第85話宣戦布告

ルドガー タガート王が退席すると、

会場は、少しづつ元の賑やかさを取り戻してゆく。



だが、そこには京太達やナイトハルトの姿は無い。




会場を後にした京太達は、貸し切りにしている宿に戻っていた。




「京太、本当に参加するの?」




「うん、するよ」




「ところでナイトハルト。


 イライザの事をルドガー タガート王は、知っていたのですね」




「ああ、近隣の国でもあるが、その前にアトラ王国にも来た事があるからな。


 それに、あの時もイライザにしつこく言い寄っていた男がいた気が・・・・・」




ナイトハルトが思い出しながら話す。




「兄様、その男がハーグの第2王子ですよ、

 私は興味が無かったので、無視していましたけど」




さらっと言い放つイライザは、先程の件でイラついているのだ。




「ですが、あの様な暴挙に出るとは、本当にこの国は最悪です!」




イラつくイライザを仲間達が宥めている。




「でも、あのおじさん、何かやりそうな感じだったわよね」




――王様をおじさん呼ばわり・・・・・・




「でも、相手は京太だよ、多少の事なら気にもしないでしょ」




ラムの言葉を、ソニアは、あっさりと受け流す。




「まぁ、確かにそうだけど・・・・・」




ラムは、心配そうに京太を見た。


その様子に気付いた京太は、ラムの頭を撫でる。




「心配させないように、頑張るよ」




「う、うん・・・・・」




ラムは頬を赤くし、俯く。




エクスは、その様子を見逃さなかった。




「ラムがデレてます」




「あら、ホント、あ奴はツンだけではないのだな」




エクスとラゴの突っ込みに、ラムは2人を睨んだ。




「エクスよ、元に戻ってしまったではないか」




「大丈夫です。


 頭を撫でれば、直ぐにデレます」




「ちょっと、いい加減にしてよね!」




その様子を見て、仲間達は笑った。




翌日、ナイトハルトとフィオナと一緒に、京太は会場に足を運んでいた。


それは今日から予選が始まるからだ。



2人の護衛は仲間達に任せ、京太は選手控室で待機し、順番を待つ。


選手控室には、大勢の出場者で溢れかえっていたが

全員が優勝を目指しているのか、誰一人、会話をしている者はいなかった。




――凄い雰囲気だな・・・・・




京太は、開いている椅子に座り、時間を待つ。


開会式が終り、予選が進む中、京太の順番が訪れた。




予選は4人が戦い、残った1人が本選出場となる。


試合が始まると、3人は、いきなり京太に襲い掛かった。




――まさか、初めから・・・・・




驚きながらも、3人を楽に倒して、本選出場を決めた。


その様子を見ていたルドガー タガート王は、拳を握りしめている。




「あの平民、調子に乗りおって・・・・・」




ルドガー タガート王が手を上げる。




「お呼びでしょうか?」




現れた男に命令をする。




「対戦相手の変更だ、あの奴隷にやらせろ」




「はっ」




男は命令を受けると、その場から姿を消した。


予選が全て終り、本選出場者が決まった。




「1回戦の相手は、【ルードヴィッヒ】って人だな」




京太は、対戦相手を確認した後、控室に戻る。


その頃、ルードヴィッヒは、ある男から指示を受けていた。




「遠慮はするな、痛めつけてから、殺せ」




「本当にアイツを殺したら、解放してくれるんだな」




「ああ、約束する」




「へへへ、わかったぜ、久し振りに腕がなるぜ」




ルードヴィッヒは、下卑た笑みを浮かべた後、

取り上げられていた武器を受け取った。



本選の1回戦が進む中、とうとう京太の順番が回ってくる。




闘技場はすでに盛り上がっていた。


その中で、名前が呼ばれる。




「1回戦第5試合、東から登場するのは、闇ギルドの殺人鬼、ルードヴィッヒ」




出場者のコールに、歓声が一際大きくなった。




「続いては、アトラ王国からの出場者、京太」




歓声が響く中、京太は手を上げて応える。



その瞬間、開始の合図を待たずにルードヴィッヒは襲い掛かった。




手に持っていた長剣を横に構え、両断するように振り抜く。


京太は慌てて距離を取った。




――ビックリしたぁ・・・・・




京太は相手に抗議をする。




「まだ、開始の合図を聞いていないよ!」




ルードヴィッヒは何も答えない。


それどころか、笑いながら再び襲い掛かってきた。


だが、京太は完全に見切り、ギリギリで躱す。




「へへへ、貴様を殺せば、俺は自由になれるんだ」




ルードヴィッヒは魔法を使い、長剣に炎を纏わせた。




「貴様は、これで終わりだ!」




京太が、紙一重で避けると考え、

ルードヴィッヒは、届かない距離で剣を振るう。



すると、剣に纏っていた炎が、京太に向って走る。




だが、京太の姿は、そこには無かった。




「何!?」




ルードヴィッヒは慌てて京太を探した。


しかし、何処にも見当たらない。


そう思った時、背中に剣を突きつけられている事に気付く。




「動くと切れますよ」




「いつの間に・・・・・」




「降参して下さい」




京太との力の差を感じ、ルードヴィッヒは黙って頷く。




「わかって頂けて良かったです」




京太は、剣を背中から離した。



すると、ルードヴィッヒは振り返ると同時に

躊躇わず、京太に切り掛かった。




「死ねぇぇぇぇぇ!」




襲い掛かるルードヴィッヒの剣を躱すと、

京太は、両腕を切り飛ばした。




「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」




剣を握ったままの両腕が、地面に転がる。




