第80話襲撃

3人の部族長との話を終えた京太達は、その日はイワの村に泊まる事にした。


翌日、夜のうちに書いた手紙をラゴに渡す。




「ラゴ、この手紙をアトラ王に届けて欲しい」




「うむ、承知したぞ、主様」




手紙を受け取ったラゴは、王都に向けて飛び去った。


ラゴを見送った後、京太は仲間達に声を掛ける。




「ツベスの街に戻ろう」




京太達は、馬車に乗り込み、イワの村を後にする。






その頃、父に内緒で京太の行動を尾行させていたクラーク ツベスは、

尾行者から報告を受けていた。




「あの者達は、亜人達と接触しましたが、争いにはならず、

 この街に戻って来るようです」




「それだと、今までの事を亜人達から聞いたかも知れんと言う事か!」




「はい、その可能性は十分に考えられます」




「ならば、この街に着く前に始末しろ!


 相手は、ガキと女だけだ、簡単な仕事だろ」




「わかりました、それで報酬の方は・・・・・」




「心配するな、いざとなった亜人の娘を捕らえて売ればいいのだからな」




「では、早速、向かいます」




そう言うと、尾行者は姿を消した。




「ふんっ、王国も何を考えているんだ。

 亜人など、どうでもいいだろ・・・・・」






その頃、何も知らない京太達は、ツベスの街に向かって馬車を走らせていた。


来る時に襲撃にあった渓谷を抜け、

岩と乾燥した砂しか見えない大地を走っていると、

突然、馬車の車輪が大きな穴に落ちて、身動きが取れなくなる。




車輪が穴に落ちた振動で、荷台に乗っていた京太達は、

全員が絡まったような状態になっていた。




「皆、大丈夫?」




京太が、体勢を戻す為に手を伸ばすと、何か柔らかいものに触れる。




「やあんっ!」




セリカの声が響く。




「ごめんっ」




慌てて手を引っ込めて、違う方向に伸ばす。


すると今度は、すべすべとした柔らかい物に触れる。




「これは・・・・・」




京太は、掌を動かす。




「ちょっと、何処触っているの!」




声の主はラムだった。




「ごめんっ!」




――どうしたら、いいんだよ!




