第84話ルドガー タガート王の不満

武装国家ハーグ迄の道のりは長く、馬車で約2ヵ月程かかる。


それに、この度は、記念大会の招待と言う事もあり、

色々な国の者達が集まる事が予想できた。


その為、ナイトハルトとフィオナに同行する者達の数も多い。


兵士達だけで30人、ナイトハルトとフィオナの専属メイドが4人、

その他、食事の準備などで10人のメイドが同行していた。




――凄い数だな・・・・・




京太は、イライザと共にナイトハルトとフィオナの馬車に乗っている。




1ヵ月が過ぎた頃、近くに村も無く、

食料の調達が思った以上に困難な状態に陥った。



その報告を聞いた京太は、仲間に相談をする。




「近くの村での食料の買い付けが、思った以上に出来なかったみたいなんだ」




その言葉を聞き、ラムが答える。




「なら、狩りに行こうよ、毎日馬車の中だと退屈だよ!」




その意見に賛同するように、仲間達も京太を見た。




「でも、全員が離れるわけにはいかないわよ」




サリーの言葉に、顔を見合わせる。




「でしたら、こうしましょう、半分が部隊から離れ、先行して狩りをする。


 残りの半分が部隊に残りましょう」




ミーシャの意見に全員が賛成したが、誰が狩りに行くかで揉め始めた。




「そんなの交代でいいでしょ!」




サリーの一喝で、騒いでいたラム達は大人しくなった。


翌日からは、狩り班と護衛班の2組に分かれて行動を開始する。



大人しく旅をしていた反動なのか、狩り班はいつも以上に張り切り

いつも以上の速度で、魔物を狩る。



そのおかげで、食料問題も解決し、兵士達も満足に食事を摂る事が出来た。



それから数十日後、目的の武装国家ハーグに到着する。




京太達は、王城から渡されていた正装に着替え、

ナイトハルトとフィオナの護衛として

国王、【ルドガー タガート】との謁見へと向かった。




王城では、既に大勢の貴族や、他国の招待客が集まっており、

歓迎パーティーが始まっていた。



会場には、絢爛煌びやかな装飾が施されており

豪華な料理が並んでいる。



その光景を黙って見ていない者達がいた。



「主、お腹が空きました」




「エクス、もう少し待って」




「・・・・・はい、我慢します」




エクスは、お腹を押さえて、寂しそうな顔をする。




「京太様、謁見と言いましても挨拶だけですから、離れても構いませんわ」




フィオナの言葉に、エクスは京太を上目使いで見る。




「主・・・・・・」




「わかったよ、行っておいで」




「はい!主はとても優しいです」




エクスは、ドレスの裾を掴んで、料理が並んでいるテーブルに小走りで向かう。




「ちょっと、待って!」




クオンが慌ててエクスを追った。


その姿を見て、溜息を吐く京太は

仕方なく、皆にも自由にしていいと告げた。



すると、我慢していたのか、次々と料理卓へと皆が向かう。


その結果、残ったのは、イライザ、サリー、ミーシャだけだった。




「行きましょう」




ナイトハルトとフィオナに同行し、ルドガー タガート王の前に立つ。




王の前に参列すると、ナイトハルトが両国を代表して、挨拶をする。




「この度は、お招きいただき感謝致します」




「貴殿は、アトラ王国のナイトハルト王子だったな、では、隣がフィオナ王女か?」




「はい、アトラ王国とアクセル王国を代表して、私たちが、ご挨拶に伺いました」




両名の挨拶を受けたルドガー タガート王は、満足そうに頷く。




「ところで、王女のイライザ殿は、元気か?」




その言葉に、後ろに控えていたイライザが、ナイトハルトの横に並んだ。




「御無沙汰しております、ルドガー タガート陛下」




所作美しく挨拶をする。




イライザの姿と挨拶に、ルドガー タガート王は笑顔で話し掛ける。




「おお!其方も来ておったのか、なんだ、貴殿も人が悪い。


 今日は、明日からの大会の前祝いの席だ、存分に楽しんでくれ、

 それから、我が息子のカルロスにも挨拶をさせよう」




ルドガー タガート王の提案に、イライザは断りを入れた。




