第107話シーワン王国 逆襲

到着したコールドは、直ぐに兵士達に命令を下す。




「至急、厳戒態勢を取れ!


 敵が近辺に潜んでいるぞ!」




その声に、待機していた兵達が、急いで作業に取り掛かる。


本部に入ると、コールドは、諜報部の【キル】を呼んだ。




「コールド兵団長、任務ですか?」




「ああ、里の中心に構えた拠点の様子を見てきて欲しい。


 万が一襲撃されていたら、そのまま戻って来てくれて構わない」




「わかりました」




キルは、その足で、命令された拠点へと向かった。


途中で、見慣れない4人組を発見したが、

キルは、任務を優先し、その場から足早に去る。




拠点としていた屋敷の近くまで来ると、

錆びた鉄のような匂いが立ち込めており

見なくても状況が理解出来た。


屋敷の前には、多くの兵士の死体が転がっており、

拠点が崩壊している。




「遅かったですね」




一応、キルは、周囲を探索したが、

敵の死体は無かった。




――もしかして・・・・・・




キルは、先程見かけた4人の事を思い出し、

急いで拠点へと引き返す。




先回りに成功したキルは、

直ぐにこの状況を、コールドに報告する。




「兵団長、拠点は全滅していました。


 ですが、先程、この辺りを調べている4人組を発見しました」




「わかった、拠点が破壊された事は残念だが、貴重な情報に感謝する」




「どういたしまして・・・・・御用の時は、何時でも、お呼びください」




「ああ、頼む」




キルが去った後、コールドは、5人一組で巡回することを徹底し

周囲の警戒に当たらせる。



鳥人族の里を探索していたラム達も、

シーワン王国の拠点に近づいていた。



その時、偶然、警戒していた兵達を発見する。




「まずい、隠れて!」




先に気付く事が出来たラム達は、相手に見つかることは無かったので、

敵の拠点まで、兵士達を尾行する事にした。




尾行を続けた結果、

敵の拠点を発見することは出来たが、

先程の拠点と違い、厳重な警備体制が布かれていた。




「もしかして、襲撃がバレてる・・・・・?」




ラムの疑問に、イライザが答える。




「多分、そうだと思います。


 どのみち倒さなければならない相手ですから、覚悟は出来ています」




イライザの言葉に、ラム、ミーシャ、マチルダは頷いた。




「作戦を決めましょう」




ミーシャに従い、4人は思考を巡らし、作戦を決めた。



「基本は、2人1組で行動します。


 挟み撃ちにされる事は避けたいので、両側から攻撃をするとして、


 初めは、遠方からの魔法攻撃、敵の体制が崩れたら、

 近接戦闘に切り替えましょう」



作戦が決まると二手に分かれる。


1組は、イライザ、マチルダ。


もう1組は、ラム、ミーシャのコンビ。



戦闘開始と言わんばかりに、イライザとマチルダが魔法を放つ。




「ビッグウエイブ」




大津波が発生し、拠点前にいた兵士達は飲み込まれる。




「うわぁぁぁ!」




「ぐわぁぁぁ!」




続いて、水にぬれていた者達に、イライザの魔法が降りかかる。




「サンダースパーク」




雷が直撃しなくても、水を通して兵士達に伝わると、

次々に感電させ、黒い煙を上げる。


叫び声と大きな響きに、屋敷の中にいた兵達が

急いで、表に出て来た。



その中には、コールドの姿もある。



「ついに来たか。


 何処だ、敵は何処にいるんだ!」




焦るコールド達に、再び魔法が襲い掛かる。




「ウインドエッヂ」




屋外に出て来た兵士達だが、どこからともなく襲い掛かる風の刃の前に、

成す統べなく体中を切り刻まれた。


だが、コールドは、咄嗟の判断で屋内に飛び込み、

風の刃から、逃げ切る事に成功する。



助かったコールドは、そっと外を覗く。



「こいつ等が、仲間を殺した犯人か・・・・・」




コールドが、屋敷の中から外の様子を伺っていると、

屋敷に近づく4人の姿を見つけた。




「あの4人がキルの言っていた者達なのか?」




周囲を見渡した後、コールドは見えない相手に声を掛ける。




「キル、いるか?」




すると、屋根裏からキルが姿を現す。




「コールド様、御用でしょうか?」




「奴らを追い払う。


 手段は問わない。


 力を貸してくれ」




「畏まりました」




キルは、小さな笛を取り出し、2回吹いた。




その音に、ラム達が気付くと同時に、

周囲の屋敷の屋根上に黒装束の男達が姿を現す。


黒装束の男達は剣を抜くと、一斉にラム達に襲い掛かる。




先程の魔法を見ていたのか、決して距離を空けず、近接戦で挑んで来た。


その状況を見ていたキルが、魔法を唱える。




「エクスプロージョン」




交戦していたラム達に向けて放った魔法は、

黒装束の男達を巻き込みながら、大爆発を起こす。



黒装束の男達は、その事が分かっていたのか

ラム達から離れるような素振りも無かったのだ。


寧ろ、ラム達を引き留めておくことを優先しているかのようにさえ、思えた。


