第101話亜人連邦  裏切りの発覚2

マッシュの衝撃的な発言を受け、思わず立ち上がった族長達は、

マッシュを睨みつけている。




「貴様、何故そんな事を・・・・・」




「ははは・・・

 私は、先程も言った筈ですがね」




「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」



次々に怒号と罵声を浴びるマッシュ。


だが、その態度は冷静で、笑みまで浮かべている。



──フフフ・・・

  なんて醜い奴らだ・・・・・

  こんな奴らに、我が一族は、虐げられていたのかと思うと

  笑みが零れてしまいますねぇ・・・・・

  


この状況下でも、族長達の背後に控えいるリザード族の兵士は

手を出そうとはしない。


それはまるで、この状況を楽しんでいるかのように思えた。




だが、この状況は、何時までも続かない。



「お前達、静かにするんだ!


 冷静になれ!」



アーチボルトの一声で、

騒いでいた族長達が静かになった。



マッシュと向き合うアーチボルト。



「マッシュ殿、意見を聞こう、我々に何を求めている」




「意見も何もありません。

 

 私達は、この計画の為に多くの仲間を犠牲にしました」




「犠牲だと?」




「そうです。


 このまま貴方達に窃取され続けて死ぬか、

 一矢報いる為に犠牲になるかの選択で

 多くの民は、犠牲になる事を選びました」




アーチボルトと京太は、彼らが使ったのは『禁呪』だと気付く。




「マッシュ殿は、『禁呪』を使ったのだな」




「禁呪?」




族長達の間でも、『禁呪』を知る者はアーチボルト以外いなかった。




「『禁呪』とは、生贄を捧げ、魔の者を呼び出す儀式の事だ」




「では、あの竜魔人は、その儀式で呼び出されたというのか?」




ディクソンの質問に、アーチボルトは頷く。


ディクソンは、マッシュを睨み付ける。




「貴様は、何て事をしてくれたのだ!」




怒鳴るディクソンに、マッシュは冷静に答える。




「今までの報いですよ。


 貴方達は竜人族に加担し、今まで楽をして来た筈です。


 そのツケを、自らの命で払って頂くだけですよ」




黙って聞いている京太は、『禁呪』について考えていた。




――シャトの街での竜魔人の出現、それから今回の儀式での竜魔人の召喚、

  どちらにしろ、簡単に手に入る情報ではないよな・・・・・


  なら、誰かが、教えたという事だよな・・・・・何の為に?・・・・・




情報を得る為に、マッシュに聞いてみる事にする。




「マッシュさん、1つ聞いてもいいですか?」




突然話し掛けられたマッシュは、京太に顔を向ける。




「・・・・・何でしょうか?」




「『禁呪』は、誰から聞きましたか?」




「貴方に話す理由がありません。


 それに教える筈が無いですよ」


 


――やっぱり駄目か・・・・・

  まぁ、そうだよな。・・・・・


  それなら・・・・・




京太は、無詠唱で『ゾーンバインド』を放ち、

マッシュと兵達を拘束する。




「貴様、何をした?」




「見ての通り、拘束させてもらいました」




身動きが取れなかった族長達が解放された。




「京太殿、感謝する」




アーチボルトは、屋敷の兵をを呼びつけると、

マッシュと兵達を拘束した後、

その場にマッシュだけを残し、

兵達を牢へと運ばせた。




アーチボルトは、捕らえたマッシュに近づく。




「マッシュ殿、貴方の計画もここまでだ。


 だが、我々にも反省すべき所があるようだ。


 なので、提案を用意した」




「今更、提案ですか・・・」




「ああ、そうだ、我々は、ナッシュ殿の知っている事を教えて欲しい。


 その代わり、生き残っているリザード族には、

 連邦からの追放を持って罰としよう」




本来なら『禁呪』を使ってまで騒ぎを起こしたことで

一族は、全員が死罪となるのが妥当なのだが


アーチボルトは、今までの事を考慮し、

亜人連邦からの追放処分で済まそうとしている。



この提案は、十分な譲歩だと思えたが、

マッシュは首を横に振った。




「受け入れられぬか」




「そうではない、もう遅いのですよ。


 召喚された彼らは、誰の言う事を聞かないのです・・・・・」




「では、どうすれば良いのだ?」




「倒すしかない・・・・」




「わかった、作戦を考るとしよう。


 マッシュ殿も参加してくれ」



他の族長たちの中には、この提案に賛同し兼ねている者もいたが

今は、それよりも、竜魔人の討伐が優先なので、

アーチボルトの言葉に従い、

縛り上げたマッシュを椅子に座らせて、会議を再開した。




「まず最初に、マッシュ殿、話して貰えるか?」




「・・・・・・わかった」




マッシュは、禁呪を知り得た時の事を話し始める。




「あれは、食糧難に備えて資金を出す様にとの連絡が来た頃です。


 私達に求められた金額は、金貨500枚。


 砂漠の調査などで男達は既に倒れていた為、

 我らには、資金調達の目途など無かった・・・。


 そんな時、黒いフードを被った男が、

 我が一族の里にやって来ました。


 