「陛下、申し訳御座いません。


 私は既に妻となった身ですので、お誘いは、お断りさせて頂きます」




「なんと!」




ルドガー タガート王は、驚きを顔に出す。




「それは知らなかったが、いつの事なのだ!」





「はい、もうすぐ1年になります」




「それで、何処の国の者と結婚されたのだ?」




ルドガー タガート王は、ナイトハルトとフィオナの事を気にも留めず 、

イライザを質問攻めにする。




質問に答える為に、イライザは京太の横に立った。




「こちらが私の夫で、シャトの街の領主、京太様で御座います」




京太も挨拶をする。




「陛下、お初にお目に掛かります、京太と申します」




「其方がイライザ王女の婿か、

 しかし、この様な席では、きちんと名を告げるものだぞ」




ルドガー タガート王は、京太を睨み付けて戒める。




「陛下、申し訳御座いません。


 僕には、京太以外の名前は御座いません」




「では、其方は、貴族では無いのか?」




「はい」




その言葉を聞き、ルドガー タガート王は『ニヤリ』と笑う。




「ならば貴様は、貴族でもないのにこの宴に迷い込んだのだな」




「え!?」




「この宴は、貴族と我が国に招待された者だけの席だ。


 貴様の様な平民が顔を出すところではない!」




その言葉に、ナイトハルトが反論する。




「京太殿は、我が国の民、貴国にどうこうする言われは無い筈です」




「確かにそうだが、ここは我が国、我が国の法に従のが流儀であろう」




「確かにそうですが、京太殿は私達の護衛です。


 出て行けというなら、私達も退散致しましょう」




ナイトハルトは、皆より一歩前に出て、身体を張る。




「流石、アトラ王国の次期、王ですな、

 しかし、これは貴国だけの問題に留まらず、

 アクセル王国にも、関係のある問題ですぞ!」




その言葉に、ナイトハルトはたじろぐ。




「では、どうしろと」




ルドガー タガート王は、笑みで答える。




「簡単な事だ、そこの平民を捨てて、

 我が息子とイライザ王女との縁談を

 前向きに考えてくれれば良いのだ」




その言葉に、我慢の限界を迎えたナイトハルトは激怒する。




「そんな話、受け入れる事が出来るはずが無い!


 この国では、その様な傍若無人な行いが、まかり通るのか!?」




その声は、会場に響き渡った。


周りの視線が集まる中、怒り心頭のナイトハルトは、

ルドガー タガート王に背を向ける。




「話になりません!」




ナイトハルトが踵を返して歩き出すと、

フィオナも出入口その後に続いた。


しかし、扉の所で、兵士が槍を向けて2人を制止する。




「これは、何の真似ですか!」




振り返ったナイトハルトは、ルドガー タガート王を睨み付ける。




「この祝いの席で、勝手な振る舞いをして、

 無事に帰れるはずが無かろう」




その言葉と同時に、周囲に控えていた兵士が武器を構える。


流石に、この状況に、会場に集まっていた者達も、

静かに事の成り行きを見守っていた。


兵士達は武器を構えたまま、ナイトハルト達に近づこうと一歩踏み出す。


その時、食事をしていた筈の京太の仲間達が周囲に散り、

兵士達を次々と倒した。




ルドガー タガート王は、一瞬にしてハーグの精鋭の兵士達が制圧された事に、

言葉を失っている。


京太は、ルドガー タガート王と向き合う。




「ルドガー タガート王、提案があります。


 この度の大会に、僕の参加を認めていただけませんか?」


 


京太は、ルドガー タガート王を陛下と呼ばず、挑発をする。




「貴様・・・・・平民の分際で・・・・・」




ルドガー タガート王は、今にも京太を殺しそうな目で睨みつけている。




「わかった、貴様の参加を認めよう。


 だが、試合中に死んでも事故だという事を忘れるなよ」




そう言い放つと席を立ち、会場から姿を消した。




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