第106話シーワン王国 拠点攻撃

クオン達が竜人族の里に向かってから暫くすると、

猫人族の里に兵団長コールドが姿を見せる。




「これは、どういう事だ!?」




コールドが目にしたのは、破壊された屋敷と

その周辺に横たわる兵士達の死体だった。


仲間の死体の中を歩いてみると、敵の死体が1つも無い事に気付く。




「一体、何と戦ったというのだ・・・・・」




コールドは、急いでその場を離れ、

鳥人族の里に向かった。



丁度その頃、京太達の仲間の隊が鳥人族の里に到着していた。




ゆっくりと里の中を馬車で進んでいると、

生き残りの亜人を探していたシーワン王国の兵士集団に遭遇する。



分団長【ビウス】も馬車を見つけ、距離を保ったまま剣を抜いた。




「おい、貴様は、エルフだな・・・・・

 こんな所で何をしているんだ!」




ビウスの兵士達は、距離を保ったまま広がり、馬車を包囲し始める。



その状況でも、レイドに焦りはない。



「すいません、道に迷いました」



御者を務めていたレイドは、分かり易い嘘を吐く。



だが・・・



「そんな嘘を誰が信用するのだ!


 馬車を調べさせてもらう」




兵士達が馬車に近づくと、

幌を被っていた荷台から、イライザが降りて来た。




「レイドさん、どうしたのですか?」




エルフが御者を務める馬車から、人族が降りて来た事にビウスは驚く。




「貴様は、誰だ!」




「口の利き方に気をつけなさい!」




イライザが、一喝すると

その声を聞き、今度は、マチルダが馬車から姿を見せた。




「お姉さま、どうかなさいましたの?」




「何でもありませんわ。

  貴方は、馬車で待っていなさい」




「ですが・・・・・・」




「マチルダ、大丈夫です。


 この者の口の利き方を注意したでけですから」



マチルダは、敵兵の姿を見て、イライザの意見に従わず

イライザの前に進み出る。




「貴方は、どこの国の兵士ですか?


 私は、アトラ王国第2王女、マチルダ アトラと申します。


 そして、こちらが、アトラ王国第1王女、イライザ アトラお姉さまですわ」




ビウス達は、慌てて膝をつく。




「こ、これは、大変失礼致しました」




「それで、貴方達は、此処で何をしていますの?」




ビウスは、額に汗を浮かべながらも、咄嗟に嘘を吐く。




「はっ、この地区で、最近、戦いがあったと聞いたので、

 調査に参った次第でございます」




イライザも嘘と分かった上で、話を合わせる。




「そうでしたか、

 私達は、エルフの民に頼んで、亜人連邦を見せて頂いておりますの」




「左様でしたか」




「ええ、ですが、この状況は・・・戦いがあったのですね」




「はい、ですので、この辺りはまだ危険かと存じます。


 ですので、お早めに戻った方が宜しいかと」




「そうですね。


 御忠告、感謝致します」




イライザとマチルダは、

いつの間にか、馬車から降りて来ていたラムとミーシャの手を借りて、

荷台へと戻った。



レイドは、全員が乗り込んだ事を確認すると、

馬車を走らせる。




ビウスは、頭を下げたまま、馬車を見送り。


姿が見えなくなったところで、頭を上げる。




「アトラ王国が・・・何の用なのだ・・・・・・」




ビウスも兵士達とその場を離れ、拠点へと向かう。



ビウス達の姿が見えなくなると

物陰に隠れていたソニア、セリカ、サリーの3人が

姿を見せた。


3人は、イライザとマチルダが、話をしている間に

馬車から降りて、姿を隠していたのだ。



その3人は、足跡を追い、ビウス達の追跡を開始する。




一定の距離まで追いつくと、

その後は、距離を保ちながら、追跡していくと

ビウス達は、多くの兵士達が屯している

里から離れた場所の屋敷の中へと入って行った。






ソニアが、疑問に思った事を口にする。




「ねぇ、これ、もしかして警備?」




「そう・・・なのかなぁ・・・・・」




セリカも曖昧な返事しか出来なかった。


その理由は、兵士達は、

屋敷の入り口の両端に立ち、

武器を構えるといった行動は、しておらず、

地面に座り、仲間同士で会話をしている者や、

テーブルを持ち出し、酒を飲んでいる者までいたのだ。



それに、誰一人、警戒をしている様子が無い。




この様子に、ソニア達は驚いていたが、

事実、兵士達にとって今回の任務は、戦という名の蹂躙劇だと思っており

反撃されることなと微塵も考えていないから出来る態度なのだ。




「これってチャンスよね」




「ええ」




「行こう!」




3人は、一斉に飛び出すと、勢いのまま襲撃を開始した。



無言のまま、一気に詰め寄り、近い者から次々に屠る。



「ひっ!」



「ぎゃぁぁぁぁぁ!」




悲鳴や叫び声を聞き、近隣の家からも兵士達が飛び出して来た。




「なんだ、あいつらは!?」




「そんな事、どうでもいいだろ、

 早く援護に!」




「敵襲、敵襲!」




次々と現れる兵士達を倒していると、

近隣の家から、続々と大きな男達が現れた。




「チッ、騒がしいと思ったら、襲撃者かよ」




大剣を担いだ大男は、ソニア達をじっくりと観察する。




「中々良い女だな、俺の奴隷にして、可愛がってやろう」




「早い者勝ち。

 

