第138話アラアイ教国 旅の途中2

馬車が王城に到着すると、インガム タガートが待っていた。



「京太殿、お待ちしておりました」



インガム タガートの顔を見ると、緊張しているのか、額に汗を浮かべている。


前回、武装国家ハーグからの帰り道、この男の指示で、京太達は襲撃にあった。


だが、襲撃は失敗に終り、その後、京太によって手痛いしっぺ返しを受けている。




その時の苦い思いをした事を覚えている為、

インガム タガートの対応は、慎重なものだった。




「インガム タガート様、お久しぶりです」




「様など付けなくていい、

 貴方にそんな風に呼ばれると、背中が痒くなりそうだ」




「ははは・・・・・」




インガム タガートは、城の入り口で足を止める。




「先に、言っておきたい事がある」




インガム タガートは振り返り、京太と視線を合わせると、頭を下げた。




「あの時は、すまなかった。


 それと、我等を生かしてくれた事に感謝する。


 もう、二度と同じ過ちを繰り返さない事を誓う」




突然の事に、周囲にいた兵達も驚いている。


今は、宰相見習いの立場ではあるが、王族である事には変わりはない。




今、その王族の1人が、一目も憚らず、謝罪しているのだ。




「インガム様・・・・・・」




兵士の1人が、声をかけた。


その声に反応して、インガム タガートは頭を上げる。




「時間を取らせてしまったな、すまない」




インガム タガートは、踵を返すと、

京太の返事を聞かないまま城の中に入って行く。


案内されるまま後をついて行く京太達。


辿り着いた先は、謁見の間。




壇上の椅子には、女王アリソン タガートが座っいたが、

京太が入って来ると、壇上から降りて来る。




「京太様、ようこそいらっしゃいました」




「女王陛下も御壮健でなによりです」




「ありがとう、でも堅苦しい話し方は、止めて頂けると有難いわ」




「わかった、止めるよ」




「ありがとう。


 それで、今回は、この国に何が用があるの?」




京太は、アラアイ教国に向かっている所だと告げる。




「何かあったのね」




――感が鋭いのか、それとも・・・・・・

  僕が、動いているからかなぁ・・・・

  それって、まるで・・・・




京太は、とある考えに至ったが、直ぐに頭から消そうとする。




――認めたくない!・・・・・

  巻き込まれ体質なんて、何処のアニメだよ・・・・・・


そんな事を、思ってしまったが

気持ちを切り替えて、アリソン タガートの質問に答える。




「はい、実は・・・・・・」




京太は、これまでの経緯を話す。




「そうだったのね、アラアイ教国は、隣国ですから、

 それなりの情報が入って来ますが

 そのような話は、聞いた事がありませんでした」




「でしたら、『ホグル』という名に心当たりは、ありませんか?」




アリソン タガートは少し考えた後、

元国王で、相談役のルドガー タガートの方を向いた。



ルドガー タガートは、知っていた。



「その名前は、知っているぞ。


 たしか・・・・・元々は神コンス様を崇める教会の代表者だったのだが

 のちに、親の代を継ぎ、あ奴は枢教院の1人になった。


 それからだ、部下を使って、

 色々と悪さをしていると、聞いた事があるぞ」




「それって神への冒涜だよね」




フーカの何気ない一言に、ルドガー タガートは答えた。




「その通りだ。


 確かに、本心から神を信仰している者達は多い。


 だが、自身の地位に胡坐をかいて、好き放題にしている者も多いのだ」




京太とルドガー タガートの目が合う。




「何も言うな、儂も分かっておる・・・・・」




「いや、何も言っていませんよ」




「お主の目が、訴えておる・・・・・反省しているのだ・・・・・」




「分かっています。


 この城に来るまでに街を見てきましたが

 以前と比べて、人々の顔に笑顔が見えました」




「そう思って貰えねば、儂らの努力が報われん。


 お主には、感謝しておるのだ」




ルドガー タガートは、感謝を伝えた後、話題を変える。




「ところで京太殿、また仲間が増えたように感じるが、気のせいか?」




「いえ、それは、・・・・・・」




京太が説明をしようとしたが、マリアベルが自ら前に進み出る。




「女王陛下、ルドガー タガート様、お久しぶりで御座います。


 アクセル王国第2王女、マリアベル アクセルで御座います」




挨拶をされてルドガー タガートは思い出す。




「そうであったな、失礼致した。


 それで、アクセル王国の姫が、何故に京太殿と一緒に?」




「とある理由から、私が管理する事になった街に、

 彼らが押しかけ、民に暴力を振るったので抗議の為に同行しております」




「そうだったのか。


 儂は、てっきり京太殿が、

 妻を増やされたのかと思ってしまったのだ。


 申し訳ない」




ルドガー タガートの謝罪が、マリアベルのいたずら心に火を点けた。




「ルドガー タガート様、謝罪の必要は御座いませんわ、

 今回の旅が終わりましたら、

 京太様の愛人として、迎えて頂きますので・・・・・・」




しれっと吐いた嘘により、女性陣の視線が京太に集まる。




「京太、どういう事?」




「お兄ちゃん、聞いていないよ」




「主、また増やされるのですか?」




「皆、ちょっと待って!


