第105話シーワン王国 反撃

ジェラートを見送った後、京太は仲間に集合をかけた。


訓練に出ていた者や、自宅に戻っていたラムとミーシャも集まると話しを始めた。




「戻って来たばかりだけど、亜人連邦がシーワン王国の襲撃を受けている。


 目的は、領土拡大と亜人達を捕まえて奴隷にする事らしい」




「狙った理由はわかったけど、ちょっと酷いよね・・・・・」




ラムの言葉に同意するように、皆が無言で頷く。




「確かにその通りだと思う。


 だから、助ける事にした」




「わかったわ、それで私達は何をしたらいいの?」




ソニアが言い終えると、皆の視線が京太に集まる。




「結構危険な状態になっているらしいから、

 先に僕とフーカ、ラゴの空を飛べる者が先に向かうよ。


 あとの人達は、馬車で向かって欲しい」




京太の案を聞き、ミーシャが手を上げる。




「京太さん、後3人は運べますよね」




「確かに可能だけど、フーカとラゴは大丈夫?」




「問題無いぞ」




「私も構わないよ」




フーカとラゴの了承が貰えたので、先発は6人になった。


出来るだけ体重の軽そうな子を選ぼうと思うが、

そのまま言葉にすれば問題が起きる予感がする。


京太は、出来るだけ分からないように選ぶ。




「クオン、エクス、ハク、一緒に来てくれるかな?」




「はい!」




「うん!」




「ご同行させて頂きます」




3人の了承も得る事が出来たので、次の話題に移ろうとした時、

ソニアとラムの怪しむような目つきに気付く。




「ねぇ、京太、何となくだけど・・・・・

 選考理由・・・・・・聞いてもいい?」




「私も、聞きたい。


 なんか、京太さん、怪しかった」




――君達・・・・・・




京太は、焦りながらも、その事を表面に出さないように答える。




「大した理由は無いよ、ただ小柄な2人と、フーカの相棒を選んだだけだよ」




「それならいいんだけど、

 私は、てっきり体重の軽そうな子を選んだかと思ったわ」




その言葉に、視線が集中する。




――ソニア、鋭い・・・・・・




「そ、そんな事は無いよ、本当に小柄な2人を選んだだけだよ。


 それよりも、後続部隊を任せていいかな?」




「わかったわ」




話題を変える事に成功した京太は、ソニアに後続部隊を任せる事にして

その後の予定を話す。




「先発から、フーカ、ハク、クオン、エクスは、

 遠方の猫人族の領地に攻め込んでいる者達を殲滅。


 後続の皆は、鳥人族の領地の敵を頼む、その後は、その地を守って欲しい」




「わかりました」




「はーい」




ミーシャとラムが返事をすると、他の者達も頷いた。




「ラゴは、僕と一緒にシーワン王国に乗り込もう」




「うむ」




「今回は、既に奴隷にされた者達もいるみたいだから、急いで出発しよう」




話が纏まると、ロウに頼み、2台の馬車を用意して貰った。




「京太様、何か手伝えることは、御座いますか?」




「ロウ、ありがとう。


 それなら道に詳しい者に、御者を頼みたい」




「直ぐに手配致します」




ロウは、そう言うと、その場から走り去った。


暫くして、御者が馬車に乗って現れる。




「京太様、お待たせいたしました」




2台の馬車の御者は、ロウとレイドだった。




「私達が、必ずお届けいたします。


 それから、必要になりそうな薬草などは、既に積んでおりますので

 今すぐにでも出発出来ます」




「有難う、では、出発しよう」




仲間達の出発を見送った6人は、

京太、ラゴ、フーカの手で、空から猫人族の中心の街に向かう。


途中で休憩をとりながら、空を飛ぶ。


6人は、翌日の夕方には、猫人族の領土に到着していた。




「少し、離れた場所に降りよう」




京太の言葉に、ラゴとフーカも従い、

中心地から少し離れた森に降りる。




「お兄ちゃん、もっと暗くなったら、街の中に連れて行って欲しいの」




「夜襲をかけるの?」




「そうだよ、それで全員倒すから、

 お兄ちゃん達は、気にせず王都に向かっていいよ」




「わかった、無理は禁物だけど、頑張ってね」




京太は、クオンの頭を撫でた。




「えへへへ・・・・・」




笑顔を見せるクオンに気が付いたエクスは

京太の背後から忍び寄り、抱き着いた。




「主、私も頑張るので、お願いします」




エクスは、背後から頭を差し出す。




――しかたないなぁ・・・・・




そう思いながら、エクスの頭を撫でる。


エクスの頭を撫でていると、今度は、フーカに抱き着かれた。




「京太!