完全に欺かれた為、敵の攻撃は見事に成功したのだ。




「きゃぁぁぁ!」




自爆攻撃を受け、4人はバラバラに吹き飛ばされて、大怪我を負う。




「ん、ちょっと不味いかも・・・・・」




ゆっくりと体を起こし、木にもたれ掛かったラムの目に飛び込んで来たのは、

この場から立ち去るコールド達の姿だった。




「逃げられる・・・・・・」




ラムは、両足に大火傷を負っており、動ける状態では無い。


それでも、必死に1歩踏み出そうとするが、

足が動く筈がなく、前のめりに倒れる。


倒れた状態から、顔だけを上げると

ラムの視界に、イライザとマチルダの姿が映った。




「イライザ、マチルダ!」




2人に必死に声をかけるが、全く反応が無い。


ラムは、燻って熱くなっている土の上を

火傷を負いながらもイライザの元に辿り着く為に、両腕を使って這った。




「イライザ・・・・・」




やっとの思いでイライザの元に辿り着いたラムは、

胸に耳を当ててみる。




「・・・・・生きてる!!!」




必死に呼び掛けるラム。


しかし、イライザに反応は無い。


それでも、諦めることはせず、

火傷を負った両手で、心臓を揺すり、必死に声を掛け続ける。


だが、反応は無い。



諦めかけた時、回復魔法を思い出し、

姿の見当たらないミーシャの名を大声で叫んだ。



「ミーシャ!ミーシャ!ミーシャ!」



すると、その声に反応するかのように

燃え盛る屋敷の向こうで何かが動いた。




「ミーシャ!ミーシャ!ミーシャ!」




ラムが必死で呼び掛けると、

それは、一度は起き上ったが、再び倒れてしまう。



「ミーシャ・・・・・・・」



涙を流しながら、ラムは必死に叫ぶ。




「ミーシャぁぁぁぁぁ!!!」


最後の叫びとばかりに、大声を上げたラムだったが

声が途切れると同時に、意識を失った。


だが、その声に反応した者達がいた。



それは、後から追って来たソニア、セリカ、サリーの3人。



セリカは、持っていた回復草を、ラムに与えようとするが

既に意識が無い。



「ラム!ラム!起きて!」



気を失っていたラムだったが、

セリカの呼び声に、反応し、目を開ける。




「セリカ・・・・私は、大丈夫だから・・・

 他の人達をお願い」




「わかったわ」



ラムの横で倒れていたイライザに続き、マチルダも救出する。



しかし、最後に発見したミーシャの損傷は酷く、

衣服は、焼け爛れ、皮膚に張り付いており、全身の火傷もひどい。


だが、それだけではなかった。


ミーシャの右腕は無くなっていたのだ。


ラムの呼び声に応え、立ち上がった事が不思議に思える程だ。




セリカは、急いで回復草を与えようとするが、

自身の力で飲み込める状態ではない。


セリカは、回復草を口に含むと同時に、水を飲む。


そして、口に含んだそれを、ミーシャに与えた。



この行為を、何度か繰り返していると

ミーシャの意識が戻る。



「ミーシャ、分かる?」




「セリカ・・・・・他の皆は・・・?」




「大丈夫よ、貴方が一番酷いわ」




「そう・・・・・悪いけど・・少し休ませて・・・・・」




ミーシャは、再び気を失った。


セリカは、ミーシャを抱きかかえると、皆の元へと向かう。




ラムは、ミーシャの酷い有様に、言葉を失っている。




「ミーシャ・・・・・・」



ミー者を一旦地面に置いた時、マチルダが目を覚ました。



近くにいたサリーが声を掛ける。




「マチルダ、大丈夫?私が分かる?」




「サ、サリーさん?」




マチルダも全身に火傷を負っており、すぐに動ける状態では無かったが、

事情を聞き終えると、サリーの手を借りて体を起こす。


マチルダは、自らの魔法で傷を癒すと、

フラフラしながらミーシャに近づき、魔法を唱えた。




「ウォーターヒール」




ミーシャの体を水色の光が包み、身体の傷を癒す。




「ミーシャ、ミーシャ」




ラムの呼びかけにミーシャは、再び目を覚ます。




「良かったぁ!」




失った血液などは戻らないが、一命を取り留めた事に、皆が喜んだ。


その後、ラム、イライザの傷も癒し、全員の外傷は消えた。


だが、ミーシャの失われた右腕は、元通りにはならなかった。




「ごめんなさい、私、まだそこまで出来なくて・・・・・・」




「ありがとう、マチルダ。


 気にしないで」




ミーシャは、残った左腕でマチルダの頭を撫でる。




全員が回復した所で、

どうしてこうなったかをソニアが聞くと、ラムが答えた。




「自爆攻撃よ。


 私達があいつらと戦って身動きが取れない所に、魔法を撃ち込まれたの」




「じゃぁ、敵も一緒に?」




「そうよ、私達を囲っていた大勢の敵も、一緒に吹き飛んだわ。


 ・・・・・ホント、最悪」




ラムの話を聞き、ソニア、セリカ、サリーは怒りを滲ませる。




――絶対、許さない・・・・・


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