第88話武装国家ハーグの策略

決勝が始まる数時間前、ルドガー タガート王は、インガム タガートから、

京太の仲間を誘拐する為に、襲撃をかけたが、失敗した事を受ける。




「父上、申し訳ございません」




報告を受けたルドガー タガート王は、インガム タガートを睨み付けた。




「貴様は、何をという事をしてくれたのだ!


 この事が、両国の王に伝わればどうなるのか、わかっているのか!」




事の重大さをあまり理解できていないインガム タガートは、

心の中で悪態ををついていた。




――私が悪い訳じゃない、父上が動かないからこうなったのだ・・・・・・




そんな事を思いながら、ルドガー タガート王の話を聞き流す。




30分程経った頃、扉を叩き、兵士が入って来た。




「失礼致します、そろそろ決勝の始まる時間ですが、如何なさいますか?」




「そうだったな、今、行こう」




ルドガー タガート王は、席を立ち、部屋を出る。


残されたインガム タガートは、苛立ちを隠さず、

テーブルの上にあったティーカップを壁に投げつけた。




「この私は、間違ってなどいない・・・・・

 父上も父上だ、あんな弱小国家など潰せば良いのだ」




誰も居ない部屋で、インガム タガートは呟いていた。




その頃、ルドガー タガート王は、闘技場に到着していた。


それから間もなく、王家専用の観戦室に姿を現したが、

国民から大歓声で迎えられることは無かった。



今迄であれば、間違いなく、大歓声で迎えられていたが、

前回の騎士団長の失態に続き、

昨日の新しい騎士団長の大敗で、国民の王家に対する信用は地に落ちていた。




さすがのルドガー タガート王も精神的に来るものがあり、

椅子に腰を掛けると、肩を落とす。




――どうして、こうなったのだ・・・・・・




項垂れ、闘技場を見ていると、京太の姿が目に入る。




――あいつだ、アイツのせいで・・・・・・




逆恨みでしかなかったが、ルドガー タガート王は、責任を京太に押し付けた。




――このまま無事に帰れると思うなよ・・・・・・




拳を握りしめ、京太への復讐を誓う。




決勝戦は、京太と【マルコ】という白狼族の男だった。




「貴様が、京太という人族だな」




「そうですけど・・・・・どうかしましたか?」




「貴様には賞金が掛っている、恨みは無いが覚悟してくれ」




マルコは、両手に鍵爪を装着した。




『始め!』




合図と共に、マルコは身体能力を生かし、接近戦を仕掛ける。


しかし、京太は完全に見切り、紙一重で躱す。




――この人族、我の攻撃を躱すとは・・・・・




マルコは、次々に攻撃を仕掛けるが、その全てを京太は躱した。




「降参しませんか?」




突然の提案に、マルコは驚き、動きを止めて聞き返す。




「お前は、何のつもりだ?」




「これ以上繰り返しても 僕には当たりません。


 降参して下さい」




京太の提案に、マルコは首を横に振る。




「たとえこの命尽き果てようとも最後まで戦う」




マルコは再び構えた。


その意気込みに答えて京太は、攻撃を繰り出す。




マルコが、接近しようとした瞬間に京太が接近し、

その勢いのまま鳩尾に掌底を突き刺した。




「ぐはっ!」




身体が『くの字』に曲がり、肋の1部を砕いて、吹き飛ばす。



その勢いは収まらず、闘技場の壁に衝突するマルコ。




場内は静寂に包まれた後、審判の声が響く。




「勝者、京太!」




勝者の宣言と共に、大歓声が起こった。


歓声に応えるように手を振る京太の前に、宰相のコーリー バッシュが姿を現す。




闘技場の真ん中で、コーリー バッシュは優勝者を称える言葉と賞金を

京太に渡す。


その時、コーリー バッシュは、京太の耳元でひっそりと告げる。




「気を付けて下さい、ルドガー王が貴方を狙っています」




それだけ伝えると、何事も無かった様に、その場から去った。




――今のは・・・・・忠告?・・・




大会終了後、京太は仲間と合流して宿へと戻る。


宿に戻った仲間達は、

祝勝会開き、京太の優勝を祝った。




翌日、ナイトハルトとフィオナは、王城に向かう。


当然、護衛として京太も同行している。



謁見の間でルドガー タガート王と面会すると、

招待いただいて御礼と、帰宅の途につく事を伝えた。




「そうか、国に戻るのだな、この度は色々と迷惑を掛けた。


 だが、イライザ王女の事は、諦めた訳では無いぞ」




