第86話タガート親子の企み

両腕を失った騎士団長ゲイル カフカは、治療を終え、ベッドで寝ていた。




「このままでは、終らん・・・・・」




そんなゲイル カフカの元に【セオ カーライル】副団長が姿を見せる。




「元気そうですね、元騎士団長」




「元、だと・・・・・」




「はい、剣を振れなくなり、

 この武装国家ハーグに恥を搔かせた大罪人の元騎士団長ですよ」




「貴様・・・・・・」




ゲイル カフカは睨み付けるが、それ以上の事は何も出来ない。


そんなゲイル カフカを見ながら、セオ カーライルは懐から

丸められた書状を取り出した。




「そうでした、ここに陛下からの書状があります。


 腕の無い貴方では大変でしょうから、私が読んで差し上げましょう」




セオ カーライルが、紐を解き、書状を読み上げる。




「騎士団長ゲイル カフカ、記念大会における反則行為により、

 騎士団長の任を解く。


 また、我が国の権威を貶めるという大罪を犯した為、国外追放を命じる」


 


「な・ん・だ・と・・・・・」




動揺を見せるゲイル カフカを、セオ カーライルは、あざ笑いながら告げた。




「連れて行け」




セオ カーライルに同行していた兵士達は、

ベッドに横たわっているゲイル カフカに近づく。




「や、止めろ!お前達、何をするんだ!」




叫び声をあげるゲイル カフカだが、

抵抗が出来る筈がなく、兵士達の手によって運び出された。






武装国家ハーグの記念武闘大会は、

開催国の騎士団長が仕出かした反則行為により、当然、中止になった。




来賓の対応に追われていたルドガー タガート国王は、

応接室に戻ると荒れ狂う。




「一体どういうつもりなんだ!


 あの馬鹿のせいで、我が国の失態は、衆目に晒され、

 既に観衆の中には、嘘国家と揶揄する者までいるのだぞ!」




「陛下、どうか気をお静め下さい」




【コーリー バッシュ】宰相は、ルドガー タガート国王を必死に宥めが

ルドガー タガート国王の態度が、和らぐことはなかった。



悪態をつくようにコーリー バッシュに命令をする。




「ならば、この状況を何とかして見せよ!」




無茶ぶりとも言える発言に、宰相は頭を抱えた。


その時、第1王子の【インガム タガート】が

ルドガー タガート国王の前に現れる。




「父上、愚鈍な騎士団長のせいで大変な目に遭われたようですね」




「インガムか・・・・儂は今、忙しいのだ!」




「父上の心中、お察し致します。


 私には、そのお心を和らげる妙案がありますので

 少しだけ、お時間を頂けませんか?」

 



ルドガー タガート国王は、インガム タガート王子の言葉に耳を傾ける。




「わかった。

 