「貴方が、誰の命令を受けたかは分かります。


 なので、そいつ等に伝えて下さい。


 この先は容赦しないと」




京太は、それだけ伝えて闘技場から去った。


試合の後、ルードヴィッヒは担架で運ばれるが

その途中で、男とすれ違う。




「も、申し訳ありません」




ルードヴィッヒは謝罪を口にしたが、男は蔑んだ目を向けた。




「役立たずが・・・・・」




男は、それだけ伝えると姿を消した。




2回戦が始まると、京太の対戦相手も決まる。


今度の相手は、【ロンギヌス】という男だった。




――こいつも、ルドガー タガート王の手の者だろうな・・・・・




試合の時間になり、京太が闘技場に姿を現すと、

そこには、3メートルはありそうな男が長槍を携えて、待ち構えていた。




「貴様に恨みはない。


 だが、これも仕方のない事」




ロンギヌスは、長槍を構える。




『開始!』




その声と同時に、長槍を頭上で回転させ始めた。




「いくぞ!」




ロンギヌスが声を掛けたが、既に京太の姿は、そこには無かった。




「何!?」




慌てて周囲を見渡した瞬間、ロンギヌスの片足が無くなる。



体制を崩し、地面に倒れ込んだロンギヌスの首に剣が突き付けられた。




「声に出して、降参と告げて下さい」




ロンギヌスは、素直に降参を口にする。


その様子を見ていた男は、ため息を吐く。




「やはり、私がやるしかないか・・・・・」




影から、ルードヴィッヒとロンギヌスに命令をしていた、

武装国家ハーグ、騎士団長【ゲイル カフカ】は、

闘技場に立つ、京太を見ながら呟いた。




間もなく準決勝は、始まり

闘技場に立ちつ京太の前に、ゲイル カフカは姿を現す。




「あの時の陛下に対する無礼、忘れてはいないぞ。


 この場で貴様に罰を与える」




ゲイル カフカの言葉に、京太も答える。




「人の妻を奪い取ろうとする変質者に、無礼も何もないでしょ」




「貴様・・・・・余程、命が要らないらしいな・・・・・」




ゲイル カフカは、剣を抜き構えた。


同じく、京太も構える。




『開始!』




合図と共に歓声が響く。


だが、ゲイル カフカは、距離を保ったまま攻めて来ない。




――結構、慎重なのかな・・・・・




そう思った時、何者かが近づく気配を感じた。



京太は、回避行動をとるが、

服には幾つかの切られた跡が残っていた。




――魔法?・・・・・・それとも・・・・・・




京太の思考を巡らせている様子に、

ゲイル カフカが笑みを浮かべる。




――貴様には、分かるまい・・・・・




再び京太は、何かが迫る気配を感じた為、

その場を離れようとした。



だが、先程とは何かが違う。



――んっ、違う気配・・・・・




京太は、ある事に気が付く。



それを確かめる為に、京太は敢えて立ち止まった。




「覚悟を決めたか」




ゲイル カフカは、静かに命令を下す。




「殺せ」




見えない気配達は、一斉に京太に襲い掛かる。




――【戦争の神モンチュ】力を・・・・・・




京太の周りにオーラが現れ、全身を包み込む。



そして、気配が近づいた瞬間、京太はオーラを解き放った。



解き放たれたオーラに押され、

見えなかった者達の魔法が解け、姿が露となる。




「やはり、思った通りですね」




闘技場には、京太とゲイル カフカの他に3人の男が姿を現した。


ゲイル カフカは、見えなくなる魔法『インビシブル』の使い手に

京太を攻撃させていたのだ。



だが、魔法が解けた事で、全てが露見し。

観客からは抗議の声が響く。



ゲイル カフカは、降り注ぐ罵声に耐え切れなくなり、

思わず叫ぶ。




「黙れ!黙れ!黙れ!


 俺は、騎士団長だぞ、黙って見ていろ!」




ゲイル カフカの声は、罵声に消える。



そんな中でも、懲りないゲイル カフカは3人に命令を下す。




「お前達、何をしている、とっとと殺せ!」




騎士団長ゲイル カフカの醜態に、

武装国家ハーグの記念大会は、違う意味で記念大会となった。



ルドガー タガート王は、あまりの醜態に、

歯を食いしばり、拳を握りしめたまま、

ゲイル カフカを睨み付ける。




――絶対に許さん・・・・・




そんなルドガー タガート王の気持ちを無視して、

ゲイル カフカは、恥の上塗りとも言えるべき行動は続く。




「早く、奴を殺せ!」




その言葉に、動きを止めていた3人は、京太に襲い掛かる。


だが、遠慮をしなくなった京太に勝てる筈も無く、

3人の男は身体を真っ二つにされた。




「もう、貴方しか残って残っていませんよ」




「くっ・・・・・」




唇を噛み締めながら、剣を構え直す。




「き、貴様など、私一人で十分だ・・・・・・」




先程の光景が、目に焼き付いているのか、

足が『ガタガタ』と震えているゲイル カフカ。




中々一歩を踏み出せないゲイル カフカの元に京太が近づく。




全身が震え出したゲイル カフカの醜態に

観衆からは、先程以上の罵声と怒号が飛び交う。




「引っ込め!」




「恥さらし!」




「とっとと殺されろ!」




その雰囲気と恐怖に完全に飲み込まれたゲイル カフカは、

叫び声をあげながら京太に突進した。




「う、うわぁぁぁぁぁ!」




隙だらけの攻撃を、京太は完全に見切り、剣を振り上げる。


そして、ゲイル カフカの攻撃を躱すと、

京太は、剣を振り下ろした。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」




ゲイル カフカは、武器と両腕を失った。

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