ルドガー タガート王は、京太を睨み付けた。




――このおっさん・・・・・懲りないな・・・・・




挨拶を終え、宿に戻ると、出発の準備は整っていた。


そのおかげで、アトラ王国の馬車は、直ぐに武装国家ハーグの王都を出発した。




だが、王都から離れ、森に差し掛かった所で、

襲撃を受ける。



突如、両側から矢が雨の様に降り注いだのだ。



護衛をしていた兵士は、声を上げる。




「敵襲!敵襲!」




その声を聞き、馬車を停止させたが、

既に、矢は放たれている。



しかし、馬車や兵士に、矢が突き刺さると思われた時、

何かが弾き飛ばす。




「皆、馬車の傍から離れないで!」




急いで張った京太の結界が間に合い、

兵士や馬車に矢が刺さる事は無かったのだ。


矢での攻撃が止まると、

森の中から盗賊が姿を現し、一斉に襲いかかって来る。




「お兄ちゃん、行って来るね」




クオンが、買い物でも行くようなノリで盗賊狩りに向かう。


そして、当然の様にエクスも後に続く。




2人が、結界の外に飛び出すと、

他の仲間達もいつものメンバー同士で、結界の外に飛び出した。


全員が飛び出した後、京太は馬車に近づく黒い影に気付く。




――新手?・・・・・・




京太は、ゆっくりと結界を抜けた。


すると、黒装束の男達が、一斉に京太に襲い掛かった。




――もしかして、狙いは僕?・・・・・




そう思った時、宰相、コーリー バッシュの言葉を思い出した。




『気を付けて下さい、ルドガー王が貴方を狙っています』




――なら、この集団は、盗賊じゃないかも・・・・・・




同時に襲い掛かる黒装束達に、京太は魔法を放つ。




「ダークプレス」




周囲に発動した重力魔法により、黒装束達は地面に囚われた。




「貴方達は、ハーグの方達ですね」




「・・・・・・」




誰も答えようとはしない。


その為、重力を強める。




すると黙ったままだった黒装束達から声が漏れた。




「ぐぁぁぁ!」




「がぁぁぁぁぁ!」




叫びを上げる黒装束達に再び問う。




「教えてくれますよね、貴方達は、ハーグの方ですね」




段々強まる重力に耐え切れず、黒装束の1人が話し掛けて来た。




「た、頼む、止めてくれ」




「話してくれますね」




「わかっ、わかった、何でも答えるから、止めてくれ」




京太は、魔法を解除する。



すると、黒装束の数人が京太に飛び掛かった。




「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




襲い掛かる黒装束達だったが、先に距離を詰めた京太に切り倒される。


京太は、命乞いをした黒装束の前に立つ。




「顔を見せて下さい」




黒装束は黙って従い、覆面を取る。




「では、名前と襲った理由を教えて下さい」




「はい、私は武装国家ハーグの・・・・・・・・」




そこまで言うと、男の背中に苦無が刺さり、倒れた。




「えっ!」




京太は、他の黒装束達を見るが、誰も目を合わせようとしない。




「話すとは、思っていないから安心して下さい」




京太は、そう告げると再び『ダークプレス』を使った。




「フグッ!」




「グハァッ!」




内臓が潰れ、血を吐く者、鈍い音と共に、頭蓋骨がわれる者など様々だったが、


最終的には、全員が命を落とした。




京太が、魔法を解除し、森の中を見ていると、

仲間達の戻って来る姿を見つけた。




「お帰り」




「ただいま、こっちは全員片付けたわよ」




ソニアが戻って来ると、反対側の森からクオンとエクスも戻って来ていた。




「2人共、お疲れ様」




「お兄ちゃん、ただいま!」




クオンが、元気よく挨拶をすると、横からミーシャが話しかけた。




「京太さん、奴らは、盗賊ではないと思います。


 どちらかと言うと、訓練された兵の様に思えました」




ミーシャの発言に、セリカも同意する。




「こちらも同じ様に感じました」




2人の意見を聞いた京太は、付け加えた。




「この辺りに倒れている黒装束の者達も、ハーグからの刺客だったみたいだよ」




「主様、これからどうするのだ?」




「うん、取り敢えず2人に相談するよ」




そう伝えると、京太は、ナイトハルトとフィオナの乗る馬車へと向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る