 話して見よ」




「有難う御座います。


 まずは、この事態を招いた張本人に責任を取らせましょう」




「責任か・・・・」




「はい、死刑です。


 他国の者達が集まっている今だからこそ、最高の演出になると思います」



この世界では、貴族やそれに関する者、

また、重罪人の死刑は、ある意味『イベント』のようなものであった為

武闘大会の代わりに催す事をインガム タガートは、提案しているのだ。



その提案を聞き、ルドガー タガート国王は考える。




――確かに悪い手とは、思えぬ・・・・・・

  来客も残っておるしな。


  それに、この場で、けりをつける事は、

  妙案かもしれぬ。


  だが、先程、書状で、奴には追放と命じたのだが・・・

  いや、まだ、間に合うかもしれん・・・



思考を巡らせながらも、

宰相にゲイル カフカの追放を待つように命じ、

再び、インガム タガートと向き合った。




「話を続けよ」




「はい、闘技場にて、ゲイル カフカの死刑を行い、

 その後、準決勝からやり直すのです。


 相手は、そうですね・・・・・・

 我が国の暗部のリーダの【ニコライ】を新しい騎士団長に任命して、

 あの京太とかいう男と戦わせましょう」




インガム タガート王子の提案に、

ルドガー タガート国王は喜んだ。




「それは、素晴らしい案だ、あの京太とか言う小僧も殺し、

 我が国の名誉も、少しは回復するという事だな」




「その通りです」




「流石、儂の跡継ぎだ。

 この件、お前に任せるぞ」




「有難う御座います、早急に各国の来賓の方々に連絡をし、準備を始めます」




「ああ、頼んだぞ」




「はい、お任せ下さい」




インガム タガート王子は、ルドガー タガート国王との話を終えると、

直ぐに行動を起こす。




最初に向かったのは、追放されず、

牢に閉じ込められていたゲイル カフカの所。




「ひさしいな、ゲイル」




「インガム王子!」




インガム タガートが現れた事に、ゲイル カフカは驚く。




「何故、インガム王子がここに?」




「ゲイル、君には悪いのだが、罪状の変更だ」




「どういう事でしょうか?」




「最後に、お前がこの国に忠誠を尽くす機会を与えようと思う」




「それは・・・・・」




「明日、来場者の前で、お前の処刑を行う」




その言葉に、ゲイル カフカは言葉を失っている。


愕然とするゲイル カフカ。



「では、明日迄の命、存分に過ごせ」




話を終え、その場を去ろうとするインガム タガートに、

ゲイル カフカは詰め寄る。




「インガム王子、どうして、どうしてこんな

 何かの間違いでは・・・・・」




牢の中から必死に引き留めようとするゲイル カフカに、

インガム タガートは決定的な事を口にする。




「間違いではない、決めたのは、この私だからな」




「そんな・・・・・」




崩れ落ちるゲイル カフカだったが、

気力を振り絞り、もう一度詰め寄った。




「インガム王子、お考え直し下さい!」




何度も、何度も叫んでいると、インガム タガートの足が止まる。




「インガム王子・・・・・」




懇願する目を向けるゲイル カフカを横目に、

インガム タガートが兵士に命令する。




「明日、騒がれては堪らん、舌を切り落としておけ!」




その命令を最後に、インガム タガートは、その場を去った。


自室に戻ったインガム タガートは、護衛兵の1人を呼ぶ。




「【レックス】は、いるか!」




「インガム様、こちらに・・・・・」




インガム タガート王子は、今回の作戦を話し、命令を出す。




「早急に各国の方々に伝えよ。


 それと、あの男に伝える事を忘れるなよ」




「お任せください」




インガム タガート王子の護衛の1人、レックスは、

各国の来賓者の泊っている宿に出向き、

新たな催し物と、スケジュール変更の件を伝えた。



同時に、参加者の京太では、その旨だけを伝える。



「でも、それなら、決勝では無いのですか?」



「そう言う意見もあったと聞きますが、準決勝からやり直すと決まりました」




レックスは、機転を利かせ、嘘を吐く。




「そうか・・・・・」




悩む京太に、ラムが声をかける。




「京太、出る必要無いよ、どうせまた悪い事考えていそうだし・・・」




レックスを睨む。




「・・・・・・あの、京太殿、如何でしょうか?


 我が国といたしましては、参加して頂きたいのですが」




「わかりました、参加します」




「そうですか、では明日、お待ちしております」




レックスは、気が変わるのを恐れ、急いでその場から去った。



レックスが去った後、セリカが京太に問う。




「京太さん、本当に出場するのですか?」




「うん、出るよ。


 どのみち、決着がついていないからね」




騎士団長ゲイル カフカの件は、京太の勝ちなのだが、

司会者が、勝者の名乗りをする前に、兵たちがなだれ込み、

ゲイル カフカを捕らえて連れて行ってしまったからだ。



その為、後の事を考えると、

はっきりとさせておいた方が良いと思えた。





翌日、闘技場に行くと、中央に白い布が敷かれていた。



時間になると、中央に立つ兵士が、手に持っていた書状を読み上げる。




「只今より、昨日の記念武闘大会で大罪に値する反則を犯し、

 場内を混乱に貶めた張本人、ゲイル カフカの処刑を行う」




その宣言に、闘技場は静まり返る。




銅鑼が鳴ると、拘束され、目隠しをされたゲイル カフカが、

兵士に連れられて姿を現す。




白い布の中央に座らされたゲイル カフカは、

必死に何か話そうとしているが、

舌を切り取られている為、言葉にはならない。




もう一度、銅鑼が鳴ると、隣にいた兵士が剣を抜く。




そして、静まり返る闘技場に、再び銅鑼が鳴ると

兵士の剣が、ゲイル カフカの首を切り落とした。



落ちた首が、白い布の上を転がると同時に、歓声と怒号が入り混じる。




そんな中、再び銅鑼が鳴り、静まり返ると兵士が告げた。




「これにて、ゲイル カフカの処刑を終了する」




大勢の兵士が現れ、全ての後始末が始まる。



全てが片付くと、昨日の続きの記念大会が始まった。




出場のコールと同時に、京太が姿を現す。



続いて、相手の選手のコールが始まる。




「我が国の新しく騎士団長に、就任したニコライの登場です!」


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