 その男は、里の様子を見た後、

 何故、この様な状態なのかと聞いて来たのです。


 

 私は、今までの事を全て話しました。


 すると男は『仕返しがしたいか?』と我らに聞いてきたのです。


 そこで、返事に困っていると

 一族が滅ぶ覚悟があるのなら使えと『禁呪』について教えていただきました」




――黒いフードを被った男か・・・・・・




マッシュの話から分かったのは、黒いフードを被った男が、

『禁呪』を教えたという事だけだった。




「マッシュ殿、話してくれてありがとう、約束は必ず守る」




「・・・・・頼む」




アーチボルトは、マッシュとの話を終えると、

猫人族の里を住処にしている竜魔人討伐について、

京太に問う。




「京太殿、今回の戦いには、参加して貰えるのだろうか?」




「ジョゼに聞いて下さい。


 僕達は、エルフの里の人間ですから」




「そうであった。


 すまない。


 では、ジョゼ殿、

 亜人連邦の問題に付き合わせて申し訳ないが、

 相応の礼をするので、力を貸して貰えないだろうか?」



ジョゼは、返答をせず、疑問に思えたことを問い質す。



「その前に、1つ聞いておきたいのですが、

 マッシュ殿の事と、リザード族の罰については、わかりましたが、

 リザード族を追い詰めた事に対しては

 どう責任を取るつもりですか?」




【ネヴァル】は、自身にも火の粉が飛び火する事を恐れ、

話を進ませようとする。




「そんな事を聞いてどうするのだ!


 今は、そんな事よりも竜魔人討伐に力を注ぐべきだろう」




「確かにそうですが、マッシュ殿だけに罪を負わせて、

 他の者達がお咎め無しでは

 あまりにも都合が良すぎると思いませんか」




族長達は、黙り込む。




「わかっている。


 今回の事に関しては、代表者である私の責任だ。


 私は、この一件が終われば、代表者の座を降りる事を約束する。


 それと、追放時には、それなりの資金も用意しよう」




アーチボルトは、自身が責任を全て被る事で幕引きを求めた。


ジョゼもそれが分かり、それ以上の追求はしない。




その後も会議は続き、竜魔人の相手は、京太達が引き受ける事になり、

兵士達は、地竜の相手をする班と

救護や生き残った人達を捜索する班に分かれる。


その全体の指揮は、セルゲイがおこなうことで決まる。


その結果、京太達は単独行動での討伐が許可された。




こうして会議が着々と進む中、

1人の兵士が息を切らしながら飛び込んだ来た。




「報告します。


 猫人の里を住処にしていた竜魔人が、里に向けて進軍を開始致しました」




京太は、シャトの街の竜魔人は、

その街から出られなかった事を思い出す。




――ここの竜魔人は、自由に行動が出来るんだ・・・・・・

  それって、何が違うのだろう・・・・・





少し遡り、アーチボルトの屋敷で会議を開いている最中、

竜魔人達も動きを見せていた。




竜魔族の中の1人、【マルゼ】は、

鳥人族の里からの連絡が無い事に不審を抱き

様子を見に飛び立った。


そして、鳥人族の里に到着した時、

マルゼの目に飛び込んで来たのは、

変わり果てた仲間達の姿だった。




「負けましたか・・・・・」




マルゼは、猫人族の里に戻ると、

3人が敗れた事を仲間に伝える。




「鳥人族の里を占拠していた3人だが、

 どうやら殺されたようだ」




竜魔人の【メイベル】は、牙を見せて『ニヤリ』と笑う。




「ほぅ、私達を倒せる者がいたのか・・・・・・

 面白い・・・」




「それで、マルゼは、どうしたいわけ?」




露出の多い服装の女性、

竜魔人【アデラート】が尋ねる。




「当然、皆殺しにする」




即答したマルゼ。


完全に戦闘モードに入っている。


そこに【イザベル】が割り込んできた。




「独り占めは、良くないわよ!」




「そうよ、私達も付いて行くから!」




「独り占め・・・ですか。


 そうですね、では、4人で向かうとしましょう」




そして、マルゼを筆頭に竜魔人達は、

竜人族の里に向けて進軍を開始した。




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