第102話亜人連邦  城前決戦

竜魔族侵攻を聞き、族長達の視線はアーチボルトに集まっている。




「一刻を争う状況になったようだな・・・・・

 ジョゼ殿、お願いしてもよろしいかな?」




黙って頷いたジョゼは、京太へと視線を向ける。



「大丈夫だよ。


 任せて」



京太の返事を聞き、安堵したアーチボルトは

族長たちに告げる。



「それでは、我々は、地竜討伐に全力をそそぐことにしよう]



その言葉に、多くの族長達も頷いたのだが、

納得がいかない族長が1人いた。



虎人族のネヴィルだ。




「申し訳無いが、貴方達だけでは、荷が重いのではないか?」




「ネヴィル殿・・・」



「不躾ながら、我が軍も、竜魔人討伐に当たらせてもらう」



その言葉を聞き、

ジョゼは、京太の方を『チラッ』と見たが、動くそぶりも無かった。




「わかりました、お任せ致します」




「任されよ、虎人族の力、見せてやろう」




ネヴィルの勝ち誇る様な態度に、

他の族長達も、負けじと竜魔人討伐に当たるとアーチボルトに伝える。




「我が、白狼族も竜魔人討伐に当たらせてもらう」




「ドワーフ族も同意見だ。


 英雄を失ったとはいえ、我らの力に疑う余地などない!」



決まったことを、直ぐにひっくり返そうとする族長たちに

嫌気がするアーチボルトだが、その事を顔に出さず

グッと堪えていると、警備をしていた竜人達が、膝をついた。



「アーチボルト様、我等、竜人族にも、

 英雄エリアス様の仇を討つ機会をお与えください」



アーチボルトとしても、エリアスの仇は打ちたい。



だが、連邦の長として

エルフ族との決まり事を、無下にすることなど出来る筈がない。


アーチボルトが、問いかける。



「それでは、この里を誰が守るのだ?」



「それは・・・」



「里の守りも必要な事。


 それ地竜退治の件もある。


 それを捨ててまで、竜魔族との戦闘を望むのか?


 この場にいる族長達にも問いたい。


 この連邦を崩壊させてまで、竜魔族との戦闘を望むか?」




「どのみち、奴らを倒さねば、我らは終わる。


 確かに、竜魔族3人を倒したという

 エルフ族の助力者の力は、偉大かもしれぬ。


 だがな、これは我らの問題なのだ。


だからこそ、我らが立たねばならぬのだ。


それでもし、我らが倒れた時には、

ジョゼ殿、その時は、宜しく頼む。」




ディクソンの言葉に、他部族の族長も頷いている。




族長達もディクソンの意見に賛成している様だったので、

アーチボルトは諦めた。




「わかった、ならば好きにすれば良い」




二転三転する連邦の言葉に、困惑するジョゼに

京太が話しかける。



「大丈夫。

 任せてみようよ」



「京太殿が、そう仰るなら・・・」





会議を終えると、

族長達はそれぞれの部賊に戻り、

城門の外に陣を展開し始めた。



京太は、その様子を城壁の上から眺めている。




「京太、私達は、どうするの?」




「勿論、戦うよ。


 4人いるらしいから、2人で竜魔族1人を倒すつもりでいるよ」




「なら、次は私達の出番ですね」




「うん、1人はミーシャ達に任せるよ」




「お任せください」




ミーシャ達に続き、フーカ、ハク組、ソニア、セリカ組が

竜魔族と対戦する事に決まった。




「他の人は、地竜討伐を宜しくね。


 それと、イライザは、マチルダと行動してくれる?」




「分かりました」




「お姉さま、お願い致しますわ」




その後、京太達は竜魔人と戦う3組を城壁の上に残し、

他の者達は部隊の最後尾についた。



暫く待機していると、遠くに砂埃が上がる。




――来たか・・・・・・




各部族の兵士達も、戦闘に備え、武器を構えた。



そして、火蓋を切る。




「突撃!!」




聞こえて来た号令で、全部隊が動き出した。




「お兄ちゃん、行かないの?」




「うん、当分は見学かな。

 