 3人迄だな」




大男達は、ゲームでの楽しむかのように、笑みを見せる。



「なら、先ずは1匹!」


そう言い切った大男は、大剣を振り上げ、サリーに襲い掛かる。



振り下ろされた大剣を、一重で躱したサリーだが、

思った以上の風圧で、頬が切り裂かれた。



「サリー!」




ソニアとセリカは、サリーが完全に躱した事は分かっていた。


だが、それでも傷つけられた事に驚いている。




――どういう事・・・・・・




驚く2人を見て、大男達は大声で笑う。




「おいおい、あんまり傷つけるなよ」




「後で、治せばいいだろ」




「そうか、それなら腕の1本や2本、折れても構わないな」




大男達は、確認を終えたかのように

それぞれが武器を構え、ソニアとセリカにも襲い掛かった。




「ソニア、しっかり距離を取るのよ!」




「わかってる!」




2人は、大男達の一振りを紙一重で躱さず。


距離を空けるように回避した。




同時に、不安を感じたセリカは、急いで『ウインドウォール』を放つ。


すると、『ウインドウォール』に何かが当たり、弾かれた。




――もしかして・・・・・・




セリカに確信は無かったが、

大剣が、魔法剣ではないかと予測をしていたのだ。




「2人共、あの剣は、魔法剣よ」




セリカの言葉に、大男達が答える。




「よくわかったな。


 だが、分かっただけで、この状況は変わらぬぞ」




大男達は、身体に似合わない素早さで、

3人の周りを囲む。




「お姉ちゃん達は、俺たちの奴隷になるんだ。


 絶対逃がさねぇよ」




下卑た笑いを浮かべながら、大男達が距離を詰める。


しかし、大男達の動きを封じるように、

足元から蔦が伸び、動きを封じた。




「これは、何なんだ!」




焦る大男達を気にも留めず、4人がゆっくりと近づく。




「抜群のタイミングね」



ソニアの言葉と同時に、笑みを見せ

声を掛けるサリー。





「ラム、それに皆さん・・・・・・」




「遅くなったと思っていましたが

 丁度良かったようですね。


 ですので、ここからは、お任せください」




ミーシャが『ファイヤーストーム』を放つ。


身動きの取れない大男達は、瞬時に炎に包まれる。



「がぁぁぁぁぁ!!!」



必死に脱出を試みるが、呼吸をする度に、

身体の内側から焼かれ、次々に倒れてゆく。



ソニア達を取り囲んでいた大男達が倒れると

イライザが声を掛ける。




「ここが、敵の本部なの?」




「多分、そうだと思うわ。


一応、警備のような者達もいたし、

 この大男達も近くの家に隠れていたのよ」



「それなら、可能性は高いわね」


「そうね」



話をしながら、ソニアは、大男の持っていた剣を拾い上げる。



「それと、この剣だけど、魔法剣よ」


 

「魔法剣?」


「ええ、魔法剣よ。


 風圧で、ウインドカッターのような魔法を放つのよ」


「それなら、回収しましょう。


 それと、残党がいて、挟み撃ちにされると面倒だから

 その大男たちの現れた家を調べましょう。」



皆もその意見に同意し、現れた家などを調べたが、

他に敵の姿は見当たらなかった。



「ここが最後ね」



目の前には、敵が見張りを置いていた屋敷。


あれから、誰も出てきていないことは確認できている。



「ここは、私たちが行くわ」



名乗りを上げるソニアとセリカ。


それに、便乗するラムとミーシャ。



確かに、適任と思える4人だったので

誰も反対しなかった。



その為、他の者達は、屋敷の周囲を警戒する事にした。



屋敷の門を潜り、警戒しながらゆっくり進むと

屋敷へと到着する。



屋敷の中へと入るが、人の気配がない。



「誰も、いないようですね」



その後も、注意しながら進むと、奥に鍵のかかった部屋を見つける。


鍵を剣で破壊するラム。


鍵を破壊した部屋の中には、亜人の子供達が収監されていた。



「助けに来たよ!」



子供達は疲れていたが、その言葉を聞き、声を上げて喜ぶ。


子供たちの保護は、上手くいったが、

ここには大人の姿が無い。



「他の人は、何処にいるの?」




「わからない。

 でも、此処に連れて来られたのは、僕達だけだよ」




――まだ、他に拠点があるんだ・・・・・・




ソニア達は、子供達を屋敷から連れ出し

仲間達と合流した後、ソニア、セリカ、サリーに子供達を任せ、

ラム、ミーシャ、イライザ、マチルダの4人は、

引き続き周囲の探索に向かった。




その頃、鳥人族の里にある、もう一つの拠点に、コールドが到着していた。

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