 私も頑張るからね!」




「私もお役に立ちたいと思います」




抱きついていたフーカを離し、フーカとハクの頭も撫でる。




「2人共、頼むね」




ある種の挨拶を終えると、

日が落ちるのを待ち、暗くなったのを見計らって4人は、街に降り立った。


京太とラゴは、その様子を見届けると、

そのままシーワン王国を目指し、飛び立った。






その頃、王城では、国王【スピリダス】に兵団長【コールド】が、

現在の戦況を語っていた。




「陛下、侵攻は、予定通りに進んでおります。


 それから、捕らえた竜人を尋問しましたところ、

 情報通り、猫人族と鳥人族は滅び

 他の部族の男達も殆どが死滅したとの事でした」




「そうか、ならば、我が国の属国になるのも時間の問題だな」




スピリダスは、そう言い放ち、満足そうに頷く。




「陛下のご希望通り、近日中に手に入れて参りましょう」




「コールド、頼んだぞ」




「はっ!」




国王との謁見を済ませたコールドは、

その足で馬に乗り、前線の猫人族の領土を目指した。






  


猫人族の領土を奪還する為に、街に降り立った4人は、

暗闇に紛れてシーワン王国の兵士を探す。




「私、空から探すね」




フーカは、空に上がると、周囲の探索にかかる。


すると、現在地から離れた所にある広場に明かりが見えた。


フーカは、仲間にその事を伝え、案内をする。




フーカの案内に従い、進んで行くと、

3人の目にも広場の明かりが見えた。




「お姉ちゃん、見つけました」




「ハク、どうする?」




「三方向から、一斉に攻撃をしましょう」




ハクの指示に従い、広場を大きく迂回し、三カ所に散らばり

待機する。


3人の準備が整ったことを確認すると

上空で待機していたフーカが合図を送った。



「行く!」



一斉に突撃を開始する。




「な、なんだアイツらは!」




「もしかして、仲間を取り返しに来たのか?」




突然の襲撃に、シーワン王国の兵士達は

クオン達の餌食になり、次々と沈んだ。



だが、シーワン王国にも隠密で動く者がいた。




「この事を知らさないと・・・・・」



影に隠れていた男は、仲間の元へと走る。



到着したのは、本部として利用している屋敷。



屋敷に飛び込むと、慌てて仲間に告げた。




「敵襲だ!