京太は、思いっきり両手を伸ばす。


すると、片方の手は、少しの柔らかさの後、肋の様な硬い物に触れ、

また、反対の手は柔らかさと生温かさを感じた。




「お、お兄ちゃん・・・・・」




「京太さん・・・・・・」




聞こえて来たのは、クオンとミーシャの声。



「ご、ごめんっ!」




謝罪を口にする京太だが、そのまま身動きが取れなくなった。




「誰か、なんとかしてよ!」




その時、御者の隣に座っていた筈のサリーが、

荷台に飛び込んで来る。




「皆さん、敵襲です」




その言葉に、絡んでいた仲間達は、

今迄の状態がが嘘だったかのように瞬時に立ち上がる。




――あれっ、僕は、遊ばれていたの・・・・・・




ミーシャが腕を伸ばす。




「京太さん、起きて下さい」




ミーシャの手を取り、京太は起き上がる。




「ありがとう」




京太が立ちあがった時には、仲間達は馬車の外で、敵と戦っていた。




「僕達も行こう」




京太とミーシャが外に出ると、

黒い衣装に身を包んだ者達が、京太に襲い掛かる。




「忍者?」




黒装束の敵は、風の魔法に乗せた苦無の様な物で攻撃を仕掛けてきた。


京太は、回避を試みるが、苦無は、京太を追跡してくる。




「うわっ!」




驚きながらも、アイテムボックスから剣を取り出し、苦無を叩き落とした。




「クッ」




武器を落とされた黒装束の敵は、

京太に背を向けて走り出した。



──逃げるつもりか!?・・・




だが、そんなことを京太が許す筈がない。


素早く追いつくと、そのまま切り付ける。


一撃で屠ると、その勢いのまま、他の黒装束の敵に襲い掛かった。




仲間達も次々と敵を倒し、気が付けば2人だけが残り、

他の黒装束の敵は地に倒れていた。




「後2人」




勝ち目が無いことを悟った黒装束の敵は、その場からの脱出を試みる。


しかし、京太達が、それを許す筈も無く、

あっさりと捉えると覆面を剥ぐ。



犯人は、人族の男。




「さぁ、吐いて貰おうかしら」




ラムは、自信を漲みなぎらせ、黒装束の男に詰め寄る。


もう1人の男も、クオンとエクスが、尋問を始めていた。




尋問は仲間たちに任せ、京太は馬車が壊れていないかを確認する。



「壊れてはいないみたいだ」



安堵した京太は、馬車を持ち上げ、

少し動かし、穴から脱出させてから下ろした。


馬車が無事なことを確認出来た京太は、

尋問をしている仲間たちの元へと向かう。



京太が合流したときには、尋問は終わっていた。




「京太、わかったわよ」




「こっちも終わったよ」




仲間を集め、黒装束の男が吐いた事を、ラムとクオンが皆に伝える。




「依頼者はクラーク ツベス、領主の息子よ。


 あいつ、自分がしてきた事が発覚するのを恐れて私達を襲ったのよ」




「じゃぁ、今回の襲撃は、領主は知らないんだ」




「そうみたいよ」




「なら、息子の処分は領主に任せようか」




「うん、でも、きちんとするかなぁ?」




「わからない、でも、それが出来ないなら、

 領主の座を下りて貰うしかないよ」




「そうね」




話を終えると、捕らえた2人も馬車に乗せ、ツベスの街へと向かった。


ツベスの街に到着すると、京太達はその足で、

領主クレイン ツベスの元へと向かう。


屋敷の前に馬車を止め、警備している兵に、領主との面会を求めた。




警備兵は、急ぎ屋敷の中に入り、京太達が戻った事を告げると、

直ぐに通す様に命じられた。




「お待たせしました、どうぞ、ご案内いたします」




警備兵に案内され、屋敷に入ると、

領主のクレイン ツベスとメイドが出迎えた。




「京太殿、直ぐに詳しい話が聞きたい、構わないか?」




「はい、こちらも相談したい事もありますので」




「わかった、では案内しよう」




クレイン ツベスは、応接室に京太達を招く。




応接室に入り、ソファーに腰を掛けると、

クレイン ツベスが口を開く。




「それでは、報告を聞こうか」




「はい、この度の件ですが・・・・・・」




京太は、クラーク ツベスがスナの村で行ってきた

暴力、強姦、殺人の事を包み隠さず伝える。


京太の話を聞く度に、クレイン ツベスの顔色が悪くなっていく。




「それは、事実なんだな・・・・・」




「はい、それに狼人の娘さんは、子を孕んでいます」




クレインの動きが止まった。




「あの・・・・・クレインさん・・・・・」




「あ、ああ・・・・・すまない。


 それで、その子は、どうしているのだ?」




「両親と暮らしていますよ、両親は産むことに反対していたそうですが

 本人は、産むと言って聞かなかったそうです」




「・・・・・・わかった」




「それで、亜人達の条件ですが、今迄の行いについての賠償と謝罪を求めています」




「理解はした。


 だが、少し待って頂きたい。」

 


クレイン ツベスは、メイドに声を掛け

息子のクラーク ツベスを呼んだ。




「父上、入ります」



応接室に入るクラーク ツベス。




「こちらに座りなさい」




クラーク ツベスは、ソファーに腰を掛けると

クレイン ツベスが話しかける。




「先程、京太殿から報告を受けてな、お前の話もが聞きたいのだ」




「と、言いますと?」




「うむ、スナの村の事だ。


 お前は、あの村で色々としていたようだが

 何か、弁解はあるか?」




「どういう事でしょう?


 弁解も何も、私は、父上に言われた通り、

 視察をしただけで何もしていませんよ。


 村長に聞けば、お分かり頂けると思います」




クラーク ツベスは、あくまで白を切るつもりだ。




「分かった、村長を呼ぼう」




メイドに伝令を出し、外の警備兵に迎えに行かせた。



暫く応接室で待っていると、村長が到着したことが告げられる。




「入って貰え」




「畏まりました」




応接室に、スナの村の村長が入って来る。




「村長、聞きたい事があるのだが、正直に答えてくれないか」




「はい・・・なんでしょう」




「我が息子が、スナの村に行った時に、

 亜人達に迷惑を掛けた事があるのか?」




「はい・・・・・あの・・・」




クラーク ツベスは、村長を睨み付け、無言の圧力をかける。




「い、いえ、クラーク様は、お仕事の視察を行っただけで御座います」




「そうか、では、亜人に暴力を振るったりした事は無いのだな」




「・・・・・はい」




それを聞いたクラーク ツベスは、勝ち誇った顔で京太を見る。




「父上、村長の証言を聞いていただけたと思います。


 亜人の言う事に騙され、私を貶めようと企む者の言う事など信じてはいけません」




「そうか・・・・・・京太殿、何か言う事はあるか?」




京太は呆れた顔で話す。




「いつまでも無駄な議論をするつもりはない。


 結論を仰って頂けませんか?」



京太の態度が変わったことにも気づかず、

未だ勝ち誇った笑みを浮かべているクラーク ツベス。




「それは願っても無い事です。


 父上、結論をお願いします。


 ただ、その結論によっては、

 この領地に混乱を招いた罪で、貴方達は牢獄行です」




クラーク ツベスは、笑いながら京太に伝えた。




「では、結論を伝えよう。


 京太殿、申し訳ないが、私は息子を信じようと思う」




その返事を聞き、京太は席を立つ。




「わかりました、では、亜人達の事は、お任せします。


 ただ私達は、亜人側に付きますので、

 この領地がどうなろうと、それは、貴方のせいだと自覚してください」




そう伝え、応接室から出ようとしたが

その時、クラーク ツベスが声を上げる。




「その者達を捕らえよ!」




その声に従い、扉から大勢の兵士が流れ込んで来た。


だが、遠慮の無くなった京太達は、

兵士より早く攻撃に転じ、あっという間に兵士達を全滅させた。


倒れた兵士たちの間を通り、

ソニアとラムは応接室を出行く。




応接室に、大量の血と死体が転がる中、

京太はクレイン ツベスに告げる。




「これが貴方達のやり方だと分かりました。


 それなら、こちらも遠慮はしません。


 それから、これは、お土産です」




そう言うと、ソニアとラムは、馬車から連れて来た黒装束の男達を放り投げる。




「こいつ等は貴方の息子が、今回の事が露見する事を恐れて、

 僕達を襲わせた者達ですよ」




それだけ伝えると、部屋を出て行った。




京太達が出て行った後、クレイン ツベスは頭を抱えた。


 


「少しでもお前を信じたくて、私はお前の味方をした。


 だが、この様な事までしていたとは・・・・・」




父親の言葉に、クラーク ツベスは、扉の方を睨み、拳を握りしめた。




――あのガキ・・・・・絶対生かしてはおかぬ・・・・・・・






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る