第81話結末

京太達が、馬車の近くに集まっていると、スナの村の村長が屋敷から出て来た。




「あの・・・・・」




声を掛けて来た村長の方に、京太は振り向くと、言い放った。




「貴方は、自分の育った村を捨てたのです。


 二度と戻れなくなった事を他の方々にも伝えて下さい」




それだけ伝えると、京太は馬車に乗り込み、その場から去ってゆく。



残された村長は、愕然とし、

今更ながら自分の仕出かした事の大きさを思い知るのだった。




「わたしは・・・・・・」




膝から崩れ落ち、項垂れる村長を助ける者は誰もいない。


何故なら、この事実は、既に生き延びた者たちの間に広まっていたからだ。




屋敷を後にした京太達は、門を出たところで馬車を止める。




「皆、降りて」




京太の指示に従い、馬車を降りた。




「ここで、陣を張ってこの街から誰も出さないで欲しい」




「どういう事なの?」




「もしかしたら、領主が兵を向かわせるかも知れないし、

 この前みたいに黒装束みたいな者達を送り込むかもしれない。


 だから、誰も通さないで欲しい」




「わかりました」




「それから、ラゴがアトラ王の兵を連れてきたら、一緒に討伐をお願い」




「京太は?」




「今回の結果を伝える為に、イワの村に行って来るよ」




そう言うと、空に上がり、イワの村に向けて飛び立った。


京太が飛び立った後、仲間達は馬車を横に置き、入り口の前に立つ。


先程の騒ぎもあり、ソニア達を見つけた兵達は、

襲い掛かろうと近づいて来た。




「ねぇ、沢山来るよ」




「クオン、戦闘態勢よ」




「はい、準備は出来ています」




向かって来る兵士達に対して、全員が武器を構えて待ち受ける。




「向かって来る者に対して、遠慮はしません。


 命が惜しければ戻りなさい!」




ミーシャの警告に、兵達は怯まず、武器を構えて突撃を敢行する。


だが、門を抜けた途端に、兵士達は切り刻まれた。




その様子に、攻め込もうとしていた兵士達は、二の足を踏む。




「遠慮なく、かかっておいでよ」




フーカが挑発するも、兵士達は恐れが先行して、足が動かない。




「あれ、誰も来ないね」




そう思っていると、街と反対側の遠方に兵士の大群が見えた。



街の兵士達は、その姿に喜びの声を上げる。




「援軍だ!援軍が来たぞ!」



その報告は、クレイン ツベスの屋敷にも届く。




「旦那様、援軍が来たとの報告が入っております」




「なんと!」




驚くクレイン ツベスだったが、何故この時に援軍などが来たのかが疑問に思えた。


しかし、上手く接触出来れば、味方に付けれると思い、急いで門に向かおうと

屋敷を飛び出そうとした時、息子のクラーク ツベスが声を掛けてきた。




「父上、私も同行いたします」




「そうか」




クレイン ツベスは、息子と共に門へと急ぐ。



2人が到着した時、援軍と思わしき兵団も辿り着くところだった。


兵団の代表者は、マルセル アーロン。




マルセル アーロンは、門の手前で右手を上げ、兵団を止める。


すると、丁度、京太の仲間達を挟み撃ちにする恰好になった。




それを見て、クラーク ツベスは大声を上げ、笑いながら叫ぶ。




「あははは、これで、貴様らも終りだ。


 俺に逆らった事を後悔しながら死ね!」




クラーク ツベスは、腰に携えていた剣を抜き、命令する。




「この者達を、討ち取れ!」



大声で叫ぶが、誰一人として

動こうとはしなかった。




「おい・・・・・俺様の命令を聞け!」




自軍の兵士達にも告げるが、その兵士達は槍を構えているだけで、

誰も進んで前に出ようとしない。




すると、マルセル アーロンの兵団の中を1台の馬車が駆け抜ける。


馬車は、京太の仲間達の前で止まると、

マルセル アーロンが扉を開け、手を差し伸べる。


マルセル アーロンの差し出した手を取り、降りて来たのはラゴだった。




「ラゴ!」




「お主達、待たせようだが、タイミングは良かったみたいじゃな」




ラゴは、マルセル アーロンを従え、ゆっくりと仲間達に近づく。




「主様の命で、アトラ王から兵を借りて来たのじゃ、


 それと、この領地を治める貴族も連れて来たぞ」




ラゴが指示を出すと、馬車からもう1人が降りて来る。


その姿を見て一番驚いたのは、イライザだった。




「【ライナス】!」




降りて来たのは、第3王子の【ライナス アトラ】だった。




「姉上、お久しぶりで御座います」




「貴方、此処に来た意味、分かっているの?」




「勿論です、私が、この地の領主になります。


 そして、今後は亜人達も我が国の民として、生活して貰おうと思っています」




自分の考えを自信に満ちた表情で語るライナスは、

齢13歳の少年には思えなかった。




ライナス アトラには、誰にも話していない夢がある。



それは、『亜人の友達が欲しい』そして『尻尾を触りたい』という

少々、人に話しずらい夢だったが

この件が報告された事で、夢が叶う可能性が出て来たのだ。


その為、迷わずこの地の領主になる事に立候補し、

この地に来たのだ。




そんな事を知らないイライザは、再度ライナスに尋ねる。




「貴方、この地の領主になるという事は、

 父上や母上と離れて暮らすことになるのですよ」




「姉上、ご心配は要りません。


 私は1人ではなく、沢山の従者も連れて来ましたので寂しくはありません」