 彼らがやる気になっているから

 邪魔はしたくないんだ」




「わかった」




クオンは、返事をすると、エクスと遊び出す。



クオンとエクスを見たついでに、他の仲間達も見て見ると

それぞれに雑談をしたりしていた。




――本当に、リラックスしているな・・・・・・




後方の京太達は、そのようなゆるい感じだが

突撃を敢行した各部族の戦いは、

開始時こそ数で押していたが、やはり地竜の方が強く

時間が経つにつれて、段々と押し込まれ始めていた。




また、竜魔族との戦闘においては、

全く相手にならず、蹂躙され、死者の数を増やすだけになっている。




城壁の上から見ていたソニアが、京太に声をかける。




「京太、あいつら、全滅するよ。


 そろそろ行ってもいい?」




「わかった、頑張って!」




ソニアとセリカは、城壁から飛び降りると走り出す。


暫く走ると、戦場に到着し、

地竜と兵士達の戦いが、ソニアとセリカの道を塞いでしまう。


だが、ソニア達の背後からついて来ていたクオンとエクスが、

前方に飛び出し、地竜を薙ぎ払った。



2人は、道を作る様に、次々と地竜を倒し、道が開けると

ソニア達に声を掛けた。




「ソニアお姉ちゃん、セリカお姉ちゃん、頑張って!」



「うん、ありがとう!」



ソニア達は手を振り、2人が作った道を駆け抜け、竜魔族に向かった。




次に、ミーシャとラムが飛び降りて、走り出すと、

サリーとラゴが並走して走り出す。




「露払いは、わらわたちに任せるのじゃ!」




「感謝します」




「それと、無理だと思えたら、わらわを呼んでも構わぬぞ」




「絶対、呼びません!」



「同意・・・」




皆を見送ったフーカが、空へと飛び上がると

ハクは、城壁から飛び降りて、地面を走り出す。



と、ハクの同行者は、イライザとマチルダ。



地竜を倒しながら竜魔族に近づくと、

イライザとマチルダは、ハクから離れた。




「有難う御座います、行ってきます!」




「頑張って下さい!」




イライザとマチルダは、その場で止まると、

振り返り、地竜討伐を開始した。




「マチルダ、決して離れないように」




「はい!」




1人残っていた京太は、ゆっくりと地竜の中を進み始める。


多くの兵士達が倒れ、敵がいなくなった地竜達は

京太に襲い掛かった。




京太は立ち止まると、『エクスプロージョン』を放つ。


襲い掛かろうとした地竜や、その周囲にいた地竜の全て吹き飛び、

京太の前には道が出来た。



そこに姿を見せる竜魔族の1人、イザベル。



「貴方、何者なの?


 まぁ、少しは出来るみたいだけど

 この私の相手が務まるとは・・・・・」


イザベルが、話をしている最中に

京太は、一瞬で間合いを詰めて、首を斬り落とす。




あまりにも一瞬の出来事に、

イザベルは反応が出来ず、その場に倒れた。




その光景を見ていた生き残っていた兵士達も、

一瞬の出来事で、理解出来ていない。



ただ、京太の前に、竜魔人が倒れていることだけは理解が出来た。



「あ、あれが、エルフ族の助力者の力か・・・・・」



「これなら・・・・勝てる!

 勝てるぞ!!!」



その発言に、生き残っている兵士達の目に、活力が戻って来る。




「やるぞぉぉぉぉ!」




「おーー!」




歓声は戦場に響き渡り、全体の士気を再び盛り上げる。


竜魔人と向き合っていた京太の仲間達の耳にもその声が届き、

やる気を起こさせた。




――次は、私達・・・・・・




最初に飛び出したソニアとセリカは、

前後に陣形を組んで、竜魔人と向かい合っている。




「人族ですか・・・・・

 亜人より弱い貴方達が私を倒す気でいるなど、何の冗談ですか?」




竜魔人マルゼは、血糊のついた剣を舐めると

品定めでもするように、2人を眺める。




「この血より、貴方達の血の方が美味しそうですね。


 いいでしょう、貴方達の血を対価に、遊んであげましょう」




マルゼは、ゆっくりと近づく。




「接近戦です。


 かかって来なさい」




ソニアは、挑発には乗らず、笑顔で返す。




「じゃぁ、遠慮無く」




ソニアは、高速の連撃を放ち、でマルゼを圧倒する。


なんとか剣で反らしたり、躱したりしていたマルゼだったが、

少しずつ体に血が滲む。




「クッ!」



仕方なく、回避を試みようとするが、

いつの間にか、足に蔦が巻き付いており、逃げる事が出来ない。



「クッ!