 広場で待機していた仲間が戦っている!」




「なんだと!」




男達は、本部から飛び出すと、

仲間に伝える為に、近隣の屋敷へと飛び込む。



すると、屋敷から多くの兵が現れ、広場に向かって走り出した。




「この辺りの屋敷が、アイツらの住処なんだ」



隠れていた男は、気が付いていなかったが

フーカは、その男を見つけて尾行していたのだ。



本部を発見した今、彼らに用はない。


フーカは、広場へと走る兵士達の背後から、魔法を唱える。




「纏めて消えちゃえ!『ホーリーアロー』」




無数の光の矢を上空に浮かび上がらせた

フーカが弓を射る。


放たれた光の矢は、走っていた兵達を次々に貫いた。




「グハッ」




「ぎゃぁぁ!」




致命傷となり、その場に倒れ込む者、

腕や足を貫かれ、痛みに堪えられず、騒ぎだす者、

そんな阿鼻叫喚の中、フーカは、もう一度魔法を唱えた。




「吹き飛べ『ホーリーキャノン』」




フーカの両手から放たれた光は、地面に衝突をすると同時に、

大爆発を起こした。




轟音と共に地面が揺れ、全て破壊する。


その様な状況で生き残る者などおらず、

兵達の姿も完全に消滅していた。




広場の兵を全て倒した3人は、

上空に浮かんでいるフーカを見つけると、

合図に従い再び走り出した。


フーカの案内で、3人が目指したのは、敵が本部に使っている屋敷。


屋敷の前には、先程のフーカの攻撃で、多くの兵が巡回していた。


屋敷から少し離れたところで、フーカも降りて来る。




「ここらの屋敷の殆どが、兵舎とか待機所になっているみたいだよ」




「なら、端から攻めますか?」




フーカは、ハクの意見を否定する。




「えーめんどくさいよ、

 それに建物を残していてまた使われたら面倒だよ」




「では、如何しますか?」




「私が爆発を起こして、驚いて出て来た所を倒す。


 その後、屋敷を調べて捕まっていた人を開放する」




「なんか、大雑把ですね・・・・・

 ですが、フーカ様らしいです」




「ハク・・・・・様、要らない・・・

 それに大雑把が私らしいって、どういう事よ!」




2人が揉めていると、クオンが笑いながら言う。




「フーカお姉ちゃんのやり方でいいと思うよ」




その言葉を聞き、フーカはクオンに抱き着く。




「やっぱりクオンは良い子ね、何処かの誰かと全然違うわ!」




「・・・・・・・」




クオンとエクスは、どっちでも良かった。


それより早く決めて欲しかっただけ。


その為、フーカの意見に賛成したのだ。




作戦が決まると、フーカが上空から『ホーリーキャノン』を放つ。


屋敷には、直撃させず、地面に激突させただけだったが、

先程と同じように、数人の兵が消し飛んだ。


同時に起こった地響きにより、

屋敷の中から、大勢の兵士が現れる。




「一体、何が起こった?」




屋敷の外で、慌てふためく兵士達。



「行きます!」




クオン、エクス、ハクが突撃する。



3人は同時に走り出し、接近すると同時に

剣を振り抜いて倒してまわった。



「敵襲!敵襲だ!」




その声に、屋敷の中に残っていた兵達も表に出て来たが、

そこには、仲間の兵達の死体が転がり、茶色い土が血を吸い、

黒く変色した地面が、一面に広がっていた。




「どういう事だ・・・・・」




おびただしい死体の数に、驚くと同時に、

恐怖が襲って来る。




「我等は、何と戦っているんだ・・・・・」




シーワン王国にとって今回の戦いは、

弱っている亜人達を蹂躙するだけの簡単な仕事の筈だった。


確かに戦闘を始めた頃は、思い描いていた通りで、

仲間から死者も出る事もなく

ただ、一方的に亜人達を蹂躙するだけだった。




しかし、今、目の前で起きている現実は、

自分たちが、狩られる立場へと変化して

蹂躙されている。




分隊長の【ルド】は、急いで指示を飛ばす。




「撤退、撤退だ!


 急げ、全員撤退だ!」




その声が届いた兵士達は、クオン達に背を向けて、走り出す。


ルドは、相手は追い返す事が目的で、

逃げる相手まで追っては来ないと考えていた。



だが、そんな甘い考えは、直ぐに打ち砕かれる。


クオンを先頭に、エクス、上空からフーカが遠慮なく襲い掛かり

武器を捨てて逃げようとした兵達は、次々に倒された。




「無理だったのか・・・・・」




逃げる事を諦めたルドは、剣を構える。




「我は、シーワン王国分隊長ルド、一騎打ちを・・・・・・」




ルドは、フーカの矢で、頭を撃ち抜かれ倒れた。


その光景を見た兵士達の足が止まる。



ここでフーカが叫んだ。




「降参なら、動かないで!

 武器も捨ててよ!」




逆らう気力が無くなった兵士達は、その言葉に素直に従う。



動きを止めた兵士に、クオンとハクが近づくと怯えた表情を見せる。


質問をするクオン。



「亜人達は、何処にいるの?」




「あ、あの屋敷の奥です」




ハクは、示された屋敷に入り、亜人達を救出に向かう。



暫くして、ハクが屋敷から出てくる。



「フーカ、皆さん生きていました」




「良かったぁー!」




クオンとエクスも笑顔を見せた。


その後、兵士を縛り上げると、救出した亜人達を連れて

竜人族の里へと向かった。






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