「・・・・・わかったわ、困ったら相談するのよ」




「はい!有難う御座います」




ライナス アトラは、笑顔で返事をすると、マルセル アーロンに伝える。




「マルセルさん、お願いしていいかな?」




「はい、お任せください」




マルセル アーロンは、領主クレイン ツベスに近付き、

アトラ王から命令書を読み上げた。




『クラーク ツベス、貴殿を民に対する不当な扱い、

 暴力、拉致、強姦、殺害の罪により拘束する。


 次に、領主クレイン ツベス、貴殿においても、

 この地を混乱に陥れた罰として

 爵位剥奪、屋敷並びに全財産の没収を言い渡す』




「クレイン ツベス殿、申し訳無いが、一度、拘束させてもらう。


 両名を捕らえよ!」




マルセル アーロンの命令で兵士達が2人を拘束にかかる。


しかし、大人しく従ったクレイン ツベスと違い

息子のクラーク ツベスは兵士達に向かって剣を振りかざす。



捕らえにかかった兵士達だが、一旦距離をとった。





「クラーク、止めるんだ!」




父親であるクレイン ツベスは必死に叫ぶが

その声も届かず、クラーク ツベスは、剣を構えたままだ。




「仕方ないなぁ・・・」




フーカは、そう言うと空に飛び上がり、上空から矢を放つ。




その矢は見事にクラーク ツベスの太腿を貫いた。




「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」




剣を手離し、貫かれた太腿を抑えながら、

暴れるクラーク ツベスは、兵達により捕縛された。




その後、ライナス アトラは、屋敷の全財産を没収した後、

クレイン ツベスの家族に事のあらましを話し、この地より放逐した。




数日後、ひと段落したツベスの街では、今回の騒動が噂として広まり、

領民の間でも話題になった。


同時に、新しい領主にライナス アトラが就任した事が伝えられると、

王家の子息が、領主になった事に領民達は喜んだ。


その翌日、京太が3人の亜人族の族長と護衛の亜人族を引き連れて

ツベスの街に戻って来た。


京太は、3人の族長を屋敷へと案内をし、

ライナス アトラとの面会することとなった。




「私が、ここの領主になったライナス アトラです」




ライナス アトラは、壇上にある椅子に座らず、立ったまま挨拶をする。




「この度は、ご拝謁をお許し頂き、有難う御座います。


 私は、狼人族、族長のヴィクトルと申します。


 それから、犬人族族長のイサクと虎人族族長のアルヴァンで御座います」




「ヴィクトル、イサク、アルヴァン、よく来てくれました。


 この度の件、私としては、申し訳なく思っています。


 それで、あなた達の希望を聞かせて下さい」




率直な物言いに3人は驚く。


人族の貴族なら、もっと搦手を使い、

有耶無耶にされると思っていたからだ。




「あの・・・・・本当に宜しいのですか?」




「はい、構いません」




ヴィクトルは代表して告げる。




「私達は、この何も無い山中で暮らしております。


 ですので、これ以上、苦しい思いを仲間にさせたくありません。


 どうか、平和に暮らす事をお許し下さい」




その申し出に、ライナス アトラは答える。




「平和が、一番ですね・・・・・ですがそんな何も無い所だと、

 今後、何かあれば貴方は苦しい思いをするでしょう。


 ですので、今、住んでいる村を差し上げます」




「え!?」




「今は、スナの村とイワの村に住んでいますよね」




「はい」




「そのまま住んで下さい。


 そして、正式に私の民になって下さい」




ライナス アトラは、笑顔を見せている。




「本当に、宜しいのでしょうか?」




「構いません、当分は、お互いに色々あると思いますが、

 そこは努力していきましょう。


 そして、この街にも住むようになってください」




ライナス アトラの言葉に3人は頭を下げる。




「貴方様にお任せ致します。


 どうぞ、宜しくお願い致します」




「これから、宜しく」




ライナス アトラとの面会を終えた3人は、護衛と共に急いで村へと戻った。



それから数日後、街や村の人々に、亜人も領民に加わった事と

領地の名前が変わる事が知らされた。




その後、街は『ライナスの街』、領地は『ライナス領』へと変わった。




その翌日、京太達もこの地を去る事を決め、ライナス アトラに挨拶をする。




「ライナス様、僕達は戻ります」




「京太兄様、私は弟です、様は止めて下さい」




「わかった、ライナス、困った事があれば知らせてくれ」




「京太兄様、有難う御座います」




「うん、じゃぁ、これを置いて聞くよ」




京太は、大量の魔獣や獣をアイテムボックスから取り出す。




「血抜きは済んでいるし、屋敷の地下に保存庫を作っておいたから、

 そこに入れておけば長持ちするよ」




その量の多さに、驚きながらもライナス アトラは喜んだ。




「京太兄様、有難う御座います。


 貴金属を貰うより、こちらの方が嬉しいです」




「喜んでくれて良かったよ。


 じゃぁ、僕達は行くよ」




「はい、お元気で!」




京太達は、ライナス アトラと別れると、

ライナスの街を離れ、一路、アクセル王国へと向かった。


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