 全部、マリアベルの作り話だから!!」




「「「え!?」」」




してやったりのマリアベルだったが、更なる爆弾を落とす。




「確かに冗談ですが、私は京太様の妻になるつもりですから」




――嘘だろ・・・・・




固まっている京太に対して 仲間達が非難を浴びせていると

今度は、アリソン タガートが話しに加わる。




「アトラ王国に続き、アクセル王国の姫ですか・・・・・

 それなら、その中に武装国家ハーグも加えて頂きましょう」




「それは、良い考えだ。


 インガムよ、

 直ぐに【カサンドラ】、【クローディア】、【コーデリア】を呼ぶのだ」




「畏まりました」




インガム タガートも、何故か笑顔でその場から去って行った。




――これ、どうなるの・・・・・・




暫くして、3人の王女が姿を見せる。




「お父様、お母様、御用あると窺い、参りました」




第1王女カサンドラ タガートが、代表して挨拶をした。




「わざわざ、すまない。


 実は・・・・・・・」




ルドガー タガートは、

この度の一件を掻い摘んで話し終えた後、本題に入る:。



「それで、3人の中で、京太殿に嫁ぐ気がある者は、おるか?」




3人は、顔を見合わせた後、再びカサンドラ タガートが問い直す。




「お父様、それは、私達の意思を尊重して下さると思って良いのですね」




「ああ、勿論だ。


 出来るなら、3人に幸せになって欲しいのだ。


 あまり時間を割いてやれぬが、考えてくれ」




「わかりました、ですが父上、考える迄も御座いません」




「そうか・・・・・」




娘の言葉に、今回の話は断るのだと思い、

アリソン タガートとルドガー タガートは肩を落とした。




――娘の決めた事なら仕方がない・・・・・・




肩を落とす両親に、カサンドラは話を続ける。




「どうして、お二方共、肩をおとしていらっしゃるのかしら?」




「「「え!?」」」




2人の筈が、3人の声がハモった。


当然、その中の1人は京太。


しかし、誰もその事を気にも留めようとはしない。




「私達の中から、京太様の元に嫁ぐのは、コーデリアです」




名を呼ばれたコーデリア タガートは、顔を赤く染めて前に進み出る。




「お父様、お母様、感謝致します」




――えっ!・・・・・




「良かったわね」




「はい!」




――どういう事?・・・・・




突然、湧いて来た話の筈が、既に京太が貰う事で話が進み始めている。


混乱し、訳が分から無くなっている京太に代わり、

ソニアとセリカが前に出る。


そして、何故か、そのままコーデリアを仲間達の元に連れて行く。




「あの・・・・・」




京太は、恐る恐る声をかけると

ソニアが京太の元に来て『ポンッポンッ』と肩を叩く。




「後の事は、任せて」




それだけ伝えると、仲間の元に戻った。



──どういう事?・・・・・



疑問しかない京太。



暫くすると、京太の仲間の元にいたコーデリアが、

笑顔で両親に挨拶をする。




「お父様、お母様、今までお世話になりました。


 それから、お姉様方、本当に有難う御座います」




涙を浮かべるコーデリア タガートの元に、

両親と姉達が近づき、優しく抱きしめる。




「良かったわね、断るのかと思って驚いたけど、違っていたのね」




「・・・・・はい」




落ち着きを取り戻したコーデリア タガートは、

京太と仲間達に改めて挨拶をした。




「不束者ですが、末永く宜しくお願い致します」




コーデリア タガートの挨拶に、京太以外が『パチパチ』と拍手を送る。



――これ、僕の意見は、聞いて貰えないんだ・・・・・



その後、アリソン タガートから、

今回の旅に同行するように命じられたコーデリア タガートは、

京太の元に連れて行くメイド達を決め、荷物を纏める。



だが、そう簡単に準備が終わるはずもなく、時間が掛りそうだったので、

数日間、この街に滞在する事になった。



その間、一番五月蠅かったのは、マリアベルだった。



コーデリア タガートが、京太の元に行く事が分かった瞬間、

自分も京太の嫁になると宣言をしたのだ。


しかし、女性陣から、『両親の許可を取れ!』とか、

『街はどうするのだ』と言われて

仕方なく引き下がったが、その後も、『ブツブツ』と独り言を呟いている。



その独り言の内容は、両親を説得する方法だった。




数日が過ぎ、コーデリア タガートの準備が終ると

再びアラアイ教国に向けて旅立つ京太達。




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