 いつの間に!」


体勢を崩し、隙が出来た。


──チャンス!


ソニアは、剣を横凪に振るう。



マルゼは、致命傷を避ける事で精一杯。


ソニアの一撃は、マルゼの左足を斬る。



「貴方達・・・・・やりますね・・・」




負傷し、身動きの取り難くなったマルゼに、

攻撃の手を緩める事はない。


再び開始したソニアの連撃。



先程以上に、深手を負い始める。




――この私が、人族のなどに・・・・・・・




マルゼに成す統べが無い。


必死に防御に徹していたが、

今度は、足元が沈み始めた。




「今度は、何を!」




ソニアが攻撃をしている最中、

セリカは『アントライオン』を発動させていた。



『アントライオン』とは、足元に蟻地獄のようなものを作り

 敵を地面に沈める魔法。


その魔法を受け、完全に身動きが取れなくなるマルゼ。




「貴様・・・・・この仕返しは・・・」




最後まで、言葉を発する事も出来ず、

マルゼは、地中へ沈む。




「終わったね」




「ええ、後は地竜ですね」




2人は、ハイタッチを躱した後、地竜討伐へと向かった。




ソニア達が、完全勝利を果たした頃、

フーカとハクのコンビも勝利が目前に迫っていた。




フーカとハクの戦いも、初めから竜魔人メイベルを圧倒する。


メイベルは風の魔法を使い、矢に変化を与えて攻撃を仕掛けていたが、

ハクが、ホワイトバイパーへと戻り、全ての矢を弾き飛ばす。


攻撃が止んだところに、

フーカが、上空から『サンダーアロー』を放つ。


上空から降り注ぐ雷の矢に気を取られているうちに、

ハクが『ブリザード』で下半身を凍らせており、

逃げるという選択肢を失くしていた。


身動きの取れないメイベルは、

フーカの『サンダーアロー』が直撃し、

立ったまま息絶える。




「フーカ、お見事です」




人の姿に戻ったハクが褒める。




「当然よ、こんな所で負けていられないわ」




「御尤もですね」




最後まで戦っていたラムとミーシャだが、

竜魔人アデラートの防御の前に攻めあぐんでいた。


戦闘開始時は、圧倒的に有利だったが、

アデラートは勝てないと悟ると

防御に徹して殻に閉じこもったのだ。




「ヤバいヤバいヤバい・・・・・・

 こいつら強すぎる・・・

 絶対勝てないよ・・・」




1人で『ブツブツ』と言いながら、援軍を待つアデラート。


ただ、アデラートは、仲間が敗北した事を知らなかった。




「ねぇ、ミーシャ、魔力切れまで待とうか?」




「そうですね、無理に攻撃する必要はありませんね」




2人が待っていると、京太がやって来た。




「2人共、どうしたの?」




「敵が、途中で戦意喪失して、殻に閉じこもりました」




「えっ・・・・・」




驚く京太に、ミーシャが指を差す。




「あれが、殻です」




指を差された方向には、火と風と闇の防御魔法をかけた円柱が立っていた。




「もしかして、あの中にいるの?」




「はい」




「・・・・・・」




京太は、少し考えてから2人に相談する。




「あれごと消してしまおうか?」




「えっ!?」




「そんな事出来るのですか?」




「出来るよ」




驚きながらも、2人は京太に頼んだ。




「お願いします」




京太が前に進み出る。




「ブラックホール」




アデラートの作った円柱の傍に、黒い球体が現れる。


そして、球体の中心に黒い穴が現れると、全てが吸い込まれ始めた。




「なに!なに!なに!

 何が起きたんだ!」



アデラートは、叫び声を上げながら

ブラックホールに吸い込まれた。


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