第82話雇用

ライナスの街を出てから約3ヵ月後、

京太達は、アクセル王国のシラスの街に到着した。



ラムは、身体を伸ばして声を上げる。




「やっと着いたぁー!」




京太達は、旅の間、魔獣を狩ったり、戦闘の練習などをしながら進んだ為

予定以上の時間が掛ってしまっており、少し疲れ気味になっていた。



「お風呂入りたぁーーーい」



声を上げるラム。


その声を、誰も咎めはしない。


何故なら、皆が同じ思いだからだ。



しかし、その前にやることがある。


その為に、その足で、エリノア王妃の住む屋敷へと向かった。



屋敷に到着すると、警備兵に声を掛ける。




「京太と申します。


 エリノア王妃に面会をお願いしたいのですが?」




兵士は、京太の名前を知っていた。




「京太様ですね、暫くお待ちください」




警備兵は、屋敷の中に入って行く。


暫く待っていると、厳つい執事を連れたマリアベルが現れた。




「京太様、お久しぶりです。


 どうぞ、ご案内いたしますわ」




マリアベルの案内に従い、応接室へと入る。



執事の男2人は、足りないテーブルや椅子を軽々と運び入れて、

全員が座れるように準備をした。




「お前達、頑張っているようですね」




ミーシャの労いの言葉に、2人は笑顔で頷く。



その様子を見ていたマリアベルはミーシャに告げる。



「ミーシャ様、あの者達は私の従者です。


 取らないで下さいね」




「そんな事はしません」




「なら、良いのですが・・・・・

 最近、お母様が1人貸せって、五月蠅いのよ!」




「そんなに、人気あるんだ」




「ええ、力も強いし、教えた事を覚えるのも早いし、優しいし、気が利くのよ」




マリアベルは、自慢するように答えた後、訪問の理由を聞いた。




「ところで、今回は、何の用事かしら?」




「それなんだけど・・・・・・」




京太は、シャトの街の屋敷で働くメイドの事を話した。




「そうなのね」




「うん、それで、この街に親のいない子が沢山いる事を思い出して

 もし、良かったら僕の街で働かないかと誘いに来たんだ」




「確かに、この街には親のいない子は多いわ。


 私達も、出来るだけ仕事を与えようとしているけど、

 全員に与えられていないのが現状なのよ」




「それなら、子供達に聞いてもいいかな?」




「ええ、構わないわ、但し、この屋敷で働いている子は駄目よ。


 せっかく覚えたのに、また1からなんて嫌だもの」



 

「分かっているよ。

 

