セリカ)「フフフ・・・・・でも、何とかなりそうな気がしませんか?」




(ラゴ) 「確かにそうだな・・・・・」




(フーカ)「わたし、お風呂があるといいなぁ・・・」




4人の会話を聞きながら、京太も考えていた。




――今回は、あの4人に任せよう。


  それに、宿も見つかるといいな・・・・・・




その頃、宿を探しに出掛けていた聖騎士が戻って来て、セルラオに報告していた。


セルラオは、4人の王女の乗る馬車に行き、報告をする。




「宿の手配は出来ましたが、

 申し訳御座いません、二手に分かれて頂く事になります」




「構いません、案内をお願いします」




セルラオは、馬車を引き連れ、宿に向かった。


宿に到着すると、入り口で店主一同が、出迎えている。




「お疲れ様で御座いました。


 どうぞ、こちらへ」




4人とディーノとドワイトが、宿の中に入る。


京太達も宿に入ろうとしたが、聖騎士に止められる。




「待て、貴様等は向こうだ」




聖騎士は、正面の宿を指差す。




「私達は向こうなの?」




「当り前だ!


 王女と貴様らを、一緒に泊める訳にはいかん」




言い切った横から、イライザが戻って来て京太に声をかける。




「京太様、行きましょう」




「え!?」




驚く聖騎士に、フーカが、笑いながら伝える。




「京太は、イライザの旦那さんだよ」




その言葉に、聖騎士の顔から、血の気が引いた。




「それに、私達も京太の奥さんだぞ!」




その言葉に、今度は聖騎士達の視線が集中するが、

その視線の意味が、段々と違うものに変わっていく。




――リア充死すべし・・・・・




殺気を感じた京太は、急いで宿の中に入って行った。


宿の中に入ると、京太はセルラオに告げる。




「向こうに泊まった人達にも、

 ぞんざいな態度を取ったり、食べ物の質を下げたりしないで下さい」




先程の聖騎士達を見ていたセルラオは、丁寧に対応する。




「分かりましたが、宜しいのですか?」




「構わない、頼んだよ」




そう言い残し、京太は、皆の後を追って

再び宿の中へと入って行った。




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