第87話再開

京太の前に姿を現したニコライは、

不気味な雰囲気を醸し出している。




――この人、何人殺しているんだろう・・・・・




京太が、そう思うには訳がある。


ニコライの目は、常人と違い、暗く濁っており、

纏う空気も冷たく、常人が近づくと、

背筋が凍るような感じを受ける事が理解できる。



だが、それは、あくまでも普通の人が感じる事で、

京太には、ただの殺人鬼としか思えない。




『始め!』



開始の合図が掛かっても、ニコライは動かない。

ジッと視線だけを京太に向けている。



――様子を見ている・・・・・・それとも・・・・・




京太が同じように観察していると、

ニコライの手元が微かに動いた。



すると、京太に向かって苦無が飛んで来る。




苦無を剣で叩き落とすと、手元に注目する。


今度は両手が動いた。




――来た!・・・・・




もう一度、剣で叩き落とすが、途中で2本の苦無が消える。




「えっ!」



驚く京太だが、気配だけは感じる事が出来た為

慌てて躱す。



体は傷つかなかったが、服を破かれた。




「あービックリしたぁー」




素直に驚きを伝える京太。


そんな京太に、ニコライは何も語らず、再び攻撃を仕掛ける。



今度は、6本の苦無が京太に向かって飛んで来る。



だが、京太の姿は、そこに無い。



「何処に行った!?」



初めて感情を表に出したニコライ。



必死に京太を探す。



その間に、自分が攻撃を仕掛けられている事に気が付いていない。


その為、気が付いた時には、

上空に現れた『ブラックホール』に吸い込まれ始める。




「なにがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




驚きながら、叫び声を上げるニコライが吸い込まれると、

『ブラックホール』は消えた。



呆気ない決着に、審判も茫然としている。




「えと・・・終わったんだけど・・・・・」




京太に話し掛けられて、正気に戻った審判が宣言をする。




「勝者、京太」




静まり返っていた観客から、歓声が上がった。



京太は、歓声に応えて手を振りながら、闘技場から控室へと戻った。





京太が去った闘技場では、

観戦していたルドガー タガート王が、力の限りテーブルを叩く。




「あの男は、何者なんだ!」




武装国家ハーグの裏世界を取り仕切り、

無類の強さを誇るニコライが簡単に倒された事で、

打つ手が無くなってしまったのだ。




「インガム、この後は、どうするのだ!」




予想外の敗戦にインガム タガートも動揺していた。




――どうすれば・・・・・・




悩んだインガムは、ある事を思いつく。




「父上、兵を貸して頂けますか?」




「何か、名案でもあるのか?」




「あの男の仲間を人質に取りましょう」




流石のルドガー タガート国王の一歩引く。


もし、人質を取って勝ったとしても、確実にアトラ王国とアクセル王国の

2国との関係は、悪くなるだろう。


それにその事が他の国の耳に入れば、

この武装国家ハーグが、最悪の状態に陥る事が目に見えていた。




「インガムよ、それはならん」




「父上、何故ですか!?」




「今だけで無く、この先に起きそうな事態を含めてもっとよく考えて見るのだ。


 そうすれば、自ずと理解出来る筈だ・・・・・」



「・・・・・」



インガム タガートは、ルドガー タガート王と別れると、

自室に戻って、考える。



その結果、ルドガー タガート王の言いたい事は、理解出来た。



だが、他に手が無かった為、

京太の仲間達を誘拐することを決める。




インガム タガートから指示を受けたレックスは、

自身の兵と暗部を動かした。




集まった者達に、レックスは、指示を出す。




「お前たちは、京太に頼まれたと言って子供を攫って来い。


 それから暗部は、奴らの宿を見張り、

 1人で行動している者がいたら、そいつを攫え」




指示を受けた、兵士達と暗部は、それぞれに行動に移す。



決勝は、明日行われるのだが、まだ準決勝の試合が残っていた為に、

京太の仲間達は、ナイトハルトとフィオナの護衛として残っていた。



そこに兵がやって来る。




「失礼致します。