でも、子供達のいる所に、案内は頼んでもいいよね」




「それは構わないわ」




マリアベルはそう言うと、手を叩く。




「お嬢様、お呼びですか?」




部屋に顔を出した執事に指示を出す。




「エルを呼んで頂戴」




執事は一礼し、扉を閉めると、エルを呼びに行く。


その間に、京太は、ふと思い出したように聞く。



「ところで、エリノア王妃は?」




「お母様なら、王都よ。


 お父様の執務の手伝いに行っているわ」




「なら、この街は、マリアベルが見ているの?」




「そうよ、最近、お母様は殆んど王都にいるわ。


 だから、この街の執務などは、私がやっているの」




マリアベルの優秀さに、京太は感心した。



その時、扉が叩かれ、部屋の中にエルが入って来た。




「お嬢様、何か御用でしょうか?」




「ええ、街の子供達の所に、京太様を案内して欲しいの」




「畏まりました」




エルは、マリアベルにお辞儀をすると、京太の方を向く。




「京太様、ご案内致します」




「うん、宜しく頼むよ」




京太は、マリアベルにお礼を言った後、エルと共に屋敷を出て行った。



エルの案内に従い、街の中を歩く。



暫く歩き、街の外れまで来ると、

壊れた建物で暮らす子供達の姿があった。




「私達は京太様のお蔭で、仕事と住む場所を見つけました。


 でも、あの時に手を上げなかったこの子達は、たまにしか仕事がありません」




「マリアベルから聞いたよ、中々、仕事が与えられないってね」




「はい、お嬢様はとても頑張っておられます。

 ですが、仕事が無いので・・・」




京太は、エルの落ち込んだ顔を見ながら伝える。




「今回は、僕の屋敷で働くメイドを探しに来たんだ」




「えっ!」




「うん、この街を離れても構わないという子を連れて行くよ。


 それで、エルにお願いなんだけど、女の子5人を推薦してくれるかな?」




エルは、その言葉に笑顔で頷く。




「わかりました、任せて下さい!」




エルは、子供達に、この街を離れて仕事をする事と京太の事を説明する。


そして、選んだ5人を京太の前に連れて来た。




「京太様、この子達で如何でしょうか?」




「うん、そうだね」




京太は、1人ずつ名前を訪ねる。




「自己紹介してくれる?」




「【ビアンカ】です、お願いします」




「【フレデリカ】7歳です、お願いします」




「【ナナリー】です、お願いします。


 えと・・・・8歳です!」




「【デボラ】8歳です。お願いします」




「【ステイシー】6歳だよ、がんばる!」




ステイシーの挨拶に、慌ててビアンカが近づき、耳打ちをする。




「ステイシー、『お願いします』を忘れているわよ」




ステイシーは、もう一度挨拶をする。




「ステイシー6歳だ・・・です、お願いします」




京太は、思わず笑顔で答えた。




「うん、上手く出来たよ」




エルは、慌てて京太に近寄った。




「京太様、ビアンカとステイシーは、

 その・・・・・姉妹ですので・・・・・」




申し訳無さそうにするエル。




「問題無いよ、後は本人の頑張り次第だから」




「有難う御座います」




京太は、エルと5人の子供を連れて、屋敷へと戻る。




「エル、悪いけどマリアベルを呼んで貰えるかな」




「はい」




エルは屋敷に入ると、マリアベルを呼んで来た。




「京太様、お呼びですか?」




京太がお礼を言う。




「うん、この子達を連れて行くよ。


 色々と有難う」




「そう、良かったわ、これでこの子達も仕事が出来るのね」




マリアベルが、安心したような顔をした。




「それで、何かお礼をしたいのだけど、何がいいかな?」




「なら、お肉を置いていってくれるかしら。


 京太様の事だから、沢山持っているのでしょ。


 ここは、子供達が多いから、大変なのよ」




「わかった、どの位いるの?


 血抜きをしてなくていいなら、ここに来る途中に狩ったから、沢山あるよ」




「任せるわ、幾らあっても困らないから」




京太は、その言葉を聞き、

アイテムボックスから30頭の色々な魔獣や獣を取り出した。




「これだけあればいいかな、でも、腐らない?」




「大丈夫です、私は水の魔法が使えますから、屋敷の地下に放り込んでおきます」




「なら、後は任せるよ」




「はい、お任せください」




京太は、もう一度、マリアベルと挨拶を交わすと、

シラスの街を出て王都へと向かった。




シラスの街を出ると、ソニアが話し出す。




「京太って、お肉屋みたいだね」




「なんで?」




「お土産も、殆んど肉だし、頼まれるのも肉でしょ」




ソニアに言われて考えて見ると、確かに肉ばかりだった。




「ホントだね、でも、皆が一番喜ぶから仕方ないよ」




「確かにその通りだわ」




話を聞いていた皆も頷いていた。




王都に到着すると、京太は馬車で市場向かう。


市場に到着すると、皆にお金を渡す。




「これで、好きな物を買っていいよ。


 それと、こっちのお金で、この子達の衣類や必要な物を買ってあげてよ」




そう言って、子供達用のお金をサリーに渡す。




「サリー、頼むね」




「はい、お任せください」




皆が、馬車を降りて買い物に向かった後、

京太は、アルゴ商会に頼まれたのもを購入して回る。




買い物を終えた頃には、既に夕方になっていた。



その為、急いで馬車に戻ると、仲間達も戻っていた。




「ごめん、遅くなった」




京太の謝罪に、ラムが返事をする。




「ううん、私達もついさっき戻った所だから、気にしないで」




「そっか、なら出発しよう」




全員が馬車に乗り込むと、アトラ王国のシャトの街を目指した。


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