 京太殿が呼ばれておりますので、どなたが1人、ご同行頂けませんか?」




「分かった、案内して」




エクスは立ち上がり、兵士の後ろをついて歩く。



ここまでは予定通りなのだが

兵士の誤算は、妹想いの姉の存在。



エクスが、兵に従い皆から離れていくのだが、

心配性のクオンが後をつけた。



こっそりついてくのだが、

その姿を暗部が発見する。




「あの小娘を攫うぞ」




「はっ!」



暗部は、クオンをターゲットに決めた。




その頃、エクスは、人気の無い所まで連れて来られていた。



「この辺りでいいだろう」



兵士が足を止めると、周りから兵士達が現れ、

エクスを取り囲む。




「大人しく従え、さもなくば痛い目を見る事になるぞ!」




兵士がそう伝えると、全く違う場所から、声が聞えて来た。




「やっぱり、悪い事を企んでいたんだ」




「お姉ちゃん?」




「エクス、こいつ等敵だよ!」




クオンが剣を構えた。


しかし、クオンの周りにも、暗部の者達が姿を現し、クオンを囲む。




「嬢ちゃんの相手は、俺達だ。


 少々痛い目に遭ってもらうぞ」




数の上では、相手の方が多い。



その上、エクスとクオンは、囲まれているので

不利な状況と思えた。



しかし、その状況は、直ぐに覆る。



「何やら面白い事になっておるのぅ、

 やはり、追いかけて正解だったのじゃ」




「うん、私も来て良かったよ」




声の主は、ラゴとフーカ。



焦りを覚えた兵士と暗部は、

慌ててクオンとエクスに襲い掛かる。




「人質は1人でいい、後は殺してしまっグッ!・・・・・」




命令する兵士の頭に矢が刺さった。




「こっちにもいるからね! 『べー』だ!」




フーカは、舌をだして挑発する。


しかし、地上は既に、それどころでは無くなっていた。




エクスとクオンの2人が、競い合うように兵士と暗部を倒している。


その光景は、戦いではなく、蹂躙劇、

そう呼ぶ方が正しいと思えるくらいに圧倒していた。




戦いは呆気なく幕を閉じ、殺さず残していた1人に詰め寄る。




「誰の指図ですか?」




「・・・・・」




エクスは、兵士に問いかけたが、答えない。




「そうですか・・・・・」




エクスは、兵士の足に剣を突き刺す。




「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」




痛がる兵士に、空から降りて来たラゴは、

水の魔法を使い、兵士の足を凍らせた。




「どうだ、痛くは無いだろう」




痛みが和らいだ事に、落ち着きを取り戻す兵士に

ラゴは告げる。




「ただのぅ、このままだと足に血が流れておらぬから、

 最悪、腐って落ちるぞ」




その言葉に、先程迄の安堵は消え、絶望に打ちひしがれる。




「正直に話せば、助けてやらん事もないぞ」




「お、お願いします、助けて下さい」




「わかった、だが、話を先に聞かせてもらうぞ」




「・・・・・はい」




兵士は、あっさりと黒幕の名前を語り、今回の作戦の内容も語った。


約束通り、氷を解除してから、放置する。




エクス達は、闘技場に戻り

仲間と合流すると、先程の出来事を話した。




「もう、相手は、やる気じゃない!」




憤慨するソニアにセリカも頷き、同調した。


だが、ミーシャが間に入る。




「ここでは、周囲に聞こえてしまいます。


 帰ってから相談しましょう」




ミーシャに従い、全員が頷く。




準決勝の、もう1試合が終ると、

京太達はナイトハルトとフィオナを連れて、宿へと戻る。



そして、宿で食事を終えた後、部屋に戻り

今日あった出来事を話した。




「わかった。

 また、この国の者達が攻めてきたら、

 遠慮は要らないからね」




「はい!」




「ところで京太さん、この国は、このままで良いのですか?」




「問題は、そこなんだよな、この国の人達が苦しんでいる訳でも無い。


 だから、王や王子を屠っても、困るのは、国民なんだよなぁ」




 皆とも相談したが、答えは出なかった。

 その為、京太は決勝が終わるまで様子を見る事に決めた。


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